トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説(2025年1月29-2月4日)
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・特定の国連機関について脱退、資金提供の終了、支援の見直しを指示する大統領令
・北部国境を超える違法薬物の流入に対処するために関税を課税する大統領令
・中国からの合成オピオイド供給網に対処するために関税を課税する大統領令
・南部国境の状況に対処するために関税を課税する大統領令
・イランに対する最大限の圧力:国家安全保障大統領覚書(NSPM-2)
- 大統領令の一覧と概要
- 布告・覚書・公式発表の一覧と概要
- トランプ大統領の演説および優先政策
- エキスパートの視点
大統領令一覧
■解説付き■ 特定の国連機関について脱退、資金提供の終了、支援の見直しを指示する大統領令(2月4日)
この大統領令は、米国の国連人権理事会(UNHRC)からの脱退および国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への今後の資金提供の禁止を命じるもの。また、米国の利益に反する国際機関、条約、または協定を精査し、大統領へ報告するよう国務長官に指示している。特に、国連教育科学文化機関(UNESCO)については、反イスラエル的な姿勢が問題視されており、優先的に見直しを行うよう指示している。(大統領令はこちら)
解説
二期目の大統領就任初日に出した世界保健機関(WHO)脱退に続く、国連機関への関与を後退させる大統領令。対象になっている3機関はいずれもパレスチナへの支持が際立つ組織であり、この大統領令はトランプ政権の意向通りと言えるだろう。むしろ、就任初日ではなく、イスラエルのネタニヤフ首相と会見した2月4日にこの3機関への引導を渡したことから、イスラエル支持の演出であることを伺わせる。UNESCOについては、即脱退ではなく、加入の見直しを命じたものだが、アメリカはレーガン政権の1984年やトランプ政権第一期の2017年にも同機関を脱退しており、UNESCO側がこれを機に大きな改革を行うかも見通せず、3度目の脱退となる可能性は高い。そうなれば、UNESCOと強い関係を持つ中国の同機関でのプレゼンスがさらに高まることが懸念される。(土居健市)
政府系ファンド設立に向けた計画策定を指示する大統領令(2月3日)
この大統領令では、財務長官および商務長官に対し、米国の政府系ファンド(Sovereign Wealth Fund)設立に向けた計画策定を指示している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
■解説付き■ 北部国境を超える違法薬物の流入に対処するために関税を課税する大統領令(2月1日)
この大統領令は、カナダがフェンタニル等の薬物の密輸拠点になっているにもかかわらず、十分な対策を講じていないとして、カナダからの全ての輸入品に対して2025年2月4日から25%(エネルギー関連商品については10%)の追加関税を課すことを命じている。ただし、カナダ政府が不法移民や麻薬問題について取り組みを開始したことを受け、トランプ政権は2025年2月3日に、追加関税の発動を1ヶ月後の3月4日まで一時停止することを発表した。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら、追加大統領令はこちら(2月3日))
解説
第一次トランプ政権では国境管理の問題は主として南部国境に集中していたが、その結果、不法に越境貿易を行っていた麻薬カルテルなどは、国境管理がより緩和な北部国境に目をつけ、カナダを経由して違法薬物などを取引していると、第二次トランプ政権は考えている。そのため、カナダからの全ての輸入品に25%(エネルギー関連製品に関しては10%)の関税をかけるとの大統領令に署名した。しかし、この大統領令を執行する直前にカナダが一定の措置を取ることを約束したことで30日間の執行猶予となっている。しかし、その間に目に見える成果がなければ、この大統領令を執行する可能性がある。また、少額の輸入品について関税を免除するde minimusルールを適用せず、個人取引のような小規模な取引でも関税を適用することになる。(鈴木一人)
■解説付き■ 中国からの合成オピオイド供給網に対処するために関税を課税する大統領令(2月1日)
この大統領令は、中国から不法に流入している合成オピオイドがアメリカの国家安全保障と健康を脅かしているにもかかわらず、中国政府が十分な取り締まりを行っていないとして、中国からの全ての輸入品に対して、2025年2月4日から10%の追加関税を課すことを命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
解説
トランプ大統領は、選挙期間中からカナダ、メキシコと同時に中国にも関税をかけると明言してきたが、これらは不法薬物であるフェンタニルやオピオイドへの対策を求める「戦略的関税政策」の一部である。カナダとメキシコに対しては不法移民への対策も求めるため、25%となるが、中国に対しては不法薬物に限っているため、10%となっている。メキシコ、カナダとは交渉によって1ヶ月の猶予が与えられたが、中国との交渉は不調に終わり、この大統領令は即時執行となっている。なお、これは中国との貿易赤字を解消することを目的としている60%の関税とは異なる扱いであり、「アメリカ第一貿易政策覚書(1月20日)」に書かれた、4月1日のレポートを待って、貿易赤字是正の関税をかけることになるだろう。(鈴木一人)
■解説付き■ 南部国境の状況に対処するために関税を課税する大統領令(2月1日)
この大統領令は、メキシコ政府がアメリカへの不法移民や違法薬物の流入に対して十分な取り締まりを行っていないとして、メキシコからの全ての輸入品に対して、2025年2月4日から25%の追加関税を課すことを命じている。ただし、メキシコ政府が不法移民や麻薬問題の解決に向けた取り組みを開始したことを受け、トランプ政権は2025年2月3日に、追加関税の発動を1ヶ月後の3月4日まで一時停止することを発表した。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら、追加大統領令はこちら(2月3日))
解説
第一次政権の時から、トランプ大統領はメキシコとの南部国境の警備強化を求めていたが、以前は「壁を作る」という物理的な障害によって、目に見える形でメキシコからの不法移民の流入を止めているとアピールすることを目指したが、バイデン政権期に不法移民が急増したことで、物理的な措置ではなく、メキシコ政府を動かし、アメリカにたどり着く前に不法移民を食い止めるという方針に変わった。また、不法薬物に関しても、同様にメキシコ政府の行動を求めるため、全ての製品に25%の関税をかける大統領令を出した。自由貿易協定であるUSMCAで、アメリカとメキシコのサプライチェーンが一体化する中で、関税を用いてサプライチェーンを寸断しようとする行為は、まさに経済的威圧と言える。(鈴木一人)
反ユダヤ主義対策の追加措置を命じる大統領令(1月29日)
この大統領令は、2023年10月7日のハマスによるテロ攻撃以降、特に大学キャンパスにおける反ユダヤ主義の深刻化を受けて、米国内外での対策強化を指示している。トランプ第一次政権は2019年にも大統領令13899を発し、反ユダヤ主義への対策を講じていたが、バイデン前政権がこの政策を十分に実行しなかったとして、本大統領令で命令を再確認している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
アメリカ独立250周年記念の祝典に関する大統領令(1月29日)
この大統領令は、アメリカ合衆国が2026年7月4日に独立250周年を迎えることを受けて、その祝典の準備のためにホワイトハウス・タスクフォースの設置などを命じるもの。(大統領令はこちら)
K-12教育における過激な洗脳の終結に関する大統領令(1月29日)
この大統領令は、K-12(幼稚園から高校まで)の教育機関が、差別禁止や親の権利保護に関する法律を確実に遵守することを求め、違反があった場合の法執行を強化するもの。(大統領令はこちら)
家庭の教育の自由と機会の拡大に関する大統領令(1月29日)
この大統領令は、政府運営のK-12(幼稚園から高校まで)教育では多くの子供が十分に学力を伸ばせていないなどの課題があると指摘し、家庭が自由に教育を選択できるように州・連邦レベルで支援策を強化することを指示している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
布告・覚書・公式発表一覧
■解説付き■ イランに対する最大限の圧力:国家安全保障大統領覚書(NSPM-2)(2月4日)
この国家安全保障大統領覚書第2号(NSPM-2)は、イランに対する最大限の圧力を復活させ、イランが核兵器を入手するあらゆる道を封じ、国外での悪意ある影響力を抑制することを目的としている。トランプ第一次政権においても、トランプ大統領は同様の政策を実行し、米イラン関係の緊張が高まっていた。(覚書はこちら、ファクトシートはこちら、動画はこちら)
解説
2015年、オバマ政権期にほぼ2年間をかけてイラン核合意が合意に達した。しかし、トランプ第一次政権は、それまで核合意離脱に反対していたティラーソン国務長官やマクマスター安保担当補佐官を排除し、2018年にイラン核合意から離脱し、アメリカによる単独制裁を開始した。アメリカは基軸通貨であるドルによる取引を規制することで、イランの輸出入を事実上停止させてきたが、バイデン政権になり、イランが中国向けに原油を輸出することを黙認してきた。また、アメリカの制裁に対抗すべく、イランはウラン濃縮を60%まで高めるなど、核開発に近づいている。2023年にはイランが支援するハマスによるテロがあり、2024年にはイスラエルとイランが2度にわたってミサイルの応酬を行うなど、イスラエルにとってイランは脅威であり続ける中で、トランプ大統領は第二期政権に入って、イラン制裁に違反して取引をしている企業などを制裁することを求める大統領覚書を出した。また、この覚書では国連安保理におけるスナップバック(過去の制裁を復活させる手続き)を進めることも求めている。しかし、この覚書にサインする時のトランプ大統領は「出来ればこれは使いたくない」と消極的な発言をしており、イランとの交渉による決着を模索しているかのような印象を含ませていた。何がこうした変化をもたらしたのかは不明だが、イラン核合意を離脱した時の攻撃的な言説が鳴りを潜めている点は注目に値する。(鈴木一人)
ホワイトハウスによる米国国際開発庁(USAID)に関する声明(2月3日)
ホワイトハウスは、米国国際開発庁(USAID)が何十年にもわたり説明責任を果たさず、膨大な資金を不適切なプロジェクトに浪費してきたとしてトランプ政権がその無駄遣いを終わらせることを公表した。(詳細はこちら)
新政権の権限を不当に縛る前政権の団体交渉協定を制限する覚書(1月31日)
この覚書は、トランプ大統領の就任前30日以内に締結された団体交渉協定(CBA)を承認しないよう指示するもの。(覚書はこちら)
「10を1にする」大規模規制緩和イニシアチブに関するファクトシート(1月31日)
このファクトシートは、各機関に対し、新たな規則を1つ制定する際には、少なくとも10の既存規則を廃止することを義務付ける内容となっている。なお、本文中にはトランプ大統領が同趣旨の大統領令に署名したと記載されているが、ホワイトハウスの公式サイト上では当該大統領令が公表されていない(2月5日時点)。(詳細はこちら)
航空安全に関する即時評価:運輸長官および連邦航空局長官宛て覚書(1月30日)
この覚書は、1月29日にロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港付近で発生した商業航空機と軍用ヘリコプターの衝突事故を受け、運輸長官および連邦航空局(FAA)長官に対し、過去4年間の採用方針や安全基準の見直しを改めて指示している。トランプ政権は1月21日にも同様の布告を発していたが、29日の衝突事故は、民主党政権が推進してきたDEI(多様性・公平性・包摂性)政策の弊害に起因するとして、能力主義への回帰の必要性を強調している。(詳細はこちら)
グアンタナモ湾海軍基地における不法移民収容施設整備に関する覚書(1月29日)
国防長官と国土安全保障長官に対し、グアンタナモ湾海軍基地において不法移民収容施設を整備するよう指示する覚書。(覚書はこちら)
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