世界はトランプ政権をどう見るか No.4

世界はトランプ政権をどう見るか(主要論考の紹介)

特集「2025年 トランプ政権は世界をどう変えるか」
トランプ第二次政権の動向がグローバル経済や国際秩序にどのような変化をもたらすのか、そして他国はどのように対応するのかが注目されます。本特集では、2025年のトランプ政権の政策動向とその影響を分析し、国際社会に与えるインパクトについて考察します。
①「プーチンはトランプとゼレンスキーとの間の大統領執務室でのショーにおける勝者である」
The Editorial Board, “Putin Wins the Trump-Zelensky Oval Office Spectacle,” Wall Street Journal, February 28, 2025
非難の応酬となったホワイトハウスでのトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談を受け、米国の保守系の主要紙である『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が発表した社説である。鉱物資源に関する合意に至らず決裂した会談は米国にとって大失策であり、最も利益を得たのはロシアのプーチン大統領に他ならないとして厳しく批判している。
社説によると、ウクライナ戦争における米国の国益は、米軍を戦闘に投入することなくプーチン大統領の帝国主義的野心を阻止することであった。ヴァンス副大統領が火蓋を切り、トランプ大統領が応戦する形でゼレンスキー大統領を無礼だとこき下ろし、米国の支援に十分感謝していないとしてウクライナを非難するのは、その実現に資するものではない。実際、現時点でロシアが一切譲歩を行わないままにウクライナに対してのみ一方的な妥協を迫るのは、賢明な外交とは言い難い。直後に英国のスターマー首相の主催でゼレンスキー大統領を迎えた欧州首脳のサミットが急遽行われるなど、本会談の様子は全世界に衝撃を与えた。米欧の間には決定的な亀裂が入り、欧州は米国抜きの自律的な防衛体制の早急な整備を模索するが、米国のウクライナ支援の継続は絶望的となり、国際秩序の先行きには暗雲が立ち込めていると言わざるをえないだろう。
②「米国は友人に背を向けてしまった」
The Editorial Board, “America has turned on its friends,” The New York Times, February 22, 2025
トランプ政権によるウクライナ戦争への対応を受け、英国の『フィナンシャル・タイムズ』紙が発表した社説である。同盟国を軽視して強権的な指導者を称賛するトランプ大統領は、世界は大国が望むものを手に入れるジャングルだとの考えに傾倒しており、利害関係に基づいて世界を分割しようとする発想を持っていると主張している。
社説によると、「ウクライナは戦争を始めるべきではなかった」「ゼレンスキーは選挙を経ていない独裁者だ」といったトランプ大統領の発言や、欧州の民主主義にとっての真の脅威は欧州の内部に存在すると主張したヴァンス副大統領のミュンヘン安全保障会議での演説、グリーンランド・パナマ運河・ガザ地区・カナダに対する度重なる提案はこうした世界観を反映したものであり、軽視されるべきではない。力を信奉し、同盟国を威圧し、権威主義国家への親近感を隠さず、自由や民主主義といった価値に基づく国際的なコミットメントを拒絶する第2次トランプ政権の外交政策は、米国の明確な方向転換と言える。ルールや価値の重要性が相対的に低下する時代が到来したと言え、日本もそうした国際秩序への対応を急がねばならない。
③「民主主義と寡頭制のグローバルな対立において米国は立場を変えつつある」
Robert Reich, “In the global clash between democracy and oligarchy, the US is switching sides,” The Guardian, February 20, 2025
DOGEを推進し、トランプ政権内で大きな影響力を持つようになったイーロン・マスクに対し、多くの論客はこれを好意的に受け止めなかった。経済格差の専門家であり、クリントン政権下で労働長官を務めたロバート・ライシュは、トランプとマスクの取り組みを寡頭制であると批判する。ライシュによれば、戦後の国際社会における主要な対立軸は「民主主義対権威主義」だった。しかし、中国やロシアが少数の超富裕層による支配体制、すなわち寡頭制へと変質したことで、世界は「民主主義陣営対グローバル寡頭制」という新たな構図を形成しつつある。さらに深刻なのは、トランプやマスクに代表されるように、米国もまた民主主義から寡頭制へと急速に移行しつつある点だ。ライシュの見解では、トランプ・ヴァンス・マスク体制は米国内の民主主義を弱体化させるだけでなく、民主主義ではなく寡頭制にとって安全な世界秩序を創出しているように映る。彼の議論の妥当性はまだ定かではないが、少なくともウクライナや欧州を見捨てるような米国が、民主主義を守る国と言えるかどうかは疑問が残る。
④「トランプのプーチンへの無意味な屈服は、ウクライナに対する裏切りであり、とんでもないディールの摸索である」
Timothy Garton Ash, “Trump’s senseless capitulation to Putin is a betrayal of Ukraine – and terrible dealmaking,” The Guardian, February 13, 2025
ヨーロッパ現代史研究の世界的に著名なオックスフォード大学教授のティモシー・ガートン・アッシュが、2月中旬に開催されたミュンヘン安全保障会議を前に『ガーディアン』紙に寄稿した論考である。トランプ大統領による一方的なプーチン大統領との和平交渉の動きを、ナチス・ドイツに対する宥和政策の失敗例であるミュンヘン会談(1938年)と大国による欧州諸国の頭越しの分割の前例であるヤルタ会談(1945年)になぞらえ、その危険性を指摘している。
ガートン・アッシュは、トランプ大統領との和平交渉を継続しつつ、その間にウクライナの戦場で前進を続け、同国のインフラの破壊や経済基盤、社会的・政治的統合の弱体化を進めるのが、プーチン大統領にとっての理想的なシナリオであり、それに対抗するため、ミュンヘン安全保障会議は「トランプのミュンヘン会談」に対する欧州からの明確な反論の場にするべきだと主張する。この時期、トランプ大統領によるロシアとの和平交渉を宥和政策になぞらえる言説は多く見られたが、安易な歴史の類推は禁物である。だからこそ、傑出した歴史家が明示的にそれを行ったことは重みを持つものであろう。
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