日本はバイデン政権とどう付き合ったらいいか

本稿は、東洋経済オンラインにも掲載されています。

https://toyokeizai.net/articles/-/389789
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バイデン政権の関税やWTOへのスタンスは?

11月3日に行われたアメリカ大統領選挙は、バイデン前副大統領が勝利をおさめた。異色の大統領トランプ氏は、貿易ではタリフマンと自称し、ゼロサム的な貿易観に基づき単独で関税を多用。気候変動政策も温暖化そのものを軽視し就任早々にパリ協定から離脱した。今後バイデン政権はこれら分野でどのような政策をとるのだろうか。日本はいかに対応したらいいだろうか。

バイデン政権は、一方的な関税引き上げには抑制的な立場を取るだろう。中国に対する通商法301条に基づく追加の関税には慎重だと思われる。しかし、すでに中国に課している関税はすぐに引き下げず、中国との交渉材料に使う可能性がある。また、通商拡大法232条に基づき安全保障を理由に同盟国にも課している関税は、早期撤廃が期待される。

ただ、今回の選挙でも確認されたラストベルト(アメリカ中西部)の政治的重要性から、鉄鋼への関税は継続してアルミだけ解除する、あるいは、両方解除する代わりに輸入割り当てを課すと予想する専門家もいる。本件は、同盟国重視というバイデン氏の主張がどれだけ真剣なものかを示す象徴的意味もあり、注目される。

トランプ政権はWTO(世界貿易機関)上訴委員会の委員任期後の補充を認めずにその機能(新規上訴の受け付け)を昨年12月に停止させたが、バイデン政権はこれを解消し、WTOの紛争解決機能を回復させることが期待される。アメリカは、WTOの紛争解決が法解釈を超えた立法機能も果たし権限踰越(ゆえつ)と問題視している。必要な改善を行いつつ、アメリカがWTO紛争解決機能の再開に協力できる状況を早期に形成する必要がある。

また、WTOの枠組みのいくつかが中国の実態に適切に対応できていないという問題もある。例えば、中国は経済・貿易大国だがいまだに途上国としての恩恵を手にする。また、禁止される補助金の定義が狭い(いわゆるpublic bodyが供与する補助金に限定)ために、中国の補助金を効果的に規制できていない。すでに日米欧で協調して改善策の検討が行われているが、賛同国を増やしてWTOルールを改善することが重要であり、わが国も努力を継続すべきである。

バイデン氏は副大統領時代にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を推進、TPPへの拒否感はないと思われるが、選挙中は、新たな貿易協定は国内投資など国内の体制が整ってからと強調してきた。大統領の貿易促進権限(Trade Promotion Authority:TPA)は2021年7月に期限が切れる。選挙中の「まずは国内」という公約に鑑みれば、7月前に駆け込み参加は考えにくい。

年明け2021年1月5日のジョージア州の2つの決選投票の結果次第だが上院は共和党が多数となる可能性が高く、議会からのTPA取得には苦労するだろう。そのうえで、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)同様、環境・労働分野等でのTPP協定「改善」交渉が求められ、気づけば中間選挙という状況も想定される。TPPはアメリカにとり経済的利益に加えて対中国での地経学的利益も大きい。日本もアメリカがTPPに復帰しやすい環境づくりに努める必要がある。

 

バイ・アメリカン強化、国境調整税導入か

バイデン政権はトランプ政権同様、アメリカの自国製品を優先して購入する政策であるバイ・アメリカンを重視、政府調達はすべてアメリカ製品に限定と表明している。これはWTOの政府調達ルールに反するが、選挙後バイデンチームはルール変更にも言及している。アメリカがバイ・アメリカンを強化すれば、日本や欧州にも政府調達を自国品に限定する動きが生じる。負の連鎖は、政府調達が割高・非効率になるのみならず、アメリカ企業の国際的なビジネス機会も減らす。日本はアメリカと十分な協議を行う必要があろう。

気候変動対策に関し、バイデン氏は、就任後すぐにパリ協定へ復帰すると表明。また、2035年までに電力部門の温暖化ガス排出をネットゼロとするとし、太陽光、風力に加え、原子力、CCS(炭素回収・貯留)にも言及。さらに技術中立性を強調しつつ、2050年までにアメリカ全体の排出をネットゼロとすることも表明している。気候変動対策のための4年間で2兆ドルという支出に関しては、共和党が上院多数の場合は規模縮小も見込まれるが、バイデン政権は、さまざまな政策を動員して気候変動対策を進める立場に立つ。

また、民主党の政策綱領には「国境炭素調整費」(carbon adjustment fee at the border)への言及があり、選挙後もこの主張を確認している。これは、国内において炭素税・排出枠・規制等の措置で排出削減を実現しても、気候変動対策が不十分な外国から炭素集約度の高い製品の輸入が増加(リーケージ)すれば、世界の排出は減らず、また国内産業が不利な競争条件に置かれるため、それを避けるために課す関税のことだ。

同様の政策はEUが先んじ、「欧州グリーン・ディール」の一環として、「炭素国境調整メカニズム」(carbon borer adjustment mechanism)の2021年導入に向け検討が進んでいる。トランプ政権は、EUのこの措置は保護主義で報復関税を課すと批判したが、バイデン政権でスタンスが180度転換する。

確かに、こうした国境調整税は、偽装した保護主義として使われないよう注意が必要だ。EUは域内排出削減策の主力がEU排出量取引制度(EU ETS)だが、対策が不十分な外国からの輸入に際して課す関税(国境調整税)を、EU ETSの排出権価格以下に抑えることで、国内企業優遇とならないよう工夫する。

アメリカでは国としての制度設計は未了だが、ジョージタウン大学のJennifer Hillman教授等が今年10月に発表した提案では、アメリカ内での炭素税の導入を前提に、国内事業者の炭素税負担を超えない範囲で輸入関税を課すことでWTOルール上許容される措置とする(GATT Art.II 2(a)、Art. III)。

 

アメリカ企業の輸出には炭素税還付を

また、アメリカ企業が輸出する場合には炭素税還付を提案、非差別的で炭素税が上限であればWTO補助金協定(ASCM)に反しないとする

Hillman教授等の案は、外国の気候変動対策を評価するのは困難なので、すべての国との炭素集約度の高い物品の輸出入に関して、アメリカ内の炭素税を基準に関税賦課または還付を行うというもの。「生産地負担から消費地負担」への転換である。結果的に、外国にも炭素税プラス国境調整税という同様の制度導入の誘因が生まれ、世界的にカーボンプライシングの導入が進むと説明する。

わが国も菅首相が10月に、2050年までに温暖化ガス排出のネットゼロとの目標を公表。あらゆる政策手段を活用するとしつつ、当面はイノベーションを促すための(税額控除を含めた)財政措置を重視する印象だ。「イノベーション」の効果は一企業を越える「正の外部性」があることから、財政を使い効果的に支援することは重要だ。

しかし、それのみで2050年の排出ネットゼロ達成は困難であろう。とくに、適切な将来技術を選ぶ政府の能力を過大評価するのは適切ではなく、人々や企業の行動変容に加えてイノベーション促進の観点からも、技術中立的な形の炭素税導入(現在の限界的な地球温暖化対策税等の大幅な拡充)などのカーボンプライシング制度導入が重要となる。

炭素税は財政至上主義者による増税策との批判も招きやすいが、狙いは「歪み」の是正であり税収増ではない。炭素税収入をすべて法人税減税に充てる、あるいは、日本人全員に頭割りで全額給付など、税収中立とする制度設計も可能だ 。なお、「歪み」の是正が進めば炭素税収入は減少するため、恒久財源ではない。

 

共和党内にもカーボンプライシングを好む立場も

炭素税の弱点である国内企業の競争条件の悪化を避けるため、EUやアメリカが検討する国境調整税も検討に値する。各国は、地球環境を守る政策を考えつつ、自国が不利とならないルール形成に関してアイデア競争をしているとも言える。アメリカは、上院が共和党多数の場合には炭素税等が簡単に導入されるとは考えにくいが、共和党内にも規制的手法よりも政府介入の度合いが低いカーボンプライシングを好む立場もある点は留意が必要だ。

わが国の目標期限である2050年は、想像できないほど遠くはないが、すぐに結果責任を問われるほど近くもない「逃げ切れる」将来かもしれない。しかし、「苦い薬」を避け続ければ、将来の目標達成を困難にし、ルールを巡る競争でも後手に回る。

今年9月には中国が2060年の排出ネットゼロを表明した。中国にとってこれは、EUからの要請に応え、同時にトランプ政権との違いを際立たせ、さらにはバイデン政権誕生の際には歓迎されるもので、地政学的観点から合理的な対応だ。また、太陽光発電機器、風力発電装置、電気自動車、さらには原発で高い国際競争力を持つ中国は、自国製品の需要を拡大する産業政策としての計算もあろう。

わが国は、こうした欧米や中国等の動きをフォローし、国際協力にも参加して地球環境問題の解決にしっかり貢献しつつ、同時にルール形成や先を読んだポジショニングを積極的に進める先見性と戦略性が求められよう。

Shin Oya Visiting Senior Research Fellow
Mr. Oya assumed current position from November 2024. Prior to that, he worked at the Japan Bank for International Cooperation (JBIC), where he was involved in financing infrastructure and resource projects and launching a carbon fund, and also served as head of JBIC New Delhi office and Director, head of the European Bank for Reconstruction and Development (EBRD) Tokyo office. Chief Analyst of Sojitz Research Institute from August 2024. Master of Laws, Boston University Master of Finance, George Washington University
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Shin Oya

Visiting Senior Research Fellow

Mr. Oya assumed current position from November 2024. Prior to that, he worked at the Japan Bank for International Cooperation (JBIC), where he was involved in financing infrastructure and resource projects and launching a carbon fund, and also served as head of JBIC New Delhi office and Director, head of the European Bank for Reconstruction and Development (EBRD) Tokyo office. Chief Analyst of Sojitz Research Institute from August 2024. Master of Laws, Boston University Master of Finance, George Washington University

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