尖閣防衛、日本の「切れ目」狙う中国に警戒せよ

本稿は、東洋経済オンラインにも掲載されています。

https://toyokeizai.net/articles/-/420150
Index Index

中国海警法に対する深刻な懸念

尖閣諸島は歴史的にも国際法上もわが国の領土であり、1951年のサンフランシスコ平和条約で放棄した領土にも含まれない。その尖閣諸島周辺の日本の領海に中国は侵入を繰り返している。

2月1日には中国の海警法が施行された。海警機構の任務や権限を明らかにした法律だが、同法には懸念される点がある。アメリカも認識を共有、3月16日に東京で開かれた日米外務・防衛担当閣僚協議(2+2)で、東シナ海等での「中国の現状変更を試みる一方的行動」を非難し、「海警法に対する深刻な懸念」が表明された。

海警法の問題点の1つは、外国の軍艦・政府公船に対して武器の使用を広く認める点だ。国連海洋法条約は、32条で軍艦・公船に広く主権免除を認める。これは、国家は対等で他国の管轄に服さないという思想に基づく。例外はあり、領海を航行する軍艦が沿岸国による法令遵守の求めに応じない場合には即座の退去を要求できるが、退去要求に従わない軍艦に強制措置を取れるかは国際法上明確ではない。従い、海警法が、軍艦等への強制措置、武器使用を広く認める点は問題だ。

しかし、いちばんの問題は中国の行動だ。「規則違反の改造車で歩行者天国を暴走する」のは許されないが、「規則に従う整備された車で歩行者天国を暴走する」ことも許されない。よしんば海警法が国際法と整合的でも、日本の領海への違法な侵入は許されない。

なお、国連海洋法条約では軍艦、公船を含めて外国船の領海内の「無害通航権」は認めており、領海内に入ることすべてを国際法違反というのは不正確だ。しかし、日本漁船に接近し、また日本の領海で、中国国内法令に基づく法執行活動を行っていると主張する中国海警船の行動は無害通航には該当しない。われわれは「海警法の内容」のみではなく、「海警法」と「行動」が一体となって中国が目指すものを警戒しなければならない。

 

アメリカの懸念

2019年1月に、アメリカのジョン・リチャードソン海軍大将は中国に対し「アメリカ海軍は中国海警の巡視船と海上民兵の船を戦闘用とみなし、彼らの挑発に対しては中国軍の挑発と同様に対応する」と伝えた。

また、アメリカ国防情報局は、2019年末に、「中国では、海洋主権の問題は中国海警の下での国内法執行の問題として扱われる。また、エスカレーションのリスクを減らし、国際的に中国が穏当に見えるように、紛争のある海域で攻撃的な行動を取る際には、(軍艦ではなく)海警船を用いることを好む」とし、さらに中国は海上民兵も活用していると分析する。アメリカ議会は、2021年度国防授権法において、海上保安活動への漁船の活用に関して調査・報告することをアメリカ政府に求めた。

アメリカを含む関係国が警戒するのは中国の「グレーゾーン」戦略だ。中国は、実力で勝るアメリカとの戦争は、今は避けたい。そのため、「武力攻撃」と取られないよう、海警を前面にたてて領海侵入や「法執行」の事実を積み重ねる。海警は海上民兵、海軍と「シームレス」に連携し、海警法の衣をまとい国内法執行の側面を強調しながら、長期的視点で「一方的な現状変更」を試みる。

「シームレス」な中国に対して、アメリカも「シームレス」な体制を持つ。アメリカ沿岸警備隊は法執行機関であるとともにアメリカ軍の一部で、通常は国土安全保障長官の下にあるが、有事には海軍長官の指揮に服す。2020年12月には、海軍、海兵隊、沿岸警備隊が共同で「海での優位:3軍の共通戦略」を策定し連携強化に努める。アメリカ沿岸警備隊は、今年2月に日本の海保と小笠原諸島沖で合同訓練を実施、海保の能力増強と連携強化にも期待する。

日本はいかに対応したらいいか。以下の3つが重要だ。

1つ目は、海警法に懸念を示すアメリカ、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどとも協力し、海警法への懸念および中国の国際法違反の行動を広く国際社会に訴え、圧力を強める必要がある。

2013年11月に中国が東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定した際には、日本以外にもアメリカ、オーストラリア、韓国などが中国に抗議。アメリカは事前通告せずに中国ADIZにB-52爆撃機を飛行させた。中国はADIZで指示に従わない場合に「防御的緊急措置をとる」とした航空会社向けの警告を2014年末に削除した。アメリカを含む関係国と連携しつつ外交努力を継続することは重要だ。

2つ目は、海保の強化だ。1000トン以上の巡視船の数は、2012年までは日本が上回っていたが、現在、中国は日本の2倍を保有、船の大型化も進める。

3つ目は、中国のグレーゾーン戦略に対して「シームレスな対応」が可能な体制の整備だ。

「シームレスな対応」に関し、現在は、中国海警船の領海侵入に、国内法執行を任務とする海保が対応している。海保の武器使用は基本的には警察官職務執行法に準じる。また、海上保安庁法25条は、海保が「軍隊の機能」を果たすことを否定する。この点、法執行に加えて軍事機能も持つアメリカ沿岸警備隊や中国海警とは制度設計が異なる。

 

武器使用基準は警察官職務執行法が基本

海保で対応しきれない状況となれば、閣議決定で自衛隊に「海上警備行動」を発令できる。

とはいえ、これは国内法執行を担うもので、武器使用基準は海保と同様、基本は警察官職務執行法だ。中国の目的を尖閣諸島の簒奪と捉えれば、自衛隊の防衛出動が考えられ、その場合、「必要な武力を行使」できる。しかし、防衛出動の発動要件は「武力攻撃」の発生でハードルが高い。

わが国はこれまで「武力攻撃」を「組織的計画的な武力行使」と厳格にとらえてきた。安倍前総理が設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が2014年5月に出した報告書は、警察官職務執行法では対応できないが自衛権の発動も法的に困難という「切れ目」を指摘、それを埋める必要性を訴えた。

その後の第5回与党協議(2014年6月10日)で、運用改善で対応するとされ、抜本的対応は回避された。報告書の提言内容に優先度を付け「集団的自衛権の限定容認」を実現したのは画期的で、当時の政治判断を批判はできない。その後「海上警備行動発令手続きの迅速化」等の運用改善のみが実現(2015年5月閣議決定)、「切れ目のない対応を可能とする法制度」の問題は積み残しとなった。7年前の報告書の提言内容は未完のままだ。

 

「シームレス」な対応のために

この法的な「切れ目」に何ができるか。対応としては、

①海保および(自衛隊の)海上警備行動時の武器使用基準の緩和
②自衛隊活動要件の緩和

の2つがある。これらは両立も可能だ。

①については、海上保安庁法20条2項の「停止命令に従わない船舶への武器使用」の要件緩和が考えられる。ただ、同項は軍艦・政府公船は除外しており、漁船等への対応の点では意味があるが、海警船への対応にはならない。

②の自衛隊活動要件の緩和については、武力攻撃の概念を「組織的計画的な武力行使」に限定せずより広く捉え直して防衛出動を容易にするといった方法や、国際法との整合性に留意しつつ武力攻撃未満の武力行使に自衛隊が自衛権をもって対応する新たな行動類型につき検討するといったことが考えられよう。

中国の海警法制定は思いつきではない。中国は意識的にグレーゾーンを狙う。「武力攻撃」の定義が厳しい日本は、中国にとり、グレーゾーンが広がる魅力的な沃野だ。アメリカ沿岸警備隊は「常に備えよ」(Semper Paratus)をモットーとする。

海保は、中国海警船の領海侵入の度に海保船を張り付け、電光掲示板と無線で繰り返し退去を求める。海保の日々の対処に感謝しつつ、現場の頑張りだけに頼るのではなく、法制に加え、資源配分(予算拡充を含む)、役割分担、内外連携を含め、個々の組織を超え日本全体で効果的に備えることが必要だ。戦略環境が変化し、中国のグレーゾーン活動が活発化する中で、「現状維持」に引きこもる余裕はない。

Shin Oya Visiting Senior Research Fellow
Mr. Oya assumed current position from November 2024. Prior to that, he worked at the Japan Bank for International Cooperation (JBIC), where he was involved in financing infrastructure and resource projects and launching a carbon fund, and also served as head of JBIC New Delhi office and Director, head of the European Bank for Reconstruction and Development (EBRD) Tokyo office. Chief Analyst of Sojitz Research Institute from August 2024. Master of Laws, Boston University Master of Finance, George Washington University
View Profile
List of Research
List of Research Activities
Researcher Profile
Shin Oya

Visiting Senior Research Fellow

Mr. Oya assumed current position from November 2024. Prior to that, he worked at the Japan Bank for International Cooperation (JBIC), where he was involved in financing infrastructure and resource projects and launching a carbon fund, and also served as head of JBIC New Delhi office and Director, head of the European Bank for Reconstruction and Development (EBRD) Tokyo office. Chief Analyst of Sojitz Research Institute from August 2024. Master of Laws, Boston University Master of Finance, George Washington University

View Profile