世界はトランプ政権をどう見るか No.5

世界はトランプ政権をどう見るか(主要論考の紹介)

特集「2025年 トランプ政権は世界をどう変えるか」
トランプ第二次政権の動向がグローバル経済や国際秩序にどのような変化をもたらすのか、そして他国はどのように対応するのかが注目されます。本特集では、2025年のトランプ政権の政策動向とその影響を分析し、国際社会に与えるインパクトについて考察します。
①「アルバニージ豪州首相はトランプに対してどう立ち向かうべきか」
Malcolm Turnbull, “What Albanese should do about Trump,” Australian Foreign Affairs, March 12, 2025
オーストラリア政府は、バイデン大統領の在任中に、豪米関係の安定性が持続することを前提として、米英豪の3ヵ国間の協力枠組みであるAUKUSを通じた原子力潜水艦の共同開発と導入を決定し、米国との関係を深化させることを前提に巨額の投資を進めた。しかし、バイデン大統領を継いで大統領に復帰したトランプは、同盟関係を軽視し、「力こそ正義」という認識の下で、ウクライナのような米国に防衛を依存する諸国からの搾取を行おうとしている。AUKUSを通じて米国への依存を強めたオーストラリアは、それゆえトランプ政権に対してより一層脆弱な立場に置かれている。2015年から2018年までオーストラリアの首相を務めた自由党のマルコム・ターンブルは、こうした状況を憂いて、同国における外交専門誌に、より自律した安全保障政策を採用するべきだと提言した。彼は、米国が同盟関係や基本的価値へのコミットメントを失いつつあると指摘し、AUKUSの見直しとともに、イギリス、日本、インドネシアとの関係強化を図る「オーストラリア・ファースト」戦略を主張する。実際にこの方針が採用されるかは不透明だが、ターンブル元首相の議論は、トランプ政権発足からわずか1か月半ほどで、緊密な同盟国からも米国への信頼が大きく損なわれていることを示しているといえる。
②「ヴァンス・ドクトリン」
Michael S. Kochin, “The Vance Doctrine,” American Greatness, March 11, 2025
第2次トランプ政権発足後、過去数年の間にいくつかの機関が実施した民主主義ランキングで順位が後退している米国が、そこでの上位を占めている欧州諸国において民主的価値観が損なわれていると痛烈に批判するという、奇妙な状況が生じている。それでは第2次トランプ政権における民主主義の認識とは、どのようなものであろうか。イスラエルのテルアビブ大学で政治学を教えるマイケル・コーチンは、トランプ支持のニューライト派が中心となる『アメリカン・グレイトネス』誌で、第2次トランプ政権における民主主義認識を次のように説明する。すなわち、欧州における一部の西側同盟諸国は、本来は討議を通じて解決すべき社会問題に対し、「全体主義的な手法」を用いてしまった。したがって、米国はそのような「全体主義に向かう欧州」を防衛することはせず、自国の国境管理と、米大陸における中国の影響力拡大への対処を優先し、ハンガリーのような真の民主的同盟国を支援するべきだ。ここではそれを「ヴァンス・ドクトリン」と称している。このように、第2次トランプ政権が発する言葉を正確に理解するためは、そこで言及される価値観が、これまで米国で理解されてきた理念とは大きく異なり、しばしば正反対であることを認識する必要があるだろう。ここで示されるような、第2次トランプ政権において影響力が拡大しつつあるニューライト派の思想を理解することがますます重要となっている。
③「ヴァンス米副大統領が見ている世界とは――なぜそれが重要なのか」
Mike Wendling, “How JD Vance sees the world – and why that matters,” BBC News, March 11, 2025
BBCで米国政治の報道を長年担当し、特に極右や偽情報の問題に詳しいマイク・ウェンドリングが、J・D・ヴァンス副大統領をよく知る多くの関係者への取材に基づき、彼の対外政策における世界観に迫った論考である。記事の日本語訳版も公開され、英語圏だけでなく日本でも広く参照された。
ウェンドリングによると、ミュンヘン安全保障会議での演説における同盟国への批判や大統領執務室でのゼレンスキー大統領との口論で国際政治の主役に躍り出たヴァンス副大統領は、トランプ時代の保守主義運動を代表し、特にその「米国第一主義」の政治理念を国外で体現する存在になっている。彼は、米国政府がこれまで推進してきた正統派の外交政策が米国各地で取り残された労働者階層の苦難とあまりにかけ離れており、民主党員、伝統的共和党員、リベラル派、グローバリストなどのエリートの責任で農村部の貧困層が苦難を強いられているとして批判する。また、インターネット上の過激主義的な主張にも深く精通し、排外主義を窺わせる政治的傾向も示している。
ヴァンスの主張の論調は、トランプ政権の副大統領候補に選ばれて以降、大きく変化している。上院議員時代にはとても現実的で思慮深い人物だという印象を周囲には与えており、最近の諸々の言動に驚いていると語る上院議員もいるようだ。第2次トランプ政権において影響力を増すのみならず、時代の空気を体現しているとさえ言えるヴァンスの世界観や行動原理を深く理解することは、現政権下の米国と世界を占う上で極めて重要であろう。回想録『ヒルビリー・エレジー』(邦訳は、関根光宏・山田文訳、光文社)も必読である。
④「トランプは欧州を再び偉大にしている」
Gideon Rachman, “Trump is making Europe great again,” Financial Times, March 10, 2025
英国紙『フィナンシャル・タイムズ』で外交問題のチーフコラムニストを務めるギデオン・ラクマンによる論考である。この論考では、ロシアに言い寄り、NATOへの信頼を損ね、EUを関税で脅し、欧州の極右勢力を後押しするトランプ大統領が、逆説的に欧州の結束を高めるだろうと主張している。
ラクマンによると、特に注視すべき3つの分野が、欧州防衛協力、EU共同債、英国とEUの関係改善であり、これらの背景には欧州の世論の劇的な変化があるという。英仏独の国民の多くがトランプを脅威とみなし、三国間の信頼が高まっている。欧州統合の進展の過程には常に地政学的動揺があり、第二次世界大戦の終結・冷戦の終焉という過去2度の試練に力強く創造的に対応できた欧州は、トランプ大統領による大西洋同盟の終焉が目前に迫る今回も再びそうすることができるという。
やや楽観的な観測にも映るが、第2次トランプ政権の衝撃によって「EU=NATO体制」(遠藤乾東京大学教授)が大きく動揺する現在、フランス等の欧州の一部の長年の宿願であった欧州の戦略的自律の喫緊の必要性が期せずして広く認識されたのは確かである。それは果たして実現するのか、引き続き米欧関係の注視が必要である。
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