世界はトランプ政権をどう見るか No.6

世界はトランプ政権をどう見るか(主要論考の紹介)

特集「2025年 トランプ政権は世界をどう変えるか」
トランプ第二次政権の動向がグローバル経済や国際秩序にどのような変化をもたらすのか、そして他国はどのように対応するのかが注目されます。本特集では、2025年のトランプ政権の政策動向とその影響を分析し、国際社会に与えるインパクトについて考察します。
①「メローニ伊首相による対トランプ関税作戦とは」
Giorgio Leali, Ben Munster, Elena Giordano, and Giovanna Coi, “Inside Meloni’s plan to sweet-talk Trump on tariffs,” Politico Europe, April 16, 2025.
この記事は、アメリカのニュースメディアの「ポリティコ」の欧州版の複数の記者によって書かれた記事であり、メローニ首相がEUと米国の橋渡し役を果たすことへの期待が紹介されている。
先週、フランスのフェラッチ産業大臣はメローニ首相による米国訪問はEUの団結を損なうと反対していたが、その後はフランスからの公の批判が控えられていた。他方で、他のEU加盟国政府はメローニ首相とトランプ大統領の政治的な相性の良さに鑑みて、相互関税に関する有益な結果が出ることを期待している。また、EUのフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長とメローニ首相による連携も、進んでいるようだ。
イタリアの輸出産業も、米国による「相互関税」の問題に対する解決方法の糸口が見つかることに期待を寄せているが、メローニ氏にとって交渉材料は多くはない。トランプ大統領が重視するのはあくまでも、NATO同盟国の防衛費のさらなる増額や、米国の貿易収支における赤字の削減である。防衛費については、イタリアは国内総生産の1.49%の支出にとどまり、NATOの目標である2.0%を下回っている。また、イタリアはEU加盟国内で3番目に高い対米国貿易黒字国である。加えて、メローニ首相とトランプ大統領の政治的な相性に基づく期待にも、問題がないわけではない。対ウクライナ支援をはじめとして、メローニ政権の政策は必ずしもトランプ政権と合致していない。イタリア連立政権にある政党「同盟」はイタリア風のMAGAともいえ、トランプ政権と一番政治的な立場が近いのは、むしろ彼らであると言える。
これらのような理由を考慮すると、メローニ首相による米国訪問の成功はけっして簡単ではないであろう。
②「トランプの新たな保護主義時代」
The Editorial Board, “Trump’s New Protectionist Age,” The Wall Street Journal, April 3, 2025
トランプ大統領が「解放の日」と呼ぶ4月2日の「相互関税」の発表を受け、米国の保守系の主要紙である『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が発表した社説である。今回の追加関税は、米国経済と世界貿易システムの双方に深刻な悪影響を及ぼすとして厳しく批判している。
この社説によると、一方的な関税措置は国際的な報復合戦を誘発し、世界貿易の縮小や景気後退、最悪の場合は世界恐慌の再来すら招きかねない。また関税は事実上の税金であり、米国の消費者や企業にとってコストの増加となるため、競争を抑制してイノベーションを阻害し、米国産業の競争力を徐々に低下させる。戦後の自由貿易体制を主導してきた米国の経済的リーダーシップへの信頼がトランプ大統領の一方的な政策によって失われつつあり、米中対立の文脈においても中国にとっての好機をもたらしている。自らを「関税男(タリフマン)」と称するトランプ大統領によるおよそ経済合理性には資さない政策に、株式市場や各国政府は敏感に反応している。関税率の算出方法の杜撰さが指摘されるなど見切り発車の感もある中、今回の措置による混乱がしばらくは続くであろう。
③「トランプ関税に直面し、「グリーンランドと引き換えに、関税を引き下げるよう交渉する」という選択肢はあり得ない。セシリア・マルムストロームとの対談」
María Tadeo, “Face aux tarifs de Trump, il n’est pas question de négocier des droits de douane plus bas en échange du Groenland,” April 1, 2025
EUの欧州委員会で貿易担当委員を務め、第一次トランプ政権時には関税措置を巡る貿易戦争の最前線で交渉を行ったセシリア・マルムストロームへの仏紙『グラン・コンティネント(Le Grand Continent)』のインタビュー記事。
マルムストロームによれば、トランプは同盟国を明らかに軽視している。トランプはEUが特定の品目に高い関税を課していることを、米国に対する直接的な攻撃と見なしているが、EUは他の国に対しても同様の基準を適用しているだけだ。新たな関税措置は大混乱を引き起こし、複雑な地政学的シナリオに混ぜ込まれてしまう可能性があるが、EUはグリーンランドと引き換えに関税を引き下げる交渉をするつもりはない。
EUは中国への対応などについて、米国と建設的に協力することができるが、現在の状況では断固とした対応が必要だ。EUは、米国に対して反威圧措置(ACI)の実施を検討している。皮肉にも、これはもともと中国との貿易戦争を想定して策定されたものである。
トランプ政権が課そうとする関税は、米国抜きでの多国間の自由貿易体制を強化するような国際的な反応を引き起こす可能性がある。EUは、より多くの国々との協力を強化し、米国への過度な貿易依存を多角化することが求められている。
トランプの政策によって、中国だけでなく米国も地経学上のリスクと見做されるようになった。それとあわせて、米国への依存の低減を模索する動きが出始めている。
④「トランプは米国のソフトパワーの蓄えを清算している」
Joseph Nye, “Trump is liquidating America’s reserves of soft power,” The Washington Post,, March 25, 2025
ハーバード・ケネディー行政大学院長、カーター政権の国務副長官、クリントン政権の国防次官補(国際安全保障問題担当)等を歴任した高明な国際政治学者のジョセフ・ナイによる論考である。自らが提唱し人口に膾炙する概念となった「ソフトパワー」を、トランプ大統領の外交政策が急速に消耗させていると警告している。
ナイによると、米国が長期的に国際的な影響力を維持する上での、他国を魅了し引きつける力であるソフトパワーの重要性をトランプ大統領は理解していない。デンマークやカナダ等の民主主義体制の同盟国への脅迫、米国国際開発庁(USAID)の解体、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)等の政府が出資する放送機関の削減などがその証左だという。中国はソフトパワーの強化に巨額を投じており、トランプ政権がこのまま米国のソフトパワーを削ぎ続けると中国への対抗に悪影響を及ぼす。対外関与からの撤退によって得られる短期的な実利のみならず、長期的な米国の国益におけるソフトパワーの側面にも目を配るナイの冷静な議論は極めて真っ当なものだが、民主党・共和党問わずこうした外交政策エスタブリッシュメントの議論は米国政治において顧みられなくなりつつある。
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