トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説 No.26(2025年7月24日-7月28日)

大統領令一覧
大学スポーツを救済する大統領令(7月24日)
この大統領令は、学生アスリートの獲得競争が過剰に激化し、収益のあるスポーツへの資金が過度に集中することを防ぎ、大学スポーツの教育的利益の確保を目的とするもの。各大学運動部門には、女子スポーツ・非収益的スポーツのために、収入規模に応じた奨学金や登録枠の維持・拡大、収益分配の制度設計が求められる。さらに、第三者による学生アスリートへの「pay-for-play」(プレーへの対価としての報酬支払い)を禁止するほか、関係各長官らに対しては大学アスリートの地位・権利明確化や教育利益の最大化のための措置の検討、大学スポーツの法的保護、オリンピック選手育成のための協議などが命じられた。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
アメリカの路上から犯罪と無秩序状態を撲滅するための大統領令(7月24日)
この大統領令は、増加する路上生活者の多くがドラッグや精神疾患に苦しんでいるとして、公共秩序のための収容や治療等支援を命じるものである。司法長官及び保健福祉長官に対しては、他人に危害を加える恐れがあったり、自力で生活できない路上生活者の拘禁・治療を可能にする法制・地方支援の実施を求める。また具体的な対策として、州および地方自治体の取り組みへの補助金の優先的支給や、拘禁・野営地撤去・薬物乱用防止・精神科病床確保などへの連邦資金拠出、社会復帰を念頭にした治療プログラムへの技術支援などを命じた。さらに、助成金運用の透明性向上や受給者の情報収集及び審査、女性や子どもの保護などの規定も盛り込んでいる。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
布告・覚書・公式発表一覧
「最高の交渉人:トランプ大統領が歴史的な和平協定と貿易協定を実現」(7月28日)
ホワイトハウスは、トランプ政権が最近、経済と和平の両分野で成果を挙げたことを強調した。経済面では、欧州連合(EU)との歴史的な貿易合意を成立させ、外交面では、カンボジアとタイの間の国境紛争に対して米国が積極的な仲介を行い、即時かつ無条件の停戦実現を促したことが紹介されている。(詳細はこちら)
ファクトシート:米EU貿易合意(7月28日)
ホワイトハウスは、欧州連合(EU)との関税交渉が合意に至ったことを発表した。米国はEU製品に対する関税率を原則15%に設定すると発表(8月1日以降の30%関税を回避)。ただし、鉄鋼や・アルミニウム・銅に対する50%の関税は維持される。一方、EUは米国製品に対する関税を段階的に撤廃し、2028年までに米国への投資を6000億ドル増加、米国産エネルギーを累計7500億ドル購入する方針を示した。米国産の軍事製品の購入にも合意している。ホワイトハウスは今回の合意について、米欧間の不均衡な貿易を是正し、米国の産業を再生させる「歴史的な取引」であると評価している。(詳細はこちら、関連記事はこちら)
朝鮮戦争退役軍人休戦記念日に寄せる大統領メッセージ(7月28日)
ホワイトハウスは、1950年に始まった朝鮮戦争で自由のために戦ったすべての英雄を称えるとともに、「力による平和」の外交方針のもと、今後も米韓同盟を強化し、朝鮮半島を守っていく決意を表明した。(詳細はこちら)
「トランプ大統領は子どもの性別変更手術を終わらせると約束し、その約束を果たした」(7月25日)
ホワイトハウスは、現在、全米の多くの医療機関が未成年へのジェンダー肯定医療(gender-affirming care services)の提供を停止・縮小していることを紹介した。トランプ大統領は選挙期間中、「子どもへの性別転換手術を終わらせる」と繰り返し公約し、2025年1月28日には大統領令も発令していた。(詳細についてはこちら)
2025年 メイド・イン・アメリカ週間に関する布告(7月25日)
この布告は、米国の製造業およびその労働者を称えることを目的に、2025年7月20日から26日を「メイド・イン・アメリカ」週間と公式に宣言したものである。布告本文では、過去数十年にわたりグローバリストの支配層が米国産業を空洞化させ、結果として中国の繁栄を招いたことを厳しく批判している。また、トランプ大統領の就任以降、米国産業の復活に向けて政権が進めてきた国内投資の取り組みが紹介されている。(布告はこちら)
2025年 囚われた民族週間(Captive Nations Week)に関する布告(7月25日)
この布告は、2025年7月20日から26日を「囚われた民族週間」と公式に宣言したものである。共産主義への対抗と、言論の自由、信教の自由、自治の擁護を目的にアイゼンハワー大統領が制定した「囚われた民族週間」の精神を受け継ぎ、全体主義体制下に置かれた人々への連帯を改めて表明している。(布告はこちら)
下院提出法案4及び517が連邦法として成立(7月24日)
ホワイトハウスは、下院提出法案4「Rescissions Act of 2025」及び、下院法案517「Filing Relief for Natural Disasters Act」が署名され、連邦法として成立したことを報告した。前者は特定項目(公共放送や対外援助など)の予算権限を撤回するもので、後者は自然災害の被災者に対し納税期限を延長するものである。また加えて、「アナワック国立野生生物保護区」を「ジョセリン・ナンガレー国立野生生物保護区」に改名する法案も成立した。(詳細はこちら)
■解説付き■ ファクトシート:トランプ大統領、コロンビア大学と和解(7月24日)
ホワイトハウスは、コロンビア大学との間で和解が成立し、入学や採用時における差別的慣行の撤廃と関連訴訟の解決に向けて同大学が2億ドルを拠出し、反ユダヤ主義の被害者に対する和解金として2,000万ドル超を支払うことに合意したと発表した。また、学内プログラムや教員構成の見直し、留学生に対する審査・監督体制の強化、抗議活動への対応、学生規則の執行権限を学長室へ移管することなどの措置を講じる。(詳細はこちら、関連記事はこちら)
解説
全米の大学でイスラエルによるガザ地区の攻撃が非人道的であるとして非難が巻き起こったが、トランプ大統領はそれを「反ユダヤ主義」の表れだと批判し、学生運動を抑え込むため、主要大学の学長や執行部に対して執拗な攻撃を行ってきた。トランプ政権による大学への攻撃は、補助金を梃子に大学のガバナンスに介入するものであり、大学側が思想や学問の自由を主張してこれに対抗するという構図になっている。今回の「和解」が学術セクターとホワイトハウスの全面的な関係改善につながるかどうかは引き続き注視する必要があるが、問題はすでに個々の大学との関係をどのように再構築するかという話にとどまらず、過去10年間にわたって米国政権が戦略的に強化してきたイノベーションエコシステムの弱体化を示唆するところまできている。補助金が圧力のツールとなっていることで研究活動の停滞を招いているだけでなく、環境の悪化を嫌忌した研究者が海外への移籍を志向していることも早い段階から明らかになった。いったん流出した研究者を呼び戻し、止まった研究を再開するためのコストは大きく、失われた研究力は容易には改善しない。その影響は米国内にとどまるものでもなく、米中間の科学技術競争や同志国間の科学協力のパターンにどのような変化をもたらすのかが注目される。(齊藤孝祐)
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