米国産LNGと日本のシーレーン:ルートの分散と安定化に向けて

第二次トランプ政権は、「エネルギーによる支配(Energy Dominance)」を掲げ、エネルギー資源の輸出を推進する政策をとっている。2025年12月に公表された米国の外交・安全保障政策の指針、米国国家安全保障戦略(以下「NSS2025」)においても、エネルギー分野は米国を代表する輸出産業のひとつとして、米国の経済力強化に用いていく方針が示されている[1]。
すでに米国は2023年に、カタールとオーストラリアを抜き、世界最大の液化天然ガス(以下「LNG」)輸出国となった。今後も米国のエネルギー資源の輸出能力は増加が見込まれており、国際エネルギー機関(IEA)が2025年10月に公表した天然ガスの中期見通し「ガス2025」では、2030年までの新規液化能力の増加のうち、7割を米国とカタールが占めると予測されている。
日本にとっても、米国産LNGは2017年1月に初輸入されて以降、急速に存在感を増しており、2023年度時点で、日本のLNG総輸入量の9%を占めるようになっている。米国産LNGは、日本のエネルギー輸入分散先のひとつとして位置づけられるが、リスク低減の観点からは、調達先の国だけでなく、海上交通路(以下「シーレーン」)にも着目する必要がある。
米国産LNGの日本への海上輸送にはどのような経路が用いられており、どのような課題があるだろうか。本稿では米国産LNGを中心に、日本のエネルギー面でのシーレーンの現状と課題を分析する。
太平洋を横断しない米国産LNG
米国産LNGの特徴として、そのLNG輸出ターミナルの多くが太平洋側ではなく、メキシコ湾に面しているという点が挙げられる。そのため、日本への海上輸送にあたっての経路としては、パナマ運河経由、スエズ運河経由、喜望峰経由、マゼラン海峡経由などが候補となる。
所要日数ではパナマ運河経由が約25日と最も短いが、近年ではアフリカ南端の喜望峰を経由するルートが多く用いられている。日本エネルギー経済研究所によれば、米国産LNGの日本向け輸送のうち、パナマ運河経由の輸送は2017年から2023年までには全体の76%を占めたが、2024年上半期は22%にまで減少している。これには、各ルートが抱える課題やリスクが関係している。
まず、パナマ運河については、渇水が大きな課題となっている。パナマ運河は平坦ではなく、メキシコ湾(アメリカ湾)から太平洋側までの間に、約26メートルの高低差が存在する。そのため、パナマ国内のガトゥン湖などの湖から水を取り入れ、門を開閉することによって、水位を調整し、運用している[2]。しかしながら、2020年代以降、ガトゥン湖の水位が低下することによって、運河が機能不全に陥るケースが出てきた。特に、2023年以降は、雨季にも関わらず降水が少なかったことで、湖からの取水制限が実施された。その結果、運河の水位を十分に確保することができず、通行隻数を制限する事態となった。パナマ運河庁は、パナマ国内のインディオ川をせき止めて貯水池を建設したり、人為的に雨を降らせるなどの対策を検討しているが、実現は容易ではない。
次に、スエズ運河については、イスラエル・ハマス間での戦闘が開始された2023年10月以降、イエメンの武装組織であるフーシ派が、紅海を航行する船舶に対して、ミサイルやドローンによる攻撃や拿捕を行っている。そのため、多くの民間船舶が、紅海を迂回する航路をとっている。一部の報道によれば、フーシ派はイスラエル・ハマス間の停戦に伴い、紅海を通過する船舶への攻撃の停止を示唆したとされている。しかしながら、今後もイスラエル・ハマス間の停戦が続くかどうかは見通せず、今後もスエズ運河で紅海経由の航路にはリスクが残る。
マゼラン海峡については、日本までの所要日数が約50日であり、約25日のパナマ運河経由、約42日のスエズ運河経由、約45日の喜望峰経由と比較して多くの日数がかかるため、積極的に利用するインセンティブが働いていないと考えられる。将来的に、他の航路において紛争や事故が発生した場合に利用される可能性はあるかもしれないが、そうでない限り、積極的に利用される可能性は少ない。
このような背景から、今後も米国産LNGの日本への輸送は、今後も一定程度が喜望峰経由での輸送となる可能性が高い。そして、その場合、日本向けの米国産LNGは中国が海洋進出を進める南シナ海や台湾近海、東シナ海を通過することとなる[3]。
シーレーンの一本化という問題
米国産LNGの多くが日本の南方の海上を通って輸入されていることは、日本のシーレーンの安定確保の観点でも重要な意味を持つ。それは、産出地が異なる複数のエネルギー資源のシーレーンが重なっているという点である。
インド洋、マラッカ海峡、南シナ海、台湾とフィリピンの間のバシー海峡などを通って輸入するルートは、中東からの原油やLNGのシーレーンとも重複する。日本の原油輸入において中東が占める割合は依然として大きく、2023年度の原油総輸入量のうち、中東が占める割合は94.7%である。LNGについては、2023年度時点では日本の輸入先は豪州やマレーシア、ロシア、米国などに分散されており、中東が占める割合は9.4%であるが、IEAのIEA World Energy Outlook 2025の「現行政策シナリオ(CPS)」によれば、2035年から2050年にかけて中東が主な天然ガス生産者となることが予測されており、今後中東の比率が高まる可能性もある。
そのため、エネルギーの海上輸送の観点からは、引き続きインド洋やマラッカ海峡、南シナ海、バシー海峡、東シナ海などの海域の安定性は、引き続き優先度の高い課題となる。
エネルギー海上輸送のリスクを低減させるためには、一本化してしまっているシーレーンの分散と、シーレーン自体の安定性を高めるという2つの方法が考えられる。
シーレーンの分散に向けて
日本へのエネルギーシーレーンのうち、太平洋を横断するルートは、最も戦争や紛争のリスクが低いルートのひとつである。したがって、シーレーンの分散化にあたっては、米国産LNG輸送のボトルネックとなっている、パナマ運河の通航の問題を改善することが効果的な方法となる。
パナマ国内のインディオ川をせき止めて貯水池を建設する案については課題が多いが、それ以外に日本が協力できる現実的な取り組みのひとつとして、パナマ政府が計画している液化石油ガス(LPG)パイプライン建設計画が挙げられる。
米国は、LNGのほかにプロパン・ブタンを主成分とするLPGも輸出しており、アジア向けの輸出も行っている。そのため、現在パナマ政府は、米国で生産されたLPGを大西洋側の港湾ターミナルで受け入れた上で、新たに建設するパイプラインで太平洋側まで輸送し、その後太平洋側の港湾ターミナルで船舶に積む計画を推進している[4]。
この計画自体は、直接LNGの輸送に関係するものではないが、LPG船のパナマ運河の通行量を減らすことができれば、その分、LNG船などの船舶がパナマ運河を通過することができるようになる。
同計画は、エネルギー資源の増産を目指す米国にとってだけでなく、パナマ運河を通過し、太平洋を横断して日本に届けることができる船舶数を増やすという点で、日本にもメリットがあるといえる。また、日本と同様にシーレーンの脆弱性を抱える台湾や韓国にとっても、同プロジェクトに参画するメリットがあるだろう。
また、トランプ政権が日本への参画を求めるアラスカのLNGプロジェクトも、実現すればエネルギーシーレーンの分散という観点では日台韓にとってポジティブなインパクトがある。同プロジェクトは、2025年9月に日米両政府が合意した5,500億ドル規模の対米投資にも含まれる可能性があるとされている[5]。
ただし、アラスカLNGの実現にあたっては、アラスカ州北部の上流権益から南部に向けた1,300kmにも及ぶ新規パイプラインと、LNG基地を建設する必要があり、総事業費が不透明だという課題がある。参画については、日本のエネルギーシーレーンの分散という観点に加え、各企業が経済的合理性の観点も踏まえながら判断していくことになるだろう。
既存シーレーンの安定性確保
分散化の取り組みを進めるのと同時に、インド洋やマラッカ海峡、南シナ海、バシー海峡、東シナ海などの海域の安定性を高める取り組みも必要である。
第二次世界大戦後のインド太平洋地域のシーレーンの安定は、米国の圧倒的な海軍力のもとで支えられてきた。その恩恵は海上輸送による貿易という形で米国自身にも還元されてきたが、これを別の視点でみれば、国際システムにおける覇権国が、自国以外にも便益を与える国際公共財の提供を行ってきたとみなすこともできる。
しかしながら、
このような国際環境に対応するためには、2つの方向の取り組みを同時並行で進めていくべきである。第一に、日本は、インド太平洋地域における米国の安全保障上の関与を所与のものとするのではなく、米国に対して都度意義付けや再確認を行っていくことである。
第二次トランプ政権では米国の「死活的利益」を歴代政権よりも縮小的に再定義している[6]が、インド太平洋における航行の自由が全く考慮されていないわけではない。
例えば、米国のNSS2025では、米国外交における国益として「インド太平洋を自由で開かれたものとし、全ての重要なシーレーンにおいて航行の自由を確保すること」が挙げられた。台湾や南シナ海の重要性についても、グローバルな船舶輸送との関係性の中で論じられており、これらの海域が敵対的な勢力によってコントロールされることになれば、米国の経済や、より広範な国益が損なわれるとされている。日本としては、安倍政権下で提唱された「自由で開かれたインド太平洋」を基軸とし、都度米国政府と認識を共有し、すり合わせを行っていくべきである。
第二に、米国のインド太平洋地域へのコミットメントの減退やプレゼンスの低下が懸念される中で、日本によるシーレーン安定確保についても、これまで以上に積極的な役割が求められる。そのためには、日本自身による防衛力の強化に加え、フィリピンやオーストラリアなどの同志国との関係の強化が鍵を握るであろう。
おわりに
米国産LNGの海上輸送の多くが喜望峰経由となっている事実は、供給先の多様化が必ずしもシーレーン上のリスクの低減につながるわけではないということを示している。そのため、日本のエネルギー輸入先の検討にあたっては、実際にどのようなシーレーンが用いられるのかについても、確認と検証が求められる。他方で、エネルギー資源の分布の関係上、経路の分散には限度があることもまた事実である。日本へのエネルギー資源の安定的な輸送のためには、シーレーンの分散と、シーレーン自体の安定化という2つの視点をもって将来的な検討を行うべきである。
注
- [1]
このような方針は、バイデン政権下で策定された2022年の国家安全保障戦略(NSS2022)とは対照的なものである。NSS2022では、長期的なエネルギー安全保障はクリーンエネルギーによって確保されるとされていた。これに対し、NSS2025では、「『気候変動』や『ネットゼロ』といった破壊的なイデオロギーは、ヨーロッパを害し、米国を脅迫し、敵国を利してきた」とし、原油や天然ガス、石炭、原子力を活用して、安価なエネルギー供給を実現する方針が示された。 - [2]
2016年には、パナマ運河が拡張され、「ネオパナマックス」と呼ばれる大型船舶も通航できるようになった。 - [3]
喜望峰経由で最短経路を通った場合。なお、喜望峰経由の米国産LNGには、メキシコ湾から喜望峰、インド洋に至るまでの間、国家主体、非国家主体を問わず脅威が限定的であるという特徴がある。特に、海賊行為が発生しているソマリア沖のアデン湾や、封鎖リスクが存在するホルムズ海峡を通らなくてもよいという点はメリットとして挙げられる。 - [4]
Elida Moreno and Marianna Parraga “Panama Canal starts process to select firms to build, operate LPG pipeline,” Reuters, September 19, 2025 (https://www.reuters.com/business/energy/panama-canal-starts-process-select-firms-build-operate-lpg-pipeline-2025-09-18/); 「パナマ運河沿いにパイプライン建設へ 米→アジアのLPGでバイパス」『日本経済新聞電子版』2025年11月4日(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN282980Y5A021C2000000/) - [5]
「日本の80兆円投資、米インフラに」ラトニック米商務長官インタビュー『日本経済新聞電子版』2025年10月27日(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2634Y0W5A021C2000000/) - [6]
森聡「トランプ脱価値外交に向き合う」『外交』Vol.91、2025年5月
(出典:アフロ)
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