同盟・同志国を支える「無人機ハブ」構想: 有事に耐え得る生産基盤確保を目指して

高市新政権は、安全保障関連の戦略三文書の前倒し改定に着手するとして、無人機の大量運用と長期戦に耐える継戦能力の確保を掲げた。その背景には、ロシア・ウクライナ戦争において、様々な無人機が投入されているだけでなく、戦車や巡航ミサイルよりも安価な民生ドローンや攻撃用無人機が数百万規模で消費され、それを支える生産・補給基盤の維持・拡充が鍵となったことがある。翻って東アジアにおいて有事が発生した場合、米国は同盟国を守るために戦うことになるが、最前線で米国を支えることとなる日本において、米国が使用可能な装備品が事前に集積され、有事の際には円滑に前方展開され、戦時にも安定的に供給される体制が望ましい。従って、日本が同盟・同志国を支える「無人機のハブ」という橋頭堡となり得るかは、地域の秩序の安定に影響を与え得る。
本稿でいう「無人機ハブ」とは、日本国内において、米国や韓国、台湾等の同盟・同志国の企業と連携して無人機や関連部品を開発・生産・配備・備蓄し、有事の際には補給拠点として機能する役割を指す。これは、東アジア全体の拒否的抑止と継戦能力を支える橋頭堡であり、平時からの連携を以て、有事の際には同盟・同志国に対して迅速且つ柔軟に無人機が供給できる体制を構想するものである。
現在、日本の無人機戦力は、情報収集・警戒監視・偵察(ISR)用の高性能な航空無人機に偏っており、2年間で軍の無人機戦力を2倍以上に増強する方針を掲げる韓国や、2028年までに年間18万機の生産能力の確保を目指す台湾のような量的目標も示されていない。本稿では、このような状況にある日本が「無人機ハブ」となり得るかどうかを検討するため、大量生産・運用体制を構築するうえで取り組むべき①政府と市場、②日本企業と海外企業、③量と質をめぐる三つの論点について考察する。
政府介入か市場競争か:「戦略的買い手」としての政府の役割
第一の論点は、政府の介入と市場における競争をどのように位置付けるかである。経済産業省のアクションプランでは、日本国内の生産基盤の脆弱性と海外製機体に伴う情報漏洩リスクが指摘されている。民生用ドローンの世界市場では、中国の大疆創新科技(DJI)が世界シェアの70-80%とサプライチェーンを握っており、競争原理に委ねた場合、日本企業が量産規模と価格競争力を獲得することは困難である。実際、国内の民生需要は、インフラ点検や災害対応等に限られ、平時の需要だけでは、大量生産・大量供給に耐える生産基盤を構築できる規模に到底達し得ない。
重要なのは、政府が「戦略的買い手」となり、防衛省が明確且つ長期的な需要シグナルを示して、生産能力への投資を推進することである。そのためにも政府は、作戦構想に基づく数量目標を提示し、複数年度契約や長期契約を通じて一定規模の需要を確保するだけでなく、実践経験の豊富なウクライナとの連携や重要部品の備蓄、研究開発支援、スタートアップへの投資等を束ねたパッケージを推進することで、無人機の生産基盤を構築する必要がある。
何万もの無人機を保有し、有事の際の生産・補給体制を整備するためには、政府主導の介入が不可避である。一義的には政府が需要を確保して生産・開発を推進していくものであるが、同時に民生用途の規制緩和や標準化も進め、物流や警備等の分野での需要も創出していくことは大事である。そのうえで問われるのが、「創出された需要に応えて、実際に誰が日本国内で無人機を生産するのか」という問題である。
日本企業か海外企業か:「国産」を巡る同盟・同志国企業との連携の在り方
第二の論点は、「国産」をどのように判断するかである。日本企業だけで生産する純国産路線は、自律性の観点からは魅力的であるものの、様々な無人機を短期間に大量生産することは非現実的である。離島防衛や基地警護等を目的とする場合、安価で消耗を前提とした民生ドローンを短期間で大量に生産する必要があるうえ、台湾有事も見据えれば、日本が同盟・同志国で比して遅れを取っている、長距離運用が可能なより高度な攻撃型無人機も重要となる。
問うべきは、有事の際に安定的に無人機を生産・供給できるかであり、日本企業製か否かではない。同盟・同志国内においても、自国の防衛産業の振興や経済安全保障上の要請から、無人機の国内生産が掲げられており、日本での生産を認めさせることは容易ではない。しかし、有事での対応を踏まえれば、「どこに生産拠点があるか」が肝要であり、周辺事態において日本がハブとしての役割を担うことは、同盟・同志国の拒否的抑止に資する。その観点からも、同盟・同志国の政府・企業に対して働きかけを強める必要がある。
有り得べき体制は、米国や韓国、台湾等の同盟・同志国企業に日本国内での投資・生産を推進させ、日本企業が重要部品やソフトウェアを供給する形で、安定的な国内生産体制と強靭なサプライチェーンを構築していくことである。この際、日本企業の生産基盤の拡充とともに、輸入でも能力ギャップを埋めつつ、中長期的には海外企業の国内生産や日本企業のライセンス生産、共同開発へと移行して中国の機体・部品・システムに依存しない体制を整えるべきである。それを実現していくうえで課題は、いかに迅速に生産基盤を拡充しつつ、同盟・同志国間で相互運用可能な無人機を開発していくかにある。
質か量か:ソフトウェアによるトレードオフの緩和と相互運用性の確保
第三の論点は、質と量のトレードオフを巡る問題と相互運用性の確保である。今後、無人機は機種・用途ともに一層多様化し、大量生産・大量運用に伴う課題を同時に克服する必要がある。その際、生産を拡大するうえでも、同盟・同志国間で仕様の異なる各社の機体を連携させるうえでも、ソフトウェアの役割が決定的となる。特に制御系ソフトウェア・OSの設計は、監視や自動追尾、群行動運用等を自律化する鍵を握り、有人・無人アセットをどう連結させるか、そして同盟・同志国とどのように共同運用するかにも直結する。
従来は、任務や機種ごとに特化した人工知能(AI)モデルを個別に作成する方法が主流であり、利用環境や機体に応じてAIモデルを作り替える必要があった。これに対し、基盤モデル(汎用性の高いAI)を活かせば、自律的に判断して制御する仕組みを構築でき、任務や機種等に依存しない汎用的な制御が可能となるため、多種多様な無人機の量産に資する。
国内外で制御系ソフトウェアやAIの研究・開発が進む一方で、日本企業が制御系の内部仕様を開示せず、協力的でないのであれば、相乗効果は限定的にならざるを得ない。電子戦リスクにも備えなくてはならず、エッジAI(クラウド側ではなく端末側の無人機にAIを搭載し、電子戦による通信妨害・途絶が発生しても、センサー情報の解析や航法・回避判断を機上で完結させることで、自律的な行動を可能にする技術)を用いた自律性の高い無人機の生産が今後必要となる。その場合、日本国内で生産された同盟・同志国の無人機に標準化された基盤モデルを搭載する方が、日本にとり合理的となる可能性もある。今後必要とされる機体は一層多様化していくが、迅速な導入を図るうえでも、ハード・ソフトを問わず日本企業製品のみに依存せず、柔軟な開発・生産体制を構築し、国内外の様々なシステムを適切に組み合わせて活用していくことが重要となろう。
以上、本稿では、「無人機ハブ」の実現可能性を検討するため、日本が大量生産体制を構築するうえで取り組むべき三つの論点を整理したが、その実現は決して容易ではない。しかしながら、無人機の安全保障利用を本格的に推進するのであれば、本稿で示したいずれの論点も、生産に密接に関わるために回避し得ない課題である。日本が実際にハブ化を目標とするかどうかにかかわらず、米国の東アジアへのコミットメントが不安視される中、東アジア全体の拒否的抑止と継戦能力の確保がより一層重要となっており、無人機を含めた様々な観点から日本が果たすべき役割について検討が進められるべきである。
(出典: 布留川司/アフロ)
執筆者

吉田 優一(LEAPフェロー)
大韓民国・アサン政策研究院に派遣予定。専門は国際安全保障。主としてインド太平洋の海洋安全保障および欧州・ロシアのエネルギー安全保障を研究してきた。これまで、公益財団法人日本国際問題研究所にてインド太平洋の安全保障と重要・新興技術が安全保障に与える影響に関する調査・研究に従事した他、在ブルガリア日本国大使館政務班にて外政を担当した。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)欧州研究所にてEU政治学修士課程修了。慶應義塾大学総合政策学部卒。

地経学ブリーフィング
コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)のシニアフェロー・研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:鈴木一人 地経学研究所長、東京大学公共政策大学院教授)。
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