中国の通常弾頭ICBM配備がもたらす日米同盟強化の逆説

中国軍が長距離打撃能力を強化していることは、東アジアの戦略環境に大きな影響を及ぼしている。以下では、中国軍がDF-27を配備するに至った背景を考察したうえで、その配備がいかなる影響をもたらし、日米同盟にどのような含意があるのかを検討する。
中国軍の米軍介入阻止戦略
1996年の第三次台湾海峡危機以降、中国軍の戦力整備の目標は一貫して、米軍の介入を阻止しつつ台湾に侵攻する能力を獲得することに置かれてきた。台湾侵攻の成否は、台湾軍との戦闘だけでなく、米軍の大規模介入を防げるかに左右されるためである。
この目標の下で構築されてきたのが、いわゆるA2/AD能力である。A2/ADは、劣位にある側が敵の戦域への接近を困難にし、侵入後も自由な行動を妨げることを目的とする考え方である。中国軍はこの構想を具体化するため、在日米軍基地やグアム基地、空母打撃群の無力化を念頭に置いたミサイル等を整備してきた。
対米抑止を目的とした戦略核の増強は、通常戦力の整備に比べて遅れて進められてきた。中国は長らく、敵の核攻撃に報復できる最低限の核戦力を保有することで、自国への先制攻撃を抑止する「最小限抑止」を名実ともに維持してきたが、2020年頃から戦略核の大幅な増強に踏み切っている。その明確な目的は公式には示されていないものの、米国との間に相互脆弱性を構築しようとしているのではないかと考えられている。こうした動きは、米国大統領に自国民の被害と同盟国防衛を天秤にかけさせ、前者を優先させる、いわゆる同盟のディカップリング(切り離し)を生じさせることで、米軍の介入自体を抑止しようとする意図の表れと思われる。
中国軍が直面してきた構造的課題
中国軍の取り組みは、一定の成果を上げている。核戦力については、2020年時点で約200発とされていた核弾頭数が、2030年までに約1000発へと増勢する見通しであり、最小限抑止とは呼べない態勢になりつつある。また、西太平洋における通常戦力バランスを年々自らにとって有利な方向へと傾けることに成功している。
しかし、いかに核戦力を増強したとしても、戦略核はその甚大な破壊力ゆえに使用の敷居が極めて高く、実際の運用において十分な信憑性を確保することは容易ではない。中国が警報即発射など、攻撃的な態勢を採用しはじめていることは、核抑止の信憑性をいかに確保するかという課題に直面してきたことを端的に示している。
また、A2/AD能力は、あくまで西太平洋という限定された地域を対象とするものである。さらに、その圏内で活動する米軍が抱えるリスクを高めることには成功してきたが、インド太平洋への前方展開を削減させるには至っていない。むしろ、米軍と同盟国は長射程ミサイルの開発・配備を進めていることから、中国本土に所在する指揮所や衛星用地上局といった極めて重要な軍事施設に対する精密打撃の脅威は高まりつつある。加えて、中国軍はA2/AD圏外で航空優勢を確保できないため、米軍が爆撃機や空中給油機を用いて米国本土から前方展開部隊を支援する長距離打撃作戦を阻止することができない。
つまり、中国軍が米軍の来援や中国本土への打撃を阻止するためには、戦略核の増強やA2/AD能力の強化だけでは不十分であり、これまでのアプローチを補完する新たな手段を必要としていたと考えられる。
縦深攻撃によるA2/ADの補完
中国本土からカリフォルニア州まで到達可能な射程約8000kmと試算されているDF-27の配備は、中国軍が抱えてきたこうした課題を緩和するものと考えられる。通常弾頭による米国本土打撃が可能である点において、従来のミサイルとは質的に異なる効果を発揮しうる。
例えば、爆撃機の航続距離を大幅に延伸する空中給油機が所在する米本土やハワイの基地に対して縦深攻撃(敵の前線部隊ではなく、その後方に位置する指揮所や補給線への攻撃)を実施すれば、米軍のA2/AD圏外からの長距離打撃作戦を著しく制約することにつながる。緒戦において米本土からの爆撃機による火力支援を阻止できれば、戦局全体に与える影響は極めて大きいだろう。さらに、日本や台湾の継戦能力が必ずしも十分ではない現状において、米本土の基地や国防産業基盤を打撃し、物資や来援部隊の到着を遅延させることができれば、米軍による本格介入の前に、同盟国を屈服させられる可能性が高まる。
DF-27の配備は、中国軍の米軍介入阻止戦略が大きく進化しつつあることを示唆している。従来、中国軍はA2/ADから成る二段構えの姿勢をとってきたが、DF-27の導入は、米本土への縦深攻撃による来援基盤そのものを破壊するという三つ目の手段を付け加えるものとして位置づけられる。
日米同盟への含意
では、こうした中国軍の動きに対して、日米はどのように対応すべきだろうか。米軍は、米本土防衛用の多層ミサイル防衛システムであるゴールデンドームを設計するにあたり、DF-27への対処を優先課題として位置づける必要がある。基地の抗堪化についても、グアムにとどまらず、米本土西海岸の関連施設へと対象を拡大していくことが求められる。また、日本は、米軍の来援が阻止される事態が自国の存立を脅かしかねないとの認識のもと、短距離弾道ミサイルへの対処に加え、DF-27に対しても反撃作戦を実施し得る態勢を整えていく必要がある。
DF-27の導入が米国の来援意思にどのような影響を及ぼすのかについては、今後さらなる分析が必要である。米本土がいかなる攻撃からも免責される「聖域」ではなく「戦域」に含まれる存在となったことで、米軍の介入・来援が困難となり、米国が拒否的抑止されるリスクも生じ得る。こうしたリスクは、ゴールデンドーム構想によって早期に低減する必要がある。他方で、同様の状況は、逆説的に米国の同盟コミットメントの信憑性を高める方向に作用する可能性もある。
前述のとおり、米国が信憑性の高い戦略核の脅威に直面した場合、米国大統領は自国民が被る甚大な被害と同盟国防衛とを天秤にかける厳しい選択を迫られ、その結果として、ディカップリングが生じると考えられてきた。しかし、大国にとってあくまでも限定戦争である同盟国の防衛において、限定的な核使用に発展する可能性があったとしても、直ちに戦略核の応酬に発展する可能性は必ずしも高いとは言えず、緒戦においてディカップリングが生じる蓋然性については、議論の余地がある。
こうした前提に立てば、米国が通常弾頭を搭載するDF-27の脅威に直面した場合であっても、その攻撃目標は作戦レベルの軍事目標に限定されると考えられる。このため、米国大統領が直面するジレンマは、戦略核による脅威の場合と比べて相対的に軽く、ディカップリングが引き起こされる可能性は低いと評価できる。同ミサイルが将来的に低出力核を搭載するに至った場合であっても、その運用が引き続き作戦レベルの軍事目標への打撃にとどまる限り、ディカップリングの可能性を大きく高めるものとは考えにくい。
むしろ、米本土が通常戦力による打撃を受ければ、中国との戦いは米国にとって単なる同盟国防衛ではなく、自国防衛として位置づけられる。その結果、本格的な介入へのハードルが低下し、「米国を守るために同盟国を守る」という論理がこれまで以上に明確になるだろう。
この点は、トランプ政権が米本土防衛と西半球での覇権強化を優先し、同盟コミットメントの信憑性に揺らぎが見えつつある現状において、日本をはじめとする西太平洋の同盟国にとって重要な意味を持つ。すなわち、同盟国が米本土防衛において果たし得る役割の大きさを米国に示す好機となりうるのである。DF-27の配備は、米国の関与をさらに引き出す材料を提供していると言えよう。
(出典: VCG / Getty Images)

地経学ブリーフィング
コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)のシニアフェロー・研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:鈴木一人 地経学研究所長、東京大学公共政策大学院教授)。
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Research Associate
Rintaro Inoue is a Research Associate at the Asia Pacific Initiative (API) & the Institute of Geoeconomics (IOG), the International House of Japan (IHJ), a Tokyo-based global think-tank, where he focuses on U.S. security policy, the U.S.-Australia alliance, Japanese defense policy, and economic statecraft including defense industrial base policy. Prior to assuming his current position, he joined the Asia Pacific Initiative (API) as an intern and contributed to multiple projects including the Japan-U.S. Military Statesmen Forum (MSF). He is currently researching defense industrial policies of other countries in the International Security Order Group. He received his BA and MA in law from Keio University and is now a PhD student.
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