About Geoeconomics

地経学とは ——生まれた背景や注目分野、今後について

地経学(Geoeconomics)とは、国際関係を国の地理的な要素(海洋国家や内陸国など)から分析する学問である地政学に、経済的な視点を組み合わせた枠組みです。

地経学のアプローチとは

IOG

冷戦後のグローバリゼーションの時代から米中対立に見られる国家間対立が激化する時代に変わりゆく中、経済の相互依存を利用し自国の利益を最大化する、いわゆる「経済の武器化」を進めている国が増えてきています。地経学は国家間の争いにおいて経済力がどのように行使されるのか、そしてそのような争いは経済にどのような影響を及ぼしかねないのかを分析します。

地経学においては、他国からの経済的威圧に左右されずに自国の政策を実施する「守り」の能力を持つ戦略的自律性と同時に、グローバルなサプライチェーンにおいて不可欠な存在となり「攻め」の能力を持つ戦略的不可欠性が、国家のパワーを考える上で重要となります。

     

なぜ今、「地経学」が重要なのか

IOG

これまで地政学リスクは戦争や内戦、テロと言った安全保障の問題として国家間関係で生じるものと考えられてきましたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁や、関税や輸出規制を通じた米中対立など、このようなリスクは民間企業や個人をも巻き込む問題となってきています。なぜなら、こうした問題は、物価高騰、サプライチェーンの断絶、生活や社会の基盤となるインフラへの妨害など経済面の影響を及ぼすからです。これらは政治と経済、官と民などの垣根を超えた複雑な事象であり、地政学と経済の両方の視点を融合させた地経学だからこそ読み解くことができるといえます。

現代社会における「地経学」

地経学は一見難解に思えるかもしれませんが、実は私たちの生活や企業活動に深く結びついています。以下はその一例です。

エネルギー

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国は経済制裁(ロシア産エネルギーの禁輸)を課しました。一方でロシアは、欧州諸国が自国に依存する天然ガス供給の停止・削減で対抗しています。ロシアは外貨収入を失い、戦争を継続するための戦費調達に苦しい状況ですが、安価なロシア産エネルギーを得られなくなった欧州は電気料金の高騰などで経済的な影響を受けています。

半導体

米中の戦略的競争が激しさを増す中、軍事的にも転用可能な人工知能(AI)の開発に必要な先端半導体を巡って、地経学的な争いが始まっています。中国による軍事能力の向上を懸念したアメリカは、中国に対する半導体・半導体製造装置の輸出規制を導入しました。それに対抗し、中国は半導体の材料となる重要鉱物のアメリカへの輸出を禁止しました。

重要物資

サプライチェーンの強靭化のため、日本では12分野の品目が国の重要物資として指定されています(2025年1月現在)。こうした重要資源は日本が外国に依存している度合いが高く、これらの物資の安定供給は、単なる経済問題に留まらず、国の戦略的自律性を保つ上での鍵となります。

AI

AI技術は、新たなビジネスの創出だけでなく、電気やガスといった人々の生活を支えるインフラの管理や軍事・安全保障への応用といった国家の基盤にも革新をもたらす可能性を有しています。世界各国では、他国のAI技術への依存を避けるため、AI技術開発の競争が激化しており、半導体やエネルギー、人材といったAI開発に必要なリソースの確保にも影響を与えています。

これからの 「地経学」

トランプ政権の再始動で関税を外交交渉の「武器」にしたり、貿易赤字を解消する手段とする構えを見せています。中国などは対抗措置として重要鉱物の輸出規制をかけるといったことも考えられます。今後の国際情勢は不確実性が一層高まっており、国際情勢と経済の関係を理解することが必要不可欠になっています。と同時に、各国は戦略的自律性と戦略的不可欠性を高め、地経学的なパワーを獲得しようとするでしょう。そんな中で、世界で何が起こっているのか、日本企業にどのような影響があるのかを正確に理解し、分析していく必要があります。当研究所では海外のシンクタンクや国内外の政官財学のネットワークを強固に発展させながら、情報発信や分析に取り組んでいきます。

さらに詳しく知るための文献

地経学研究所(IOG)

民間・独立のシンクタンクという立場から、
アジア・太平洋地域を代表する知の交流の拠点となり、
グローバルでより高いインパクトを発することを目指してまいります。

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