ルーマニア総選挙・大統領選挙 | 選挙イヤー2024

11月24日に実施されたルーマニア大統領選挙の第一回投票では、泡沫候補とされていた親ロシア・反NATO派のカリン・ジョルジェスク候補が、数十年にわたりルーマニアの第一党の座を維持してきた社会民主党のマルセル・チョラク首相を含む有力候補を破って突然首位となり、二位となった親EU派で野党のルーマニア救国同盟(USR)のエレナ・ラスコニ党首とともに決戦投票に進んだことから、世界の注目を集めた。ジョルジェスクは独立候補として政党の支援を受けず、主にTikTokなどのSNSを中心とした選挙活動により既存メディアをあえて避けながら、「ウクライナ戦争の背後で帝国主義軍産複合体が暗躍している」などの極端な主張を展開することで、現状の政治に不満を持つ若者を中心に幅広い層から支持を集めた。しかし、ルーマニア当局の調査で外国政府や非国家主体による大規模な介入が示唆されたことを受け、憲法裁判所は大統領選挙を無効としてやり直しを命じた。ルーマニア大統領はEUやNATOの首脳会議への参加、軍の最高司令官としての権限を含む重要な国防・外交上の役割を担うため、候補者の届け出からやり直される大統領選挙の行方を今後も注視する必要がある。

大統領選挙の第一回投票から1週間後の12月1日、ルーマニアで上下両院の総選挙も実施された。上下両院は同等の権限を有しており、法案や予算を可決するには両方での承認が必要となる。社会民主党(PSD、中道左派)は第一党の座を守ったものの、議席を大幅に減らし、連立与党である国民自由党(PNL、中道右派)との議席を合わせても、上院のみならず、改選前に過半数を保持していた下院でも過半数に届かない結果となった。他方、野党で極右政党のルーマニア統一同盟(AUR)は支持率を2020年の9.1%から2024年には18.3%に倍増させ、今回の選挙で第二党に躍進した。新興の極右政党であるSOSルーマニアや若者の党(POT)もあわせてAURの2/3を超える議席を獲得したことから、極右政党全体で3割強の議席を占めることとなった。物価高騰などへの不満が中道政党への逆風となり、極右政党がそうした政権批判票を集めたという構図は大統領選挙と変わらなかった。ルーマニア憲法第103条第3項に基づき、内閣が成立するためには上院下院の過半数が必要とされるため、社会民主党と国民自由党が結束するだけでなく、ルーマニア救出同盟(USR)やハンガリー人民主同盟(UDMR)といった親EU派の小規模政党を巻き込むことが今後の政権運営の鍵となる。
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石川 雄介 研究員/デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした欧州比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。 トランスペアレンシー・インターナショナル ハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所にて、インターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)を経た後、2024年8月より現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年出版予定)などがある。 【兼職】 国際NGO Transparency International Anti-Corruption Helpdesk (ベルリン)外部寄稿者・コンサルタント
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研究者プロフィール
石川 雄介

研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー

専門はハンガリーを中心とした欧州比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。 トランスペアレンシー・インターナショナル ハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所にて、インターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)を経た後、2024年8月より現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年出版予定)などがある。 【兼職】 国際NGO Transparency International Anti-Corruption Helpdesk (ベルリン)外部寄稿者・コンサルタント

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