世界はトランプ政権をどう見るか(選挙後~就任前まで)
世界はトランプ政権をどう見るか(主要論考の紹介)
特集「2025年 トランプ政権は世界をどう変えるか」
トランプ第二次政権の動向がグローバル経済や国際秩序にどのような変化をもたらすのか、そして他国はどのように対応するのかが注目されます。本特集では、2025年のトランプ政権の政策動向とその影響を分析し、国際社会に与えるインパクトについて考察します。
①「トランプがアメリカを再建する方法」
Oren Cass, “How Trump Can Rebuild America,” Foreign Affairs, January 16, 2025,
J.D.ヴァンス副大統領と親交の深いニューライト(新保守主義)系の論客であるオレン・キャスが、トランプ政権が採用すべき経済政策について、権威ある外交政策雑誌『フォーリン・アフェアーズ』に寄稿した論考である。
キャスは、トランプ政権1期目の経済政策について、経済ナショナリズムと旧来のレーガノミクスの間で一貫性を欠いていたため、産業投資の促進に失敗し、財政赤字を伴う減税政策を推し進める結果となったと指摘している。これを踏まえ、2期目は、バイデン政権が進めたCHIPS法から教訓を得るべきだと述べ、新保守主義に基づいて、政府が積極的に産業投資を行う経済政策を採用することを提言している。また、関税政策の強化や、過剰に知識労働者を生み出す「全員大学進学」モデルの見直しを求めている。キャスの議論は彼の思想が色濃く反映されながらも冷静であり、トランプ政権2期目で影響力を発揮すると思われるニューライト派がどのような経済政策を打ち出すかを予想する手がかりとなるだろう。
②「トランプ2.0時代のアメリカ・中国関係」
朱鋒「特朗普2.0版的美国与中美关系」『聯合早報』、2024年11月12日。
筆者の朱鋒は南京大学教授、国際関係学院院長を務める人物である。専門は米中関係、安全保障、南シナ海情勢である。本稿の初掲はシンガポールの中国語メディア『聯合早報』であるが、中国の「騰訊網」(テンセント)が展開するサイトにも転載されている。
本稿において筆者は、昨年の選挙での圧勝、そして議会において共和党が多数派を占めたことを背景に、トランプ2.0はバイデン政権の施策をひっくり返し、また引き続き中国に対し「横暴な」政策をとるであろうことを予測しつつも、ウクライナ・ロシア問題など協力の余地はあると述べている。文末においては、中国は政治や経済、社会、文化交流における両国関係を維持するとも述べている。
また、台湾問題にも言及し、両国ともに超えてはならない一線をわかっており、かかる問題が暴走することはないと主張している。昨今、台湾有事の可能性に注目が集まる中、このような主張をしている点においても注目に値する。
③「米国例外主義の終焉」
Daniel Drezner, “The End of American Exceptionalism,” Foreign Affairs, November 12, 2024.
大統領選を受けて執筆されたトランプ新政権についての推測記事の中でも、その対外政策を基本的な世界観から掘り起こして「米国例外主義の終焉」と位置付けたとりわけ包括的な論考である。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院特別教授のダニエル・ドレズナーが『フォーリン・アフェアーズ』に執筆し、広く参照された。
ドレズナーは、米国が主導して築いたリベラル国際秩序が現在米国に不利な状況をもたらしており、それを是正するために輸入や移民を制限し、同盟国により多くの防衛負担を求め、独裁者と取引をして米国を国内問題に集中させるのが、トランプの対外政策の基本的な方針だと論じる。対外関与からの撤退は、米国民のアフガニスタンやイラクでの「終わりなき戦争」疲れに端を発するオバマ政権・バイデン政権から継続した傾向と言えるが、それを赤裸々に打ち出す点にトランプ政権の特異性がある。政権入りする国際関係に精通したスタッフを介して、世界への関与が長期的な米国の国益に資することをいかにインプットしていけるかが、日本をはじめとする同盟国・同志国の課題と言えるだろう。
④「トランプが引き起こしたことは米国にとって何を意味するのか」
Francis Fukuyama, “What Trump unleashed means for America,” Financial Times,, November 8, 2024.
冷戦終結時に執筆した『歴史の終わり』で一世を風靡し、近年は『IDENTITY』『リベラリズムへの不満』等で寛容の理念に基づく古典的リベラリズムの復興を訴えているフランシス・フクヤマが、彼の主張に即して米大統領選におけるトランプ再選の構造的背景と含意を分析した論考である。
フクヤマは、市場を神聖化し、雇用を失った労働者階級を保護する政府の能力を削減させた新自由主義と、労働者階級の利益の保護をマイノリティのみに対象を絞った保護に取って代わらせた「行き過ぎたリベラリズム」の両者によって、民主党が高学歴の都市エリートが支配する政党となり、労働者階級が離れたことが、今回の選挙結果の構造的背景だと論じる。2020年と比較して、トランプが元来の民主党支持層である黒人やヒスパニックの労働者階級の支持を拡大させたことに鑑みると、この指摘は重要である。分極化するアメリカ社会において、労働者の支持を失い中道と進歩派で党内が分裂する民主党を再建するとともに、トランプ流の排外主義のさらなる伸長を抑える処方箋を考える上でも、フクヤマの議論は傾聴に値する。
⑤「トランプは世界に何をもたらすか」
Peter D. Feaver, “How Trump will Change the World,” Foreign Affairs, November 6, 2024.
大統領選直後、米国の主要メディアは、次期トランプ政権がどのような対外政策を展開するのかについて多くの推測記事を掲載した。その中でもとりわけ注目を集めたのが、G・W・ブッシュ政権の国家安全保障会議で戦略計画・組織改革担当の特別補佐官(2005-07)を担い、現在はデューク大学で教鞭をとっているピーター・フィーバー教授の論考である。
フィーバーは、トランプ政権の対外政策を形作る人事に注目し、MAGA系の人材が増えることで、「赤裸々な取引主義」がより顕著になり、台湾防衛へのコミットメントが不確実になる可能性を指摘した。また、1期目で見られた直感的かつ過激な政策が再び繰り返されるだろうと予想している。実際、次期政権の人事が徐々に明らかになる中で、フィーバー教授の懸念は現実のものとなりつつある。MAGA系人材が多く政権入りし、カナダやデンマーク、パナマの併合を掲げるといった「赤裸々な取引主義」や「直感的かつ過激な政策」が観測されている。こうした中、インド太平洋地域における安全保障政策に関しては、不確実性と懸念が深まるばかりである。