ロシア、北朝鮮、中国の接近? 「反米トライアングル」のゆくえ

【著者】一般財団法人霞山会 主任研究員 堀田幸裕

ロ朝首脳会談とプーチンの対北朝鮮姿勢


2023年9月13日、ロシア極東のボストーチヌィー宇宙基地。4年ぶりに金正恩総書記と会談したプーチン大統領の口から「ロシアは国際的責務を遵守しながら、その枠内で北朝鮮との軍事技術分野での協力可能性がある」という発言が飛び出した。詳細は明らかではないが、プーチン大統領の報道陣に向けたコメントから、人工衛星技術の提供である可能性が高い。なお、金総書記はロシア訪問中に戦闘機組み立て工場も視察しており、最新鋭戦闘機「スホイ57」に試乗している。

ロ朝首脳会談から1か月後の10月13日、ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は記者会見で、コンテナ1,000個以上に相当する弾薬などの軍事物資が最近、北朝鮮北東部・羅津港(第二埠頭)からロシアへ輸送されたと明らかにした。筆者が2018年にこの埠頭を見学した際には、国連安保理による北朝鮮産石炭の禁輸制裁のため、石炭の山がうず高く野積みされたままになっていた。風雨にさらされた石炭から海へと流れ込むような形で、幾重にも黒い帯状の汚れの跡ができていたのが印象に残っている。羅津港は北朝鮮が第二埠頭を主に使用しており、第一埠頭は中国の輸送会社が投資して改修されている。また最大級の第三埠頭はロ朝合弁企業のラソンコントランス(RasonKonTrans)が租借しており、安保理制裁から除外された石炭の中継貿易に利用されている。今回、ロシアへの軍事物資の輸送に第三埠頭が使用されなかったのは、プーチン氏が言うせめてもの「国際的責務の順守」だったのだろうか。

だが、そもそも北朝鮮の宇宙開発は弾道ミサイル技術の転用とみなされており、ロシアも賛同した国連安保理決議で事実上の制限がかけられている。兵器の移転も同様だ。安保理常任理事国でありながら国際的合意を破るロシアの姿勢が問われる中で、ロ朝の接近が北朝鮮と関係の深い中国をどう巻き込んでいくのか注目が集まっている。けれども結論から言うと、中ロ朝にはそれぞれの思惑があり、三者の連携強化という形には繋がらないのではないかと筆者は考える。はじめに、中国、ロシアと北朝鮮はこれまでどのような関係を歩んできたのか、少し振り返ってみたい。
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冷戦以降の中朝・ロ朝関係

中ロと北朝鮮は冷戦時代から今日まで、強い結びつきを連綿と保ってきたように誤解される向きもあるが、1990年代以降、その関係性は大きく変容した。中国は、現在も北朝鮮と事実上の同盟関係を維持してはいるが、1992年に中朝間の一般貿易をハードカレンシー方式に変更して、社会主義建設支援の名目で行ってきたバーター貿易を廃止している。また金正日時代の末期に、中朝共同開発の合意を結んだ際も、中国側が掲げた原則は「政府主導、企業為主、市場運作、互利共贏」(政府が主導し、企業が中心となり、市場原理で、互恵ウインウインに)であり、あくまで企業が主体となって市場原理に則ったものとするという、経済的合理性を前提とした方針を示したのである。政治的な面でも、中国国家主席の訪朝は2005年10月を最後に2019年6月まで、約14年間にわたって行われなかった。これは北朝鮮の核開発に対する中国の不信感ゆえだろう。言葉の上での「友好」とは異なり、二国間外交は合理的に判断されてもきたのである。

一方のロシアは、ソ連時代には「ソ朝友好協力相互援助条約」を結び、中国と同様に北朝鮮と事実上の同盟関係にあったのだが、1996年にこれを更新せず失効させている。新たに締結したロ朝友好善隣協力条約(2000年)には、軍事的援助に関する条項が盛り込まれなかった。中国にとって北朝鮮は首都北京からも近く、冷戦後も朝鮮半島は戦略的要衝であり続けたわけだが、ロシアの北朝鮮に対する関心は社会主義という共通項がなくなると、著しく低下したように見えた。ソ連時代の対北朝鮮借款110億ドルを免除すると両国が合意したのも、ソ連崩壊から20年が過ぎた2011年のことである。

中ロで温度差はあったものの、冷戦後は両国にとって北朝鮮の戦略的価値は相対的に低下していた。北朝鮮非核化の枠組みである六者協議に中国とロシアも加わり、日本や米国とも足並みを揃えてきた。

中ロの対北朝鮮姿勢が変化した2018年

こうした経済合理性を優先しつつ、国際協調的でもあった中ロの北朝鮮に対する姿勢が変化し始めるのは、2018年の米朝首脳会談以降である。この時期、中国はトランプ米政権との間で、厳しい貿易摩擦を抱えていた。またロシアは同年3月の大統領選挙でプーチン氏が76%を超える得票率で再選され、クリミア併合により国際制裁を受ける中でも、国民の支持が高いことを見せつけた。

2018年9月の国連総会で、中ロは揃って北朝鮮制裁の緩和を公然と主張した。その翌月、中ロ朝外務次官級対話後に発表された共同報道文には、「三者は単独制裁に反対する共同の立場を再度明らかにする」という一文が入っている。これは米国から貿易制裁を受ける中国、クリミア併合により欧米から制裁を受けるロシア、そして核・ミサイル開発により国際制裁を受ける北朝鮮という、「制裁を科される国家」としての立場を表明するものだった。2022年5月に中ロは、国連安保理での北朝鮮制裁決議案に対して初めて拒否権を行使した。

2019年6月、習近平国家主席が訪朝して中国は中朝関係の完全な修復に舵を切る。ロシアも2019年4月にロ朝首脳会談をウラジオストクで行った。中ロとも米朝の接近を見て、そしてそれが2019年2月の米朝ハノイ会談のノーディールで対話が暗礁に乗り上げると、すかさずそこに付け込んだ。中ロにとっての北朝鮮の戦略的価値は、対立する米国との関係において再び高まったのである。

ウクライナ戦争とロ朝の軍事協力

2022年のウクライナ戦争の開戦後、北朝鮮は国連総会でのロシア非難決議に反対票を投じ、親ロ派によるドネツクとルガンスクの独立も国家承認している。そして2022年9月には、ロシアが北朝鮮に弾薬の調達を申し入れたと米国が発表した。これに対して北朝鮮は国防省装備総局副総局長名義で反論を出した。また東京新聞(12月22日付)が実際の取引をスクープすると、外務省代弁人声明で「ありもしない朝ロ間の武器取引」だとして、「日本メディアの謀略報道」と切り捨てた。ロシアとの軍事的な協力関係が水面下で調整されている最中で、そこに横やりを入れられることに神経を尖らせていたのかもしれない。ウクライナ戦争により、ロ朝関係は従来とは異なる段階へと深化することになる。

しかしながら、ロ朝の軍事協力は、中国にとっては必ずしも歓迎する流れではないだろう。米国をはじめ国際社会の反発が強く、北東アジアのパワーバランスを崩す結果をもたらしかねないからだ。中国外交部は記者会見で、ロ朝首脳会談の評価について問われた際も二国間関係だとして、コメントを控えた。そしてこうした複雑な中国の心境を見透かすように、中ロ双方に対する戦略的価値が上がったことを自覚する北朝鮮が、その存在感をさらに高めようとしているきらいもある。2023年7月の朝鮮戦争休戦70周年記念行事で北朝鮮が見せつけた、ロシア側を厚遇しているかのような中国代表団への差別的な対応は、中国に対して自身の評価を最大限釣り上げようとする狙いがあるように見えた。

現状、米国と対峙する点では一致しつつも、北朝鮮との軍事的分野の繋がりにまで踏み込んだロシアとは、一線を画したいというのが中国の偽らざる本音ではなかろうか。中国は、対米姿勢ではロ朝との連携を保っていくかもしれないが、北朝鮮問題という点ではあくまで中朝二国間での関係性に留め、地域情勢を自らがコントロールできる形にしていく方が、都合が良い。ゆえに中ロ朝の関係が、このまま三カ国同盟のような形へと発展していく可能性は少ないのではないかと考えられる。元より、対米関係の着地点について、中朝ロは必ずしも共通の目標を置いているわけではない。米中・米朝関係の変化、そしてウクライナ戦争後の世界も見据えた時、中ロ朝の「反米トライアングル」という繋がりが容易に崩れる可能性もあることは想像に難くない。

(Photo Credit: Reuters / Aflo)

 

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