トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説(2025年1月21-28日)

研究員による解説
次世代ミサイル防衛システム構築:アメリカ版アイアンドームの構築に関する大統領令
人工知能分野におけるアメリカのリーダーシップ発揮に向けた障壁を取り除く大統領令
この論考でわかること
  • 大統領令の一覧と概要
  • 布告・覚書・公式発表の一覧と概要
  • トランプ大統領の演説および優先政策
  • エキスパートの視点
Index 目次

大統領令一覧

子どもを化学的・外科的医療介入から保護する大統領令(1月28日)

この大統領令は、米国政府が子どもの性別移行を支援・促進しないことを明確にし、性別移行に関連する医療行為を禁止・制限する法律を厳格に執行するよう命じるもの。(大統領令はこちら

軍のCOVID-19ワクチン接種義務に基づいて除隊された軍人の復職に関する大統領令(1月27日)

この大統領令は、軍人に対するワクチン接種義務(但し2023年1月10日に撤回)は不当かつ不必要な負担だったとして、ワクチン接種拒否を理由に解雇された軍人の復職を可能にする等の救済措置を指示している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

アメリカ軍の戦力回復に関する大統領令(1月27日)

この大統領令は、能力よりも人種や性別を重視することで、公平な評価が損なわれたり軍の結束が妨げられたりするのに加え、分断を引き起こす概念やジェンダー・イデオロギーの推進につながるとして、国防総省および沿岸警備隊を管轄する国土安全保障省内のすべてのDEI(多様性、公平性、包摂性)に関連するプログラムを廃止するよう命じるもの。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

軍の卓越性と即応態勢の優先確保に関する大統領令(1月27日)

この大統領令では、即応態勢、殺傷能力、結束力を維持し、国防を強化するため、アメリカ軍は高い基準を確立する必要があるとし、自己認識に基づく代名詞の使用や性別の概念の変更は、軍の基準と相いれないと規定している。また、生物学的な性別に基づき、寝室、更衣室、浴室などの施設を使用すべきと定めている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

■解説付き■ 次世代ミサイル防衛システム構築:アメリカ版アイアンドームの構築に関する大統領令(1月27日)

この大統領令は、次世代ミサイル防衛システムの配備および維持を義務付ける。具体的には、システムの設計や計画に関する報告書を60日以内に提出するよう指示しているほか、同盟国とのミサイル防衛協力の強化などに触れられている。なお、原題のアイアンドームとは、イスラエルの対空防衛システムのこと。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

解説
米国は冷戦後、前方展開兵力や同盟国を短中距離ミサイルから防護するための戦域ミサイル防衛と、「ならず者国家」北朝鮮等の戦略核から米本土を防護する本土ミサイル防衛網を構築してきたが、中露の戦略核を対象とするミサイル防衛には取り組んでこなかった。これは技術的財政的なハードルと、中露との相互核抑止を不安定化させる懸念によるものだったが、今回の大統領令に示された各種のミサイル防衛手段により、中露の戦略核をも念頭に置いたミサイル防衛に本格的に着手するものと思われる。この動きの背景としては、①中国の戦略核の量的及び質的向上、②従来一定の相互理解を前提に軍備管理を行ってきたはずのロシアの「ならず者」化によるその行動の不透明性、③北朝鮮の戦略核能力の向上が挙げられる。注目すべきなのは、トランプ政権がこれらの動きに対して大規模な戦略核増強ではなく、まずミサイル防衛の抜本強化を求めたという点であり、米軍事戦略における通常戦力・先端技術重視の流れに変化はなさそうだ。拡大核抑止の要諦は抑止提供国の非脆弱性向上にある。このことを踏まえれば、その実現可能性や軍備管理上の観点から議論はあるものの、同盟国日本にとっては歓迎すべき動きであると言える。(小木洋人)

中絶手術の予算措置に関する「ハイド修正条項」を施行する大統領令(1月24日)

ハイド修正条項とは、一般に、歳出法において、連邦政府の関連機関が選択的中絶手術やそれに関連する費用、または医療保険の提供に予算を使用することを禁止する規定を指す。今回の大統領令は、バイデン前政権下で署名された関連大統領令を撤回し、ハイド修正条項の厳格な施行を確保することで、連邦政府資金が選択的中絶の推進に使用されることを防ぐことを目的としている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

カリフォルニア州の水資源確保および特定地域の災害対応強化のための緊急措置を定める大統領令(1月24日)

この大統領令は、南カリフォルニアにおける水資源の確保を目的とし、州や地方の政策が妨げとなる場合でも、連邦政府の権限を活用した水供給の最大化を図るもの。連邦政府関係機関の高官に対し、同地域での大規模な山火事の防止および対応のため、緊急権限を含むあらゆる措置を講じるよう指示している。(大統領令はこちら

連邦緊急事態管理庁(FEMA)の見直しを行う評議会の設立に関する大統領令(1月24日)

この大統領令は、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の見直しを進めるための評議会の設立を命じるもの。トランプ大統領は、FEMAのこれまでの災害対応や政治的な偏りを批判しており、評議会に対して今後180日以内に報告書を提出するよう指示している。(大統領令はこちら

■解説付き■ 人工知能分野におけるアメリカのリーダーシップ発揮に向けた障壁を取り除く大統領令(1月23日)

この大統領令は、人工知能分野におけるアメリカの優位性を維持・強化するために、既存のAI政策における過剰な規制を撤回するとともに、180日以内に行動計画を策定するよう命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

解説
バイデン政権においては、先端的なAI-特に生成AIの基盤モデルーの開発及び利用の促進と、それらがもたらすリスクへの対応のバランスを慎重に見極めようとしていた。2023年10月に発出された「AIの安心、安全、信頼できる開発及び利用に関する大統領令」(EO14110)は、AI開発事業者に対して最小限の規制を課しつつも、商務省傘下のNIST(米国標準技術研究所)が強制力をもたないガイドラインを作成することによって、実態としてAIの安全性及び信頼性を確保することを目指すものであった。今回のトランプ政権の大統領令は、AIに関する米国のグローバルな優位性の持続及び強化を目指すことを政策として掲げており、EO14110に基づいて実施された施策のうち、同政策に反すると評価されるものを停止、修正及び撤回するように指示している。一方で、AIがもたらしうるリスクへの対応には一切言及がない。AIがもたらすリスクに対する米国政府の対応が後退したときに、米国社会としてリスクをどう負担することになるのか、産業界がどのように対応するのか、AIの開発・利用を巡る国際的なルール策定にどのような影響があるのか、次の展開が注目される。(梅田耕太)

ジョン・F・ケネディ大統領、ロバート・F・ケネディ上院議員およびマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺に関する記録の機密解除についての大統領令(1月23日)

この大統領令は、ケネディ元大統領、ロバート・ケネディ元司法長官、マーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺事件に関する機密文書の公開を指示するもの。トランプ大統領は、第一次政権時代にも機密文書の公開を目指していたが、安全保障上の理由から一部の公開は延期されていた。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

デジタル金融技術におけるアメリカのリーダーシップを強化する大統領令(1月23日)

この大統領令は、アメリカにおけるデジタル資産(暗号通貨やステーブルコインなど)の健全な成長と利用を促進することを目的に、180日以内に規制や政策を提案することを命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

アンサール・アッラー(フーシ派)の特別国際テロリスト指定(1月22日)

この大統領令は、イランの支援を受けるAnsar Allah(フーシ派とも称される)を特別指定国際テロリストとして指定するもの。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

違法差別を止め、能力主義に基づく機会を回復させる大統領令(1月21日)

この大統領令は、DEI(多様性・公平性・包摂性)に基づく連邦政府および民間における違法な差別を終結させることを目的とし、バイデン前政権による過去の大統領令を撤回するなどの対応を命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

布告・覚書・公式発表一覧

コロンビア国籍の不法移民送還に関する報道官声明(1月26日)

コロンビアへの不法移民の強制送還について、同国政府が軍用機での送還を含め、無条件での受け入れに合意したと発表する声明。(詳細はこちら

メキシコシティ政策の復活:国務長官、国防長官、保健福祉長官、米国国際開発庁長官宛ての覚書(1月24日)

この覚書は、海外で人工妊娠中絶を支援する団体へのアメリカ政府による資金援助を禁止するいわゆる「メキシコシティ政策」を復活させることを命じている。中絶の権利を擁護してきたバイデン前政権はトランプ第一次政権が実施した同政策を撤回していたが、今回トランプ大統領が再びそれを覆した形となる。(覚書はこちら

「最初の100時間:アメリカの黄金時代を切り開く歴史的な行動」(1月24日)

ホワイトハウスは、トランプ大統領の就任直後の100時間における成果をまとめた声明を公表した。公表によれば、「トランプ効果」により、就任前に約束された多くの政策が実行に移されたことに加え、ソフトバンクがOpenAIやオラクルと共同で発表したAI投資をはじめとして、1兆ドル以上の対米投資が確保されたという。また、声明では、鉄鋼や石油化学業界などの業界団体によるトランプ大統領への称賛の声も紹介された。(詳細はこちら

大統領科学技術諮問委員会の設立(1月23日)

トランプ大統領は、科学技術、教育、イノベーションに関する助言を行う大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の設立を発表した。委員会は政府・民間・学術界における科学技術の専門家24名で構成され、大統領補佐官(科学技術担当)及びAI・暗号資産担当特別補佐官が共同議長を務める。(詳細はこちら、ファクトシートはこちら

ノースカロライナ州のランビー族の連邦認定(1月23日)

トランプ大統領は、大統領選挙前の2024年9月に当選後のランビー族連邦認定を約束しており、今回その実現に向け、内務長官に計画策定を指示する大統領覚書に署名した。(詳細はこちら、ファクトシートはこちら

航空分野におけるアメリカ人の安全を守る公式発表(1月21日)

この布告では、連邦航空局(FAA)における採用や人事制度について、DEI(多様性・公平性・包摂性)に基づく採用方針を廃止し、能力主義に基づく人事制度を復活させるよう求めている。(詳細はこちら、ファクトシートはこちら

演説・優先政策

2025年ダボス会議におけるトランプ大統領の演説(1月23日)

2025年1月23日、トランプ大統領は世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にオンラインで登壇し、大幅な減税や規制撤廃を含む経済政策を発表して世界各国へアメリカ国内での製造を呼びかけるとともに、エネルギー、外交、不法移民対策などといったテーマについて今後の政策方針やビジョンを語った。(全文はこちら、演説動画はこちら

研究活動一覧
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