トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説 No.10(2025年3月19日-3月25日)

- 大統領令の一覧と概要
- 布告・覚書・公式発表の一覧と概要
- トランプ大統領の演説および優先政策
- エキスパートの視点
大統領令一覧
ジェナー&ブロック法律事務所によるリスクへの対応を命じる大統領令(3月25日)
この大統領令は、ジェナー&ブロック法律事務所に関して、連邦政府とのすべての契約の見直しおよび終了、関係者のセキュリティクリアランスの即時停止、連邦政府施設への立ち入りや職員との接触の制限、さらに政府機関への雇用の禁止を命じている。同事務所が党派的な活動を行い、DEI(多様性・公平性・包摂性)を名目とした差別的実務に関与しているとし、この措置は米国の利益に反する大手法律事務所への包括的対応の一環であると説明されている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
米国内の選挙制度の一体性を保護・保全するよう求める大統領令(3月25日)
この大統領令は、米国の現在の選挙の実施方法が他国制度等と比べて公正性に欠けるとし、改善を求めるものである。具体的には、有権者の身元証明や投票日・期限の厳格化、電子システムのセキュリティ強化のほか、「外国人」による投票や干渉の排除のための措置をとることなど。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
米国内の銀行口座を不正、無駄、濫用から保護する大統領令(3月25日)
この大統領令は、政府の財務の透明性と運営効率を向上させることを目的として、財務省の監査能力の強化や支払い管理の一元化などを命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
銀行口座の支払いを現代化する大統領令(3月25日)
この大統領令は、連邦政府による紙ベースでの支払いが、不必要なコストや遅延を引き起こしているとして、連邦政府の支払いを電子化し、運用効率を高めることを指示している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
ベネズエラ産原油を輸入する国へ関税を課す大統領令(3月24日)
この大統領令は、ベネズエラ発の犯罪組織トレン・デ・アラグアやマドゥロ政権の行動が、米国に異常かつ深刻な脅威をもたらしているとして、ベネズエラ産原油を輸入する国(直接的・間接的な輸入の別を問わず)からの輸入品全品に25%の関税を課す可能性があると定めている。実際の関税発動は、国務長官の権限に委ねられている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
ポール・ワイス法律事務所による是正措置に対処する大統領令(3月21日)
この大統領令は、ポール・ワイス法律事務所との政府契約の解除などを命じた大統領令14237(ポール・ワイス法律事務所によるリスクへの対応を命じる大統領令)を取り消している。政権は当初、同事務所がアメリカの司法プロセスを損ねていると批判していたが、最近、同事務所が元パートナーであるマーク・ポメランツの不正を認め、DEIを廃止するなど方針を大きく転換したことを評価した。(大統領令はこちら)
情報の縦割りを解消し、無駄・不正・濫用を防止する大統領令(3月20日)
この大統領令は、官僚的な重複や非効率を排除し、不正支払いや詐欺の発見能力を向上させるため、連邦政府職員が全ての非機密情報に迅速かつ完全にアクセスできるようにし、行政機関間での情報共有を促進することを命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
■解説付き■ 米国の鉱物生産を迅速に増加させるための大統領令(3月20日)
この大統領令は、米国が豊富な重要鉱物の埋蔵量を有しながらも、規制などにより生産が不十分で輸入依存に陥っている現状を国家安全保障上のリスクと捉え、重要鉱物の国内生産プロジェクトを迅速に策定・実行するよう命じるもの。また、国防生産法に基づき、関連権限を国防長官に委任し、国家的対応を加速させる。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
解説
この大統領令は、アメリカの鉱物生産を促進し、採掘企業の許認可手続きを効率化するために、大統領の権限を拡大するものである。米国が重要鉱物の供給を外国に依存していることを認識し、過剰な規制が米国の採掘競争力を失わせたと非難する立場から、国家安全保障に基づく緊急権限を活用し、国内鉱物生産の最大化を促進することを目的としている。この政策は、1月20日に発令された「アメリカのエネルギーを解放する大統領令」(「アメリカ国内の手頃で信頼できるエネルギーと天然資源を解放することは、国家の利益に適う」と宣言)をさらに発展させ、国家安全保障と経済・エネルギー安全保障の結びつきを強化するものである。この目的のために、トランプ大統領は、すべての鉱物生産プロジェクトのリストを作成し、新設された「国家エネルギー支配評議会」に提出して迅速に審査するよう、連邦政府機関に指示した。さらに、2015年の「米国陸上交通修繕法(Fixing America’s Transportation Act)」の規定が重要鉱物生産にも適用される。この法律は、交通インフラの許認可プロセスを簡素化するものだが、それを鉱物生産にも拡張することで、事業の迅速化を図る。また、国防生産法(Defense Production Act)および国防総省の戦略的資本局(Office of Strategic Capital)を通じて、鉱業の生産能力を拡大する。加えて、連邦政府所有地のうち鉱物資源が豊富な土地において、重要鉱物の生産が他のあらゆる活動よりも優先されることになる。こうした取り組みでは民間企業との協力が重視され、開発金融公社(Development Finance Corporation)を通じて、資金調達、融資、投資支援が提供される。その一環として、新たに「重要鉱物基金」も設立される。このように、国内の重要鉱物の供給網を強化するための資金調達や許認可の迅速化を可能にしたのは、1月20日にトランプ大統領が「国家エネルギー緊急事態」を宣言したからである。この宣言により、大統領は議会の監督を回避し、資金配分や許認可プロセスを独自に決定する権限を持つことになった。(アンドリュー・カピストラノ)
教育省閉鎖:保護者や州、コミュニティを活性化し教育成果の改善を目指す大統領令(3月20日)
本大統領令は、1979年の設立以来、教育省が主導してきた教育制度が十分に機能していないとし、同省の閉鎖に向けた法整備を進めるよう指示している。教育に関する権限や責任を州や地域社会へ移管し、親や地域の主体的な関与を促すことを目的としている。また、連邦教育資金がDEI(多様性・公平性・包摂性)の推進に用いられることを禁じる方針も示されている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら、関連記事はこちら)
州および地方の体制構築を通じて効率性を向上させる大統領令(3月19日)
この大統領令は、重要インフラへの投資やリスク対応において州政府・地方政府の主体性を強化させ、国家レジリエンス戦略の策定を指示するものである。またリスクの特定・定量化や、連邦政府とこれら州・地方とのコミュニケーションの改善も図っている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
布告・覚書・公式発表一覧
連邦捜査局(FBI)のクロスファイア・ハリケーン捜査に関する資料を即時機密解除する覚書(3月25日)
この覚書は、2021年1月19日の覚書で言及されたFBIの「クロスファイア・ハリケーン」捜査に関する資料のうち、特定の例外を除いて機密指定を解除することを命じている。(覚書はこちら)
ロシア・ウクライナとの停戦協議:黒海における実務者協議の成果(3月25日)
ホワイトハウスは、2025年3月23-25日にかけてサウジアラビア・リヤドでウクライナ、ロシアとそれぞれ二国間での実務者レベル協議を実施した結果、黒海における武力行使の禁止や船舶の安全航行について合意が成立したと発表した。(詳細はこちらとこちら)
ギリシャ独立記念日:ギリシャとアメリカの民主主義を祝う国家の日(2025年)に関する布告(3月24日)
この布告は、1821年3月25日にギリシャ革命が始まり、ギリシャがオスマン帝国から独立を勝ち取ったこと、またアメリカがギリシャと強い結びつきを持っていることを踏まえて、2025年3月25日をギリシャ独立204周年記念日として祝うものである。(詳細はこちら)
法制度および連邦裁判所の濫用防止に関する覚書(3月22日)
この覚書は、連邦政府に対する訴訟や根拠のない党派攻撃において非倫理的な行為を行った弁護士や法律事務所の責任を問うため、司法長官に対し、該当する弁護士への懲戒処分や、過去8年間の連邦政府に対する訴訟の見直しなどを指示している。(覚書はこちらファクトシートはこちら)
特定の個人のセキュリティクリアランス及び機密情報へのアクセスを取り消す覚書(3月22日)
この覚書は、特定の個人に対するセキュリティクリアランスの無効化および機密情報アクセス権の取り消しを命じるものである。対象となる個人には、ヒラリー・クリントン元国務長官、カマラ・ハリス前副大統領、ジョー・バイデン前大統領およびその家族などが含まれている。(覚書はこちら)
トランプ効果:ジョンソン・エンド・ジョンソンの550億ドルに及ぶ米国製造業への投資(3月21日)
ジョンソン・エンド・ジョンソン社が、今後4年間の米国における550億ドルの投資計画を発表したことについて、トランプ政権がアメリカの製造業の支配的な地位を追求する上での勝利だと強調している。(詳細はこちら)
連邦政府職員の適格性の強化に関する覚書(3月20日)
この覚書は、行政機関の職員の適格性に関する最終判断と措置の権限を、人事管理局(OPM)に委譲することを定めたものである。適格性措置には、OPMの規則に定められた適格性基準を満たさない職員の解雇も含まれる。(覚書はこちら)
パトリック・ヘンリーによる「自由を与えよ、さもなくば死を!」演説の250周年記念に関する布告(3月20日)
この布告は、1775年3月23日にパトリック・ヘンリーが第二回バージニア会議で行った演説の「自由を与えよ、さもなくば死を」という言葉とその精神を称え、2025年3月23日をその250周年記念として祝うものである。(詳細はこちら)
「トランプ大統領はアメリカをグローバルな製造業超大国として位置付ける」(3月20日)
ホワイトハウスは、NVIDIAが数千億ドル規模の投資を発表したことを挙げ、トランプ政権がハイテク分野をはじめとしてあらゆる製造業の拠点・投資誘致を成功させていると強調した。(詳細はこちら)
ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談に関する、ルビオ国務長官とウォルツ国家安全保障担当補佐官による声明(3月19日)
この声明では、ゼレンスキー大統領がこれまでのトランプ政権の支援と和平に向けた努力に感謝を表明したことに触れ、情報共有や部分停戦などで合意したことが伝えられた。またトランプ大統領がウクライナの電力インフラを維持するためには、米国が所有し運営することが最適であると意欲をみせた。(詳細はこちら)
外交部門における差別や「差別的な公平イデオロギー」を取り除くよう求める覚書(3月19日)
この覚書は、外交に携わる機関において、DEI基準の適用をあらゆる面で撤廃し、実力主義の復活を求めるもの。具体的には外交部門の職員の採用や評価においてDEIを考慮することを禁止するほか、職員が同理念を支持することやそれに基づく「差別」を行うことを禁じた。(覚書はこちら、ファクトシートはこちら)