解説 ポルトガル総選挙:二大政党の後退と極右の台頭

解説 ポルトガル総選挙
モンテネグロ首相の利益相反スキャンダルを受けて、2025年3月に内閣信任決議が否決され、5月18日にポルトガル議会(任期4年、定数230)で総選挙が実施された。2022年、2024年に続く今回の総選挙で、3年余りの間に3度の選挙が行われる異例の事態となっており、政治的に不安定な状態が続いている。
今回の選挙では、社会民主党(PSD)を中心とする与党連合「民主同盟」(AD)が前回より9議席増の89議席を獲得した。また、前回の選挙で議席を4倍に増やした極右政党シェーガも、有権者の反移民感情や経済的・文化的不安に訴えかけることで、移民が多い南部や中部の選挙区を中心に支持を広げ、50議席から58議席へと議席を伸ばして第2党に浮上した。一方、2015年から2024年まで長期にわたり政権を担っていた野党・社会党(PS)は、今回の選挙で20議席を失い、58議席にとどまるという1987年以来最悪の結果となった。信任決議では他の野党(リベラル・イニシアティブ党を除く)とともに反対票を投じることで議会を解散に追い込んだPSだったが、現地報道では、若年層や低所得層を中心とする政権批判の受け皿になりきれず、党内の再建も不十分だった点が指摘される。
社会民主党(PSD)は、ジョゼ・マヌエル・バローゾ元欧州委員会委員長を輩出した中道右派の政党であり、中道左派の社会党(PS)も、アントニオ・グテーレス国連事務総長やアントニオ・コスタ前欧州理事会常任議長など、欧州内外で要職を担う政治家を送り出してきた。しかし、こうしたPSDとPSという二大政党がポルトガル政治の中核を担うという構図は近年大きく揺らいでおり、もはや「二大政党制」とは言いがたい状況となっている。
PSDのモンテネグロ党首は極右政党シェーガとの連立を改めて否定しており、過半数を満たすための連立の選択肢は「民主同盟」と社会党(PS)との大連立に限られるが、実現しなかった場合はADによる少数連立政権が継続することとなる。二大政党間での政策の差が小さく、1974年の民主化以来比較的安定した政治を維持してきたポルトガルであるが、極右政党の台頭により、いずれの形であれ、しばらくは不安定な政治が続くことが予想される。

選挙は世界を変えるのか:岐路に立つ民主主義
選挙による国内政治のダイナミクスの変化は世界政治に影響を与え、地政学・地経学上のリスクを生じさせる可能性があります。また、報道の自由の侵害や偽情報の急増など、公正な選挙の実施に対する懸念が高まっているなか、今後の民主主義の行方が注目されています。本特集では、各国の選挙の動向を分析するとともに、国内政治の変化が国際秩序に与える影響についても考察していきます。
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研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師、国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)外部寄稿者も兼職。 TIハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所にて、インターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)を経た後、2024年8月より現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年出版予定)などがある。 【兼職】 埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師(秋学期担当、欧米経済事情、2単位) External contributor, Anti-Corruption Helpdesk, Transparency International Secretariat (TI-S)
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