トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説 No.18(2025年5月22日-5月27日)

■解説付き■ 国家安全保障のため先進型原子炉技術を配備する大統領令(5月23日)
■解説付き■ 原子力規制委員会の改革を命じる大統領令(5月23日)
トランプ政権トラッカーの一覧(2025年1月20日~)
【一覧】トランプ政権トラッカー(大統領令・布告・覚書・発表)
Index 目次

大統領令一覧

■解説付き■ 国家安全保障のため先進型原子炉技術を配備する大統領令(5月23日)

この大統領令は、米国の核技術の優位性とエネルギー安全保障を強化するため、軍事施設やエネルギー省施設への先進原子炉(小型モジュール炉等)の迅速な配備、AIインフラ等への電力供給、ウラン等の燃料供給体制の確立、省庁間の連携強化、米国原子力産業の海外展開促進、関係者へのセキュリティクリアランスの優先付与などを命じている。また、民間投資やイノベーションの促進、環境規制手続きの迅速化にも言及している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

解説
5月31日に発表された原子力政策に関する一連の大統領令にはさまざまな側面が含まれているが、その一つがAIインフラ(データセンター等)への電力供給である。具体的には、エネルギー省に対して、AI関連インフラの急増する電力需要を満たすため、民間企業と協力の上で、同省が管轄する敷地内で原子力発電施設の設置を推進することや、次世代原子炉の燃料となる高純度低濃縮ウラン(HALEU)を優先的に割り当てることを指示している。
ChatGPTに代表される生成AIの開発・利用の急速な広まりに伴い、米国におけるAIインフラの電力需要は急増しており、今後も大幅な伸びが見込まれている。これを受けて、マイクロソフト社がスリーマイル島の原子力発電所の再稼働を計画するなど、民間企業による原子力発電への関心も高まっている。今回の大統領令は、次世代原子炉である小型モジュール炉(SMR)の開発及び運用を後押しすることで、AIインフラ向けの電力需要を満たすとともに、原子力とAIという新興技術の両分野において、中国との競争上の優位を確立することにつなげる狙いがあると考えられる。(梅田耕太)

■解説付き■ 原子力規制委員会の改革を命じる大統領令(5月23日)

この大統領令は、原子力規制委員会(NRC)が過度にリスク回避に傾き、新型原子炉の認可へ消極的であった点を問題視し、米国のエネルギー支配確立を目的として、NRCの組織構造や規制体制の抜本的改革を命じている。具体的には、安全確保に加え原子力利用の促進をNRCの任務とし、組織・人員の再編成や規制手続きの見直しを求めている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

解説
1979年のスリーマイル島原発事故以来、米国における原発の新規建造は極めて限られており、現在に至るまで2基しか建設されてこなかった。既存の原発の老朽化が進む中で、AI向けのデータセンターや半導体工場の建設など、電力需要が増えていくことに対して、このままでは問題が解決しないという問題意識に基づいて出された大統領令。主眼としているのは、2024年次点で100GWの発電量を2050年には400GWにすることであり、そのためのライセンスを発行しやすくするための原子力規制委員会(NRC)の改革である。ライセンス発行の期限を定めて迅速に審議することや、これまでの「閾値なし直線仮説(LNT)」、すなわち放射線被害のリスクは特定の閾値で区切ることは出来ないという仮説や、「合理的に達成できる範囲で線量を低減させる(ALARA)」と言われる安全対策の姿勢を変更し、リスク回避の姿勢ではなく、原子力、特にSMRのような新規技術を積極的に活用する方針に変更することである。これは、米国における原子力安全の文化や考え方を大きく変化させるものであるが、他方で、原子力安全のリーダーとしての評判を維持することも求めており、一定の抑制がかかっている。(鈴木一人)

エネルギー省における原子炉試験を改革する大統領令(5月23日)

この大統領令は、米国内における先進的な原子炉が研究目的に限られ、商業利用されていない現時点の状況を踏まえ、関係省庁に対し、試験用原子炉の基準および規制の見直し、原子炉の建設と運用に関するパイロットプログラムの創設、さらに環境審査手続きの簡素化を命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

核産業基盤を再活性化する大統領令(5月23日)

この大統領令は、かつて核エネルギー技術の先駆者でありながら、現在は他国に遅れを取っている米国の核産業基盤を再建・強化することを目的とし、使用済み核燃料の管理やリサイクルに関する国家方針の策定、原子力発電所および原子炉の建設・再稼働支援、さらに原子力関連人材の育成を命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

ゴールドスタンダード科学(理想的な科学)を復活させる大統領令(5月23日)

この大統領令は、科学研究におけるデータの改ざんといった問題や信頼性の低下が深刻であるとして、今後は透明性・厳密性・客観性といった原則に基づく「ゴールドスタンダード科学」の復興を目指す方針を示すもの。具体的には、ホワイトハウス科学技術政策局に対し、「ゴールドスタンダード科学」を実践するためのガイダンス策定を命じるとともに、その他の各機関にも不正行為への関与を禁じ、科学的根拠の透明性確保を徹底するよう求めている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら

布告・覚書・公式発表一覧

米国国境警備隊の101周年を記念する布告(5月27日)

トランプ大統領は、5月28日が米国国境警備隊(USBP)の創設から101周年にあたるとし、職員の献身を称える記念日として布告した。また、バイデン前政権時代に多くの不法入国が行われた一方で、トランプ政権下では越境件数・フェンタニル取引量等を激減させ、多くの不法移民を拘束・追放したとして強調し、「USBPの使命への支援」を続ける姿勢を示した。(詳細はこちら

「オピニオン:トランプ大統領は大胆な大統領令によって米国の『核ルネサンス』を解き放つ」(5月27日)

ホワイトハウスは、マイケル・クラツィオス科学技術政策局長が米Fox Newsに寄稿したオピニオンを紹介し、トランプ政権が打ち出した新たな核エネルギー政策について解説した。政権は2050年までに原子力発電設備容量を400GWに拡大する目標を掲げ、一連の大統領令を発出。その要点は、①国立研究所での新型原子炉の試験・評価の加速、②連邦政府所有地での原子炉建設、③原子力規制委員会への規制改革要求と18ヶ月以内の認可決定義務化、④国内でのウラン採掘・濃縮の再開・拡大による原子力産業の強化、の4点である。(詳細はこちら

「サンディエゴ区域にて不法越境が激減」(5月27日)

ホワイトハウスは、サンディエゴ区域での不法越境が「96%以上減少」し、それを反映して同区域の移民収容施設の一つが撤去されたことを発表した。また政権が国境警備だけでなく、国内の不法移民の追及にも力を入れていることを強調した。(詳細はこちら

2025年世界貿易週間に関する布告(5月24日)

トランプ大統領は、2025年5月18日から24日までを、アメリカの貿易における恩恵を祝う世界貿易週間と布告した。また「不公正な貿易慣行」に対抗し、相互関税などの政策によって製造業の再興や雇用の確保などに取り組んでいることを強調した。(詳細はこちら

2025年 平和への祈りの日、及び戦没将兵追悼記念日に関する布告(5月24日)

トランプ大統領は、戦没将兵追悼記念日である5月26日を、恒久平和のための祈りの日とすることを布告した。また国民に向け、午前11時からの平和祈念や午後3時からの戦没者追悼への参加、半旗の掲揚を呼びかけた。(詳細はこちら

身体の健康とスポーツ月間に関する布告(5月24日)

トランプ大統領は、健康的なライフスタイルやスポーツの重要性を称え、2025年5月を身体の健康・スポーツ月間として布告した。また過去の米国における健康福祉に対する姿勢を批判し、「アメリカを再び健康にする委員会」の下で展開する保健福祉政策などを成果として強調した。(詳細はこちら

「トランプ大統領、原子力に関する新時代の幕開けとゴールドスタンダード科学(理想的な科学)の復活に向けた大統領令に署名」(5月23日)

ホワイトハウスは、トランプ大統領が本日(2025年5月23日)、米国の科学研究の強化と信頼回復、原子力産業の再生に向けた複数の重要な大統領令に署名したと発表した。ホワイトハウス科学技術政策局のクラツィオス局長やエネルギー長官のクリス・ライト氏らの賞賛の言葉も併せて紹介された。(詳細はこちら、関連記事はこちら

2025年全米海事デーに関する布告(5月22日)

トランプ大統領は、米国の経済や安全保障を支える海運業及びその従事者を称え、例年どおり5月22日を全米海事デーとして布告した。また、海上覇権を取り戻すために造船業の再興や人員育成などに注力するトランプ政権の功績を強調した。(詳細はこちら

「減税・賃上げなどに対し、民主党員は一人残らず反対票を投じた」(5月22日)

ホワイトハウスは、22日に減税を始めとするトランプ政権の政策を取りまとめた法案「One Big Beautiful Bill」が下院を通過したことを報告し、その際に民主党所属の下院議員が全員反対したことを批判した。また、同法案の要点として、大規模な減税と賃上げ効果、国境警備強化、安全保障の強化、エネルギー産業の活性化や財政赤字削減などを紹介した。(詳細はこちら、ファクトシートはこちら

「南アフリカで起きていることについて、トランプ大統領は正しい」(5月21日)

ホワイトハウスは、同21日に行われた南アフリカのラマポーザ大統領との会談にてトランプ大統領が言及した、南アフリカにおける「白人への差別と暴力」について改めて強調した。また各有力紙で関連のトピックを取り上げた記事を列挙した。(関連記事はこちら

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