周回遅れのRMA: 米国によるイラン核施設攻撃の戦略論的意義

米国の攻撃は、6月13日から開始されたイスラエルによる対イラン空爆(「立ち上がるライオン」作戦)に続くものであった。この作戦においてイスラエルは、イランのナタンツ核関連施設のほか、イランの防空システムや航空基地・空港、ミサイル・ドローン発射・貯蔵施設、油田、政府機関、国営放送などを広範にわたって攻撃するとともに、イラン国軍参謀総長や革命防衛隊総司令官を始めとするイラン軍事組織高官を殺害した。イランの防空網はイスラエルによって、米国の攻撃前には制圧された。一連の攻撃に対応する形でイランはミサイル・ドローンを用いてイスラエル領内への攻撃を行うなど、両者の間で攻撃の応酬が続いていた。
また、6月21日の米国による空爆に反応し、イランは事前通告付きで在カタール米軍基地等に対する攻撃を仕掛けた。しかし、ヴァンス副大統領やヘグセス国防長官は、米国による空爆はイランの体制転覆そのものは意図したものではなく、核開発計画のみを対象としたことを強調した。そして、トランプ大統領自身も事態の鎮静化をイスラエルとイラン双方に求め、停戦を呼び掛けた。
「真夜中の鉄槌」作戦をめぐっては、強制外交の成否、核不拡散への影響、同盟の力学など、重要な論点を数多く含んでいる。しかしそれらと同等に重要と思われるのが、本作戦を通じて見通せる今後の米軍の戦い方への示唆であろう。そうしたことが、インド太平洋における軍事バランスや日本における今後の戦い方に少なくない示唆を与えると思われるからだ。
「真夜中の鉄槌」作戦
これを検討するためには、米国政府が当該作戦をどのように位置付け、説明したのかを振り返る必要がある。この点、まずトランプ大統領は、6月21日の演説で、本作戦を「華々しい軍事的成功」と形容するとともに、イランの重要な核濃縮施設が「完全に消し去られた」と述べた[2]。ヘグセス国防長官も22日の記者会見で、「イランの核に対する野心は消し去られた」とトランプ大統領の表現をなぞった[3]。
一方、米軍制服組トップであるダン・ケイン統合参謀本部議長は、より慎重な表現を選択した。ケイン氏は、本作戦は「イランの核関連施設の能力を著しく弱体化させる(degrade)ことを意図して策定された」と説明し、空爆の目標設定を核開発施設の完全除去から、実は静かに下げていた。そして、空爆に関する戦闘損害評価(BDA)については、最終的な評価には一定の時間を要するとしつつ、初期評価としては、3つの施設において「極めて深刻な損害と破壊を生じたことが示唆される(indicate)」とした[4]。
本作戦には、イラン攻撃を行った7機と太平洋方面から陽動として用いられた推定8機[5]を含む計15機のB-2爆撃機と、護衛や陽動のための第4・第5世代戦闘機、空中給油機、偵察機、巡航ミサイル原潜などが大規模に用いられた高度で複雑な作戦となった。これを形容し、ケイン議長は「米軍の比類なき能力と世界規模の展開力」を示したものだとしている。
にもかかわらず、その作戦上の効果は依然として不明なままである。その後リークされた国防情報局の初期評価は、空爆によっても核関連施設は破壊し切れておらず、イランの核開発に対する影響は数か月の遅延にとどまる可能性があるとした[6]。一方、イスラエルは開発の数か年にわたる遅れの可能性を予測し、また、CIAは同施設が深刻な損害を受けたとする見立てを公表するなど、評価に幅が生じている[7]。しかし本質的には、地下深く隠匿された施設への損害を内部への立ち入りなしに評価することは至難の技であり、どれほど時間を掛けても評価に不透明さが含まれることに変わりはない。
「軍事における革命(RMA)」論
今回の「真夜中の鉄槌」作戦は、言わば遅れて来た「軍事における革命(revolutions in military affairs: RMA)」論の体現と言える。今ではほぼ単語として聞かれないRMA論の源流の一つは、冷戦期、米ソのみならず日本を含め軍事当局者の全てが影響を受けた1973年の第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)に遡る[8]。同戦争では、劣勢なエジプト軍が精密誘導兵器(PGM)を用いてイスラエルの戦車部隊・航空部隊に大きな損害を与え、新たな軍事技術を用いた戦争の変化が注目されるようになった。そしてこれが、米国とソ連は互いの作戦構想に刺激を受け、米国防省ネット・アセスメント局を率いるアンドリュー・マーシャルによるRMAの議論につながる[9]。
その特徴は、単純化すると以下三点に集約できる。第一は技術優位論である。マーシャルのRMA論は、技術的側面に比重を置いたソ連の「軍事技術革命」論とは異なり、技術が作戦概念・軍事ドクトリンにもたらす影響を強調したものとされる[10]。しかし、マーシャルの下で働き、その後米国の国防政策に大きな影響を与えたアンドリュー・クレピネヴィッチの説明からも分かるとおり、その前提には、「新興技術のみが軍事革命を可能と」し、それにより登場する新たな作戦概念や軍事組織構造が主要な軍事的効果の向上と敵に対する決定的な比較優位をもたらすという、技術楽観論が存在していた[11]。技術的・質的な優位性を背景として、量的に勝る敵を圧倒するという考え方である。
第二に、RMAは一種の軍縮論と言えた。質により量を相殺するという考え方は、ソ連崩壊後、主要な脅威が不在となった米国における全般的な軍縮の流れと相性が良かった。米国は、冷戦の終結に伴い米軍の戦力規模を大幅に削減したが、その戦力保持の目標は、中東とアジアを想定した2つの主要な地域紛争への同時対処だった。一方で、その目標は削減された兵力では到底対処し得ないものであった。このため、効率的で敵の行動の先を動ける兵力運用と、米本土や二正面の間で迅速・柔軟に兵力を融通できるグローバルな部隊展開能力に期待が寄せられた[12]。それを実現するのが、情報技術と精密誘導技術を用いた空軍力(エアパワー)と、被空輸性に富み、モジュラー化した(分解して再構成可能な)軽武装の陸軍力であった[13]。さらに、これらの前提にあるのは、長期化した消耗戦ではなく、能力差を利用した短期決戦が可能という楽観であった。
第三に、RMA論は全般として、空軍通常戦力による精密打撃に際立った重点があった。米空軍のジョン・ウォーデンが提唱した敵の目標の性格を5つに分類した同心円状の「5リング・モデル」のように、エアパワーが最も重視する標的は敵の指導者層であるという考えも現れた[14]。エアパワーに主要な戦略的効果を期待する立場である。実際、冷戦後に米国が介入した戦争では、エアパワーが大きな役割を担った。1991年の湾岸戦争は、初期の空爆でイラク軍の防空網・航空兵力を無力化した上で、対地航空支援を受けつつ陸軍が機動作戦を展開し、イラクを敗北に追い込んだ。1999年のNATOによるコソボ空爆も、ミロシェビッチ・ユーゴスラビア大統領を譲歩に追い込んだ。また、2002年から始まった米国のアフガニスタン侵攻では、米軍のエアパワーと特殊部隊に現地有効勢力の地上部隊を組み合わせた兵力構成で自軍への被害を抑えつつ勝利を得るという、「アフガン・モデル」が注目を集めた[15]。
RMAへの批判と現実
このようなRMA論の楽観的な見立ては、これまで多くの批判に晒され、またその見立てと異なる厳しい現実により修正を迫られてきた。
まず、上記第一の技術優位論については、妥当する部分と修正が必要な部分が混在している。極超音速ミサイルや無人機、AI、量子など、先端技術が戦闘様相を決定するとの期待があり、技術重視の姿勢は一貫して続いている。一方、ウクライナ戦争の経験から、戦争は短期間で終結できるとの期待は修正を迫られており、長期戦・消耗戦に対応するため、安価で大量増産可能な能力の強化が求められている[16]。いかに質的に優位な精密誘導兵器であっても、長納期で高額なものをタイムリーに増産することは困難であるからだ。
上記第二の資源効率性については、ほぼ希望的観測であることが現実により明らかとなった。基本的には、投入資源と戦力規模を拡大しない限り、同時複数正面には対応できない。そして、被空輸性を増した軽武装の陸上部隊は、イラク戦争などで非正規部隊からの高烈度な攻撃に十分対応できないばかりか、予算不足から装備近代化が遅れる一方、輸送期間の大幅な短縮に結び付かなかった[17]。何より、1990年代から2000年代初頭に想定していた二正面作戦の相手はイラクと北朝鮮だったが、その後、アフガン・イラク戦争の混沌を経つつ、はるかに強大な中国とロシアという二つの戦略的競争相手に直面するに至り、この構想は段階的に下方修正された。そして、単一正面における大国への対処に目標設定が事実上再整理されていくのである[18]。なお、米国の国防予算は第一次トランプ政権以降大きく伸びており、RMA論は軍縮とは切り離された。一方で、戦力規模は従来からあまり変わっておらず、その意味では冷戦後の状況を引きずっている。
最後に、上記第三のエアパワーの有効性についても、ウォーデンの議論を厳しく批判したロバート・ペイプにより、相対化を迫られた。ぺイプは、エアパワーが敵の行動の(その意思に反する)変更を迫る強要のツールとして機能するためには、近接航空支援等を通じて敵戦力を減殺し、敵の戦争遂行戦略を拒否することが必要だと主張した。そして、敵の文民や経済基盤を標的とした戦略爆撃や敵指導者を標的とした斬首戦略の有効性を否定したのである[19]。言い換えれば、エアパワーは火力を効率的かつ遠距離に投射できる手段ではあるものの、敵戦力に向けられる他の種類の戦力と本質的な差異はないということである。また、イラクとは異なり、中国やロシアは分厚い防空網を有しており、航空優勢獲得の難易度がそもそも高まることとなった。
一時代前の作戦?
近年では、RMAという単語はほぼ聞かれなくなってしまった。しかし、その特徴や限界は、今回の「真夜中の鉄槌」作戦に見え隠れしているように見える。トランプ大統領やケイン統参本部議長は、今回のような作戦を遂行できる軍隊は米軍のほかに存在しないと述べ、その圧倒的な質的優位を強調する。またケイン議長は、米軍の世界規模の展開能力に触れ、その柔軟な運用能力を示唆した。さらに、ヴァンス副大統領やヘグセス国防長官は、今回の作戦があくまでもイランの核計画のみを対象とした精密標的攻撃であることを繰り返し、短期の幕引きを図った。
もちろん、冷戦終結直後と比較して軍事技術は確実に進化しており、その軍事効果はさらに高まっている。イランのような米国との能力差が激しい相手に対して、とりわけそれは高い効果を発揮する。しかし、中国のような能力が拮抗した相手との間ではどうだろうか。例えば、米国は今回の作戦で推定15機用いられたB-2爆撃機を全体で19機しか運用していない。また、(おそらく対イラン向けには不要だったかもしれない)その護衛や陽動のため数多くの戦闘機を随伴させていることも無視できない(ケイン議長の説明によれば、爆撃機を含め計125機を投入した由)。GBU-57の在庫を米軍がどの程度保有しているのかは定かでないが、硬化弾頭を含め、とても安価かつ短期間で増産できるものとは思えない。
加えて、短期間で雌雄を決するとの方針も、今回は今のところ順調に履行されていると言えるが、状況や相手によってはうまくいくとは限らない。中東にはいまだ4万人とされる米軍が駐留しており、それらの兵力や友好国を守るため、防空アセットを数多く拘置しなければならない。このことが、本来多くを振り向けなければならない欧州やインド太平洋における米軍の態勢に、少なくない影響与えるおそれがある。また、相手がイランではなくより手ごわい国家であった場合、垂直的あるいは水平的エスカレーションのリスクは格段に増加する。
最後に、地中深くの硬化施設を通常弾頭により打撃するという作戦の発想そのものが、中国等の(核保有)大国との戦争においてどれほど意味を持つのかも判然としない。例えば、台湾有事におけるエアパワーとしては、まずは前線における戦闘に寄与する近接航空支援が重要となり、中国本土の地下硬化施設を打撃するとしたら、それは核エスカレーションを伴うことになるだろう。これに対応するのはむしろ核戦力の役割かもしれない。無力化しなければ意味を持たない今回の核関連施設に対する打撃に、「弱体化(degrade)」という幅を持たせた指標を用いているミスマッチも気になる。さらには、中国本土の縦深目標に対する打撃を、分厚い防空網の中でどこまで現実的に実施し得るのかという問題もある。
今回の作戦は、確かに現状で米国以外には遂行不可能なほど高度なものであったと言える。他方で、それを目の当たりにした同盟国の軍事当局者は、米軍がいまだに過去の戦争や成功体験に囚われていることに一抹の不安を覚えている可能性がある[20]。そして、その分析に基づき、中国やロシアが自らにとっての好機を見出さないとも限らない。米国は今後ますます、多極化した世界への準備を求められるだろう[21]。
(Photo Credit: Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza, DOD)
注
- [1] Allegra Goodwin, et al., “How badly have US strikes damaged Iran’s nuclear facilities? Here’s what to know,” CNN (June 23, 2025), https://edition.cnn.com/2025/06/21/middleeast/nuclear-sites-iran-us-bombs-wwk-intl.
- [2] “Transcript of Trump’s speech on US strikes on Iran,” The Associated Press (June 22, 2025), https://apnews.com/article/trump-iran-speech-transcript-text-ff4b286992309ec1337e04260247bb1e.
- [3] Department of Defense, “Secretary of Defense Pete Hegseth and Chairman of the Joint Chiefs of Staff General Dan Caine Hold a Press Conference,” (June 22, 2025), https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript/Article/4222543/secretary-of-defense-pete-hegseth-and-chairman-of-the-joint-chiefs-of-staff-gen/.
- [4] Ibid.
- [5] A post at X (@AircraftSpots), https://x.com/AircraftSpots/status/1936717638014800107.
- [6] Julian E. Barnes, et al., “Strike Set Back Iran’s Nuclear Program by Only a Few Months, U.S. Report Says,” The New York Times (June 24, 2025), https://www.nytimes.com/2025/06/24/us/politics/iran-nuclear-sites.html?smid=nytcore-ios-share&referringSource=articleShare.
- [7] Central Intelligence Agency, “Statement from Director John Ratcliffe about Intelligence on Iran’s Nuclear Program” (June 25, 2025), https://www.cia.gov/stories/story/statement-from-director-john-ratcliffe-about-intelligence-on-irans-nuclear-program/.
- [8] Frederick W. Kagan, Finding the Target: The Transformation of American Military Policy (New York: Encounter Books, 2007), 19.なお、もう一つの源流はドイツ陸軍における機動戦の米国による受容だろう。Stephen Robinson, The Blind Strategist: John Boyd and the American Art of War (Chatswood, N.S.W.: Exisle Publishing, 2021).
- [9] MacGregor Knox and Williamson Murray, The Dynamics of Military Revolution: 1300-2050 (Cambridge, (GB) New York: Cambridge University Press, 2001); Thomas Mahnken, ed., Net Assessment and Military Strategy: Retrospective and Prospective Essays (Amherst: Cambria Press, 2020).
- [10] Ibid.
- [11] Andrew F. Krepinevich, “Cavalry to Computer: The Pattern of Military Revolutions,” The National Interest 37 (Fall 1994).
- [12] Kagan, Finding the Target, chap. 4.
- [13] Ibid.; Theo Farrell, Sten Rynning, and Terry Terriff, Transforming Military Power since the Cold War: Britain, France, and the United States, 1991-2012 (Cambridge: Cambridge University Press, 2013), chap. 2.
- [14] John A. Warden, “Success in Modern War: A Response to Robert Pape’s Bombing to Win,” Security Studies 7, no. 2 (December 1997): 172–90.
- [15] Stephen Biddle, “Allies, Airpower, and Modern Warfare: The Afghan Model in Afghanistan and Iraq,” International Security 30, no. 3 (Winter, 2006/2005).
- [16] Michael C. Horowitz, “Battles of Precise Mass: Technology Is Remaking War—and America Must Adapt,” Foreign Affairs, December 2024; Andrew F Krepinevich, “The Big One: Preparing for a Long War with China,” Foreign Affairs, February 2024, https://www.foreignaffairs.com/china/united-states-big-one-krepinevich; Franz-Stefan Gady and Michael Kofman, “Making Attrition Work: A Viable Theory of Victory for Ukraine,” Survival 66, no. 1 (January 2, 2024): 7–24.
- [17] Farrell, Rynning, and Terriff, Transforming Military Power since the Cold War, chap. 2.
- [18] 村野将「ウクライナ戦争後の米国の安全保障戦略」『国際問題』No. 715、2023年10月、22頁。
- [19] Robert A. Pape, Bombing to Win: Air Power and Coercion in War (Ithaca, N.Y: Cornell University Press, 2010).
- [20] 特に、爆撃機や戦闘機といった従来型の大型プラットフォームと、ドローンなどの安価で費消可能な装備との間の最適な戦力バランスをめぐる今後の議論は注視する必要があろう。かかる議論については、例えば以下を参照。John A. Tirpak, “Experts Weigh in on Lessons Learned from Ukraine’s Drone Attack,” Air and Space Forces Magazine (June 3, 2025), https://www.airandspaceforces.com/experts-weigh-in-on-lessons-learned-from-ukraines-drone-attack/.
- [21] 神保謙「多極化世界への準備ができない米国:米国と世界の潮流のミスマッチをどう克服するか」『地経学ブリーフィング』No. 221、2024年9月、https://instituteofgeoeconomics.org/research/2024091959502/。


主任研究員
防衛省で16年間勤務し、2022年9月から現職。2014年から2016年まで外務省国際法局国際法課課長補佐、2016年から2019年まで防衛装備庁装備政策課戦略・制度班長、2019年から2021年まで整備計画局防衛計画課業務計画第1班長をそれぞれ務める。2021年から2022年まで防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員として、国際軍事情勢分析を統括。 2007年東京大学教養学部卒、2012年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。
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