オーストラリアへの新型FFM移転 ①日本の勝因

赤いカンガルーの紋章が艦橋の後ろに描かれているか。それが、日豪のフリゲートを見分ける唯一の手がかりになる。そんな時代が、いよいよ現実のものとなる。

2025年8月4日、オーストラリアのアルバニージ政権は国家安全保障会議を開催し、三菱重工製の新型FFMを次期汎用フリゲートとして採用する決定を下した。日本とオーストラリアが同一設計のフリゲートを採用するという、画期的な瞬間が訪れたのである。今後、2026年初めにかけて価格など詳細を詰めて契約をまとめる予定である。

この決定は、日豪防衛協力の飛躍的深化、オーストラリア海軍の抜本的強化、そして日本の防衛産業の歴史的転換点を示すものであり、その重要性は計り知れない。本コメンタリーでは全三回にわたり、①なぜ日本がこの競争を制したのか、②今後の事業進行における課題は何か、③そして日本の防衛産業にもたらすインプリケーションをどう捉えるべきかを掘り下げていく。
Index 目次

海軍力抜本的強化の必要性

オーストラリア国防省が新型FFMを次期汎用フリゲートの候補として検討し始めた背景には、アンザック級の後継艦として導入予定であったハンター級の計画が遅れる中、ウクライナ戦争や米中競争の激化を受けてオーストラリア政府の安全保障観が急速に悪化したことがある。1996年から運用が開始されたアンザック級は、計8隻が導入され、長年にわたり艦隊の主力として活躍してきた。2018年にはその後継艦として、BAEシステムズ社製のハンター級が選定されたが、設計段階で要求仕様の変更が繰り返された結果、事業計画に大幅な遅延と混乱が生じた。その影響で、1隻あたりの建造費は約50億豪ドル(約5,000億円)に達し、就役時期も大幅に遅延する見通しとなった。

こうした状況下で転機となったのが、2023年に発表された国防戦略見直し(DSR)および、2024年4月に公表された統合投資計画(IIP)である。これらの文書では、オーストラリアを取り巻く安全保障環境は「戦後最も厳しい」と位置づけ、短期間での海軍力強化の必要性が強調された。その結果、混乱を極めるハンター級の調達数は9隻から6隻へと削減される一方、対潜能力と汎用性を兼ね備えた新たなフリゲートを最大11隻導入し、水上戦闘艦の隻数を2.5倍以上に拡充する方針が示された。なお、早期戦力化を重視する観点から、最初の3隻は海外で建造することが決定された。

同フリゲートの候補は、いずれも運用実績のある艦に限定され、日本のもがみ型(三菱重工)、ドイツのMEKO A-200型(TKMS社)、スペインのAlfa3000(ナヴァンシア社)、韓国のテグ級バッチ2型(ハンファ社)および同バッチ3型(ヒュンダイ社)が提案された。国防省は2024年11月に第1回選定結果を公表し、日本案とドイツ案の2案に絞り込んだうえで、2025年末に最終選定を行う方針を示した。なお、もがみ型は2027年に建造が打ち切られる予定であることから、実際には建造実績のない新型FFMが最終候補に含まれる形となった。

初回選定で重視された評価項目は公表されていないが、オーストラリア海軍は各社が提示した仕様を精査し、自軍の運用構想に適合しない案を除外したと考えられる。Alfa3000が落選したのは、航続距離や排水量の不足、韓国案については乾舷の低さに起因する航洋性能の限界が背景にあると推察される[1]。次期汎用フリゲートには、米豪間の長大なシーレーンの防衛任務が期待されており、長い航続距離と高い航洋性能が不可欠であった。

2025年8月、オーストラリア政府は予定よりも数カ月早く最終選定結果を発表し、新型FFMに決定した。数カ月早めた理由については明らかにされていないが、アルバニージ政権は可及的速やかに海軍力を強化するべきであることを強調し続けてきたことから、勝者が明らかな中、不必要な追加検討は必要ないと考えたのだろう。

運用構想に適した装備

では、なぜアルバニージ政権はA-200型ではなく、新型FFMを選定したのか。国防省の発表を見る限り、その理由は大きく二つある[2]。第一に、納期の確実性である。オーストラリア海軍は早期戦力化を最優先事項としており、そのため納期を厳守できる案を求めていた。その証拠に、候補をすべて運用実績のある艦に限定し、またハンター級での教訓を踏まえて、独自仕様を設けず、海外仕様の艦をほぼそのまま導入する方針をとっていた。

この観点から、新型FFMの設計・建造を担う三菱重工は有力なパートナーと映ったのだろう。同社は、これまで海上自衛隊向けに多数の護衛艦を納期通りに建造してきた実績があり、直近では、もがみ型の量産実績を持つ。さらに、新型FFMも今年度から海上自衛隊向けの建造が始まる予定であり、オーストラリア海軍向けの艦もすでに建造スケジュールに組み込まれている。こうした実績と工程の見通しを踏まえ、オーストラリア政府は、日本案が早期戦力化の可能性が最も高いと判断したと考えられる。

国防省がこれまで公開してきた文書において、「納期」の定義が必ずしも明確にされていない点には留意が必要である。現状では、艦が実際に戦力として機能する初期運用能力(IOC)の達成時期ではなく、艦そのものの物理的な引き渡し時期が重視されているように映る。これは、艦の就役自体が国内政治的に、また抑止力の観点からも重要とされているためだろう。なお、新型FFMがもがみ型と同様に地上施設における事前教育に対応しているのであれば、1番艦の引き渡し前から乗員の育成を始めることが可能であり、結果として初期運用能力の早期獲得も十分に実現し得るだろう。

新型FFMが選ばれた二つ目の理由は、航続距離と火力の面でオーストラリア海軍の運用構想に最も合致していたことである。国防省の発表でもこの二点が能力面で強調されていた[3]。海軍は次期汎用フリゲートをシーレーン防衛に用いる方針であり、そのため航続距離1万キロという新型FFMの性能が魅力的に映ったのだろう。航続距離の重要性は、海軍が補給艦を増やさない方針をとっていることからも重要度が高まっていた[4]

運用構想におけるもう一つの重要な点は、ミサイルの搭載数や相互運用性といった火力の側面である。現在、オーストラリア海軍が抱える課題の一つが火力不足であり、新型FFMはその解決に向けた重要な切り札となるだろう。同級は、SM-6のような大型対空ミサイルやトマホーク巡航ミサイルを装填可能なストライクモジュール型VLSを32セル搭載している[5]。これらのミサイルを実際に運用するには、専用コンソールの導入やネットワークの改修が必要になると見られるが、そもそも物理的に装填できなければ運用は不可能である。

また、火力強化には各艦の搭載ミサイルに加え、迅速な再装填ができるかも鍵となる。オーストラリア海軍は、平時から有事に至るさまざまな状況下で日米との弾薬等の融通を可能にするため、2025年7月にミサイルの再装填や燃料補給の相互支援を主軸とした合意を両国の海軍種と締結した[6]。この合意の背景には複数の狙いがあると考えられるが、一つには、オーストラリア海軍が米海軍の新たな作戦構想である分散型海洋作戦(DMO)を取り入れた「Distributed Fleet Lethality[7]」の実現を目指したことが考えられる。この戦い方には、地理的に分散した艦艇に対して柔軟かつ迅速な補給が可能な体制の構築が不可欠であり、そのためには日米海軍種と共通の弾薬を使用することが不可欠となる。欧州製ミサイルしか運用できないドイツ製A-200型では、こうした運用構想は実現できない。

日本側の教訓

大方の予想に反し、リチャード・マールズ国防大臣によれば、次期汎用フリゲートの選定にあたって日本との戦略的関係は「全く影響しなかった」とされている[8]。仮にこの発言を額面通りに受け取るならば、日本側は、2016年のそうりゅう型潜水艦の移転失敗から得た「政治的要素の重要性」という教訓を、過剰に学習していた可能性がある。当時の失敗を分析した多くの論考では、そうりゅう型の性能自体は高く評価されていたものの、情報戦や売り込み体制の不備が敗因であったとされている[9]。この反省を踏まえ、今回のフリゲート提案では、現地での広告展開、メディア関係者の招待、さらには官民合同推進委員会の設置など、前回と同様の過ちを繰り返さないよう最大限の努力が払われた。

しかし、そうりゅう型の輸出失敗を振り返る際に、しばしば軽視されてきた重要な視点がある。それは、装備品が移転先の運用構想に適合した設計となっているかどうか、という点である。そうりゅう型は優れた潜水艦ではあるものの、その設計は日本周辺海域での運用に最適化されており、オーストラリアのように長距離を移動して作戦海域に展開するという運用構想には、必ずしも適合していなかった。この点は、オーストラリア海軍が当初、フランスから原子力潜水艦をベースとした通常動力型潜水艦(アタック級)の導入を計画していたものの、最終的にこれを中止し、米英と連携して原子力潜水艦の導入を決定した経緯からも明らかである。

次期汎用フリゲートの選定にあたって、オーストラリア海軍が直面していたのは、経空脅威の高まりの中で、米豪間のシーレーンをいかに防衛するかという課題であり、それに対応可能な水上戦闘艦の導入が求められていた。こうした要請に対し、新型FFMは、候補に挙がっていた艦艇の中でも航続距離や火力の面で最も運用構想に適合しており、それが選定の決め手となった。

装備品の移転に際しては、戦略的関係や情報戦も確かに重要である。しかし、それと同等に重要なのが、相手国の運用構想を的確に把握し、それに即した提案を行う姿勢である。自国の得意とする装備を一方的に押しつけたり、二国間関係の強さに依存するのではなく、相手のニーズに真摯に向き合う必要がある。日本は、オーストラリアへの潜水艦とフリゲートの移転を通じて、今後の防衛装備品移転に向けた貴重な教訓を得たと言えるだろう。
(Photo Credit: 令和4年度国際観艦式において観閲を受ける護衛艦「もがみ」CC BY 4.0 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9b/JS_Mogami%EF%BC%88FFM-1%EF%BC%89under_review_at_the_International_Fleet_Review_2022.jpg

井上 麟太郎 研究員補
アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 研究員補。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程修了。2023年4月より博士課程。専門は、アメリカ安全保障政策史、米豪同盟、日本の防衛政策。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)でのインターン(日米軍人ステーツマンフォーラム(MSF))を経て現職。国際安全保障秩序グループにて、諸外国の防衛産業政策について調査中。
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井上 麟太郎

研究員補

アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 研究員補。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程修了。2023年4月より博士課程。専門は、アメリカ安全保障政策史、米豪同盟、日本の防衛政策。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)でのインターン(日米軍人ステーツマンフォーラム(MSF))を経て現職。国際安全保障秩序グループにて、諸外国の防衛産業政策について調査中。

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