トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説 No.32(2025年9月3日-9月9日)

大統領令一覧
アメリカ合衆国戦争省を復活させる大統領令(9月5日)
この大統領令は、「国防総省(Department of Defense)」について、現行の呼称に加えて「戦争省(Department of War)」という副称の使用を認め、公式文書や儀礼でもこの副称を用いることを許可するものである。これに伴い、国防長官(the Secretary of Defense)も「戦争長官(the Secretary of War)」と呼称することができる。また、国防長官(つまり戦争長官)に対し、国防総省を正式に「戦争省」へ改称するために必要な立法・行政措置を提案することを求めている。「戦争省」という呼称を追加する理由としては、初代大統領ジョージ・ワシントンが当初「戦争省」と名付けていたこと、さらに国家を単に防衛(defend)するだけでなく、国益のために力による平和を追求する姿勢を示すには「戦争省」の方がふさわしいと判断したことなどを挙げている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
相互関税の対象範囲の変更および貿易・安全保障協定の実施手続きの確立に関する大統領令(9月5日)
この大統領令は、2025年4月2日の大統領令14257で発表された相互関税の対象範囲を変更し、貿易パートナーとの協定を実施するための方針を示すものである。具体的には、追加関税の適用対象外品目をまとめた大統領令14257の付属書IIについて、閣僚からの追加情報や提案を踏まえ、その品目の範囲を変更することを決定した。また、複数の貿易パートナーとの貿易・安全保障協定の締結を踏まえ、新たに「協調パートナー向け潜在的関税調整(Potential Tariff Adjustments for Aligned Partners)」という付属書を設け、一部の対象品目には関税を課さない可能性を示した。ただし、具体的にどの品目が関税削減の対象かとなるかは、貿易パートナーのコミットメントを評価した上で大統領が決定する。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら、付属書IIの最新版 および 協調パートナー向け潜在的関税調整(PRAAP)はこちら)
海外における不当拘束から米国民を保護するための取り組みを強化する大統領令(9月5日)
この大統領令は、米国民の海外における不当拘束への対策として、不当拘束に関与または支援する政府を「不当拘束支援国家」に指定し、指定国に対しては、経済制裁、同国の国民の入国禁止措置、渡航制限、海外援助の制限などの措置を講じることを可能にするものである。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
日米貿易協定の実行を命じる大統領令(9月5日)
この大統領令は、7月に合意された日米戦略貿易・投資協定の内容を実行するものである。自動車を含む日本産品の大部分に対し、関税率を一律15%とし、この措置は8月7日まで遡って適用される。また、商務長官には、米国で生産されない資源やジェネリック医薬品関連品について、諸要素を勘案した上で相互関税率を0%とする権限が与えられた。さらに、日本側の義務も明確化され、ミニマム・アクセス米制度の枠内での米国産米の調達を75%拡大するとともに、その他の米国産品の調達や市場アクセスの拡大を図ることが盛り込まれた。加えて、米国政府が使途を指定する5,500億ドル規模の対米投資について、その重要性が強調された。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
布告・覚書・公式発表一覧
保健福祉長官及び食品医薬品局長宛ての覚書(9月9日)
この覚書は、保健福祉長官及び食品医薬品局(FDA)長に対し、医薬品の消費者向け広告においてメリット/デメリットを含む完全な情報が提供されるよう、必要な措置を求めるものである。特に薬のリスクに関する情報を増やして誤解を回避できるような措置を指定したほか、ファクトシートではSNSなどの非伝統的チャンネルにまで広がる広告の影響に対する懸念を示している。(詳細はこちら、ファクトシートはこちら)
「新たな学力調査の結果は我々が教育を改善する余地、そして必要性を明らかにした」(9月9日)
ホワイトハウスは、2024年に実施された全米学力調査(NAEP)の結果が「壊滅的」として教育改革の喫緊の必要性を強調した。特に中高の数学や読解力で過去最低レベルの数値がみられるとし、教育省が行ってきた投資の成果を改めて疑問視した。(詳細はこちら)
「労働統計局による改訂は、トランプ大統領が正しかったことをまたもや示した」(9月9日)
ホワイトハウスは、労働統計局(BLS)が2025年3月までの1年間の雇用統計を大幅に下方修正したことを受け、これを批判するとともにトランプ大統領の求めるBLS改革の正当性を強調した。また修正による雇用数の減少を鑑み、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策を改めて批判した。(詳細はこちら)
「主要企業・団体によるAI教育への支援」(9月9日)
ホワイトハウスは、4月23日の「アメリカの若者に対するAI教育の推進を命じる大統領令」に基づくAI教育の推進に貢献する企業・団体の取り組みを列挙し、官民連携で人材育成を進めていることを強調した。テック企業のみならずコンサルティングや金融、小売りといった多様な分野の企業・団体が、教育機関向けAIツールの提供・導入やAIを活用した教育プログラムの設立、就職までのキャリア支援といった領域で支援策を公表している。(詳細はこちら)
「トランプ大統領、宗教の自由を擁護し、『アメリカ・プレイズ(America Prays)』を発表」(9月8日)
トランプ大統領は聖書博物館での演説で、信仰が米国のアイデンティティに果たす重要な役割を強調するとともに、来年の建国250周年を前に「アメリカ・プレイズ(America Prays)」イニシアティブを立ち上げることを発表した。(詳細はこちら、アメリカ・プレイズ(America Prays)の公式HPはこちら)
「信仰を持つ人々のためのトランプ大統領の100の大きな成果」(9月8日)
ホワイトハウスは、就任以来、トランプ大統領が信仰を持つ人々のために数々の成果を挙げてきたと強調した。特に、これまでの実績のうち100項目を取り上げ、宗教の自由の保護、反ユダヤ主義への対抗、言論の自由の確保、学校選択や保護者の権利の拡大、DEI政策の廃止、中絶への公的資金停止、イスラエルとの連帯などの分野に分類した上で紹介している。(詳細はこちら)
下院提出法案第2808号と第2170号が成立(9月5日)
下院が提出した法案2点が大統領の署名により法律として成立した。一つ目の「住宅購入者プライバシー保護法」は、一部の例外を除き、信用調査機関が住宅ローン取引に関連した消費者の信用報告書を他社に提供することを禁止するものである。二つ目は、ニュージャージー州にある退役軍人省の外来診療所を「レナード・G・”バド”・ロメル退役軍人診療所」と命名するものである。(詳細はこちら)
「トランプ大統領、テック企業のリーダーと連携し、米国のAI覇権を推進」(9月5日)
ホワイトハウスは、トランプ大統領とメラニア夫人がテック業界のリーダーたちを招き、米国をAI分野で世界の最前線に押し上げるための議論を行い、官民連携の進展を確認したと発表した。同発表では、OpenAIや、Google、Appleなどの企業トップによる大統領に対する感謝や称賛のメッセージも紹介されている。(詳細はこちら)
「トランプ大統領のAI・エネルギー政策が10億ドルの投資を呼び込む」(9月4日)
ホワイトハウスはこの日、日立エナジーが米国の電力網インフラに計10億ドルの投資を発表したことを取り上げ、トランプ政権のエネルギー政策の成果として強調した。また、AI行動計画を契機としてこの投資が加速されたと指摘した。(詳細はこちら)
メラニア・トランプ大統領夫人、「ホワイトハウスAI教育タスクフォース」の会議を主催(9月4日)
ホワイトハウスは、4月23日の「アメリカの若者に対するAI教育の推進を命じる大統領令」で発足した「ホワイトハウスAI教育タスクフォース」の第2回会議を、メラニア・トランプ大統領夫人が主催することを公表した。(詳細はこちら)
レポート:米国の消費財におけるインフレ率は他国よりも低い(9月3日)
ホワイトハウスは米国のインフレ状況について、大統領経済諮問委員会(CEA)が報告した分析結果を公表した。消費者物価指数(CPI)は政権発足の1月から7月までで年率1.9%上昇し、コア指数(食品・エネルギー以外)のインフレ率が世界的に伸びている中で米国のインフレ率が他国と比較して低い水準にあるとの見方を示した。(詳細はこちら、レポートはこちら)