解説 オランダ下院選挙:怒りを煽った極右PVV、希望を示した中道D66

解説 オランダ下院選挙
2025年10月29日、オランダ下院(任期4年、定数150)で総選挙が実施された。同国の極右政党である自由党(PVV)が移民政策をめぐる対立から2025年6月に連立政権を離脱し、ディック・スホーフ首相(元総合情報保安局長官)率いる4党連立政権が崩壊したことを受けての選挙である。
選挙の結果、PVVは26議席の獲得(前回比11議席減)にとどまった一方で、中道リベラル政党のD66が前回比17議席増の26議席を獲得し、PVVと同じ議席数となったうえ、得票数ではPVVを2万9,668票の差で上回ったことから、僅差での勝利を果たした。続いて、中道右派の自由民主国民党(VVD)が22議席、グリーンレフト/労働党(GL/PvdA)が20議席を獲得し、極右政党のJA21と民主主義フォーラム(FVD)もそれぞれ9議席、7議席を確保した。なお、オランダの選挙制度は、議席獲得のための阻止条項を設けない「完全比例代表制」であり、わずか 0.67%前後の得票で議席を獲得できる仕組みになっている。このため政党が乱立しやすく、今回の選挙でも15の政党が議席を得る結果となった。今回の選挙戦では、PVVが反移民などを前面に掲げたネガティブ・キャンペーン戦略を展開したのに対し、D66はオバマ元米大統領を想起させる“het kan wél”(「yes we can」)をスローガンに掲げ、住宅危機の解消を訴えつつ、失業率の低さなどオランダのポジティブな側面を強調することで、国民に希望を示そうとした。この対照的な戦略が、D66の支持拡大につながったといえよう。
もっとも、この結果をもって極右政党から中道政党への支持が本格的に回帰したと判断することは早計である。PVV以外の票は、既成政党ではなく他の右派ポピュリスト政党に流れた側面が強く、「アンチ既成政党フィーバーはいったん落ち着いた」
現在、連立交渉は第一党となったD66主導で数週間から数カ月かけて進められている。極右政党が連立に加わる可能性は低く、焦点は中道政党という枠組みで左右を超えて結集するか、
D66の党首で次期首相候補である38歳のロブ・ジェッテンは、鉄道会社での勤務を経て政界入りし、気候・エネルギー政策大臣や副首相などの要職を歴任してきた。政策面では、PVVのウィルダース党首に対抗する立場を取り、親EU・親ウクライナの姿勢を明確にしている。また、自身が同性愛者であることを公表しており、首相に就任すればオランダ史上最年少の首相であると同時に、同国初のLGBTQの首相となる。
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選挙は世界を変えるのか:岐路に立つ民主主義
選挙による国内政治のダイナミクスの変化は世界政治に影響を与え、地政学・地経学上のリスクを生じさせる可能性があります。また、報道の自由の侵害や偽情報の急増など、公正な選挙の実施に対する懸念が高まっているなか、今後の民主主義の行方が注目されています。本特集では、各国の選挙の動向を分析するとともに、国内政治の変化が国際秩序に与える影響についても考察していきます。


研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師、EUROPEUM欧州政策研究所アソシエイト・リサーチ・フェロー(チェコ)、国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)外部寄稿者も兼職。 TIハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所でのインターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)やEUROPEUMでの訪問研究員を経た後、現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)などがある。 【兼職】 埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師(秋学期担当、欧米経済事情、2単位) Visiting Research Fellow, EUROPEUM Institute for European Policy External contributor, Anti-Corruption Helpdesk, Transparency International Secretariat (TI-S)
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