第二次トランプ政権のゴールデン・フリート構想:海上優勢か、それとも戦力投射か

第二次トランプ政権は2025年12月23日、米海軍の新たな艦隊構想である「ゴールデン・フリート」を正式に発表した。これに先立ち、同政権はコンステレーション級フリゲート計画を事実上中止し、沿岸警備隊のカッターをベースに開発するFF(X)を海軍の小型水上戦闘艦として導入する方針を示していた。今回の発表では、次期大型水上戦闘艦として、20~25隻規模のトランプ級ミサイル戦艦(BBG)を整備する計画が明らかにされた。米海軍が艦隊構想の方向性を大きく転換しつつあることは、日本の防衛態勢にも少なからぬ影響を及ぼし得るため、注目に値する。

米海軍が設置した特設ウェブサイトによれば、BBGの主たる任務は、戦力投射・攻勢的打撃・統合防空ミサイル防衛(IAMD)とされている。そのため、大量の艦対空ミサイルだけでなく極超音速ミサイル(CPS)や核搭載巡航ミサイル(SLCM-N)の搭載も予定している。駆逐艦や巡洋艦ではなく、あえて「戦艦」と分類されている点からも、同艦が強固な防御力を重視して設計されていることがうかがえる。具体的には、レーザー防御システムや複数の個艦防空システムの搭載に加え、装甲の付与も想定されていると考えられる。こうした性能要求を反映し、満載排水量は、同級の登場によって中止された次期ミサイル駆逐艦DDG(X)の約3倍にあたる35,000トンを超えるとされる。トランプ大統領は、すぐさま建造に取り掛かるとしているが、実際に配備されるのは2030年代半ば以降であろう。

BBGの導入は、米海軍がきたる米中戦争に備えて過去15年以上にわたって進めてきた艦隊構想の潮流からみれば、唐突かつ大きく乖離した動きである。では、なぜ米海軍はこの段階で戦艦という選択に踏み切ったのか。本稿では、米海軍内部で長年繰り返されてきた「海上優勢の獲得」を重視する路線と、「戦力投射」を重視する路線との対立を補助線として用いながら、ゴールデン・フリート構想の背景と含意について初期的な分析を試みる。
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海上優勢か、それとも戦力投射か

米海軍は第二次世界大戦以前から、マハン的戦略思想に基づく海上優勢重視路線と、コルベットに思想的源流を持つ戦力投射路線の間で揺れ動いてきたが、この傾向は戦後に入って一層顕著となった。

ドイツ海軍および日本海軍を打ち破り、明確な海上の敵を失った米海軍は、国内において自らの存在意義を示すことに苦慮するようになった。1947年の空軍創設により、戦力投射の主導権が戦略爆撃機や弾道ミサイルに移行すると、この問題は一層深刻化した。こうした状況の下、ソ連海軍による潜水艦の増強を背景として、米海軍は海上優勢獲得路線に自らの存在意義を見出し、シーレーン防衛の重要性を強調するようになった。しかし、朝鮮戦争やベトナム戦争が勃発すると、空軍を補完する形で航空戦力を投入できる空母の有用性が海軍内外で再認識され、米海軍は冷戦期を通じて戦力投射と海上優勢獲得の間で頻繁に揺れ動いた。

冷戦終結後、米海軍は自らの海上優勢を脅かすソ連海軍の脅威を失ったため、イランやイラク、北朝鮮といった地域紛争を引き起こしかねない国家への対応を重視するようになった。その結果、空母を用いた戦力投射中心の運用が定着し、この傾向は対テロ戦争の長期化とともに一層強まった。

2000年代後半以降、中国の軍事力増強と海洋進出が顕在化すると、米海軍の関心は再び大国間競争へと移行したが、ここでも海上優勢と戦力投射の間で緊張関係が見られた。当初は、中国本土の基地などをミサイルで打撃することを想定した「エアシーバトル構想」に代表される戦力投射重視のアプローチが採用された。しかし、エスカレーション・リスクへの懸念や軍種間の対立から、代替案の必要性が求められ、海上封鎖などを通じて中国を間接的に締め上げる「オフショア・コントロール」が提案された。

2015年頃から広く支持を集め、現在の米海軍の戦力整備にも反映されているのが、第一列島線において中国軍の行動を阻止する海洋拒否のアプローチである。これは、地対艦ミサイルを運用する地上部隊を第一列島線に展開し、中国海軍の自由な行動を制約したうえで、分散した海上・航空戦力によって遠方から打撃を加えることで、海上優勢の確保を図る構想である。米海軍はこの考え方を具体化するため、「分散型海洋作戦(DMO)」などの作戦構想を打ち出してきた。

海上優勢重視路線の失敗

海洋拒否が米海軍の中核的な作戦構想として維持されるためには、少なくとも二つの前提条件が必要である。第一に、政治レベルが米中戦争におけるエスカレーション・リスクに慎重であり、中国本土への打撃を抑制する姿勢を維持していることである。仮に政治側が慎重ではない姿勢を取るのであれば、中国本土攻撃を意図的に回避する海洋拒否を採用する必然性は低下し、エアシーバトル構想のような戦力投射重視のアプローチが採用され得る。

第二に、海軍が同構想の成立に不可欠な、高い能力と汎用性を備えた水上戦闘艦を十分な数確保できることである。この前提の下、米海軍はアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の追加建造を進めつつ、脅威度の低い海域については能力を限定したフリゲートで対応し、駆逐艦を高脅威海域に集中させる計画を進めてきた。

ところが、後者の前提は、フリゲート開発の失敗によって大きく揺らいだ。米海軍は2020年に、イタリア海軍のFREMMを基にコンステレーション級の開発を開始したが、残存性基準を米海軍仕様へ変更する過程で大規模な設計変更を余儀なくされ、度重なる仕様変更により計画は大幅に遅延・高額化した。その結果、2025年11月には建造を2隻で打ち切る決定がなされ、計画は事実上中止に追い込まれた。

同時に、政治側の姿勢にも変化が生じてきていた。従来の政権はエスカレーション回避を重視していたことから中国本土打撃に慎重であったと思われる。しかし、第二次トランプ政権下ではその姿勢が大きく転換したとまでは現段階で断定できないものの、少なくとも従来と比べて曖昧化した。ヘグセス国防長官が自身の役割を「大統領のデシジョン・スペースを広げること」と位置づけている点を踏まえれば、海軍を海上優勢の確保か戦力投射のいずれかに偏重させるのではなく、両者の間で柔軟な選択を可能とする、バランスの取れた艦隊へと編成しようと考えることは、論理的に自然な帰結である。こうした両アプローチを併存させる論理は、国家安全保障戦略(NSS2025)からも読み取ることができる。同文書では、シーレーン防衛を重視する記述が見られる一方で、イラン核施設攻撃を自画自賛するなど、戦力投射を重視する論調が併存している。

以上の点を総合すれば、中国との大規模な衝突を見据えた艦隊を構築するうえで、米海軍が海上優勢重視に固執しなければならない条件は弱まりつつあり、従来から海軍内部に存在していた戦力投射重視の議論が再浮上しやすい環境が整いつつあったといえる。この傾向は、かつてエアシーバトル構想の支持者であったエルブリッジ・コルビーが国防次官(政策担当)に就任していることによって、さらに後押しされた可能性がある。

ミサイル戦艦が求められた背景

戦力投射重視路線が台頭すれば、戦艦保有論が選択肢の一つとして浮上すること自体は必ずしも不自然ではない。しかし、本来は他にも複数の代替案が存在し、戦艦の採用が自明であったとは言い難い。次期艦上戦闘機(F/A-XX)やオハイオ級巡航ミサイル原潜(SSGN)の後継艦開発も、戦力投射能力を強化する手段として十分に考え得たはずである。それにもかかわらず、なぜ今回、1992年以降初めて戦艦復活の道筋が示されたのか。

F/A-XXについては、米空軍が推進する次世代航空支配戦闘機F-47と能力面で重複するため、トランプ政権にとって新たに導入するインセンティブが相対的に低かった可能性がある。SSGNについても、コロンビア級戦略原潜や次期攻撃原潜SSN(X)の優先順位が高く、原潜建造能力自体が制約となる中で、新規開発に踏み切る余地は乏しかったと考えられる。

これに対し、水上戦闘艦の分野では、すでにDDG(X)という新たなニーズの受け皿となり得る、開発初期段階の事業が存在していた。米海軍は2020年に、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の後継として、約20隻の導入を想定したDDG(X)の開発に着手しており、そのための人員と予算もすでに確保していた。

こうした中、米海軍は2023年末以降の中東における実戦を通じて重要な教訓を得ており、これがゴールデン・フリートに大きな影響を与えた。紅海でのフーシ派対応を目的とする「繁栄の守護者」作戦やイスラエル防空支援において、SM-6やSM-3といった対空・弾道弾迎撃ミサイルを大量に消費した経験から、各艦のミサイル搭載数を抜本的に増強しなければ、将来の米中戦争において空母護衛のみならず、個艦防空すら十分に遂行できなくなるとの懸念を強めていた。その結果、開発中のDDG(X)を含め、高脅威環境に展開する水上戦闘艦の火力強化とそれを可能とする従来よりも大きな船体が不可欠との認識が形成された。戦艦という選択肢が選ばれた背景にはこうした経緯があったと思われる。

実現可能性と日本への影響

BBGの導入が米海軍にとって最適解であるかについては、疑問が残る。中国本土への戦力投射を志向する場合であっても、ミサイル発射海域に進出するためには海上優勢の確保が不可欠である。しかしBBGは、海上優勢獲得に必要な駆逐艦の整備・運用に充てるべき人的・財政的資源を吸い取ってしまう可能性が高い。実際、トランプ級はタイコンデロガ級の2倍以上乗員を要するため、海軍全体の隊員不足に拍車をかけることが懸念される。

また、BBGの採用は、米海軍が比較的優位を維持してきた意思決定や情報領域での競争ではなく、火力規模という中国軍がすでに優位を有する分野で正面から競争することを意味する。トランプ級は、トマホーク巡航ミサイルなどを搭載可能なMk41垂直発射装置128セルに加え、極超音速ミサイル対応の大型VLSを12セル備えるとされるが、これを最大25隻そろえたとしても、米海軍全体の火力不足が解消されるとは考えにくい。

実現可能性にも課題が多い。米海軍は冷戦後、ほぼすべての新型水上戦闘艦の開発で失敗してきた。艦艇開発能力が低下する中で、新たな艦級に着手すること自体が高リスクである。さらに、戦艦に装甲を用いるとすれば、特殊鋼材を扱える熟練工員が十分に確保できるのかも不透明である。加えて、本計画は政治的にも極めて脆弱だ。艦級名に大統領個人の名前を冠したことで民主党から批判を受けやすい構図を自ら作り出しており、仮に2028年の大統領選で政権交代が起きれば、中止に追い込まれる恐れもある。

日本への影響も小さくはない。SLCM-Nを搭載する場合、日本が引き続き非核三原則を維持しているなか寄港すれば、その整合性が問題となる。また、米海軍が戦力投射を重視する態勢へ傾けば、米海軍と海上自衛隊の役割分担についても再検討が必要となるだろう。海上自衛隊は、DMOを採用する米海軍との連携強化などを念頭に、分散機動運用を採用してきた経緯があるためである。

いずれにしても、米海軍はこれまで艦艇開発に迷走してきたため、多くの時間を無駄にしてしまった。今後は、対中抑止に資する艦隊を迅速に構築する必要がある。ゴールデン・フリート構想が、中身を伴わない「金メッキの艦隊」に終わらないことを切に願いたい。

(出典:ロイター/アフロ)

井上 麟太郎 研究員補
アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 研究員補。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程修了。2023年4月より博士課程。専門は、アメリカ安全保障政策史、米豪同盟、日本の防衛政策。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)でのインターン(日米軍人ステーツマンフォーラム(MSF))を経て現職。国際安全保障秩序グループにて、諸外国の防衛産業政策について調査中。
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井上 麟太郎

研究員補

アジア・パシフィック・イニシアティブ/地経学研究所国際安全保障秩序グループ 研究員補。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程修了。2023年4月より博士課程。専門は、アメリカ安全保障政策史、米豪同盟、日本の防衛政策。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)でのインターン(日米軍人ステーツマンフォーラム(MSF))を経て現職。国際安全保障秩序グループにて、諸外国の防衛産業政策について調査中。

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