オルバーン強権政治への審判:4月ハンガリー総選挙に向けた与野党の注目ポイント

支持低迷の与党フィデス、リードを続ける新興保守野党ティサ
「フィデスは確実な選択(Fidesz – A biztos választás)」
2026年4月12日に実施されるハンガリー総選挙まで残り2か月半。ヴィクトル・オルバーン首相は、与党フィデスの1月10日の党大会にてこのようなキャッチコピーを選挙のスローガンとして掲げた。同大会にて、オルバーン首相は、国際情勢が不安定化する今日、国内政治の安定が求められており、オルバーン政権の継続こそが重要である、という主張で党員や支持者に与党への支持を訴えた。
しかし、その足元は揺らいでいる。オルバーン政権は約15年にわたって議会で三分の二を超える議席を獲得し続けてきたが、近年の世論調査では与党にとって好ましくない結果が続いている。ハンガリーの独立系世論調査機関Mediánが1月14日に発表した調査結果によれば、与党フィデスへの支持率は39%にとどまった一方で、野党としてEUとの関係改善や反汚職を訴える新興保守政党・ティサの支持率が51%に上った。近年の経済不況に加えて2024年初頭にフィデスが直面した恩赦スキャンダルによって急落した与党への支持率は、与党寄りの調査機関を除いて、いまだ2023年末以前の水準には戻っていない。約4年前、2022年2月の同調査ではフィデスは49%、統一野党が43%と与党がリードしていた。オルバーン政権を取り巻く選挙情勢は前回選挙よりも厳しい。
同国の独立系メディア444.huが1月に公表した小選挙区の情勢調査でも、接戦の構図が浮かび上がる。調査によれば、106議席のうちフィデスが勝利するのは30議席にとどまり、18選挙区でリード、残る10選挙区では競り合っているという。一方、ティサ党は31議席での勝利が見込まれ、17選挙区でリードしており、両党の勢力はほぼ拮抗している。4月の総選挙は、2010年にオルバーン首相が政権を担って以降、最も厳しい選挙戦となる可能性が高い。
オルバーン政権は、とりわけ2015年以降、約10年にわたりEUに対して対立的な姿勢を維持し、権威主義的なロシアや中国との関係も重視してきた。ハンガリー国内では、強権的な統治の下で司法の独立や表現の自由が損なわれつつあり、民主主義の後退も国内外で懸念されている。今年4月に実施される選挙は、ティサ党の台頭を背景に、2010年以降地滑り的な勝利を重ねてきたオルバーン政権への審判が改めて下される重要な選挙となろう。本稿では、そうしたハンガリーの総選挙に向けた政治情勢を読み解くための鍵として、オルバーン政権の「バラマキ政策と外交アピール」、そしてティサ党の「『影の内閣』の陣容と候補の知名度向上」という、ハンガリーの与野党それぞれの注目点を論じる。
オルバーン政権のバラマキ政策と外交アピール
一つ目の注目点は、オルバーン政権が選挙を前に積極的に進めている、いわゆる「ばらまき政策」の実施と外交上の成果の強調が、どの程度与党への支持の拡大につながるかであろう。オルバーン政権は、2014年以降の総選挙において、光熱費の削減など国民生活に直結する政策を繰り返し掲げることで与党への支持を獲得し、勝利を重ねてきた。今回の選挙においても、いわゆるバラマキ政策と受け止められかねない施策を相次いで打ち出している。例えば、ハンガリーでは、年に1回、1か月分の年金を追加で支給する「13か月目の年金」が導入されているが、これに「14か月目の年金」を加えることを決定し、2026年2月にその一部を支給すると発表した。
しかし、こうした取り組みがどの程度世論に響くのかは、今回の選挙においては未知数である。一部の有権者には効果があるかもしれないが、ハンガリー国内において昨年から問題視されているのは、小児病院をはじめとする公共施設への設備投資の不足である。経済面ではインフレや経済成長率の鈍化が大きな課題とされてきたが、そうした問題にも十分に対応できていない。実際、2025年のGDP成長率は0.4%程度にとどまったとされており、中欧(V4)諸国の中では2年連続で最低水準となっている。インフレ率も4.4%(2025年)と、一時期と比べれば落ち着きを見せつつあるものの、インフレが沈静化したとも言い難い。こうした状況のなかで、これらの政策が国民の目にどのように映るのだろうか。
オルバーン政権は外交上の成果にも望みを託している。1月の党大会の前日(9日)には、昨年12月10日にトランプ大統領から受け取ったとされる書簡を公開し、米国との良好な関係を強調した。10日の党大会では、Politico等の英語系メディアも報じたように、欧州議会の「欧州のための愛国者」グループに属する政党の党首に加え、イタリアのメローニ首相や、イスラエルのネタニヤフ首相らから、オルバーン首相を支持するメッセージ動画が寄せられた。また、ポーランドで昨年の大統領選挙前に「保守政治活動会議(CPAC)」が開催され、保守系候補の当選に至った先例にならってか、例年は4月末から5月頃に実施されてきたハンガリーでのCPACが、本年度は3月21日に前倒しで開催される予定である。ハンガリーでCPACを毎年主催している基本人権センターのディレクターであるサントー・ミクローシュは、「我々の同盟者が再びここに集うのは、我々が勝利すれば、ヨーロッパもまた立ち続けるからです。勝利へ進もう!」と述べ、選挙とCPACの結び付きを隠そうともしない。ハンガリーの一部の保守系メディアでは、今年のCPACハンガリー大会にトランプ大統領もしくはバンス副大統領を招待しようとしているのではないかとも噂されている。
しかし、国民が必ずしも外交問題に強い関心を寄せているとは限らない。地経学研究所の「選挙は世界を変えるのか」特設ページにて分析をおこなった2024年から2025年の世界各地の選挙においても、外交問題よりも国内問題を重視した政党が勝利を果たした事例は多い。例えば、隣国チェコの昨年の選挙では、住宅政策などの身近な課題を前面に掲げた野党の中道ポピュリスト政党ANOが、第一党となり政権交代を実現した。一方で、野党を「親ロシア派」と批判し、「西側にとどまるのか、それとも東側に戻るのか」といった外交・安全保障を軸とする争点を打ち出したチェコの与党連合は敗退している。オルバーン政権もこうした先例と同じ道をたどることになるのだろうか。
ティサ党「影の内閣」の陣容と候補の知名度向上
野党第一党のティサ党における今後の注目点は、マジャル党首以外の知名度向上と党幹部の顔ぶれとであろう。
ティサ党は、オルバーン政権の汚職やスキャンダルに異議を唱えて、2024年から中道保守政党として躍進を遂げてきたが、当初はマジャル党首のワンマン政党の色合いが強かった。昨年11月には小選挙区に出馬するティサ党の各候補者が公表され、医師、エコノミスト、弁護士、動物園長、歌手など多様な経歴を持つ人物が含まれていた。しかし、マジャル党首を除いて、候補者全体としては知名度の低い候補者が多い。
もし仮にハンガリーの選挙制度が比例代表のみの制度であれば、直近世論調査の結果を踏まえると、マジャル党首の知名度だけでも過半数の議席を獲得することができるだろう。だが、ハンガリーは小選挙区・比例代表並立制を採用しており、小選挙区での議席(106議席)が比例代表の議席(93議席)を上回る制度となっている。このため、議会での過半数獲得には小選挙区での勝利が不可欠であり、各候補者の知名度向上はティサ党にとって大きな課題となる。限られた選挙期間のなかで各候補者の存在や主張をどこまで有権者に浸透させられるのかが重要な注目点となろう。
またティサ党は、(日本をはじめとして世界各地でみられるような)複数の野党の合併によって成立した新党でもなければ、与党の内部分裂を契機に立ち上がった政党でもないという点で特徴的である。ティサ党は候補者選定にあたり、与野党を問わず国政経験者を意図的に排除してきた。党幹部を中心に、地方議員や外交官、大使など、キャリアの一部でオルバーン政権に関与した人物は複数名含まれているものの、国政での経験者はだれもおらず、国政レベルでは総じて「素人」である。こうした「素人」感を払しょくするためには、野党第一党として、マジャル党首に加えて党幹部の政権担当能力を示すことが重要となる。
ティサ党の党幹部人事については、各候補者の発表に先立ち、各政策を担当するティサ党要職の人事が徐々に公表されはじめた(表1)。党幹部人事に対する反響の大きさは様々であったが、なかでも今年1月に発表された外交とエネルギー政策の担当(政策顧問)の人事については、ハンガリー人として国際的に活躍してきたビジネス界の「ビッグネーム」を起用したものとして、国内外のメディアでも話題となっている。「影の内閣」とも呼びうる政権中枢の布陣が固まりつつあるなかで、さらなる「サプライズ」人事、あるいはビッグネームの起用はあるのだろうか。それぞれの分野における実績のある人物のさらなる登用に加えて、各政策顧問とマジャル党首が一丸となって、SNSおよび各選挙区で担当分野についての発信をいかに効果的に行い、有権者に具体的な政策と政権構想を提示できるのかが問われている。
表1:ティサ党幹部(党首・政策顧問)一覧

出典:党公式サイトなどをもとに筆者作成
新党の政権獲得か、与党の「惨敗」回避か
冒頭で触れた「確実な選択(A biztos választás)」というスローガンは、皮肉にも、2010年にフィデスに惨敗して政権交代を許したハンガリー社会党(MSZP)が掲げていた「平和で確実な国を望むなら、MSZPを選びなさい」という当時の選挙スローガンと重なる。
スローガンだけで選挙結果が決まるわけではもちろんないが、フィデスはMSZPと同じ道をたどり、ティサ党に政権を譲ることになるのだろうか。仮にティサ党が単独で過半数を獲得すれば、その躍進は、チェコでANOが結成後初の選挙(2013年)で第二党となり連立政権入りを果たした選挙や、スロベニアで反汚職を掲げて結成されたミロ・ツェラル党が第一党となり連立政権を樹立した2014年の選挙の結果を上回るものとなる。
それとも、与党フィデスが残り3か月で支持を盛り返し、三分の二の議席獲得とまではいかずとも、過半数の獲得は死守して政権を維持し続けるのか。オルバーン首相がこれまで用いてきた「常套手段」の効果が見えない今回の選挙で、フィデスがティサ党に対していかなる攻勢をかけるのか、また新興政党であるティサがどのような戦略をとっていくのか。それぞれの成否が、今回の総選挙の行方を左右することになるのだろう。


研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師、EUROPEUM欧州政策研究所アソシエイト・リサーチ・フェロー(チェコ)、国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル(TI)外部寄稿者も兼職。 TIハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所でのインターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)やEUROPEUMでの訪問研究員を経た後、現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)などがある。 【兼職】 埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師(秋学期担当、欧米経済事情、2単位) Visiting Research Fellow, EUROPEUM Institute for European Policy External contributor, Anti-Corruption Helpdesk, Transparency International Secretariat (TI-S)
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