海底ケーブルの強靭化戦略:ハイパースケーラーをもたざる国の選択

【執筆者: 居石 杏奈、総務省情報通信政策研究所】


第1次高市内閣の日本成長戦略本部が示した17の重点投資分野の一つ「情報通信」では、デジタルインフラの強靱化の一環として、国際海底ケーブルの地方分散を促進することが盛り込まれた。バルト海や台湾沖で相次いだ海底ケーブル損傷事案を受け、国際海底ケーブルはデジタル経済を支える基幹インフラであると同時に、国家安全保障上も重要なインフラであるとの認識が国際社会で醸成されつつある。


こうした潮流の中、日本でも2025年11月に「国際海底ケーブルの防護等に関する検討会」が立ち上げられた。海底ケーブルの安全確保は、戦時のみならず平時の社会・経済の安定を支える国家的課題といえるだろう。

歴史的に見ると、海底電信ケーブル網では英国が圧倒的な優位を持ち、植民地支配や軍事拠点の配置と結びついた国家主導の敷設が進められていた。他方、現代の光海底ケーブル網では、各国民間企業による共同出資の計画が一般化した。

もっとも近年では、米国のGoogleやMetaといったハイパースケーラーが単独でケーブルを保有・運用する事案も見られ、市場は大きく変化している。クラウドサービスを大規模に展開するハイパースケーラーは、膨大なデータトラフィックを支えるインフラを自前で整備できるだけの資金力を有する。こうした企業と米国政府が協調し、世界規模で海底ケーブルを広げる動きが公になり始めた。

市場が変化し、国家の関与が強まる今、自国にハイパースケーラーを有するか否かが政策の選択を左右し得る現実を直視するべきではないか。本稿は、ハイパースケーラーを有する米国と、これを有しない欧州のレジリエンス政策を取り上げ、同様にもたざる立場の日本に資する、政策的知見の獲得を目的とする。
Index 目次

米国ハイパースケーラー主導の「大陸間」構想

米国政府は、ハイパースケーラーの圧倒的な資本力を前提に、有志国と連携し、その海底ケーブル計画を後押しすることで、冗長化やルートの多元化を進めている。その背景には、中国の存在がある。海底ケーブルの設計・建設を担うシステムサプライヤー市場では、従来の日米欧企業に加え、中国企業の参入が進み、受注競争でも存在感を高めている。こうした状況を踏まえ、米国政府がハイパースケーラー出資の海底ケーブル計画を諸外国と連携して支援する動きが、バイデン政権以降、首脳会談の成果文書から確認できる。

その代表例が、米国政府が関与するGoogleの「パシフィック・コネクト・イニシアティブ」である。これは2023年以降、太平洋地域で推進される海底ケーブル群の総称であり、米国政府はケーブルの陸揚げ国と連携し、資金面・外交面から支援している。実際、2023年10月の米豪首脳会談ではサウス・パシフィック・コネクトへの投資が、2024年4月の日米首脳会談ではノース・パシフィック・コネクトに対するGoogleの10億ドル規模の投資が、それぞれの成果文書で言及された。関連プロジェクトには日系システムサプライヤーも関与しており、日米豪連携を軸に、地政学的リスクを踏まえたルートの多元化が図られている。

さらに、第2次トランプ政権への移行後も、首脳会談の共同声明では、ハイパースケーラーによる海底ケーブル計画が引き続き言及されている。2025年2月の米印首脳会談では、多国間協力の文脈で、Metaによる5大陸・総延長約5万km規模の海底ケーブル投資が歓迎されており、これは米国、インド、ブラジル、南アフリカなどを結ぶ、世界最長規模の「Waterworth」ケーブルを指すものと考えられる。同計画は、Metaにとって初の単独所有によるプライベート海底ケーブルであり、インドは共同声明の中で、信頼できるベンダーの活用を前提として、インド洋における海底ケーブルの保守・修理・資金調達に投資する意向を示した。

EU加盟国コンソーシアム主導の「海域別」戦略

米国ハイパースケーラー主導のプロジェクトは、EU(欧州連合)にとって必ずしも必要なインフラを提供するものではない。例えば前述の「Waterworth」ケーブルは、欧州を迂回するルート設計であり、米国ハイパースケーラーは大規模な大陸間ケーブルの敷設を進める一方で、EU加盟国を相互に結ぶ地域内ケーブルには必ずしも強い関心を示していない。こうした状況の中、EU加盟国は、自国にハイパースケーラーを有さず、投資能力において欧州企業が劣後する現実を踏まえた上で、「海域別」という発想に基づき、域内アクターが連携する独自のレジリエンス政策を進めている。

EUでは、公的資金により、欧州企業や加盟国主体の海底ケーブル敷設を支援してきた。そして、2025年2月の「欧州ケーブルセキュリティに関する行動計画」の発表を受け、公的資金を重点的に投入すべき分野の見直しが行われた。その成果として、11の海域ごとに敷設状況を把握した上で、新規・代替ルートの必要性等を整理した報告書が、2026年2月に公表された。

加えて、EUでは海底ケーブルへの脅威に対する検知能力を高めるため、海域ごとの「ハブ構想」が模索されている。これは加盟国が連携し、バルト海を起点とし、段階的に「地域ケーブルハブ(Regional Cable Hubs)」を整備することで、統合的な監視体制の構築を目指すものだ。関連データを集約し、AIを活用した脅威分析を通じて、ほぼリアルタイムでの状況把握と迅速な対応を可能にすることを想定する。

このようにEUは、公的資金を戦略的に活用し、海底ケーブルの敷設にとどまらず、監視・運用の面でも海域単位で加盟国の連携を強化している。

英国のレジリエンス政策転換と「島国ハブ」の選択

米国のように自国のハイパースケーラーを有さず、EUのように近隣諸国との連携も容易ではない日本にとって、いかなる選択が戦略となり得るのか、主体的に検討する必要がある。その際、同じ島国であり、国際海底ケーブルの陸揚げハブとしての地位が相対化しつつある英国の動向は示唆的であろう。

日本は米国とアジアを結ぶ最短ルート上に位置し、アジア太平洋における国際海底ケーブルのハブとして機能してきた。しかし近年、ハイパースケーラーが出資するPLCNEchoなど、いわゆる「ジャパン・パッシング」と呼ばれる日本を経由しないケーブルの動きも見られる。

英国もまた、欧州と北米を結ぶ横断海底ケーブルの主要拠点であるが、MAREADunantといったハイパースケーラー主導の大容量ケーブルが英国を経由せずEU加盟国に敷設され、その地位は揺らぎつつある。さらに、米英間の大西洋横断ケーブル容量の約75%が、ハイパースケーラー出資の新たな大容量ケーブル2本に集中しているとの見解も示された。

この状況下で英国は、単なる本数増加やルート多様化にとどまらず、危機時に実際に利用可能な容量やトラフィック迂回能力の把握といった運用面の実効性に着目し、政策を進めている。議会の報告書を受け、2025年12月に既存制度の見直しを含む方針が示され、政府横断的な取り組みが本格化したところだ。重要インフラ分野ごとの海底ケーブルへの依存度を分析し、障害時の影響を評価した上で、追加的な緊急時対応計画の必要性を検討する。

議会は、「ケーブル本数の確保(having lots of cable)」に偏った従来の政策の見直しを求めており、政府側も陸揚げ本数の増加だけでは十分なレジリエンスは確保できないとの認識の下、その次段階を見据えた議論を始めている。

海底ケーブル・レジリエンスの「次段階」

国際海底ケーブルの強靭化は、もはやハイパースケーラーの存在抜きには語れない。ハイパースケーラーを有する米国は、彼らの投資を梃子にケーブルの冗長化やルート多元化を進めやすい。他方、これを有しないEUでは、公的資金の投入と域内連携の強化を組み合わせることで対応を図っている。そして大西洋の島国ハブである英国は、敷設数と多ルート化に続く次段階のレジリエンス策を模索し始めた。日本もまた、この動向を踏まえつつ、自国の条件を生かし、アジア太平洋のハブとして、次の一手を講じる必要があるだろう。市場特性、技術的強み、地理的制約、国際関係を踏まえ、海底ケーブルのレジリエンスを政策上いかに位置づけるのか、今問われている

(出典: Getty Images )

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コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)のシニアフェロー・研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:鈴木一人 地経学研究所長、東京大学公共政策大学院教授)。

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