序章 偽情報と民主主義 -連動する危機と罠-

「選挙イヤー」と呼ばれる2024年。偽情報の脅威は一段と増し、公正な選挙の実施を可能とする解決策が求められている。偽情報はAIなどの新興技術の発達によってさらに巧妙化しており、社会の分断を助長するような、民主主義国家を根本から揺るがす危険が潜在する。この問題の緊急性に鑑み、地経学研究所(IOG)では欧米グループ3人の若手研究者が、民主主義の後退と偽情報の関係に関する研究プロジェクトを2024年1月から6月にかけて実施した。その成果として、本報告書はハンガリー、米国、英国の3か国における偽情報の現状、政策的対応、そして偽情報が与える影響について分析する。最後に、日本における偽情報の現状を概説すると共に、事例研究に基づき、日本へ対する5つの政策提言をおこなう。

ハンガリーは、2010年以降のヨーロッパにおいて最も民主主義の後退が顕著な国であり、共産主義政権崩壊後に民主化に成功したにも関わらず、民主主義の後退が指摘される国である[1]。第1章では、オルバーン政権与党と政府が内外メディアに対する影響力を強化している状況、および偽情報と指摘される事例を紹介する。第2章では、米国の事例を取り上げ、政治環境が原因で民主主義が後退していることを示す。ソーシャルメディア・プラットフォームに対する規制が欠如する中、政府やメディアに対する有権者の不信感の高まりが、偽情報の拡散を一層加速させている。第3章で扱う英国は、スコットランド独立運動やEU離脱をめぐる住民投票・国民投票において、ポピュリズムや偽情報の影響を受けやすい状況にあった。反面、政府やメディアに対する信頼度が高く、偽情報への規制の導入が試みられるなど、制度面の強靭さを示した国でもある。しかし、比較的強固な民主主義制度を持ちながらも、「エンゲージメントの罠」と呼ばれる偽情報の拡散が続いており、その脅威は依然として顕著である。最終章では、近年日本でも散見されるようになった偽情報問題について概説し、その特徴について整理する。そして、ハンガリー、米国、英国の事例を踏まえた政策提言をおこなう。

本章の第1節と第2節では、まず「偽情報」と「民主主義の後退」を定義し、なぜこれらの問題に焦点を当てたのかを説明する。第3節では偽情報は自由民主主義国家を支える制度と規範の両方を腐敗させようとするという意味で自由民主主義国家にとって脅威となると論じる。第4節では偽情報が生まれる要因、すなわち各国の規制環境、政府やメディアに対する国民の不信感、国民の分極化という要素に焦点を当て、それらが各国の偽情報の拡散にどのような役割を果たしているのか分析する。第5節では、本報告書の構成を紹介する。
Index 目次

第1節|偽情報の定義と拡散の目的

偽情報の問題や政治への影響は、決して新しいものではない[2]。本報告書の第2章でも指摘されるように、偽情報は一部の国で古くから存在しており、現在も大きな政治問題となっている。「偽情報」という用語自体は近年になって大きく取り上げられるようになった。グーグル・トレンドで検索すると、2020年代以降、世界中でこの用語が頻繁に使われるようになったことが分かる(図 1参照)。しかし、この用語が広く使われるようになったことで、本来の意味が誤解されることも増えている。

本報告書が定義する「偽情報」(disinformation)とは、人々に「誤った考え」を持たせ人々を惑わそうとする意図があるという点で、他の情報形態と区別される[3]。言い換えれば、結果的に誰も騙されなかったとしても、誤解させる意図があったという事実があれば、その情報は偽情報と分類するのに十分なのである。

偽情報は、しばしば混同される「誤報」(misinformation)とは対照的である。誤報は誤解を招く明確な意図がないという点で、偽情報とは異なる。他方で、情報の一部が虚偽であるという点では、一般的な情報とは完全に区別される[4]。加えて偽情報は、事実に基づく正しい情報を用いて特定の個人やグループを標的にし、そのイメージを操作しようとする、嫌がらせや機密情報のリーク、ヘイトスピーチなどの悪意ある情報(malinformation)とも異なる[5]

表 1は、偽情報、誤報、悪意ある情報の違いを、意図と内容の真偽に基づいてまとめたものである。偽情報とは、完全なる虚偽または部分的に虚偽の情報を使い、実際に騙されるかどうかに関わらず、誤解を与える明確な意図がある情報を指す。偽情報は、シェイクスピアの作品『ハムレット』の一節にもある「ものの善し悪しは考え方ひとつで決まる」を誇張・悪用した典型例ともいえる[6]

図 1: 「Disinformation(偽情報)」への検索インタレスト

(出典:Google News Initiativeのデータをもとに筆者作成)[7]

表 1:偽情報・誤報・悪意ある情報の区別

(出典:筆者作成)

偽情報には、偽情報が広がりやすく、規制が困難であるのは以下の理由がある。第一に、偽情報は真実よりも速くインターネット上に拡散する性質を持っている[8]。また、ボットのようなプログラムを使った場合、偽情報の拡散速度はさらに速くなる[9]。さらに心理学的には、誤った情報が一度記憶に残ると、後から正しい情報に置き換えるのが難しい。そのため、正しい情報に触れたとしても誤った情報を信じ続けてしまい、結果的に誤った情報がさらに広がることになる[10]

偽情報が拡散される目的は、必ずしも人々に偽情報そのものを信じさせることではなく、混乱させたり疑念を植え付けたりすることであるとされる。あまりに多くの嘘を聞かされ、もはや何を信じればいいのか分からなくなってしまうことを、米国シンクタンクのランド研究所は「虚偽の消防ホース」(Firehose of Falsehood)と表現する[11]。すなわち、偽情報は必ずしも戦略的である必要も、一貫性がある必要もない。求められるのは、容易かつ大量に拡散できる偽情報だけであり、その内容自体は単純で粗雑なもので構わないのである[12]。つまり、偽情報は社会を混乱させ、人々に情報への不信感を受け付けることが目的なのである。

同時に、その内容は必ずしも完全に虚偽である必要はない。サイバーセキュリティの専門家トーマス・リッドによれば、偽情報はいくつかの小さな嘘で構成され、その主張の全てが虚偽であるとは言い難く、デバンキング(誤りであることの証明)をしにくくしている[13]。したがって、偽情報とは、誤解を引き起こす意図を持った情報形態の一つであるが、必ずしも一貫性はなく、広く受け手に疑念を植え付けるのに適したツールであると定義する。

第2節|民主主義の後退

民主主義の後退は、高[14]・中[15]・低所得国家[16]にわたって見受けられ、「世界の政治における確固とした傾向」に変化してきたといわれている[17]。スウェーデンの独立調査機関V-Dem研究所によると、ヨーロッパでは過去10年間にわたり、著しい民主主義の後退が見られた。図 2は、アメリカ大陸、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、中東、オセアニアという5つの地域において民主主義(自由民主主義)の後退が進んだ国の割合の変化を表しており、どの地域においても民主化の後退が少なからず確認されるとともに、欧州での民主主義の後退が他地域よりも顕著であることを示している。[18]

民主主義の後退は、「時の政権における民主的な価値観や慣行からの後退」[19]として現れることが多く、一夜にして起こるわけでも、またクーデターのように武力を行使して起こるわけでもない。むしろ「非連続な一連の漸進的行動」[20]の結果として、意図せず、しかし着実に民主主義が侵食されていくのである[21]。民主主義の後退には段階があり、表2に示されているように、国家は国内の政治状況の変化によって、実質的な選挙が実施されない閉鎖的権威主義体制と自由で公正な選挙が行われるとともに立法府や司法府の独立といった要素も備えている自由民主主義体制の間を行き来する[22]

本報告書の3事例のうち民主主義の後退を最も明確に示すハンガリーは、図 3が示すように、第二次オルバーン政権の発足後すぐに選挙法の恣意的な改正を行われ、メディアの政治的・経済的背景や独立性について問題が指摘されるなど、段階的に民主主義の後退が進んでいる。V-Dem研究所の自由民主主義指数によると、ハンガリーは過去10年に民主主義の後退が進んだ上位10ヵ国のうちの1つとされる[23]。また2016年の米国大統領選では、ドナルド・トランプ候補が当選したことで、米国の自由民主主義指数は低下し、その後も回復していない。ハンガリーほど顕著な低下ではないものの、米国が盤石な民主主義国家とはもはや言えないのは憂慮すべきことである[24]。日本と英国においては指数にほとんど変化が見られず、自由民主主義が比較的安定していることが示されている。しかし英国ではブレグジット(英国のEU離脱)の過程で、自由民主主義の制度の強靭性が試されることとなった。日本も将来の危機に備え、これらの事例から学ぶ必要がある。

すでに述べたように、民主主義の後退は欧州を含む世界的規模で起こっている。ハンガリーの事例が3か国の中で際立って深刻であることに加え、民主主義の後退は米国では明確かつ継続するリスクであり、英国や日本でも潜在的・長期的なリスクである。次節で詳述する偽情報の脅威を考えると、民主主義の後退のリスクは特筆すべきものである。

図 2:民主主義の後退

(出典:V-demのデータをもとに筆者作成)[25]

表 2:政治体制と民主主義の後退

(出典:Lührmann & Lindberg (2019)、粕谷(2024)、Nord et. al, (2024)をもとに筆者作成[26]

図 3:2008~2022年における自由民主主義指数

(出典:V-Demのデータをもとに筆者作成)[27]

第3節|民主主義の危機の時代における偽情報の脅威とは?

なぜ偽情報は民主主義において脅威となりうるのか。スティーブン・レヴィツキーとルーカン・ウェイは、「競争的権威主義の台頭(The Rise of Competitive Authoritarianism)」論文において、民主主義の後退が進む国家では「4つのアリーナ」、すなわち選挙、立法、司法、メディアにおいて特に検証が必要と論じた[28]。4つのアリーナを通じて政権への異議申し立てを行うことができるかどうかが、民主主義国家の安定と強靭性を左右すると、同氏は主張する。

偽情報が民主主義国家の根本を揺るがしかねない脅威となりうるのは、まさにこの4つのアリーナを標的とするからであり、特に公正な選挙への脅威は重大である。誤情報や偽情報に基づいて国民が判断を下していることが判明すれば、選挙結果に対する不信につながりかねない[29]。具体的な例として、第3章で詳述するブレグジットにおいては、英国のEU離脱派が「一週間あたり3.5億ポンド」を節約し国内福祉に充てることができると主張したことで、有権者が騙されて投票したのではないかという議論につながった[30]。調査会社イプソスの調査によれば、偽情報や誤情報はメディア(回答者の40%)だけでなく政府(同22%)に対する国民の信頼も損なった[31]

また、偽情報は、選挙、立法、司法、メディア、すべてを標的にするだけでなく、それぞれを支える規範を腐敗させようとするという点で、自由民主主義に具体的な脅威をもたらす。政治学者ラリー・ダイアモンドは、制度が機能しているだけでは不十分であり、国家が真の自由民主主義国となるためには、自由民主主義の規範を取り入れなければならないと主張する[32]。自由民主主義の規範についてはベンジャミン・タリスが議論をさらに一歩進め、民主的規範を支持し、積極的に取り入れようとすることは、各国にとって「それ自体が利益」であると主張する[33]。民主的規範とは、「民主主義の実行に関する不文律のことであり、党派を超えた礼節、選挙結果の受け入れ、反対意見に対する寛容さなどが含まれる」[34]。偽情報の危険性の一つは、このような規範が侵食されることである。トランプ前大統領とその支持者たちが2020年の選挙結果を受け入れることを拒否したことで発生した、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件は、こうした規範の侵食とその結果の一例といえる。

偽情報は民主主義の制度と規範の両方を意図的に攻撃することで、民主主義に実質的な脅威をもたらす。本報告書では3つの民主主義国家、ハンガリー、米国、英国の事例をもとに、そして終章で日本の偽情報の現状を踏まえた上で日本において偽情報に対抗するための潜在的な政策提言を行う。

第4節|偽情報の要素、拡散と、民主主義の後退における3つのリスク要因

第1節から第3節を通じて、偽情報とは何を意味するのか、なぜそれが民主主義にとって重大な脅威となるのかを明らかにしてきた。本節では、次章以降の議論の土台となる、(1)偽情報に対する規制の有無、(2)政府やメディアへの不信、(3)国内の政治的分断(分極化)という、偽情報の拡散と民主主義の後退を考えるうえで重要となる3つリスク要因と各国における現状を提示したい。

一つ目のリスク要因である偽情報に対する政府の規制の有無は、デジタルプラットフォーマー(巨大IT企業)に対して、コンテンツモデレーション(content moderation)、つまりインターネット上において偽情報を含む不適切なコンテンツがないかどうかを監視し、必要があれば削除できる仕組みになっているか否かで判断される。表3では、各章におけるレビューや分析を通じて、偽情報に対する政府の規制におけるリスクを赤・黄・青の信号機の色分けに合わせて、対策が成されていない(赤)、一部で対策がなされているものの不十分(黄)、政府による包括的な対策が導入されている(緑)と3段階に分けた。

二つ目の要素である政府やメディアへの不信とは、メディアや政府といった民主的な役割を担う機関、そしてそれらを支える制度に対して国民が抱く信頼の欠如を指す。また、政府やメディアへの不信感と密接に関連するのが、三つ目の要素である政治的分断(分極化)である。分極化(polarization)とは、「保守とリベラルという2つの政治的立場の懸隔が広がるとともに(中略)両者が相互に激しく対立する」ようになることを指す[35]。分極化した国民は政府やメディアへの信用が低く、不信感が強まれば強まるほどさらなる政治的分断のリスクが高まる。

表3:偽情報の拡散と民主主義の後退における3つのリスク要因

(出典:各種指標および報告書に基づいて筆者作成)

偽情報は、政治的分断[36]と政府やメディアへの不信[37]の高まりの両方を加速させる役割を担っている。民主主義において立法プロセスが機能するためには、政府やメディアに対する客観的かつ批判的な目を持って監視することが重要ではあるが[38]、同時に政府やメディアに対する一定の信頼が不可欠である。国民が政治的に分断され社会において不信を抱くようになれば、政府が打ち出す政策や規制に対して懐疑的になりかねず[39]、米国の事例のように規制が必要な場面で規制が導入されない。

ハンガリーにおける偽情報に対する政府の規制について、欧州デジタル観測所 European Digital Media Observatory)の2020年の報告書は、ハンガリー政府は偽情報に対する規制を導入していないと指摘した[40]。また、欧州デジタル観測所 European Digital Media Observatory)の2020年の報告書が「政府自身が偽情報を増幅させている」とし、EUディスインフォラボ(EU DisinfoLab)の報告書はハンガリーの「偽情報の主要な情報源のひとつは政府そのものである」と指摘している[41]。EUにおいてはデジタルプラットフォームに対する規制が強力かつ包括的に制定され実施に向けた準備が進んでいる中で[42]、第1章で紹介するように、ハンガリーでは偽情報対策が機能しているとはいえず[43]、むしろ伝統的なメディアにおいても偽情報が多く確認され、政権の中枢にいる政治家からも偽情報が発信されているという指摘がある。ハンガリーではメディアや政府に対する国民の信頼度が低下しており[44]、政治的分断も深刻な問題となっていると見られる[45]

米国は政治的な分断に加え、国民の政府やメディアに対する不信も高いため[46]、国内の政治的分断をさらに悪化させる可能性がある[47]。不信が高まると国民が政府の行動に対して懐疑的になるため、政府が偽情報対策に関する法律を成立させようとしても国民の理解を得にくくなる可能性がある。ハンガリーとは異なり、米国政府は旧来の報道機関を直接的な政府の監視下には置いていないが、国民はテレビや新聞などの「主流な」ニュースメディアに対して懐疑的である。さらに、世界的なテクノロジー企業やソーシャルメディア・プラットフォームの大半は米国に拠点を置いているが、これらの企業に対しては依然として規制が不十分であり、偽情報が驚くべきスピードで拡散し続けているとの批判がある。この業界に対する法整備も、国民の制度不信や偏向の問題が続く限り、当面は難しいだろう。

これに対して英国では、公共メディア[48]と政府[49]に対する国民の信頼度が比較的高い。米国のような政治的な分断も現在はあまり目立ってはいない。一時期、残留派と離脱派の対立がブレグジットの余波となり二極化が進んだが[50]、現在はもはや国民にとって大きな関心事ではないため[51]、国民を政治的に分断する主な要因ではなくなっている。世界価値観調査(World Value Survey)のデータからも、英国における政党間の価値観の違いは米国ほど二極化が進んでいないとの研究結果が出ている[52]。英国は米国と同様、偽情報に対する規制を導入している最中であり、二極化や国民の不信といった問題を回避できれば、よりスムーズに偽情報の流布を抑制する規制環境を整えることができるだろう。英国はこれまで偽情報の影響力を抑えることに成功してきたといえる。

日本では国民の政治的分断がハンガリーや米国と比較するとあまり進んでおらず[53]、メディアに対する信頼が比較的高い[54]という点で、3か国の中では英国に最も近い。しかし英国とは対照的に、日本政府による偽情報対策については各種検討会で議論されているところであり、偽情報に対する厳しい規制を導入することに対する抵抗感がある。主な懸念は、規制強化の結果、日本国憲法で保証されている言論の自由が弱体化してしまう可能性がある点である[55]

第5節|報告書の構成

本報告書では、ハンガリー、米国、英国、3つの事例分析を紹介した後、日本における偽情報の現状を概観し、最後に3つの事例から得られた知見に基づき、日本に対する5つの政策提言をおこなう。第1章では民主主義の後退が進むハンガリーの事例を紹介する。この章では、ハンガリー政府が段階的にメディアへの統制を強めた過程を紹介する。また、ロシア発の偽情報とハンガリー発の偽情報および陰謀論が、政権幹部および政府の支配下に置かれたメディアから発信・拡散されたとの分析を紹介し、増大する不信や国内の分断の助長といったハンガリーにおける偽情報の影響についても概観する。

第2章では米国を事例として偽情報の歴史をたどる。政府に対する国民の不信感の高まりは、現在の政治情勢における重要な脆弱性のひとつである。米国における政治の二極化は、民主主義をさらに危うくする。しかし、米国には偽情報を統制するためのリソースと政府の意志がまだ存在する。偽情報が米国の国内政治環境にさらなる悪影響を及ぼさないようにするためには、信頼を基盤とした官民連携による多方面からのアプローチが必要である。

第3章では英国をブレグジットに起因する危機が一定程度後退した事例として取り上げる。英国では「エンゲージメントの罠」という偽情報の脅威が大きく立ちはだかるが、英国は危機を乗り越え、世界的な偽情報との戦いで主導的な役割を果たそうとしている。この章では、「エンゲージメントの罠」を逆利用した偽情報対策の例として北大西洋同志機構(NAFO)について紹介する。

終章では、この分野で注目を集めてこなかった日本について考察する。この章では、これまでの3つの事例と比較しながら日本における偽情報の現状について紹介する。この章では、「平時」と「有事」の偽情報を区別して紹介する。前者の例としては、沖縄市長選挙(2018年)を挙げ、後者の例としては自然災害を挙げ、読者の「危機」モードの有無が偽情報の拡散に影響することを示す。また、偽情報が拡散するタイミング次第で、政府の対応にも影響が出る。日本は、他国の事例のように民主主義の重大な岐路に立たされているわけではないが、平時と有事の両方で偽情報の脅威を経験するなど特有の側面もある。日本は、官民のパートナーシップを通じて偽情報対策に取り組もうとしているが、これは重要な強みの一つである。本章では最後に、日本に対する5つの政策提言をおこなう。

脚注

(Photo Credit: Shutterstock)

偽情報と民主主義 連動する危機と罠:目次

序章:偽情報と民主主義

偽情報の定義と目的 / 民主主義の後退 / なぜ偽情報を気にしなければならないのか / 偽情報のイネイブラー / 報告書の構成

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第1章 ハンガリー: メディアへの影響力強化と偽情報

買収によるメディアへの影響力強化 / メディアを通じた偽情報とその影響 / ロシア・ウクライナ戦争 / 偽情報がもたらす悪影響

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第2章 米国:不信が事実に勝るとき

米国の偽情報の黎明期 / 米国の文脈:不信、過去と現在 / ニュースルームへの課題 / 拡散者と消費者を通じた偽情報の管理

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第3章 英国:『エンゲージメントの罠』と偽情報

出遅れた偽情報対策 / エンゲージメントの罠 / 民主主義に降りかかる新たな脅威 / 対偽情報戦略

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終章:日本における偽情報と提言

選挙における偽情報とその対応 / 災害・有事における偽情報 / 政策提言

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執筆者

石川 雄介(欧米グループ研究員)

明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナル本部(ドイツ)にて外部寄稿者も務める。API/地経学研究所にて、インターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補を経た後、2024年8月より現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。財団ウェブサイトや SNS の活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。

ディクソン 藤田 茉里奈

ディクソン 藤田 茉里奈(欧米グループ研究員補)

米国ベイツ大学政治学部卒、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)修了。ベイツ大学卒業後、米国のコンサルティング会社でシニアコンサルタントとして勤務した後、ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所にて政策研究員として日米関係、アジア地域協力の研究活動に従事。SAIS修了後、韓米経済研究所(Korea Economic Institute of America)でインターンとして、日韓関係、米韓関係、韓国政治を研究。2021年10月よりAPI勤務。

貝塚 沙良(武蔵野大学グローバル学部非常勤講師/神奈川大学外国語学部非常勤助手/欧米グループインターン)

早稲田大学国際教養学部国際教養学科卒業、英国リーズ大学社会学部国際政治学科で修士及び博士(政治学)を取得。同大学で国際政治、比較政治、と英国政治のゼミを担当。Fellowship of Higher Education Academy (FHEA)を取得。現在、武蔵野大学グローバル学部グローバルビジネス学科で非常勤講師、神奈川大学外国語学部英語英米文学科で非常勤助手を務める。

おことわり:報告書に記された内容や意見は、著者の個人的見解であり、公益財団法人国際文化会館及び地経学研究所(IOG)等、著者の所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことを御留意ください。記事の無断転載・複製はお断りいたします。

石川 雄介 研究員/デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした欧州比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。トランスペアレンシー・インターナショナル本部にて外部寄稿者も務める。 トランスペアレンシー・インターナショナル ハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所にて、インターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)を経た後、2024年8月より現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。
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ディクソン 藤田 茉里奈 研究員補
米国ベイツ大学政治学部卒、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)修了。ベイツ大学卒業後、米国のコンサルティング会社でシニアコンサルタントとして勤務した後、ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所にて政策研究員として日米関係、アジア地域協力の研究活動に従事。SAIS修了後、韓米経済研究所(Korea Economic Institute of America)でインターンとして、日韓関係、米韓関係、韓国政治を研究。2021年10月よりAPI勤務。
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研究活動一覧
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研究者プロフィール
石川 雄介

研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー

専門はハンガリーを中心とした欧州比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了。トランスペアレンシー・インターナショナル本部にて外部寄稿者も務める。 トランスペアレンシー・インターナショナル ハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所にて、インターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)を経た後、2024年8月より現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。

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ディクソン 藤田 茉里奈

研究員補

米国ベイツ大学政治学部卒、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)修了。ベイツ大学卒業後、米国のコンサルティング会社でシニアコンサルタントとして勤務した後、ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所にて政策研究員として日米関係、アジア地域協力の研究活動に従事。SAIS修了後、韓米経済研究所(Korea Economic Institute of America)でインターンとして、日韓関係、米韓関係、韓国政治を研究。2021年10月よりAPI勤務。

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