我が国の経済安全保障政策における技術振興と技術管理のジレンマ
1.はじめに
2020年12月に自民党が発表した提言「『経済安全保障戦略』策定に向けて」は、他国への過度の依存から生じる経済的威圧に屈しないようにする「戦略的自律性」と、日本の存在を国際社会で不可欠なものとすることにより安全保障を確保することを目指す「戦略的不可欠性」という2つの概念を提示した[1]。これらの用語は直接使われなかったが、2022年5月に成立した経済安全保障推進法では、この考え方を踏まえ、①重要物資の安定供給、②基幹インフラ役務の安定提供、③先端重要技術の開発支援、④特許出願の非公開制度という4つの柱に関する施策が盛り込まれた。このうち、「特定重要技術」として規定される先端重要技術の開発支援は、日本の技術力を高めることで「戦略的不可欠性」を確保しようとする施策である。当該支援は、「経済安全保障重要技術育成プログラム(Kプログラム)」の名の下、これまで計42件の研究開発構想への支援を行うプログラム(経済安全保障推進法上の指定基金)として運営されている[2]。
一方、そもそも国が先端技術を伸ばしていくには、投資・支援を通じた技術振興と、開発された技術を保護するための技術管理が車の両輪としてバランス良く機能している必要がある。しかし、経済安全保障推進法は、まず技術振興のための支援制度創設から入り、技術管理施策が置き去りになった側面があることは否めない。特に、同法案に関する衆参両院の付帯決議では、技術的優位性を確保するため、情報取扱者の適正評価・認証制度(いわゆるセキュリティ・クリアランス制度)の構築が提言されたことからも分かるとおり、同法では先端汎用技術の保護施策が積み残しとなった。とはいえ、2024年5月に当該情報保護制度が重要経済安保情報保護活用法として成立を見ることとなったことを踏まえれば、これにより技術振興と管理の両輪は一通り機能する目途が立ったともいえる。
他方、これにより問題が解決されたわけではない。特に、技術振興と技術管理に関する施策が経済安全保障推進法(特定重要技術開発支援)と重要経済安保情報保護活用法(セキュリティ・クリアランス制度)に分かれて規定され、前者が後者に先んじたことにより、結果として実効性ある技術管理制度の構築が不十分となった。すなわち、アメをムチより先行させたことで、強力なムチの策定が困難となったのである。また、経済安保推進法に基づき支援が行われる特定重要技術が民生用途のみならず将来的な防衛用途も念頭に置いているとはいえ、その開発支援の担い手が伝統的な安全保障の担い手である防衛省以外の省庁に大きく広がったことにより、将来的な国際連携・共同開発に際しての処理すべき課題も想定される。
本稿では、こうした技術振興・管理施策のパッチワーク的導入がもたらす課題を分析した上で、課題解決のための具体的方法論を提示することとしたい。
2.技術振興施策の特徴と課題
(1)Kプログラム
経済安全保障推進法の特徴は、そこで規定される多くの施策が、企業や研究機関にインセンティブを与え、望ましい方向へとその行動を誘導する措置であるという点だ。その主要な柱の一つである先端技術の開発支援施策では、これまでKプログラムにおいて5,000億円の予算が確保され、一つの研究開発構想につき、5年程度の期間で数十億円から数百億円程度の支援が措置されている。特定された重要技術は、海洋、宇宙航空、サイバー、バイオ及び領域横断における多岐に渡り、民間だけではなく公的な利用を含む社会実装が念頭に置かれている[3]。そのため、例えば量子センサーを用いた海中センシング技術といった革新的な要素技術のみならず、光通信等の衛星コンステレーションに必要な基盤技術など、社会実装を見据え、システムとしての開発を念頭に置いた技術も含まれる[4]。
Kプログラムは、文部科学省所管の独立行政法人(国立研究開発法人)である科学技術振興機構(JST)又は経済産業省所管の同法人である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が研究推進法人(執行主体)となり、これらを通じて支援金が委託研究の形で配分される[5]。支援先は、公募により選定された大学や企業の研究・技術開発部門である。また、その委託研究契約条項により、産業技術力強化法第17条(日本版バイ・ドール制度)に基づき、研究成果を国あるいはこれら法人が譲り受けず、支援先(委託先)の研究機関に帰属させることとしている(ただし国による無償利用への許諾を条件としている。)[6]。
さらに、Kプログラムを通じて得られた研究成果は、公開を「基本」とすることとされる[7]。一方、研究成果そのものではないが、Kプログラムの実施に当たって開催され得る官民の協議会の事務に関して知り得た秘密は、経済安全保障推進法において、罰則付きで保護対象とされている(第62条第7項及び第95条第1項)。これにより、機微な「関係行政機関が保有するニーズ情報」を研究者に共有することが可能となるとされている[8]。
ここで問題となるのが、Kプログラムの研究成果に安全保障上機微な技術情報が含まれる場合である。KプログラムがAIや無人、量子、宇宙等の防衛用途に直結し得る革新的技術を研究対象とし、さらには社会実装をも見据えたものとする以上、研究の過程でそのような機微技術が発生する可能性も排除できないためだ。この点、Kプログラムの「基本的考え方について」や「運用・評価指針」といった政府文書においては、研究の段階に応じて「適切な技術流出対策」をとることが記載されるにとどまり、これを保護するための具体的な仕組みは示されていない[9]。このことは、今後課題を発生させるおそれがある。研究初期の段階であれば、公開論文に掲載されるような基礎技術の研究が中心となると思われるが、段階を追うに従って応用レベルの安全保障上機微なものが生まれる可能性があるからだ。例えば、海中光無線通信技術は、海中無人機(UUV)に対して指揮統制を及ぼすに当たって不可欠な技術となると考えられるし、大きなペイロードで長距離を運用できる無人機に必要な動力システムは、ウクライナ戦争において注目されているような一人称視点(FPV)ドローンの爆弾ペイロードを増加させるのにも必要となる[10]。
もっとも、Kプログラムの技術支援対象は、自衛隊が用いる防衛装備品の開発そのものではないため、その技術によって防衛装備品の製造が直ちに可能となるものではない。また、得られた研究成果が全て安全保障上機微な技術を含むとも限らない。一方で、革新的な装備品の開発にとってKプログラムで得られた先端技術が不可欠のものとなる場合、その性能や製造方法が表に出た場合、安全保障上の懸念を生じさせるおそれもある。もちろん、委託先の企業や研究機関がそのような情報を積極的に表に出したいかは別の問題である。不正競争防止法上の営業秘密(第2条第6項)として位置付けられて保護の対象ともなり得るためである。他方、営業秘密は事業活動への有用性の観点から保護法益が整理されているため、(重なる部分があったとしても)国家安全保障が保護法益となっているわけではない。
このような不整合は、「オープン・イノベーション」という従来の枠組みに安全保障に関連する技術開発という新しい内容物を組み込んだことに由来している。Kプログラムは、内閣総理大臣決裁文書である「基本的考え方について」において、経済安全保障推進会議に加え、内閣に置かれた統合イノベーション戦略推進会議の下で推進されることとされている[11]。統合イノベーション戦略推進会議は、科学技術・イノベーション基本計画やその下での統合イノベーション戦略(それぞれ閣議決定)を推進するために置かれており、これら基本計画や戦略においては、公的資金により得られた研究成果の利活用を促すための「オープン・アンド・クローズ戦略」が掲げられている[12]。もっとも、統合イノベーション戦略推進会議においても、「安全保障等の観点から留意すべき研究データは非公開とする」必要性は認識されてはいる[13]。しかしながら、出発点が研究成果の公開による利活用の促進(オープン・サイエンス)にあるため、同会議が推進する議論においては、安全保障上の懸念の観点が二次的位置付けとなっていることは否めない。加えて、Kプログラムの執行主体はJSTやNEDOなど、従来の科学技術・産業技術振興のための法人によって担われていることから、研究成果に係る知的財産の帰属も、従来の取扱いがそのまま踏襲されている。このため、Kプログラムが経済安全保障の柱として位置付けられているにもかかわらず、成果として得られる技術の管理に関し特別の保護が与えられているわけではない。
(2)宇宙戦略基金
Kプログラムと同様の課題を孕みながら始まった取組として、宇宙戦略基金がある。宇宙戦略基金は、2023年6月に策定された「宇宙基本計画」において、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「戦略的かつ弾力的な資金供給機能を強化する」との方針に基づき、宇宙に関連する先端技術に対し、10年間で総額1兆円の規模の支援を行うJAXA内の基金として創設された[14]。これにより、予算の単年度主義にとらわれず複数年度(最長10年間)に渡って、輸送、衛星等、探査等の3分野に関する先端技術開発への資金提供が可能となった。資金は、JAXAから民間企業・研究機関に対し、公募により配分される。支援は、技術成熟度が低く事業化に期間を要するもの等は委託研究により、また商業化等、実施者の裨益が大きいものは補助の形で行われることとなる[15]。これまで、総務省、文部科学省及び経済産業省が合わせて3,000億円の予算を計上しており、それぞれの省庁の観点からJAXAを通じ対象事業への資金配分が行われる。
支援対象となる技術開発は、もちろん商業化による民生分野での利用も念頭にあるが、防衛・安全保障分野における利用価値が見込まれるプロジェクトも見受けられる。例えば、総務省計上の衛星量子通信技術の開発実証、文部科学省計上の高分解能・高頻度な光学衛星観測システム、経済産業省計上の商業衛星コンステレーション構築などである。これらは、防衛用途での地上・海上の目標観測や秘匿通信といった利用可能性が考えられるためである。
一方、基金の制度設計を定めた「宇宙戦略基金基本方針」においては、Kプログラムと同様に、委託事業により得られた研究成果は産業技術力強化法第17条の規定を活用し、委託先に帰属させることを基本とする方針を表明している(補助事業は本来的に実施機関に帰属)[16]。同方針は、委託先を含む「全ての関係者は、本事業に関与することで知り得た機密情報は、正当な手続きを経ることなく本事業の目的以外に利用してはならない」と規定しているが、研究成果の帰属が委託先(実施機関)にある以上、その情報の保護は、不正競争防止法等の既存の枠組みによるほかない。
この点、Kプログラムの場合と一概に比較することは困難であるが、宇宙戦略基金が「宇宙関連市場の拡大」をその目標に掲げ、強い商業化志向を有していることには留意すべきである。Kプログラム以上に、システムとしての製品製造につながり得る技術が生まれる可能性がある中で、防衛・安全保障上の考慮を有する技術の取扱いが求められる場面が想定されるからである。
3. 重要経済安保情報保護活用法
(1)経緯
2024年5月に成立した重要経済安保情報保護活用法は、これらの公的資金が投入され、防衛用途に利用され得る技術を保護するために用いられるべきであった。しかし、同法はそのような制度設計にはならなかった。
我が国においては、従来、防衛装備品の性能や製造方法等に含まれる機微情報は、特定秘密保護法等により保護されてきた。一方、特定秘密等に該当しない非防衛分野の機微技術についての保護制度が不十分であり、機微技術を含む国際共同研究開発に我が国企業が参加できないという指摘が挙がっていた。例えば、2019年10月に公表された経済産業省の諮問会議である産業構造審議会の通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会中間報告は、かかる指摘に触れつつ、「産業保全に関する今後の対応について検討すべき」ことを提言していた[17]。こうした指摘を踏まえ、政府は2020年の統合イノベーション戦略の中で、「国際共同研究を円滑に推進し、我が国の技術的優位性を確保・維持する観点も踏まえ、諸外国との連携が可能な形での重要な技術情報を取り扱う者への資格付与の在り方を検討」するとした[18]。
このため、2022年5月に成立した経済安全保障推進法の審議過程でも、このような機微情報を取り扱うための資格制度であるセキュリティ・クリアランス制度が法案に盛り込まれていない理由に関する質問が度々提起されたが、政府は、同制度が個人情報に対する調査を含むものでありことから、「こうした制度に対する国民の理解の醸成の度合いなどをまずは踏まえ」る必要があることをその理由として挙げていた[19]。このように新たな情報保護制度は今後の課題とされる一方、同法案の成立に際して衆参両院で法制上の措置を含む必要な措置を講ずることが求められるとともに、2022年12月に策定された国家安全保障戦略でも「セキュリティ・クリアランスを含む我が国の情報保全の強化に向けた検討を進める」ことが盛り込まれた。これらの動きや、日本経団連、経済同友会などの経済界からも新たな情報保全制度の構築を求められたことを踏まえ、政府は、2023年2月、「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」を立ち上げて検討を加速させることとした。有識者会議における1年弱の議論を経て、2024年1月に「最終取りまとめ」(報告書)が発表されると、政府はそこでの提言を踏まえて同年2月、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案(重要経済安保情報保護活用法案)を国会に提出し、同法案は同年5月に成立を見た。これにより、経済安全保障に関連する機微な情報を指定した上で、民間人を含め、審査の上で当該情報を取り扱うための資格を付与された者のみに共有する制度が構築されたことになる。
(2)特徴
本稿との関係で論点となり得る重要経済安保情報保護活用法の特徴は以下のとおりである。
第一に、非防衛の経済安全保障分野における機微技術の漏洩を防止するという情報保全それ自体の要請というよりは、保護対象とした機微情報の取扱資格を企業の海外市場参入の要件として捉え、企業の国際展開を促進する材料として本制度の創設が求められた点が特徴的である。すなわち、海外企業との協力や国際共同研究を実施する際の要件として情報取扱資格(セキュリティ・クリアランス)の保持が求められ、国際競争の阻害要因となっているとの認識である[20]。これにより、海外市場アクセスのための機微情報取扱資格創設に議論の重きが置かれ、有識者会議の初期段階で保護すべき情報の対象が必ずしも明確ではなかったことは否めない。このため、保護対象となる情報は、有識者会議の議論の過程で徐々に具体化されていき、最終取りまとめでは「サイバー関連情報(サイバー脅威・対策等に関する情報)」、「規制制度関連情報(審査等に係る 検討・分析に関する情報)」、「調査・分析・研究開発関連情報(産業・技術戦略、サプライチェーン上の脆弱性等に関する情報)」及び「国際協力関連情報(国際的な共同研究開発に関する情報)」の4つの具体例が示されることとなった。
これを受けて、法律では、重要インフラ及び重要物資のサプライチェーンを重要経済基盤と位置付けた上で、①重要経済基盤を外部から保護するための措置等、②安全保障に関連した重要経済基盤の脆弱性、重要経済基盤に関する革新的技術等の重要情報、③重要経済基盤保護のための措置等に関する外国政府・国際機関からの情報、④関連する情報収集整理・能力という4つの類型の情報であって、その漏洩が安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿すべきものを重要経済安保情報として保護対象とした[21]。
第二に、第一の点と関連して、政府及び経済界においては、民間が保有する機微技術を重要経済安保情報として指定し保護するという要請が元々乏しかった。このため、重要経済安保情報として保護されるのは政府保有の情報にとどまり、民間が保有する機微技術そのものについての情報は対象外となった。これは、有識者会議最終取りまとめにおいて、「民間事業者等が保有している情報については、国が一方的に規制を課すことは民間活力を阻害する懸念もあることに留意が必要であり、民間事業者等が営業秘密として自主的に管理していくことが基本であると考えられる」とされたことも踏まえた措置である[22]。これにより、かかる情報は、民間が営業秘密として自主的に管理することを基本とした上で、営業秘密の保護について定める不正競争防止法や外国為替及び外国貿易法(外為法)といった既存法制で保護しつつ、政府から情報保護の指針等を示していくことについても検討することとされた[23]。
政府保有の機微情報を、従業者の適正評価を経て取扱資格を付与された民間事業者との契約に基づき提供する(第10条第1項)という枠組みは、基本的に特定秘密保護法の手続を踏襲したものである。その例外として、政府が自ら保有していない情報を民間事業者との調査研究等の契約により保有することが見込まれる場合、これを重要経済安保情報として指定した上で当該事業者に扱わせるという手続も規定されているが(第10条第2項)、この場合も民間事業者との契約の存在、またその対価として情報(調査研究成果)を受領することが前提となる。
第三に、特定秘密保護法と同様に、独立行政法人は重要経済安保情報の指定権限を有していない。このため、JSTやNEDO、JAXAといった国立研究開発法人が保有する情報は、民間事業者と同じ扱いとなり、それ自体では重要経済安保情報には指定できない。他方、政府との調査研究等に係る契約に基づき、当該法人に重要経済安保情報を保有させることは可能であるとされている[24]。
第四に、本法が対象とするのはコンフィデンシャル級の情報に限られ、トップシークレット・シークレット級の情報については特定秘密保護法により保護されることとなる。これを担保するため、法案の国会審議では、特定秘密の指定対象となる事項について定めた特定秘密保護法別表の事項を具体的に細目として示した運用基準(「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」[25])の見直しを行う可能性が政府から示された(ただし、現行運用基準の細目でも重要経済基盤保護情報に相当するものを読み込める可能性もあるとしている。)[26]。これにより、特定秘密保護法を改正したり、または重要経済安保情報保護活用法の対象にトップシークレット・シークレット級の情報を含めることなく、同レベルの情報を保護することは可能であるとの方針が示されたことになる。もっとも、政府としては、特定秘密保護法の別表には該当しないものの、重要経済基盤保護情報に相当するトップシークレット・シークレット級の情報が理論上存在することは否定していないが、それらが実際に立法事実として直ちに想定されることはないとの判断の下、今回の法律では手当てしなかったとしている[27]。
(3)論点
これらの特徴を持つ同法の課題は、どこまで現実に即した運用(機微技術管理及び企業の海外展開促進)ができるか、という点に尽きる。
特に、特定秘密保護法と同様に政府保有の機微情報を契約に基づき民間事業者に提供する仕組みを採用したことの是非が問われなければならないだろう。特定秘密保護法において、かかる仕組みは、研究開発や調達のための契約を通じ、防衛装備品やそれに付随する技術情報を政府(防衛省・自衛隊)が受領するという事実を前提として構築されていた。一方、経済安全保障分野の政府調達や調査研究において、同様の契約が想定されるかと言えば、政府の情報システム構築に関連したサイバー関連情報などの例を除けば、直ちに具体例を想起することは難しい。政府が重要物資のサプライチェーンにおける脆弱性等を調査する場合に、民間企業に調査を委託するといった例は想定されるが、(製品そのものの納入が求められる)防衛装備品の研究開発・調達とは異なり、そうした事例において、製品の開発や製造を行う技術者が関与する(セキュリティ・クリアランスを取得する)こととなるか否かは自明でないからだ。しかし、製品の開発や製造を担当する技術者がセキュリティ・クリアランスを保持していなければ、他国との共同研究や他国の政府調達に参入する際、必要な情報にアクセスできず、プロジェクトの遂行が難しくなるおそれがある。
同法制定の目的が、民間企業の海外案件参入機会を拡大することであったとすれば、これは主要な課題と言うべきである。セキュリティ・クリアランスを保持せず機微な商談や入札に参加することの困難性が元々の議論の出発点だったからだ。もっとも、政府間で国際共同研開発事業が具体的に交渉され、それぞれの国の民間企業を参加させるという過程を辿るのであれば、同法に基づき当該共同開発事業に関与する民間企業の従業者に外国政府由来情報の取扱資格を保持させることも可能となる。しかしそのような例では、厳密に言えば我が国民間企業由来の技術情報の取扱いではなく、外国由来の情報を取り扱うために資格を付与することとなるため、当該外国との関係では歪な状況が発生し得る。外国由来の情報は我が国において秘密として管理する義務が生じるにもかかわらず、我が国由来の情報を外国において秘密として同等に管理することを要求するのは、(我が国国内において秘密指定していなければ)不可能であるからだ。
このような不整合が生じる理由は、経済安全保障分野における(国の資金を投入した)技術開発が、防衛装備品の研究開発とは異なる性質を持っていることによる。すなわち、(繰り返しになるが)防衛装備品の研究開発が、政府への製品の納入を目的として行われるのに対し、経済安全保障に関連する技術開発は、上記2.で述べたとおり、基本的には民間における科学技術を振興するために行われているという差異である。したがって、後者においては、必ずしも政府自身が契約を通じて製品や技術を対価として受領するわけではなく、主に政府がJST、NEDO、JAXAといった国立研究開発法人の中に基金を造成し、当該法人からの委託又は補助により企業や研究機関に資金を提供することにより技術開発が行われている。
ここで政府と国立研究開発法人の間、そして同法人と委託先の間の2つの関係性が問題となる。前者の関係性においては、国が予算措置により当該法人内に造成された基金に補助金を交付し、法人は当該補助金を原資として民間企業・研究機関に技術開発の委託・補助を行う。その場合、当該委託・補助行為が、重要経済安保情報保護活用法第10条第2項にいう「適合事業者に行わせる調査又は研究その他の活動」に当たるのであれば、当該委託・補助の結果研究開発法人によって保有されることが見込まれる技術情報を重要経済安保情報に指定することは可能となる。国会における政府答弁は、こうした立場に立っていると推察される[28]。
かかる場合において、次に問題となるのが研究開発法人と委託先との関係である。補助の場合は別として、委託は自らの業務を外部に任せるものであるので、対価支払の成果は委託者(研究開発法人)に帰属するのが原則である。他方、産業技術力強化法第17条の規定の活用により研究成果に係る知的財産権は受託者(委託先)に帰属させることとなっているため、研究開発法人が保有することとなることが見込まれた情報を政府が重要経済安保情報に指定した場合、権利が帰属する(情報も保有する)第三者たる受託者にその効果(影響)が自動的に及ぶこととなる。しかし、重要経済安保情報を保有するためには、政府との契約が要件となっているので、受託者は研究開発法人ではなく政府と重要経済安保情報取扱いに係る契約を直接結ぶ必要が生じる。その場合、当該契約は、(産業技術力強化法の規定により)自らに権利が帰属する知的財産の利用・処分に関する権利を重要経済安保情報保護活用法に沿う形で制約する効果を発生させるものとみなすことが適当だろう。
問題は、重要経済安保情報保護活用法がそのような二重の関係性を前提として規定されたようには全く見えない点である。同法第10条第2項に基づく情報指定が同行にいう適合事業者(この場合研究開発法人)の同意を要件とするのみで、当該事業者の委託先(受託者)の同意は明示的に要件としていないためだ[29]。もっとも、政府、研究開発法人及び委託先の三者間で、重要経済安保情報指定についての合意形成があらかじめ図られていれば、実際に問題となることは想定されない。
しかし、現在の政府の説明はそうなっていない。例えば政府は、Kプログラムによって生み出される研究成果は公開することを基本としているので、「重要経済安保情報として指定されることはございません」と明言している[30]。国会審議の過程で複数の議員から当該方針について疑義が呈されたが、政府は、「Kプログラムにおいてはそのような(同法第10条第2項に規定する重要経済安保情報を提供するために必要な)契約を結んでおりませんし、指定もしておりませんので、それが重要経済安保情報になるということは我々としては想定しておりません」として否定している[31]。
これらの政府答弁、また研究成果は公開を基本とするとのKプログラム開始当初からの方針を踏まえれば、重要経済安保情報保護活用法の制定を契機としてKプログラム参加者にセキュリティ・クリアランスを付与することは現実的に難しいと評価せざるを得ない。実態的にも、基礎研究の段階にとどまる限りでは、その情報を秘密として保護する必要までは生じないのかもしれない。しかしそのことは、同法の制定によっても、容易にはセキュリティ・クリアランス保有者が増えていかないであろうことを意味しており、企業の海外進出にとっての課題は引き続き残ったままとなる。また、技術開発の段階が応用レベルに移るに従い、そのオープンな利用が安全保障上の懸念を生じさせる場合もあり得る。
特にそのような問題が発生し得るのが、上記2.で述べた宇宙戦略基金だろう。同基金により実施される研究開発は、成果を公開とするとの方針は示されておらず、実際、応用度の高い研究開発は、企業にとっても営業秘密として守りたいという動機が働くものが多いと考えられる。そうだとすれば、宇宙戦略基金(及び将来的にはKプログラム)に基づいて開発された研究成果を重要経済安保情報に指定し得るようにするためには、上記で指摘した政府、研究開発法人及び委託先の三者間の重要経済安保情報上の関係性と扱いを今一度、明確に整理することが求められる。
加えて、上記第10条第2項の仕組みを用いて情報指定を行う場合、政府がいまだ保有していない情報をあらかじめ指定することになるため、技術的専門性を持たない中で何が機微な情報なのかを政府単独で判断することは難しいという問題も伴う。このため、技術開発を行う企業や研究機関による自らの生成した技術が安全保障上機微となり得る旨の申告や、支援機関である研究開発法人による助言、これら事業者と委託元政府との間の緊密な連携も必要となる[32]。同条に基づく重要経済安保情報の合理的な指定を担保するためには、かかるプロセスを定式化していかなければならない。
(4)国際通用性における課題
企業の国際展開にとっては、もう一つ別の課題もある。それは、民間企業の従業者が重要経済安保情報保護活用法に基づく取扱資格を得たとしても、それがそのまま海外で通用するわけではないことによる。例えば、米国ではセキュリティ・クリアランスの取得を米国市民に限っており、日本のクリアランスが米国で直接通用するわけではない。したがって、国内法の制定に加え、その下での取扱資格をいかに国際的に通用させていくかという観点の取組が不可欠となる。
この点、米国の例で言えば、民間人を含む日米間の秘密情報のやり取りは、日米秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の下で行われることとされている。日米GSOMIAは、互いの秘密情報に相手国において与えられる保護と「実質的に同等の保護」を与えることや、契約企業(contractor)に秘密情報を提供する場合は当該情報にアクセスする個人が「秘密軍事情報取扱資格」(セキュリティ・クリアランス)を有すること、秘密情報の送付は「政府間の経路を通じて」行われるべきことなどを定めている。このため、双方の企業・民間人の間での秘密情報の共有は、クリアランスの保有等の条件を満たした上で、それぞれの政府間ルートを通じて行うしかない。
このことを踏まえると、日米国防当局間の共同研究開発や共同調達であれば、日本企業は政府を通じてプロジェクトに応じ参画することが可能であると言える。一方で、秘密情報を含む米国の政府調達や米国企業との共同事業に対し、日本企業が日本政府を介さずして直接参画する手段は、現状では存在しない。このため、日本企業が日本政府を介さず秘密情報を含む米国のプロジェクトに参加することはできない。
これについてはまず、GSOMIAがそれぞれの国の政府が直接契約関係にある企業に秘密情報を提供することを前提とした建付けを見直す必要があるだろう。すなわち、相手国における政府事業に自国企業が参加したい場合には、政府間経路を通じて秘密情報を提供することは当然だとしても、必ずしも自国政府と(開発や調達に係る)契約関係にあることまでは要しないとする協定の微修正又は用語の再解釈が必要となる[33]。また、日米GSOMIAの対象は「秘密軍事情報」と定義されているので[34]、防衛分野に該当しない重要経済安保情報のやり取りを対象に含めるためには、いずれにしても協定の改正が必要となる。
さらに、対象となる情報が防衛分野のものに限られない場合、日本政府における企業への情報受渡しをどの省庁が担当するのかも問題となる。防衛関連の共同開発事業であれば、防衛省が担当することで問題は生じないが、重要経済安保情報が含まれる事業については、基本的に当該情報を指定した省庁(文部科学省、経済産業省等)が担当することになると思われる。ただし、米国において秘密レベルの情報を含む事業を国防省以外がどの程度担当するのかは分からない。米国側で国防省が担当する事業については、何らかの形で日本の防衛省も情報指定省庁を支援することが求められることになるだろう。
政府は外国制度との互換性を問われた際、「情報保護の観点から、諸外国と同水準のルールを整備した上で、そのルールを実効的に運用をし(中略)、実績を重ねていくことによって相手国から情報を渡してもよいといった信頼を得ていくことが必要」と答弁している[35]。もちろんそのような理解促進・信頼確保努力の重要性は明らかであるものの、それだけでは国際通用性の確保にとって十分とは言えない。上記で述べたような具体的な手続の設定が不可欠となる。
4.問題の構造的要因―結びに代えて―
(1)強制力を伴う措置の忌避
本稿で述べてきたとおり、我が国においては、技術振興施策の先行が、当該施策によって振興される技術を管理するための強制力を伴う措置導入に当たっての選択肢の幅を狭めてきた。すなわち、「アメ」を先行させることにより、「ムチ」の導入の敷居が上がってしまったのである。政府がそのように自主規制したとも言える。その結果、技術管理施策においては、比較的強力な罰則を伴う重要経済安保情報保護活用法の適用対象は極めて抑制的に規定され、民間が保有する機微技術は営業秘密として自主的に管理することが基本とされた。そして、政府としては、そうした民間における自主的管理を促進する「ソフト」な取組を好んでいる。セキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議最終取りまとめで言及された政府からの指針等の発出の検討はその一環であろう。また、経済安全保障法制に関する有識者会議が2024年6月に発表した提言で、国が支援を行う研究開発プログラムにおける技術流出防止策の強化策が提唱されたことも、同様の流れとして位置付けることができる[36]。
このようなアプローチは、技術管理の重要性に対する理解とそのための自主的行動を国内で浸透させていくのには適しているが、最も強力な技術管理措置である情報保全制度と同列には語れない。また、重要経済安保情報保護活用法の策定過程で最も重視された情報取扱資格(セキュリティ・クリアランス)の保持と、それによる企業の海外進出促進という目的を達成できる手段でもない[37]。したがって、これらソフトな技術管理施策だけでは限界があることを認識しつつ、国が資金提供を行う研究開発事業に対する重要経済安保情報保護活用法の適用可能性を、遠からず正面から議論することが必要だろう。
(2)安全保障関連技術開発の広がり
技術振興と技術管理の間の均衡点の探索を難しくしているもう一つの要因は、安全保障領域の拡大であろう。防衛装備品の研究開発における先端的民生技術の応用の重要性が広く認識されてきたことにより、我が国に限らず各国が先端技術開発への資金提供を積極的に行うようになるとともに、その流出が安全保障上の懸念をもたらしている。
そのような中で、防衛省や防衛産業といった従来技術管理や情報保護に厳格なアクターだけにとどまらず、科学技術振興や産業振興を担当する文部科学省や経済産業省等の省庁や学術界も含め、安全保障に関連する研究開発を担うようになってきたわけである。その結果、従来科学技術・産業振興を担ってきたアクターの施策推進手法が、セキュリティ・クリアランス制度など安全保障分野の従来のアクターにしか知られてこなかった情報保護手法との間で摩擦を起こしている側面があることは否めない。
そのような摩擦は、累次に渡る制度の見直しや運用上の課題に直面することにより徐々に解消され、両者の関係は整合していくだろう。それまでの間、官民双方において、課題解決のための具体的な検討・提言を行う努力がより一層求められていくことになる。
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脚注
- [1] 自由民主党「『経済安全保障戦略』策定に向けて」2020年12月22日、https://www.jimin.jp/news/policy/201021.html。
- [2] 内閣府「経済安全保障重要技術育成プログラム」ホームページ、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/kprogram.html。
- [3] 内閣総理大臣決裁「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について」2022年6月17日、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/20220617_kihonteki.pdf。
- [4] 内閣府「経済安全保障重要技術育成プログラム」ホームページ。
- [5] JST「K Program」ホームページ、https://www.jst.go.jp/k-program/;NEDO「K Program」ホームページ、https://www.nedo.go.jp/activities/k-program.html。
- [6] 委託研究は、本来自らが行う事業を、対価を支払って委託先に行わせるものであることから、その成果物は委託元(国・JST/NEDO)に帰属するものである。この点、産業技術力強化法第17条は、国の財産の適正対価による譲渡を禁ずる財政法第9条第1項の特例として位置付けられている。なお、国は委託研究に際し産業技術力強化法第17条の規定を必ず用いなければならないというものではなく、あくまで委託先に知的財産を帰属させることを可能とする任意規定である。なお、防衛装備品の研究開発の契約では、基本的に当該規定は適用されていない。
- [7] 内閣官房及び内閣府「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用・評価指針」2022年9月16日、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/unyo-hyouka.pdf。
- [8] 閣議決定「特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針」2022年9月30日、https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin3.pdf。内閣府が公表しているQ&Aにおいて、「研究者が自ら生み出した研究成果は守秘義務の対象外で」あることが明確化されている。内閣府科学技術・イノベーション推進事務局及び大臣官房経済安全保障推進室「K Program に関する Q&A」2023年5月14日、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/20230414_qa.pdf。
- [9] 「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について」;内閣官房及び内閣府「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用・評価指針」2022年9月16日、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/unyo-hyouka.pdf。
- [10] 内閣府及び文部科学省「「海中作業の飛躍的な無人化・効率化を可能とする海中無線通信技術」に関する研究開発構想(個別研究型)」2023年12月、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/1_20231225_mext.pdf;内閣府及び経済産業省「「長距離物資輸送用無人航空機技術の開発・実証」に関する研究開発構想(個別研究型)」2023年10月、https://www8.cao.go.jp/cstp/anzen_anshin/02-03_20231020_meti_2.pdf。
- [11] 「経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について」。
- [12] 閣議決定「科学技術・イノベーション基本計画」2021年3月26日、https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf;閣議決定「統合イノベーション戦略 2021」2021年6月18日、https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/togo2021_honbun.pdf;内閣総理大臣決裁「統合イノベーション戦略推進会議の設置について」2021年4月1日、https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/sechi.pdf。
- [13] 統合イノベーション戦略推進会議「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」2021年4月27日、https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kokusaiopen/sanko1.pdf。
- [14] 閣議決定「宇宙基本計画」2023年6月13日、https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/kaitei_fy05/honbun_fy05.pdf;閣議決定「「デフレ完全脱却のための総合経済対策」について」2023年11月2日、https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2023/20231102_taisaku.pdf;宇宙政策委員会「宇宙技術戦略」2024年3月28日、https://www8.cao.go.jp/space/gijutu/siryou.pdf。
- [15] 内閣府、総務省、文部科学省及び経済産業省「宇宙戦略基金基本方針」2024年4月26日、https://www8.cao.go.jp/space/kikin/kihonhousin.pdf。
- [16] 前掲。
- [17] 「産業構造審議会 通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会中間報告」2019年10月8日、https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/anzen_hosho/pdf/20191008001_01.pdf。
- [18] 閣議決定「統合イノベーション戦略2020」2020年7月17日、140頁、https://www8.cao.go.jp/cstp/togo2020_honbun.pdf。
- [19] 衆議院内閣委員会、第12号(2022年3月25日)、小林鷹之経済安全保障担当大臣答弁。
- [20] 例えば、衆議院内閣委員会、第4号(2024年年3月22日)、品川高浩内閣官房経済安全保障法制準備室次長・内閣府大臣官房審議官答弁。
- [21] ただし、その具体例については、最終取りまとめにおける4例をほぼ踏襲している。「この重要経済基盤保護情報に該当し得る情報としては、例えば、我が国の重要なインフラ事業者の活動を停止又は低下させるようなサイバー攻撃等の外部からの行為が実施される場合を想定した政府としての対応案の詳細に関する情報、我が国にとって重要な物資の安定供給の障害となる外部からの行為の対象となりかねないサプライチェーンの脆弱性に関する情報、我が国政府と外国政府とで実施する安全保障に関わる革新的技術の国際共同研究開発において、外国政府から提供され、当該外国において本法案による保護措置に相当する措置が講じられている情報などが想定されます。」(品川次長、前掲注)。
- [22] 経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議「最終取りまとめ」2024年1月19日、11頁、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyo_sc/pdf/torimatome.pdf。
- [23] 衆議院内閣委員会、第4号(2024年3月22日)、品川次長答弁。なお米国では、政府資金の提供を受けた契約事業者や委託研究者が秘密情報を自ら生成し得る場合があることを想定し、そうした情報を秘密指定する例外的手続が定められている。大統領令第13526号は、政府資金の受給者等が自ら秘密指定を要する情報を創出したと判断した場合に、当該情報を管轄する政府機関にその旨を通知すべきことを規定しており、その通知を受けて、政府は当該情報を秘密するか否かを決定することとしている。各省庁による運用の実態は不明だが、この規定の存在が、大統領令第13526号が秘密指定の対象に含む「国家安全保障に関する科学技術又は経済的事項」の指定の間口を実際に担保するものとなっていると言える。小木洋人「“使える”セキュリティ・クリアランス法制のために積み残されている課題(上)」『新潮社フォーサイト』2024年2月19日、https://www.fsight.jp/articles/-/50431;「同(下)」https://www.fsight.jp/articles/-/50432。
- [24] 参議院内閣委員会(2024年4月18日)、品川次長答弁。
- [25] 閣議決定「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準の策定について」2014年10月14日、https://www.cas.go.jp/jp/tokuteihimitsu/pdf/r030701_siryou21.pdf。
- [26] 例えば、衆議院内閣委員会経済産業委員会連合審査会、第1号(2024年4月2日)、岡素彦内閣官房内閣審議官答弁。ただし、運用基準の改正は特定秘密保護法の対象となる情報の範囲そのものを拡大することはない。
- [27] 衆議院内閣委員会、第5号(2024年3月27日)、高市早苗経済安全保障担当大臣答弁。なおこの点に関連し、経済安全保障からは離れた論点として、特定秘密保護法別表に該当する政府の情報であってコンフィデンシャル級であり(つまり特定秘密保護法の対象外)、かつ重要経済基盤保護情報の定義に該当しないもの(非経済安全保障関連情報)については、適正評価を経て取扱資格を付与するための法律上の明文規定を欠くというある意味で倒錯した状況が生じることとなった。コンフィデンシャル級の外交情報など、国家公務員法上の守秘義務で保護される情報はその典型例であり、今後の手当てが待たれる。
- [28] 参議院内閣委員会(2024年4月18日)、品川次長答弁。
- [29] 特定秘密保護法の下でも、防衛装備品の製造過程で下請負先に特定秘密を提供し得ることが想定されており、その場合、政府と下請負先との間の特定秘密保護に関する直接の契約が必要となる。しかし、かかる契約や政府の同意がなければ下請負先に提供されない特定秘密の場合とは異なり、研究開発法人による委託の場合、技術情報を生成するのは本質的に受託者たる民間企業・研究機関である点に留意すべきであると考えられる。
- [30] 衆議院内閣委員会、第5号(2024年3月27日)、高市大臣答弁。
- [31] 参議院内閣委員会、経済産業委員会連合審査会、第1号(2024年4月25日)、飯田陽一内閣官房経済安全保障法制準備室長・内閣府政策統括官答弁。
- [32] 小木「“使える”セキュリティ・クリアランス法制のために積み残されている課題(下)」。
- [33] すなわち、「契約企業(contractor)」との用語の見直しが必要となる。
- [34] 日英、日仏、日独、日伊及び日豪情報保護協定の対象は軍事情報に限られない。
- [35] 衆議院内閣委員会、第7号(2024年4月3日)、品川次長答弁。
- [36] 経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障上の重要技術に関する技術流出防止策についての提言~国が支援を行う研究開発プログラムにおける対応~」2024年6月4日、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r6_dai10/siryou4.pdf。
- [37] この点は、不正競争防止法や外為法によっても満たせないことに留意が必要である。
主任研究員
防衛省で総合職事務系職員として16年間勤務し、2022年9月から現職。2007年防衛省入省。2009年から防衛政策局国際政策課で米国以外の国では初となる日豪物品役務相互提供協定(ACSA)の国内担保法を立案。2014年から2016年まで外務省国際法局国際法課課長補佐として、平和安全法制の立案や武力行使に関する国際法の解釈を実施。2016年から2019年まで防衛装備庁装備政策課戦略・制度班長として、防衛装備品の海外移転の促進、ウクライナへの装備支援でも活用された外国軍隊への自衛隊の中古装備品の供与を可能とする自衛隊法規定の立案、防衛産業政策などを主導。2019年から2021年まで整備計画局防衛計画課業務計画第1班長として、陸上自衛隊の防衛戦略・防衛力整備、防衛装備品の調達を統括。2021年から2022年まで防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員(室次席)として、ロシアのウクライナ侵略、中国の軍事動向を含む国際軍事情勢分析を統括。 2007年東京大学教養学部卒、2012年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。
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