戦略三文書における米国の位置づけ方:オーストラリアの戦略を参考に

日本の防衛がこれまで、自衛隊と日米同盟という二本柱によって支えられてきたこと、そして中国があらゆる分野で台頭し、優勢を確立しつつある極めて厳しい戦略環境を踏まえれば、米国との緊密な関係の維持は引き続き死活的に重要である。しかし他方で、現在の米国には、インド太平洋地域への関与や同盟国の防衛に関する意思と能力の双方に不確実性が高まっており、その懸念は日本の安全保障コミュニティでも共有されるようになってきた。そのため、日本にとって重要なのは、米国の関与を従前と同様に捉えるのではなく、そこに内在するリスクをいかに緩和するのかという点にこれまで以上に関心を払い、戦略の中にいかに組み込むかであろう。
オーストラリアが参考になる理由
この問題をゼロから構想しようとすれば、知的負担は大きく、判断を誤るリスクも高い。しかし幸いにも、日本には参照可能な先例が存在する。欧州の対米姿勢も示唆に富むが、最も参考にするべきはオーストラリアであろう。オーストラリアのアルバニージ政権は、4月16日に国家防衛戦略(2026NDS)と統合投資計画(2026IIP)を発表し、今後2年間の安全保障・国防政策の方向性を明らかにした(2024年の戦略と計画についてはこちらを参照)。
オーストラリアが置かれている戦略環境や、同国が採用している安全保障・防衛に対するアプローチは、日本のものと近似しており、近年は特にその傾向が強い。そのため、日本にとって次の戦略文書を検討する際に参照しやすい国でもある。両国は米国を介した間接的な同盟関係にあり、自由や民主主義、ルールに基づく国際秩序といった価値観を共有している。さらに、海洋国家であること、中国の台頭を戦略的な課題として認識していること、そして米国の地域への関与を不可欠とみなしている点など共通している。同様に、オーストラリアから見ても日本の戦略は近しく、その証にオーストラリアのリチャード・マールズ副首相兼国防大臣は、「日本ほど完全に戦略の整合と、そして、信頼関係で結ばれている国は他にない」との発言をこれまで何度も繰り返している。さらに、日豪の戦略的整合性を高めていくことを制度化しており、2025年12月に戦略的防衛調整枠組み(FSDC)を設置して以降、すでに3回開催している。
両国が米国に対して求める役割にも共通点が見られる。日本が2022年に発表した国家安全保障戦略でも、オーストラリアが2024年に発表した国家防衛戦略でも、米国との同盟は自国の安全保障のみならず、インド太平洋地域を含む国際社会の平和と安定に不可欠な役割を果たすとの趣旨が明記されている。他方で、もちろん相違点も存在する。日本は、米中戦争の引火点となり得る台湾海峡に地理的に近接していることから、自国の一部が戦場となる可能性を現実的に想定せざるを得ない。一方で、オーストラリアは地理的に離隔しているため、そのリスクは相対的に低い。この違いから、日本が米軍に期待する機能は、オーストラリアと比較して自国防衛への直接的な支援・貢献により重点が置かれているといえる。
もっとも、こうした差異があるにもかかわらず、基本的に米国に求める役割は日豪では大きな隔たりはない。そのため、対米アプローチにおいても共通点が多く見られるし、お互いを参照することが可能である。これまで両国では、自助努力を強化することで米国がこの地域の秩序を維持するためのコストを低減し、その結果として米国にとっての関与のベネフィットを相対的に高めることで、防衛コミットメントの信憑性を高めることができるといった主旨の議論が広く見られ、この論理は日豪防衛協力を進めるうえでの原動力にもなっていた。
米国の位置づけの変化
では、アルバニージ政権は今回の戦略文書の中で米国をどのように位置づけたのか。これまでの戦略文書では、オーストラリアにとって米国の重要性は、戦略的側面と価値の側面という二つの柱によって説明されてきた。
戦略の側面については、今回の戦略文書でも維持されており、米国は引き続きオーストラリアの国家安全保障および国防軍が信頼性ある軍事力を創出・維持・投射する能力の「基盤」と位置づけられている。ただし今回発表された文書では、米国との同盟の重要性が、従来以上に戦略的観点から強調されている点が特徴的である。豪米同盟は、インド太平洋における抑止力の強化と地域の安定の維持に不可欠であり、オーストラリアが単独では達成し得ない水準で国益を追求することを可能にするものだという説明が加えられた。こうした記述の強化は、以下で論じるように、価値の側面が後退する中にあっても、同盟の戦略的重要性自体は依然として揺るがないことを改めて強調しようとしたものと解釈できる。
一方で、価値の側面には明確な変化が見られる。従来の戦略文書では、米国は「価値観や理念を共有する同盟国」として位置づけられてきたが、今回の文書ではそうした記述は削除されている。トランプ政権下で顕在化した非リベラルな言動や、ルールに基づく国際秩序に対する姿勢をめぐる懸念を踏まえれば、この変化は驚くに値しない。結果として、米国との同盟関係は、従来の「戦略と価値の二本柱」から、「戦略に依拠した単一の柱」へと減ってしまった。
「自助」と「共同の抑止」
アルバニージ政権の豪米同盟に対するこうした認識の変化は、オーストラリアが「自助(self-reliance)」と「共同の抑止(collective deterrence)」という二つのアプローチを強調する方向へとつながっている。自助とは、危機や紛争の際に同盟国やパートナー国からの支援が限定的である場合も想定しつつ、自国防衛に必要な軍事力を自律的に運用・維持できる能力を強化するという考え方である。ただし、これはすべての事態において独力対処することを意味するものではない。依存を最小化しつつ、自国で担うべき任務とパートナー国等との協力によって補完できる領域との間で、現実的なバランスを取ることを志向する概念である。
自助あるいは自助防衛(defence self-reliance)は、1960年代後半から長年にわたって、オーストラリアの国防戦略における中核的な位置を占めていた概念であったが、近年は必ずしも前面に出ていたわけではない。実際、2023年の国防戦略見直し(2023DSR)や2024年の国家防衛戦略(2024NDS)では言及は限定的であった。ところが今回の戦略文書では言及回数が前回の4回から18回へと大幅に増加し、さらに概念説明に1ページが割かれるなど、明らかに重点化が図られている。
米国由来のリスクを緩和するもう一つのアプローチが、共同の抑止である。これは、米国を含む同盟国やパートナー国との協力を通じて、地域の安定に寄与し、軍事的威圧や大規模紛争の勃発を防ぐべく、抑止力を強化しようとする考え方である。オーストラリアは2024年の国家防衛戦略以降、この概念を取り入れており、日米豪防衛協議体(TDC)の共同声明でも用いられるなど、その重要性は高まっている。
今回の戦略文書では、この共同の抑止も大幅に強調されている。前回文書での言及が4回にとどまっていたのに対し、今回は17回に増加しており、自助に次ぐ中核概念であると言えるだろう。さらに注目すべきは、そのスコープの拡大である。従来は相互運用性の向上など、主として各国軍の能力面での協力に焦点が当てられていたのに対し、今回の戦略文書では、それに加え、恐怖や力ではなく、権利とルールによって統治される地域秩序の形成を目指すことまで含まれるようになっている。ただし、こうした要素は従来の概念にも内在していた可能性があり、今回の変化は米国との関係において価値の側面が削除されたことを受け、補完を目的により明示的に打ち出したものと見ることもできる。
戦略三文書への示唆
今回発表されたオーストラリアの戦略は、米国の予測不可能性の増大に伴って生じた、地域秩序の維持に対するコミットメント低下のリスクを、いかに管理するかに焦点を当てたものである。アルバニージ政権は、自国の安全保障の基盤である米国との同盟関係を、戦略的側面と価値の側面という二本柱から、前者をより中心とする形へと再定義した。そのうえで、戦略的側面をさらに強化するために自助を重視するとともに、戦略と価値の双方を補完する手段として共同の抑止を前面に押し出したと整理できる。
注意すべきは、オーストラリアがこうしたキーワードを打ち出したからといって、米国との同盟関係そのものを軽視しているわけではないという点である。オーストラリアは、「自助」を達成するために原子力潜水艦を含め、引き続き米国製の装備品を輸入あるいはライセンス生産を進めようとしているうえ、「共同の抑止」においても米国はその中に位置づけられている。本稿で見てきたように、アルバニージ政権は、戦略面においてむしろ米国との関係の重要性をこれまで以上に強調している。今回の戦略は、一層厳しさを増す戦略環境と第二次トランプ政権の予測不可能性という二つの課題に同時に向き合う中で提示された一つの応答であったといえる。日本が戦略三文書を策定するにあたっては、重要性と予測不可能性の双方が増す日米同盟と、相対的に予測可能性が高いものの、その効果が限定的である自助努力および同志国との連携とのベストミックスを模索していくことが求められるだろう。
(画像出典:ロイター/アフロ)


研究員
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同法学研究科政治学専攻修士課程修了。2023年4月より博士課程。専門は、米豪同盟、防衛・安全保障政策、防衛産業政策。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)でのインターン(日米軍人ステーツマンフォーラム(MSF))を経て現職。
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