トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説 No.7(2025年2月26日-3月3日)

・中国からの合成オピオイド供給網に対処するための関税措置について、税率を引き上げる大統領令
・木材・製材の輸入がもたらす国家安全保障上の脅威に対処するための大統領令
・TSMCによる対米1000億ドル追加投資を発表
トランプ政権トラッカーの一覧(2025年1月20日~)
・【一覧】トランプ政権トラッカー(大統領令・布告・覚書・発表)
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大統領令一覧
■解説付き■ 中国からの合成オピオイド供給網に対処するための関税措置について、税率を引き上げる大統領令(3月3日)
この大統領令は、2月1日発令の「中国からの合成オピオイド供給網に対処するために関税を課税する大統領令」で規定されていた10%の関税を、20%まで引き上げるものである。中国政府が依然として適切な措置を講じていないことを理由としている。(大統領令はこちら)
解説
米国の追加関税の根拠とされているフェンタニル対策に関して、中国側は従来から取り得る措置は取っているというスタンスでいる。中国による対策実施の徹底程度は米国との交渉材料にはなり得るが、追加的な措置の余地は限られていた。それゆえ、米国による今回の関税引き上げに対して、中国は強い反発を示した。3月4日、中国政府は広範な対抗措置を講じた。これには、米国産農産物への関税措置、信頼できないエンティティーリストおよび輸出管理規制ユーザーリストへの特定米国企業の記載による規制強化、さらに米国産木材および一部企業からの大豆輸入の一時停止などが含まれる。同日、中国政府は約1万字の中国語による「中国のフェンタニル類物質規制」白書を発表した(英語版)。この白書は、国内での厳格な取り締まりや、米国、メキシコを含む多国間での国際協力による成果を強調しており、フェンタニル問題の根源は米国自身の管理にあるとの立場を改めて明確にした形だ。フェンタニルを争点とする限り、米中両国の主張は平行線をたどり、交渉の長期化が予想される。(土居健市)
南部国境を通じた違法薬物流入に対処するための関税措置について、改正を行う大統領令(3月2日)
この大統領令は、2月1日に発令された「南部国境の状況に対処するために関税を課税する大統領令」を一部修正するものである。元の大統領令では、メキシコから輸入される全ての製品に対する関税について「de minimis制度」による関税免除が適用されないと明記されていたが、本大統領令ではde minimis制度の適用を一時的に認めつつ、商務長官の判断により適用が停止される可能性があるとしている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
北部国境を通じた違法薬物流入に対処するための関税措置について、改正を行う大統領令(3月2日)
この大統領令は、2月1日に発令された「北部国境を超える違法薬物の流入に対処するために関税を課税する大統領令」を一部修正するものである。元の大統領令では、カナダから輸入される全ての製品に対する関税について「de minimis制度」による関税免除が適用されないと明記されていたが、本大統領令ではde minimis制度の適用を一時的に認めつつ、商務長官の判断により適用が停止される可能性があるとしている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
■解説付き■ 木材・製材の輸入がもたらす国家安全保障上の脅威に対処するための大統領令(3月1日)
木材・製材産業は建設業や軍事面において重要であるにもかかわらず、米国は木材資源を輸入に依存し脆弱性にさらされているとして、木材・製材関連の輸入が国家安全保障に及ぼす影響を調査し、関税を含む対応策を提案するよう商務長官へ指示している。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
解説
この大統領令は、トランプ政権が国家安全保障への影響を理由に、重要資材の国内生産を奨励するために関税やその他の措置を課す可能性があることを示すもう 1 つの例である。これは、同日に発表された別の大統領令「米国木材生産の即時拡大」と併せて検討されるべきであり、この大統領令は、連邦政府機関に木材生産の規制緩和と外国サプライヤーへの依存を減らす方法についてのガイダンスを提供するよう指示している。国家安全保障の要素があることで、1962 年の貿易拡大法第 232 条で与えられた権限に基づいて調査することが可能となり、270 日以内に大統領に報告書が提出される予定である。木材、製材、およびその派生製品の輸入が国家安全保障を脅かすと判断された場合、報告書では、潜在的な関税、輸出規制、または戦略的投資と許認可改革による国内生産増加のインセンティブなど、そのような脅威を軽減するための措置を勧告する。この文言は、米国の外国製鉄鋼、アルミニウム、銅への依存に対処する以前の大統領令とほぼ同じである。しかし、木材と製材は、進行中の二国間貿易紛争で危険にさらされている主要な輸入元であるカナダに対する米国の関税という文脈でも重要であり、米国は2016年以来、木材と製材の純輸入国となっている。トランプ大統領は、カナダが補助金やその他の「略奪的な貿易慣行」を通じて自国の木材と製材産業を支援していると主張し、米国は貿易政策と規制緩和を利用して、国内需要を満たすために米国の森林を利用する相対的なコストを下げるべきだと述べた。(アンドリュー・カピストラノ)
アメリカの木材生産を即時に拡大させる大統領令(3月1日)
この大統領令は、国内に豊富な木材資源があるにもかかわらず、政府の規制がその活用を妨げ、輸入依存を招いていることが、経済安全保障、雇用、環境、災害対策に悪影響を及ぼしているとし、規制緩和を通じた木材生産の迅速な拡大を命じている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
英語をアメリカ合衆国の公用語に指定する大統領令(3月1日)
この大統領令は、アメリカ市民全体の統一感と一体感を育み、政府の機能を効率化させるために、英語を正式にアメリカ合衆国の唯一の公用語と定めている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
「政府効率化省」(DOGE)下のコスト効率化イニシアティブを実行段階に移す大統領令(2月26日)
この大統領令は、政府支出の透明性と説明責任の確保を掲げ、あらゆる政府支出の改革を行うとするもの。具体的には、各機関内で全ての支出を記録・精査するシステムの構築、既存のあらゆる契約や助成金等の見直し、契約・助成金・出張その他までにおけるDOGEによる監視などを規定している。また各機関の職員が保持する業務用クレジットカードの凍結(30日間)、政府所有不動産の整理なども指示されている。(大統領令はこちら、ファクトシートはこちら)
布告・覚書・公式発表一覧
メラニア夫人が円卓会議を主催:オンライン上の児童保護と「Take It Down 法」について(3月3日)
3月3日、メラニア・トランプ大統領夫人は共和党議員や性的画像拡散の被害者団体、関連分野の団体と共に会議を行った。議論では安全なオンライン空間やソーシャルメディアにおけるAIの影響などが取り上げられ、リベンジポルノやAIで生成された性的画像を迅速に削除できる「Take It Down」法の可決に向けた働きかけが行われた。(覚書はこちら)
■解説付き■ TSMCによる対米1000億ドル追加投資を発表(3月3日)
3月3日、トランプ大統領とTSMCのシーシー・ウェイCEOは、TSMCがアリゾナ州の半導体製造工場に1,000億ドルを追加投資し、投資総額が1,650億ドルになると共同発表した。これにより工場は6つに増え、多くの雇用創出が見込まれている。(発表はこちら、会見全文はこちら)
解説
トランプ大統領とTSMCのCEOがそろって会見し、TSMCが15兆円という大規模な米国投資を表明したことは非常に大きなニュースである。元々、第2工場までの計画があったが、それが6工場にまで拡大し、先端パッケージングを担う海外初の施設2棟や1,000人規模の研究開発拠点も設置される。台湾としては、「シリコンシールド」と言われる半導体産業の重要な強みが米国側に移ってしまう懸念もある。元々最先端部分は台湾に残すとしていたが、米国に大規模な研究開発拠点を開設すれば、それもどうなるかは分からない。
本計画の実現が進めば、米国の経済安全保障上で大きな意味を持つことは間違いない。一方で、台湾で効率的に製造している半導体を、米国で全く同じ歩留まり水準、低コストで生産できるかは疑問も残る。労働慣習の違いなどが指摘されており、新竹や台南よりは高コストになる可能性もある。仮にアリゾナ工場からの製品の販売価格が高止まりするなら、米国における半導体使用製品への一定の価格転嫁は避けられず、米国内での製品価格上昇、EVやデータセンター等の普及の減速といったマイナス効果につながる可能性も無いとは言えない。アリゾナ工場での量産化の状況、リーズナブルなコスト実現の成否が注目される。(田上英樹)
「トランプ大統領とヴァンス副大統領はアメリカ国民のために立ち上がっている」(2月28日)
2月28日、ホワイトハウスはウクライナのゼレンスキー大統領との首脳会談を振り返り、「トランプ大統領とヴァンス副大統領はアメリカ国民の利益とアメリカの国際的な立場を常に守り、アメリカ国民が搾取されることがないようにする」と強調した。(発表はこちら)