中国のレアアース分野での成功が経済安全保障に示す教訓

中国のレアアース分野での成功が経済安全保障に示す教訓
【執筆者: Dr. Naoise McDonagh エディス・コーワン大学 ビジネス・法学部】

中国によるレアアース市場の支配は、同国特有の政治経済体制を理解する手がかりとなる。2024年、中国は世界のレアアース採掘量の60%を占めた一方、精製酸化物の91%、焼結希土類永久磁石の94%を生産した。この圧倒的な支配力は、地質学的な幸運、安価な労働力、政府補助金だけで説明できるものではない。これらはいずれも一定の役割を果たしたものの、より重要なのは、中国が共産主義的な経済計画と資本主義的な市場原理を融合させ、進化を続ける産業政策を通じて、レアアース磁石のサプライチェーンを掌握したことである。国家が戦略的方向性を定め、重要な要所を管理する一方、企業は技術を吸収し、コストを削減し、生産規模を拡大してきた。その結果、世界で最も包括的かつ低コストの採掘から磁石製造に至るイノベーション・エコシステムが形成され、極めて強力な地経学的レバレッジを生み出した。
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国家によって形成され、規定される市場

「国家主導型」と「市場主導型」という区分では、中国経済の実態を十分に捉えることはできない。改革開放政策は、計画経済を自由市場に置き換えたわけではなかった。鄧小平氏は、硬直的なソ連型計画経済を解体すると同時に、民間市場の役割を拡大した。しかし、その目的は、市場をマルクス・レーニン主義の政治体制の中に組み込むことにあった。実際、中国の社会主義市場経済では、民間の自主的な経済活動が認められる一方、それが党・国家の目標に従属させられることも多く、資本は戦略的優先分野へと誘導される。この制度的革新は、中国の政治体制に適合している。市場がイノベーションを生み出す一方、国家は重要分野における広範な所有権と、市場を戦略目標に向けて誘導する権限を維持している。

レアアース磁石のエコシステムは、その一例である。1990年代、中国政府はレアアースを保護鉱種に指定し、採掘分野への外国企業の参入を制限する一方、下流工程では技術移転を伴う投資を奨励した。政策的な優遇措置は、中国国内での加工・製造に有利に働いた。その後、政策の重点は環境規制、トレーサビリティ、管理の厳格化へと移行した。現在では、採掘と分離に関する正式な生産割当枠は、国有企業2グループに集中している。これにより、中国政府は上流工程の原料供給に対する監督を強化し、2025年に導入した輸出管理制度の実効性を高めている。

民間企業と磁石技術のイノベーション

中央政府が戦略的方向性を定める一方、生産方法の確立や、どの用途が市場で事業規模を拡大できるかといった商業的な可能性の発見については、依然として市場で活動する企業が大きな役割を担っている。2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟は、輸出機会の拡大を一気に加速させた。国内企業は生産能力を拡大し、外国の技術を吸収するとともに、レアアースの金属化や永久磁石の輸出市場を開拓した。煙台正海磁性材料(Yantai Zhenghai Magnetic Materials)や金力永磁(JL Mag Rare-Earth)などの上場企業は、その成功例である。これらの企業は独自の製造工程に関する技術・ノウハウを有し、民生用、産業用、防衛用途に使用されるネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)磁石を世界的に重要な規模で生産している。

しかし、戦略的分野において、党・国家が民間企業から完全に距離を置くことはない。金力永磁が2022年に香港市場に上場した際、公募株式の約半分を引き受けた5社のコーナーストーン投資家には、中国国有企業混合所有制改革基金、華潤集団(China Resources)、中国中信集団(CITIC)、招商局集団(China Merchants Group)などの国有企業グループが含まれていた。これは、名目上は民間企業であっても、国家から出資を受け得ることを示している。民間による経営支配と国家資本は共存し、市場のインセンティブを維持しながら、国家が影響力を行使する経路を形成しているのである。

したがって、中国のレアアース磁石のエコシステムは、同国の経済モデルを象徴する事例といえる。国家資本は、長期的な時間軸と初期段階での低い投資収益率を受け入れ、複数の生産段階にわたる能力構築を同時に資金面で支えた。一方、民間企業や混合所有制企業は、迅速な事業展開、試行錯誤、顧客ニーズへの対応力を提供した。

単に規模を拡大した「アジアの虎」経済ではない

中国の経済モデルは、日本を含む東アジアにとって全く異質なものというわけではない。日本も高度経済成長期には、金融資源の配分を誘導し、特定の産業を保護し、投資を調整していた。しかし、中国はこうした政策調整の志向に加え、戦略的な要所におけるはるかに広範な国家所有、市場を歪める大規模な財政支援、市場の方向性を形作る計画的な政策誘導を組み合わせている。また、中国は五カ年計画や「中国製造2025」などの政策を通じて、新たな先端技術分野で主導的地位を確立しようと努め、多くの場合、それに成功してきた。

中国が大規模な産業計画によって産業エコシステム全体の支配を目指すのに対し、2010年のレアアース危機に対する日本の対応は、両国の経済モデルの重要な違いを示している。日本政府は、サプライチェーン全体を国内で掌握しようとするのではなく、海外投資、長期引取契約、リサイクル、代替材料の活用を通じて強靱性の向上を図った。2011年には、当時の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC、現在のエネルギー・金属鉱物資源機構)と双日が、オーストラリアのライナス(Lynas)に対し、代替供給源の開発を目的として、融資と出資を合わせて2億5,000万米ドルを提供した。国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、日本のレアアース需要総量は現在、2010年の水準を30%下回っている。こうした措置は、中国のような垂直統合型の支配構造を再現するのではなく、供給源の多角化と需要の抑制を図るものである。

しかし、2025~2026年に中国が再び導入した輸出規制は、このアプローチの限界を浮き彫りにした。代替的な加工能力や磁石生産能力が十分に確保されていない限り、日本は引き続き供給途絶のリスクにさらされることになる。

中国の経済システムの限界

中国経済は、壮大な基本計画に従ってのみ動いているわけではない。産業計画は、地政学的なチョークポイントを掌握できるほどの大規模な成長を促進する一方、企業の利益追求行動によって、市場が党にとって政治的・社会的に望ましくない方向へ発展することもある。その結果、党は計画に基づく介入ではなく、事後対応的な介入に動き、商業的な発展を阻害することになる。

このように、国家による計画と市場のインセンティブの融合は、しばしば混乱や無駄を伴い、大規模な資本の誤配分や過剰生産能力を引き起こし得る。とりわけ過剰生産能力は、世界貿易を歪めるとともに、国内では「内巻(過当競争)」を助長している。財政的な優遇措置によって、利益を生み出せない「ゾンビ企業」による破壊的な競争が引き起こされているためである。

欧州中央銀行(ECB)の推計によれば、2024年には中国の工業企業の28%が赤字に陥っており、その割合は2018年の2倍に達した。また、新たな固定資産投資から得られる収益が逓減していることは、中国の投資主導型成長モデルが勢いを失いつつあり、投資効果が低下する一方で、債務残高が大幅に増加していることを意味する。2026年には、中国の非金融部門向け信用残高はGDP比200%に達し、米国の140%を大きく上回った。

過剰生産能力、企業・政府部門の多額の債務、低い収益性は、中国経済の長期的な持続可能性を脅かしている。しかし、英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズ氏が述べたように、「長期的には、われわれは皆死んでいる」。つまり、中国政府は経済的な逆風に直面しながらも、世界の製造業に占めるシェアを拡大し続けており、国内の矛盾を長期にわたって管理できる可能性があるということである。中国が経済危機に陥るのを待つことは、明らかに戦略とはいえない。

中国政府が地政学的・戦略的目標を達成するために経済を活用してきたことは、国際的な経済競争のあり方を恒久的に変化させた。2025年のレアアース輸出規制は、中国の産業政策が生み出した地経学的配当を示した。レアアース永久磁石のエコシステムにおける支配的地位は、世界中の下流産業に対する強力な影響力へと転化したのである。

経済安全保障における協力

日本とG7(主要7カ国)のパートナー諸国が得るべき教訓は、中国の経済モデルを模倣することではなく、その影響を緩和することである。経済安全保障が重視される時代において、市場主導型経済に適した市場調整の仕組みを構築することが重要となる。国家は戦略分野における新たな産業能力の構築を資金面で支える必要がある一方、民間企業がその発展を主導することが求められる。ただし、そのためには信頼できる商業的収益の見通しが不可欠である。

オーストラリアの戦略的な重要鉱物政策は、その一例である。同国政府は、西オーストラリア州におけるライナスのレアアース中間加工施設の開発を支援し、同施設は2024年に操業を開始した。

イルカ・リソーシズ(Iluka Resources)に対する支援には、16億5,000万豪ドルのノンリコースローン(非遡及型融資)が含まれる。これは、西オーストラリア州において、軽希土類と重希土類の両方の酸化物を生産できる、中国国外では数少ないレアアース精製施設の一つを建設するためのものであり、2027年の稼働を予定している。

また、アラフラ・レアアース(Arafura Rare Earths)は、ノーザンテリトリー(北部準州)における軽希土類酸化物プロジェクトを推進するため、オーストラリア政府系機関から8億4,000万豪ドルの優遇融資と2億豪ドルの出資を受けた。同プロジェクトは2029年に初めての生産を予定している。

これらの投資は、G7がレアアースの供給リスク低減を進める上で、オーストラリアの戦略的不可欠性を高めることになる。

オーストラリアの重要鉱物戦略は、戦略分野に民間資本を呼び込むために、政府によるリスク低減措置が極めて重要な役割を果たすことを示している。次の段階として、G7諸国とオーストラリアは、経済安全保障協定を締結することにより、各国の個別の取り組みを統合すべきである。それによって、2030年までにいずれの一国に対する依存度も60%未満に抑えるというG7の供給リスク低減目標の達成を目指す必要がある。

レアアースの供給リスクを低減するためには、市場の力だけでは達成できない目標に向けて、国家と市場の新たな関係を構築するとともに、長期的な計画を策定することが求められる。

(写真:Bloomberg / Getty)

Naoise McDonagh

Dr. Naoise McDonagh is the Director of the MBA program and Senior Lecturer in geopolitics and international trade at the School of Business and Law, Edith Cowan University, Australia. He is a non-resident fellow in economic security at the United States Studies Centre, University of Sydney and the managing editor of the academic journal Law & Geoeconomics. Dr McDonagh has over 50 publications in scholarly and policy outlets and has worked extensively on the nature and consequences of strategic economic competition in the international system. He regularly engages keynote speaking and media appearances. He earned his PhD at the University of Auckland, New Zealand and MA at the University of Galway, Ireland.Dr Naoise McDonagh is the Director of the MBA program and Senior Lecturer in geopolitics and international trade at the School of Business and Law, Edith Cowan University, Australia. He is a non-resident fellow in economic security at the United States Studies Centre, University of Sydney and the managing editor of the academic journal Law & Geoeconomics. Dr McDonagh has over 50 publications in scholarly and policy outlets and has worked extensively on the nature and consequences of strategic economic competition in the international system. He regularly engages keynote speaking and media appearances. He earned his PhD at the University of Auckland, New Zealand and MA at the University of Galway, Ireland.

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