解説 ハンガリー総選挙:ティサ大勝の要因と与野党が抱える今後の課題

2026年4月12日、中欧のハンガリーで議会選挙(任期4年、定数199、小選挙区比例代表並立制)が実施された。2010年から16年間にわたって政権を担ってきたオルバーン首相は、近年、EUに対して対立的な…(以下に続きます)
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2026年4月12日、中欧のハンガリーで議会選挙(任期4年、定数199、小選挙区比例代表並立制)が実施された。2010年から16年間にわたって政権を担ってきたオルバーン首相は、近年、EUに対して対立的な姿勢を強めてきたことから、今回のハンガリー総選挙はEUの将来にも影響を及ぼし得る重要な選挙として国際的にも関心が寄せられた選挙となった。

今回の選挙では、2024年以降に本格的な政治活動を展開してきた最大野党の中道右派政党ティサが141議席を獲得し、3分の2を超える圧倒的多数を確保し、5月9日に政権交代が実現することとなった。

政権交代の要因

マジャル・ペーテル党首率いるティサの勝因としては、主に以下の四点が指摘できる。

第一に、マジャル党首が元フィデス党員で保守派を自認していること、そして2024年より欧州議会議員を務めており不逮捕特権を有していたことで、オルバーン政権がティサに対して政策面で批判したり、法的手段に訴えたりすることが難しい環境にあった点である。

第二に、汚職対策や公共施設への投資強化など、有権者にとって身近な政策に焦点を絞ることで、社会のさらなる分断を回避しつつ、オルバーン政権からの「変革」と将来への「希望」を訴えた点である。

第三に、SNSを駆使した(演説のライブ配信から料理動画まで硬軟交えた)情報発信による「空中戦」と、地域コミュニティを形成しながらマジャル党首による全国遊説を展開する「地上戦」を並行して展開した点である。

第四に、既存の与野党の国会議員をティサの候補としない方針を掲げ、既成政党との差別化を図るとともに、企業幹部や医師、弁護士など各分野の専門人材を積極的に擁立することで、実務能力についても一定の信頼を獲得した点である。

これらの条件や戦略が相互に作用し、若年層や都市部のみならず、従来野党が苦戦してきた地方においても支持を拡大することに成功した。無投票層にも支持を広げ、投票率は過去最大の78.9%を記録した。

他方、これまで政権を担ってきたフィデスは、83議席減の52議席にとどまる惨敗となった。

今回の選挙戦においてオルバーン政権は、2020年以降の景気低迷やインフレ、住居費の高騰に対する有効な対応を示せない中で、外交問題を国内政治の主要争点として位置づける戦略を採用した。ロシア・ウクライナ戦争や中東情勢の不安定化を背景に国内の「安定」を強調するとともに、野党を「親ウクライナ派」と批判し、AI生成の動画や漫画なども活用しながら、「ウクライナの植民地にはならない」「ティサが勝利すればハンガリーはウクライナやEUの言いなりになる、戦争に巻き込まれる」などと恐怖を煽った。しかし、こうした過激な言説は政権への不満を抱く有権者の支持回復にはつながらず、むしろ従来の支持層の一部の離反をも招いてしまった。

マジャル新政権の組閣と今後の注目点

今後の主な注目点は、ティサが国内の制度改革を円滑に実施できるか、EUやウクライナとの関係改善、そして敗北したフィデスがいかに党勢を立て直すかにあろう。

国内の制度改革とティサの統治能力

ティサにとっては、オルバーン政権が約16年にわたり構築してきた国内の強権的な統治システム、すなわち司法の独立や報道の自由の制約といった制度上の歪みを是正していくことが求められる。オルバーン政権下のハンガリーにおいて法の支配の欠如などを理由にEUからの補助金の多くが凍結されていたことに対して、マジャル新政権は速やかな制度改革と補助金の凍結解除を目指している。国内の制度改革を正当性を確保しながら迅速に実行に移し、補助金の凍結解除を実現できるかが政権運営の成否を左右する一つの重要な鍵となる。

こうした改革には統治能力が不可欠である。今回の総選挙により、ティサからは実務経験に富む議員が多数誕生し、選挙後には党の専門家を中心に、一部に外部の専門家を含めた組閣を実施しているが(表1)、政治経験を有する人材は限られている。急速に拡大した党内の結束を維持し続けることは容易ではないことが予想され、党内の意思決定プロセスと政策調整メカニズムをいかに構築できるかが問われているといえよう。

表1:マジャル新政権における閣僚候補一覧

EUとウクライナとの関係改善

対外的には、オルバーン政権が対立を深めてきたEUやウクライナとの関係修復がマジャル新政権の主な課題となろう。オルバーン政権は、EUからの補助金をめぐる対立に加え、ウクライナ支援や対ロシア制裁をめぐるEUの決議に繰り返し拒否権を行使することで、EUとの対決姿勢を強めてきた。マジャル新政権は、こうした対立的な対EU政策に反対しており、移民政策など一部に意見の相違はあるものの、基本的にはEUへの回帰を掲げ、建設的な関係を模索するとみられる。

また、対ウクライナ政策については、ウクライナを敵視してきたオルバーン政権に対して、ティサ党は選挙戦では積極的な争点化を避ける戦略をとっていた。また、ティサは、ウクライナへの軍事支援やEUへの早期加盟には反対の意向を示している。しかし、マジャル新政権はウクライナの将来的なEU加盟自体には反対しておらず、ロシアのウクライナ侵略に対しても(オルバーン政権とは異なり)明確にロシアを非難している。両国関係の悪化の火種となってきたウクライナにおけるハンガリー系少数民族をめぐる問題についてもマジャル新政権は対話の意思を示している。

対EUおよび対ウクライナの双方において、反対一辺倒ともいえたオルバーン政権の近年の外交姿勢から、交渉による解決を志向するマジャル新政権へと移行することで、今後のハンガリーとEUおよびウクライナとの関係がどのような進展を見せるかは、新政権の対外政策上の重要な注目点となろう。

<関連記事>
フォーサイト「ハンガリー「マジャル新政権」は親EU・親ウクライナへ傾くのか?(上・下)」(2026年5月2日)

EU(欧州連合)内で「最も親ロシア的」と呼ばれたオルバーン政権が下野し、ハンガリーは16年ぶりの政権交代を迎える。マジャル率いるティサ党の新政権は「親EU・親ウクライナ」と観測されるが、ティサがすべての政策でオルバーン路線からの決別を目指すわけではない点も留意したい。新政権に想定される対外政策の特徴を、主要人事と主要分野から検討する。

フィデスの再建は実現するのか

他方、フィデスにとっては党勢の立て直しが急務である。しかし、党首であるオルバーン首相は党を刷新するという名目で議会での議席を持たずに党首を続投する可能性が高くなっており、選挙戦中盤までキャンペーンの責任者を務めていたオルバーン・バラージュ首相府長官も欧州議会議員としての活動を継続することを表明している。フィデス敗北の責任の所在は依然として不明確なままである。これまでフィデスはオルバーン首相の下で結束を維持してきたが、党内の抜本的な改革を伴わないまま、いかに党の再建を図るのかが問われている。

石川 雄介 研究員/デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了、明治大学政治経済学研究科博士後期課程在籍。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)、主な論文に "How Opposition Strategies Interact under Electoral Autocracy: Evidence from Hungary’s TISZA Party"(Politics in Central Europe、2026年6月出版予定)などがある。 TIハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所でのインターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)やEUROPEUMでの訪問研究員を経た後、現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 【兼職】 埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師(秋学期担当、欧米経済事情、2単位) Visiting Research Fellow, EUROPEUM Institute for European Policy External contributor, Anti-Corruption Helpdesk, Transparency International Secretariat (TI-S)
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研究者プロフィール
石川 雄介

研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー

専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了、明治大学政治経済学研究科博士後期課程在籍。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)、主な論文に "How Opposition Strategies Interact under Electoral Autocracy: Evidence from Hungary’s TISZA Party"(Politics in Central Europe、2026年6月出版予定)などがある。 TIハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所でのインターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)やEUROPEUMでの訪問研究員を経た後、現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 【兼職】 埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師(秋学期担当、欧米経済事情、2単位) Visiting Research Fellow, EUROPEUM Institute for European Policy External contributor, Anti-Corruption Helpdesk, Transparency International Secretariat (TI-S)

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