解説 ブルガリア総選挙:政治停滞の打破と新政権の行方

解説 ブルガリア総選挙:政治停滞の打破と新政権の行方
2026年4月19日、南東欧のブルガリアにて総選挙(一院制、定数240、比例代表制)が実施された。前回(2024年)の選挙の寸評でも述べたように、2021年以降、同国ではいずれの政党も過半数を確保できず、政治的不安定が続いており、今回は過去5年間で8回目の選挙であった。
しかし、今回の選挙では、ルメン・ラデフ前大統領が率いる新興の中道左派系の政治連合「前進するブルガリア(PB)」の出馬により状況が一変し、同連合は汚職問題や経済状況への不満といった国民の不満に加えて近年の政治停滞の打破への国民の期待を取り込む形で131議席を獲得し、単独で過半数を確保した。他方で、ボリソフ元首相率いる中道右派政党「欧州発展のためのブルガリア市民」(GERB)は前回比14議席減の53議席にとどまり、「ブルガリア・ファースト」を掲げる親ロシア派の極右政党「リバイバル(Revival)」も21議席減の12議席の獲得にとどまった。これにより、GERBは第一党から第二党へ、リバイバルは第三党から第五党へと後退しており、選挙は実質的にPBの一人勝ちとなった。
同時に、今回の結果はブルガリアにおいて近年顕在化していた、組閣の失敗と度重なる総選挙の実施による既存政党への不信の高まり、それに伴う親ロシア政党や極右政党への支持拡大、そして組閣のさらなる困難化という悪循環からの脱却の可能性を示すものとなった。ただし、ラデフ前大統領率いるPBは、著名人やスポーツ選手、他党出身の政治家など、経歴的にもイデオロギー的にも多様な人材によって構成されており、ラデフ前大統領への結束が必ずしも強固ではない可能性がすでに指摘されている。このことを踏まえると、今後の政権運営はPBの内部分裂のリスクを内包しながらのものとなることが予想され、その持続性は依然として不透明であるといえよう。
ルメン・ラデフは元ブルガリア空軍司令官であり、2017年から2026年まで大統領を務めた経験を有する。EUに対しては懐疑的な姿勢を示し、対ロ制裁の効果やロシアへのエネルギー依存からの脱却に疑義を呈するなど、親ロシア的な言説も一部でみられ、対ロシア政策に関して曖昧な姿勢をとる可能性が一部で指摘されている。しかしその一方で、ブルガリアのEUへの依存度は極めて高く、4月12日に実施されたハンガリー総選挙の結果を受けてオルバーン首相が退陣する見込みとなったことで、EU内で連携し得る有力なEU懐疑派のパートナーも不在となっている。また、ブルガリアではロシアに対して比較的好意的な世論が世論調査の傾向として出てはいるものの、前述の通り、今回の選挙でラデフ前大統領が支持を集めた主な理由は国内問題にある。実際、親ロシア路線を掲げる「リバイバル」は今回の選挙で議席を大幅に減らしており、ラデフ前大統領を支持した有権者には、親欧州派と欧州懐疑派(もしくは親ロ派)の双方が含まれている。このため、現時点では、ラデフがハンガリーのオルバーン政権のような強硬な対EU姿勢を採る可能性は低いとみられている。
(画像出典:Shutterstock)


研究員,
デジタル・コミュニケーション・オフィサー
専門はハンガリーを中心とした中・東欧比較政治、民主主義の後退、反汚職対策。明治大学政治経済学部卒業、英国・サセックス大学大学院修士課程修了(汚職とガバナンス専攻)、ハンガリー・中央ヨーロッパ大学大学院政治学研究科修士課程修了、明治大学政治経済学研究科博士後期課程在籍。 主な著作に『偽情報と民主主義:連動する危機と罠』(共著、地経学研究所、2024年)、『EU百科事典』(分担執筆、丸善出版、2024年)、Routledge Handbook of Anti-Corruption Research and Practice(分担執筆、Routledge、2025年)、主な論文に "How Opposition Strategies Interact under Electoral Autocracy: Evidence from Hungary’s TISZA Party"(Politics in Central Europe、2026年6月出版予定)などがある。 TIハンガリー支部でのリサーチインターンなどを経て、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)に参画。API/地経学研究所でのインターン、リサーチ・アシスタント、欧米グループ研究員補(リサーチ・アソシエイト)やEUROPEUMでの訪問研究員を経た後、現職。APIでは、福島10年検証、CPTPP、検証安倍政権プロジェクトに携わった。シンクタンクのデジタルアウトリーチ推進担当として、財団ウェブサイトや SNSの活用にかかる企画立案・運営に関わる業務も担当。 【兼職】 埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師(秋学期担当、欧米経済事情、2単位) Visiting Research Fellow, EUROPEUM Institute for European Policy External contributor, Anti-Corruption Helpdesk, Transparency International Secretariat (TI-S)
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