防衛駐在官は防衛装備・技術協力をどう支えるべきか

防衛駐在官は防衛装備・技術協力をどう支えるべきか
「現場の人々こそ、問題や状況に最も近い。だからこそ、真の知恵は現場にある」。コリン・パウエル元米統合参謀本部議長は、国務長官就任時に国務省職員にこう語り、本国が在外公館を支える重要性を強調した。この言葉は、在外公館で軍事情報の収集や相手国軍との連絡・調整を担う自衛官、防衛駐在官にも通じる。防衛装備・技術協力が拡大する今、防衛駐在官の役割も重要になる。

日本は、2014年の防衛装備移転三原則の策定以降、防衛装備移転や国際共同開発などからなる防衛装備・技術協力の実績を重ねてきた。2026年4月の武器輸出を規制する「5類型」撤廃により、同盟国・同志国の抑止力・対処力の強化と、国内生産能力の確保が期待されている。さらに、国内設備への攻撃に備え、相互運用性のある装備品を使う国と生産・供給を分担し、整備・補給基盤を共有できれば、供給源の冗長性も高まる。これは、日本の持続的な対応能力の強化にもつながる。

選択肢が広がった今、複数の任務を担う防衛駐在官は、「現場の知恵」を活かし、こうした目的に向けて防衛装備・技術協力をどう支えるべきであろうか。
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防衛駐在官の役割と防衛装備・技術協力の広がり

防衛駐在官は、防衛装備・技術協力において、相手国軍との関係を生かした調整を担ってきた。協力が共同開発・生産や長期の維持整備に広がるなか、現地の支援体制を強化する動きもみられる。

防衛駐在官は、軍事情報の収集に加え、近年は防衛協力・交流の調整も担っている。その一つである防衛装備・技術協力においては、ニーズの聞き取り、面会設定、協議内容の調整に当たってきた。国産完成装備品の初の海外移転となったフィリピン向け警戒管制レーダーでは、企業、防衛装備庁、現地大使館が連携し、自衛隊が要員教育を実施した。当時の防衛装備庁装備官、後藤雅人氏は、日本の防衛駐在官とフィリピンの駐在武官が築いた人的なつながりを成功要因に挙げている。

移転した装備を相手国が継続的に運用するには、要員教育や技術支援に加え、相手国の整備能力向上や部品供給体制の確保が必要になる。豪州向けには、2026年4月にフリゲート3隻の契約締結が発表された。現地建造を含む計11隻の取得・配備と、長期的な維持整備協力が見込まれる。

一国で複数の案件が並行する例もある。フィリピン向けには、移転した警戒管制レーダーやTC-90練習機への支援に加え、退役後の「あぶくま」型護衛艦や地対艦ミサイルの移転が検討されている。「あぶくま」型では、教育訓練、維持整備、移転後の適切な管理も議論されている。

現地支援体制の強化を求める声もある。2024年の防衛力の抜本的強化に関する有識者会議では、装備移転を担う防衛駐在官の追加配置を求める意見が示された。装備輸出で先行する韓国では、在外大使館の武官部を中心に軍官民の人材を活用し、市場開拓と相手国との軍事的な協力関係の構築を通じて、契約締結を目指してきた。

長期化・多様化を踏まえた3つの課題

協力が長期化・多様化すれば、現地で把握すべき情報や調整事項も増える。その際、判断に必要な情報の確保、成果の評価、任務の優先順位の3点が課題となる。

第一に、協力判断に必要な現地情報を十分に把握・活用できなければ、適切な協力内容や提案の時機を見誤るおそれがある。装備供与や訓練支援の経験が豊富な米国でも、同様の問題が指摘されている。米会計検査院は2023年、装備供与・訓練事業で、相手国の受入・維持能力の検討や、国務省・在外公館の知見を計画に反映する手続きが不十分だと指摘した。日本でも、経団連は2025年、防衛駐在官を活用した現地市場の動向把握と、事業性判断に必要な情報を官民で共有する仕組みを求めている。ニーズの背景にある導入目的や運用条件に加え、相手国軍の調達に関する意思決定過程や予算編成日程、競合国企業の動向も重要である。こうした情報がなければ、政府は協力条件や支援内容を定めにくく、企業も事業性を判断しにくい。

第二に、契約締結など目に見える実績が重視され、相手国の防衛力や日本の防衛産業基盤への効果が十分に問われないおそれがある。2014~2022年度の防衛省の政策評価書を分析した研究は、評価が協議や協定締結などの実績に偏り、日本の防衛産業基盤への効果を十分に評価していないと指摘している。協力を通じて相手国のどの能力を高め、日本の生産・整備能力や供給源の冗長性をどう高めるのか。これが曖昧では、成果の基準も、防衛駐在官が重点的に集める情報も定まらない。

第三に、防衛駐在官の任務が増す中、その優先順位が明確でなければ、必要な情報収集や調整を継続できなくなるおそれがある。元防衛装備庁装備政策部長の中村吉利氏は、企業が海外情報収集を防衛駐在官に頼る一方、駐在官は儀礼業務などで多忙で、装備移転にじっくり取り組むことは難しいと指摘した。複数の省庁・部署からの情報要求が競合すれば、防衛駐在官個人の判断では、優先順位を定め、限られた時間を配分することが難しくなる。

現地情報を協力判断に活かす連携の強化

これらの課題に対応するため、どのような方策を定める必要があるであろうか。

最も重要なのは、現場と本国の連携を強め、現地情報を協力判断とその見直しに継続的に活かすことである。相手国の関心の低下や整備能力の不足など、懸念を示す情報も欠かせない。本国は判断に必要な情報を要求し、防衛駐在官はこれに沿って情報を集め、報告する。本国は報告を関係機関や企業の情報と統合して協力方針を判断し、その結果を現場に返すとともに、次に求める情報を見直す。この連携の実効性を高めるため、国別の目標を明確にし、任務の優先順位と支援体制を整える必要がある。

まず、国別の防衛協力・交流の目標と、その中での防衛装備・技術協力の位置づけを明確にすべきである。茂木敏充外相は、国別の外交戦略のもとで途上国援助(ODA)、政府安全保障能力強化支援(OSA)、防衛協力を連携させると説明した。この外交戦略に沿って、防衛装備・技術協力と、交流・訓練、能力構築支援を組み合わせる必要がある。装備・技術協力では、相手国のどの能力を高め、日本の生産・整備基盤をどう強めるかを具体化する。

この目標を共有することで、防衛駐在官は本国の情報要求の意図を理解し、目的に応じて焦点を絞った情報収集ができる。外務省と防衛省は、関係省庁と連携し、相手国の能力向上と日本の生産・整備基盤への効果を国別目標に照らして評価し、協力の継続・見直しや目標の修正を判断すべきである。

次に、他任務との競合で必要な情報収集や調整が途切れないよう、組織として任務の優先順位を定め、支援体制を整えるべきである。防衛駐在官の任務の重点は、相手国をめぐる安全保障環境や、日本の外交戦略に応じて異なる。軍事情報の収集に重点を置く場合も、防衛協力・交流への関与を重視する場合もある。外務省と防衛省は、国別に任務の重点を定め、関係省庁・部署からの情報要求を取りまとめる必要がある。そのうえで、案件の段階も踏まえ、防衛駐在官に、優先して取り組むべき情報収集・調整事項を示す。

装備・技術協力を進めるには、案件の段階に応じて関係省庁や企業が連携し、防衛駐在官の活動を支える体制も必要となる。在外公館では、在外公館長の下、防衛駐在官と経済担当部署などが連携し、本国の関係機関や企業と情報を共有して役割を分担する。防衛産業強化のため政府が設置を検討する新法人も、この連携に加わるべきである。政府は、この体制を支えるため、必要な知識・経験を持つ専門人材を常駐・派遣させ、本国からの支援を充実させる必要がある。相手国軍との継続的な連絡・調整が必要な場合には、装備・技術協力を主に担う防衛駐在官の配置や増員も検討することが重要となる。

防衛駐在官は、相手国軍との関係と軍事的知見を生かし、相手国がどの装備を、なぜ求め、どう運用するのかを捉え、本国の協力判断を支えるべきである。政府は国別目標と任務の優先順位を示し、その知見を協力判断に活かすとともに、活動を支える体制を整えるべきである。この連携によって、「現場の知恵」を同盟国・同志国の抑止力・対処力と日本の持続的な対応能力の強化につなげることができる。

(出典:防衛省・自衛隊ウェブサイト)

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小野 俊輔 客員研究員
米陸軍指揮幕僚大学修了。軍事学修士(Master of Military Art and Science: MMAS)。 同大学で戦略研究およびインド太平洋地域研究の各プログラムを修了。
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研究者プロフィール
小野 俊輔

客員研究員

米陸軍指揮幕僚大学修了。軍事学修士(Master of Military Art and Science: MMAS)。 同大学で戦略研究およびインド太平洋地域研究の各プログラムを修了。

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