資源及び時間制約下の防衛力整備:戦略三文書見直しで見過ごされがちな「優先順位付け」という視点

2026年末に新たな安全保障戦略三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画。以下「三文書」という)の策定を控え、内閣官房に設置された有識者会議における議論を含め、徐々にその方向性が見え始めてきた。ウクライナ戦争や中東戦争におけるドローン、AI(人工知能)を活用した「新たな戦い方」の取り込み、反撃能力、スタンドオフ防衛能力の更なる拡充、防衛産業の強化策など、主要な施策に注目が寄せられている。そして、それらを支えるのが、世界の主要国が同様に取り組んでいる防衛費の大幅な増額である。
様々なアイテムやその検討が報じられている中、政府が取り組む防衛力整備の方向性をどのように受け止め、評価すれば良いのか。その判断は容易ではない。そこで本稿は、資源制約と準備に要する時間的制約という二つの視点を手掛かりに、優先順位付けの問題として日本防衛力整備を論じることとしたい。
大幅増額後も予算は有限
まず重要なのが、いくら大幅に増額できたとしても、依然として防衛力強化に必要な予算的な資源は限られるという事実である。この認識に基づく厳しい優先順位付けの必要性は、「上げ潮」の局面ではしばしば見過ごされやすい。しかし、日本が「最大の戦略的挑戦」と捉える中国の脅威との関係では、特に重要となる。
2026年10月現在で報じられている内容によると、防衛力整備計画が見込む2027年度から5年間の防衛費総額は、70-80兆円に及ぶとされる。仮にこれが正しいとすれば、2022年三文書が対象とした経費総額43兆円と比べて倍近くとなる。前年までの傾向を踏まえれば、2026年度の補正後の防衛費は9.3兆円程度と考えられる。例えば、これをベースに次年度以降単純に年額2兆円ずつ増額していけば、5年間の総額は76.5兆円となり、その最終年度である2031年度の防衛費は19.3兆円に上る。
もちろん、実際の5年間の経費の割振りがこのような直線的な増額となるとは限らないが、一つの目安としてこの19.3兆円という水準を考えると、2026年度GDP(国内総生産)見通し692兆円との関係では、対GDP比約2.8%程度に相当する。これは、対GDP比3.5%のコア防衛費という2025年NATOハーグ・サミットで示された目標には及ばない。しかし、当該目標が2035年までのものである一方、日本の防衛力整備計画が5年間の財源を示していることを併せて考えれば、その折り返し地点までの数字としておおむねこれに準じた水準であると言える。
もちろん、こうした総額ありきの水準は、個別事業の必要性に基づいていないとの批判を招きやすい。しかし、防衛力整備はその目標や過程に政治的判断が伴うので、積み上げ(ボトムアップ)と総枠(トップダウン)を組み合わせた形でしか実施し得ない。何より、純粋な積み上げ方式が機能しづらいのは、どこまで積み上げれば中国が抑止されるのかを確信をもって断定することが難しいからだ。軍事的必要性には様々なレベルとロジックが存在しており、それぞれに理屈がある。残念ながら、それらの理屈が抑止と戦争をめぐる不確実性を解消できるとは限らない。
例えば、2026年度の中国の国防費は日本円にして約40.1兆円程度であり、これと全般的に均衡させようとすれば、対GDP比5.8%の支出が必要となる。NATOの3.5%でも足りない。5.8%は3.5%より抑止にとって安心できる数字であるかもしれないが、それでも中国の公表国防費が実際の国防支出より低めに見積もられている可能性や、中国が保有し日本にはない核戦力の意義を加味すれば、5.8%で抑止が成立するか確実ではない。加えて、スティーブン・ビドルが指摘するとおり、戦争で勝敗を決するのは、兵器・装備のみならずそれをどのように用いるかという「戦力運用(force employment)」の在り方であり、その彼我の巧拙を開戦前に正確に見積もることも容易ではない。
一方、可能性の高い中国の侵攻シナリオを想定しつつ、日米共同対処を前提とする方法もあり得る。中国の国防費が40.1兆円だとしても、内陸防衛用に拘置している陸軍戦力を台湾や日本の南西諸島侵攻用に直ちに転用する可能性はそれほど高くない。また、日本は単独で中国の脅威に対応するわけではなく、日米共同対処が前提となる。したがって、可能性の高い対日向け兵力と米軍の支援を前提に、中国の侵攻の成功をある程度の期間妨げることができる防衛力を整備すれば、抑止が成功するかもしれない。ただし、これも確実には断定できない。同盟関与の程度には常に不確実性が伴うし、戦争が長期化すれば、中国が遠方の戦区から兵力を柔軟に融通する可能性も排除されないためだ。
かつて英国の戦略家ベイジル・リデル=ハートは、第一次大戦の実績などを踏まえ、攻撃側が防御側より全般的に3倍以上の兵力の優位性を持っていなければならないとする「攻者3倍の法則」を提唱した。しかし同時代においてもこれが史実を踏まえていないとの批判に直面したため、彼は局地的な戦場における攻者3倍の法則や、それに続き、防衛側が防御に成功する「兵力対空間比(force-to-space ratios)」(例えば前線1マイル当たり0.17-0.25以上の師団数)を提唱した。リデル=ハートはこれらの基準を、戦間期におけるフランス防衛のための英国による大陸派兵が必要ないこと(すなわち、フランスのみで対独対処が可能であること)を示すために用いたと指摘されており、それ自体政策上の恣意性のある数字だった。このように、一見確かに思える基準にも常に時代に即した政治的な背景が存在しており、確信をもって参照することが難しい。
このため、どのくらいの防衛支出を行えば安全なのかを断定できる専門家は基本的に存在しないし、そのように断定する言説は、まず疑ってかかった方が良い(これは、特定の水準まで支出する必要がない、あるいはすべきでないと断定する言説に対しても当てはまる)。そして、防衛力強化の担い手である政府としては、ある程度何らかの水準を設定する必要があるので、想定される多様なシナリオを前提とした上で、国際的に流通しつつある3.5%という数字を参考とすることも検討し得る。現行の対GDP比2%(実際には2027年度のGDP見通しとの関係では1.4%程度)よりは確実で、2022年以来、中国の更なる軍拡に直面する中、一定の説得力を有すると考えられるためだ。
いずれにせよ、今後5年間で現行の防衛費を倍以上に増額したとしても、その予算でできることには限りがある。こうした条件の下で、強化すべき各種能力の間で優先順位を付けなければならないことに変わりはない。
変貌する脅威に導入時期が間に合うか
次に、長らく平時の防衛力整備に順応してきた日本において見過ごされがちなのが、軍事的脅威が短期で顕在化するのに対し、防衛力整備は準備期間を要する中長期的なものだというギャップである。このため、中国の脅威に対抗するのに最適な能力であったとしても、その獲得に長期間を要するものに全てを振り向けるわけにはいかない。
もっとも、中央軍事委員会の制服組メンバーの大量更迭により政軍関係や指揮統制に混乱が見られる中、中国が2027年に台湾に本格的な侵攻を試みる可能性がそれほど高いとは言えない。他方で、中国の着実かつペースの速い軍事力強化や中東戦争による米国の資源分散と即応性の低下を踏まえれば、グレーゾーンにおけるエスカレーションを含め、中国が短期的にもあらゆる「機会の窓」を窺う可能性も排除できない。
そのような中で、米国が中国を効果的に抑止できる装備の内容や数量、それを支える生産基盤を備えていないとの危機感が共有されてきている。米外交問題評議会(CFR)のラッシュ・ドーシらが2026年8月に発表した報告書は、かかる認識に基づき、今後2年間を緊急的な軍備増産期間と位置付けこれに取り組むべきであると主張している。いかに高度で洗練された能力の獲得を目指したとしても、短期間のうちに十分な量を備えることができなければ、脅威の抑止にはつながらないからだ。
さらに、導入に長期間を要する能力は、それが完成した頃には脅威の性質が変わってしまうことも考えられる。国際的な安全保障環境は本質的に変化しやすい一方、高度な技術開発には時間を要するため、これはどうしてもある程度避けられない。日本は冷戦末期、ソ連の軍事的脅威に対応するため、90式戦車、多連装ロケット砲(MLRS)、対戦車ヘリ、88式地対艦誘導弾、イージス艦、F-2戦闘機などの大型装備の導入を計画したが、ソ連崩壊によりこれらの装備が導入された頃には、いくつかの装備、特に陸上装備の多くはその目的を失ってしまった。
もちろん、だからと言って導入に長期間を要する高度な能力を導入しなければ良いということでもない。軍事技術の優位性が彼我の能力差に寄与する側面もあるからだ。つまり、脅威が移ろいやすいものであることを前提としつつ、事業に応じて導入時期を短期(2030年以前)、中期(2030年以降)に意識的に仕分けし、バランスの取れた資源配分を行っていくことが重要となる。脅威の顕在化が遠ければ中期的な事業に多くの資源を配分すべきであり、脅威が差し迫っていれば短期的な事業を多く手掛けなければならない。
反撃能力偏重からのリバランスも必要
それでは、こうした予算・時間的制約の下で、具体的にどのような優先順位に基づき能力を整備していけばよいだろうか。
第一に、反撃能力偏重からの一定のリバランスが必要である。これまでの防衛力整備では、25式高速滑空弾ブロック2や極超音速誘導弾といった長射程ミサイル、潜水艦用垂直発射装置(VLS)など、導入に長期間を要する高度な装備品の開発が目立ってきた。中でも、反撃能力、すなわち敵領域内への打撃能力に大きな重点がある。加えて、三文書策定に向けて内閣官房に設置された有識者会議では、一部の有識者がVLS搭載原子力潜水艦の導入を提起しており、これを反撃能力強化の方策として位置付けているように思われる。この見解は、政府・防衛省の考えを一定程度反映したものだろう。というのも、防衛省に設置された別の有識者会議が2025年9月に出した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」報告書でもまた、「次世代の動力を活用することの検討も含め」、VLS搭載潜水艦の整備を推奨しているからである。さらに小泉進次郎防衛大臣も、原子力潜水艦保有検討について、「あらゆる選択肢を排除せず議論する」と、含みを持たせた発言をしている。
2022年三文書で掲げられた反撃能力の保有は、中国や北朝鮮のミサイル脅威の高まりを受け、ミサイル防衛を補完する抑止力として決定された。ミサイル防衛の費用対効果の悪さを踏まえると、反撃能力の保有は進めていかなければならない。他方で、相手国防空網突破の難しさ、ミサイル発射機など移動目標の探知・追尾・打撃の難しさ、通常弾頭の限定的破壊力を踏まえると、反撃能力の効果には一定の限界が伴う。それは、北朝鮮よりも軍事力が高度な中国との関係で、大きな課題となる。反撃能力の保有を抑止力と捉える姿勢は、その検討の直接の契機が2016年以降の北朝鮮による弾道ミサイル発射の急増にあったとされることと無関係ではない。北朝鮮との関係ではこれらの課題が幾分小さいためだ。しかし、上記の軍事上の困難性は中国との関係でより顕著な制約として現れるにもかかわらず、その後中国の軍事的脅威への対処がより喫緊の問題となったことから、目的と手段の結び付きがやや弱くなってしまったように思われる。
したがって、通常弾頭・VLS搭載の原子力潜水艦が反撃能力の強化にある程度資することに疑いはないものの、このように本来的に限界のある能力を担う一つの手段として、極めて巨額の予算と中長期的な期間をかけて整備する価値があるかは疑問である。さらに、2021年に始動した豪英米原子力潜水艦導入計画であるAUKUSにおける豪州へのAUKUS級潜水艦導入が2040年代と見積もられていることを踏まえると、場合によっては開発・導入に20年間を擁する装備が喫緊の脅威に対応することはできない。反撃能力プラットフォームとしての原子力潜水艦導入のアイディアは、資源配分の優先順位と時間的制約、そして軍事的合理性の観点から、必ずしも最適な選択肢とは言えない。むしろ、通常戦力による反撃能力のプラットフォームとしては、それより短期間かつ安価に増勢できる地上発射機に委ねた方が良い。
また、反撃能力を敵のミサイル脅威への対処力として捉えるのであれば、かかる攻撃力とドローン対処を含む「ハイロー・ミックス」の防空による積極防御、狙われやすい軍事目標(基地、防衛産業基盤、インフラなど)の分散化・抗たん化とパッケージで考えなければならない。現在打ち出されている政府の取り組みの方向性においては、このパッケージ施策の中での費用対効果の比較という視点が弱い。消極防御は日本が必要とする能力で最も出遅れているにもかかわらず、防衛省の2027年度予算に向けた概算要求説明資料や有識者会議での政府側説明資料の中の主要な柱として個別には位置付けられていないからだ(「持続的な対応能力」の一部としては位置付けられている)。防衛産業基盤(企業が保有する工場等)の抗たん化に至っては、そのための施策すら存在していない。しかし、このような抗たん化策は、必ずしも新たな技術開発を要するわけではなく、短期的に取り組みやすい事業であるはずであり、反撃能力とパッケージでの底上げが求められる。
反撃能力の保有は、安倍―岸田内閣にわたる検討を通じて、純粋な軍事的合理性を超えて到達すべき、いわば政治的アジェンダとしての性格が濃くなり過ぎたように思われる。反撃能力への偏重は、その忌避・抑制と同様の問題、すなわち統合的な作戦能力強化にマイナスの効果をもたらしかねず、バランスの取れた整備が求められる。
改めて強調されるべき「対艦打撃力」の重要性
第二に、反撃能力の陰に隠れて、スタンドオフ防衛能力のもう一つの重要な役割である対艦打撃力への関心が相対的に希薄化しているように思われる。対艦打撃力は、日本が位置する第一列島線の地理的強みと、特に中国の海軍力の増強を踏まえれば、依然として日本が短期的に最も重視すべき能力である。
この点、中国は空母等の太平洋上での活動を活発化させているが、これは闇雲に活動範囲を広げているのではなく、台湾侵攻作戦に対応して想定される米国の軍事介入をなるべく遠方で阻止するための領域拒否の延長線にあると見るべきだろう。そうであれば、日本としては南西諸島周辺から台湾東岸にかけて、あるいはバシー海峡を抜けて太平洋側から台湾や日本にアプローチしてくる中国艦艇を非対称的に打撃できる能力の増強が不可欠である。中国がより遠方で米国の軍事介入を拒否しようとすれば、空母打撃群など非対称的攻撃に脆弱な装備体系を伸ばさざるを得ないというジレンマが形成される。日本の能力は、その脆弱性を突き、ひいては米国の介入をトリガーできるものとすることで独自の価値を発揮できる。
こうした能力は、地上ベースと水中ベースのプラットフォームを中心に増強していくべきである。前者については、25式地対艦誘導弾部隊を大幅に増強して短期的に当座をしのぎつつ、中期的には打撃手段の多様化を図る必要がある。すなわち、対艦弾道ミサイルや長距離飛行可能な対艦打撃ドローンの開発・導入により、相手方艦艇の防空網に負荷をかける方向性である。この点、防衛省が2025年予算で表明した沿岸防衛のためのドローンの大量配備構想(SHIELD構想)は、従来投資が遅れてきたドローンに注力する観点で一定の意義がある。しかし、日本が置かれた戦略環境で真っ先には使用しない小型ドローンの導入が先行しており、より長距離で対艦攻撃が可能なものに比重を移していく必要があろう。一方、2027年度概算要求に含まれている低コストのスタンドオフ・ミサイル開発は、敵艦隊に対する費用賦課の手段として期待できる時宜にかなった事業である。
後者の水中ベースのプラットフォームについては、より悩みが深い。水中ベースの対潜水艦戦(ASW)能力や対艦打撃力は、日本や米国が中国に対して有する数少ない優位性だったが、中国の今後の潜水艦保有数増加に関する見通しと海上自衛隊潜水艦職種の人的制約、ASWの一翼を担う固定翼哨戒機(P-1)に対する経空脅威を踏まえると、期待される任務の増大に比して、増強の手立てが限られている。また、南西諸島周辺に加え、今後対中抑止の焦点となることが予想されるバシー海峡周辺海域は、日本からの距離が遠く、通常動力潜水艦や開発中の無人水中艇(UUV)では十分な活動ができない可能性もある。
そのため、ASW目的の原子力潜水艦は、この能力ギャップを埋める有力な手段となり得る。これを現実化するには、まず反撃能力・VLSに寄せた必要性の議論を見直す必要がある。もっとも、VLSを装備した原子力潜水艦は、反撃能力というより、むしろ効果的な対水上艦ミサイル打撃アセットとなるという議論もある。単に原子力潜水艦と言っても、対水上艦任務重視なのか、ASW重視なのかによって求められる能力が異なり、両者の間には仕様やペイロード上のトレードオフが存在する。前者であればVLSも備えた大型多目的艦が、後者であれば魚雷発射管を主としたコンパクトな船体が求められるからである。反撃能力のナラティブからの解放は、そのような、より現実的な能力やドクトリンの議論を促進するだろう。
ただしいずれにしても、その導入に必要な巨額の予算、人的制約、原子力の取扱い、導入時期の遅さを勘案すると、検討着手は妨げられない一方で、唯一の選択肢としては位置付けにくい。したがって、有人潜水艦の更なる省人化による増勢、UUVのより高性能な動力源(バッテリー)や給電方法の開発と組み合わせた形で対応するしかないだろう。水中給電の研究については、2027年度概算要求や2025年度の安全保障技術研究推進制度の下での採択事業にも含まれており、今後より注力が期待される分野である。問題は、比較的短期で実現可能な選択肢がほとんど存在しないことであり、現時点ではその不確実性を認識しつつ、米国の水中戦力に期待するしかない。
この点、防御偏重だった自衛隊の能力が、打撃力も含めて多様化しつつある中、従来の日米の作戦面における役割分担をより日本として積極的なものへと転換するタイミングが到来している。そこで、2015年以降改定されていない日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直しを通じ、対艦打撃など、日本側のより積極的な役割の提供と引き替えに、バシー海峡周辺でのASW態勢強化を米国にコミットさせるのが良いだろう。
部隊編成の見直しも課題に
第三に、最も短期的に着手できるものとして、陸海空自衛隊の部隊編成の見直しが挙げられる。様々な機会で主張してきたため詳細は割愛するが、陸上自衛隊の師団・旅団など、より早期かつ遠方で敵の侵攻を阻止するという三文書の目標と乖離した、冷戦時代の能力が依然として温存されている。このような旧来型の能力の大規模な維持は、予算的にはそれほど大きな影響を及ぼさないとはいえ、対艦打撃力など必要とされる能力の増勢に要する部隊・人員の捻出にとって負の効果をもたらしている。例えば、2022年の防衛力整備計画では、目指すべき地対艦ミサイル部隊の規模を計7個連隊分としているが、これは従来の防衛大綱が掲げた5個連隊から微増にとどまり、スタンドオフ防衛力の重視という宣言政策と実際の部隊編成が乖離を来している。
ウクライナ戦争の教訓として陸上戦における戦車や火砲の一定の価値が再認識されたが、それを戦略環境がヨーロッパ大陸とは全く異なる日本に自動的に当てはめるべきではない。また、本格的な日本領土への侵攻に対する備えも当然必要だが、それは想定される脅威の蓋然性から導き出される優先順位の中でバランス感覚を持って考えるべき問題である。
「冗長性」こそが防衛力
以上、予算及び時間的制約を踏まえながら、現在対外的に示されている政府の検討内容から欠けている視点を中心に、必要な取り組みを論じたものである。このほか、ドローンの国内開発生産基盤の構築、特に戦術・作戦面でのAIの活用、防衛産業の生産能力の拡充、宇宙・サイバー領域における能力強化なども同様に重要であるが、これらについて筆者としては、政府が取り組んでいる方向性自体に異存はない。
その上であえて付言すれば、ドローンやAIなど従来日本に欠けていた領域における開発・生産基盤が国内で育っていないため、当面は海外企業の参入が相次ぐ可能性が高い。短期的にこうした流れには抗しがたいものの、中期的に考えれば必要な能力はなるべく国内企業や海外企業とのJV(共同企業体)の組成などを通じて国内に定着させていく必要がある。
この点、世界的な防衛需要の高まりや米国の意図と能力の不確実性に鑑みれば、同様の能力を輸入や複数の海外企業の参入と国内開発が重複する形で導入していくことが必要となる。従来の防衛予算の査定では、機能重複は真っ先に悪しき非効率性として拒否されがちであった。しかし、多角化された供給源を重複して持っておくことは、技術の内製化や危機に際しての冗長性の確保に直接的に貢献する。この供給源多角化戦略は、トマホークの米国からの納入が遅れる一方、国産の25式地対艦誘導弾、25式高速滑空弾の導入が予定通り進んでいることにより、既にその妥当性が証明されている。
危機における防衛力整備では、冗長性こそが防衛力であるとの認識に立ち、事業の重複を厭わない姿勢が重要となる。防衛予算の増額は、そのような防衛力整備における手段の冗長性確保にも向けられる必要がある。
(出典:海上自衛隊潜水艦隊ホームページ)


主任研究員
防衛省で16年間勤務し、2022年9月から現職。2014年から2016年まで外務省国際法局国際法課課長補佐、2016年から2019年まで防衛装備庁装備政策課戦略・制度班長、2019年から2021年まで整備計画局防衛計画課業務計画第1班長をそれぞれ務める。2021年から2022年まで防衛政策局調査課戦略情報分析室先任部員として、国際軍事情勢分析を統括。 主な論文に、"Military Innovation and Procurement Trade-Offs: Explaining Japan’s Drone Adoption," The Pacific Review, September 2026; 「組織政治が生み出した軍事戦略の変革:1980年代における陸自前方対処構想の形成過程」『国際安全保障』第54巻第2号、2026年9月、87-106頁などがある。 2007年東京大学教養学部卒、2012年米国コロンビア大学国際関係公共政策大学院(SIPA)修士課程修了。
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