デュアルユース時代の技術主権 ―民主主義国家における対外的自律と対内的管理の相克―

近年ではとりわけAI主権やデジタル主権、データ主権といった言葉で技術政策を語る国が増えているが、これらはより広く技術主権という言葉で括ることによって同質の問題として捉えることができる。一般的に、国家主権とは対外的な自律と対内的な統制・管理の二つの文脈で整理されるが、技術主権の問題を考える際にもこれらの両面、またそのつながりを考える必要がある。
もっとも、国家主権と技術主権という概念はいずれも国家の自律性を主題としつつ、単純な類推を許さない相違もある。ひとつは、国家主権は確固たる法的権利として位置づけられ、そのうえで国家間の力関係がもたらす主権の実体が問題になるが、技術主権は特定技術の供給や利用を自国で制御できるかどうかという能力ベースの概念として論じられることが多い。
もうひとつは、国家主権を持つ国際法上の主体は国家に限られるのに対して、技術主権の問題を論じる際には国家による管理能力のほか、大企業、スタートアップ、大学を含む民間の多様な技術開発の担い手の主体性をどのように扱うかが問題となる。こうしてみると、技術主権とはひとまず、分散する国内的な能力をいかにして集約し、対外的自律性を確保するための能力へと変換するかという問題として整理することができる。
自律と安全の不整合
では、対外的自律という観点から見て、技術主権を獲得する試みは何を意味するのか。テクノナショナリズム的な技術の自前主義はもはや成立せず、問題は国際的な技術ネットワークのなかで自国の自律性をいかに確保するかという点に移っている。ここで重要なのは、自律と安全を追求する取り組みが必ずしも同義ではないということである。
中国のような急速に技術力を高める懸念国への依存を減じ、対抗的な能力を高めることは、多くの国にとって自律と安全の確保に直結する。しかし同時に、同盟国間ですら重要技術の一方的な依存は軍民両面で懸念材料となっている。これ自体は新しい現象ではなく、かつてGPSの普及過程においても同様の問題意識が高まったことがある。現代ではAI主権の問題がその代表例であり、欧州の公的機関において、軍事用のAI開発で知られる米データ分析大手パランティア社への依存を回避する動きがはじまっているのはこのことをよく示している。
他方、同盟論で論じられるように、国家は自国の安全のために自律を犠牲にすることがあるが、技術についても同様の判断が起こりうる。日本の防衛省が最終的な国産化を視野に入れつつもパランティア社のAI導入を検討していることはその一例として位置づけられるだろう。この背景には、米軍と自衛隊の軍事的な統合が進むなかで異なる指揮統制システムを導入することへの懸念もある。
対外的自律と対内的管理の相克
技術主権の確立を通じて目指すべきは技術的な自律か自国の安全か。この問題は、戦略的な重要技術が国内に所在するかどうかにも左右される。しかしもとより、「自国の管轄下に先端技術が存在すること」は「政府がそれをよく管理・動員できること」をただちに意味しない。ここに科学技術の「対内的管理」が不可欠のツールとして機能する。
デュアルユース技術の戦略的価値が高まるほど、広く民間の技術を吸い上げ、かつ守る必要が出てくるが、それは同時に技術を市場任せにはできなくなることを意味する。また、自由な市場原理に任せるだけでは、サプライチェーンの脆弱性も解消されない。そのため、デュアルユース技術には国家が輸出規制や情報管理などの領域で中央集権的に管理しなければならないし、市場で「国益に資する」技術を発展させるための誘導も必要になる。近年各国で展開されている特定重要技術への研究開発投資や供給網再編のための補助金がこれにあたる。
しかし、そのような管理が過剰になれば、国内の研究コミュニティやスタートアップが国際的なネットワークから孤立し、民間セクターに多大なコンプライアンスのコストを課すことにもなる。その結果として民間のイノベーションが阻害されれば、結局は技術競争や安全保障の能力が低下するかもしれない。デュアルユース技術の開発や保全が国家の戦略の中核に据えられることは、この緊張関係が高まることを意味する。
対内的管理はどこまで機能するか
2026年に生じた米国政権とテック企業の摩擦は、政府が民間からの技術供給に依存することで生じる緊張関係へのアプローチをいくつか示した。ひとつは、法制度的な強制である。2月末にアンソロピック社と国防省の交渉が決裂すると、政権は同社をサプライチェーンリスクに指定し、さらに調達から排除することで経済的な圧力をかけて翻意を迫った。しかしいずれにせよ、こうした試みが官民の摩擦そのものを解消することにつながったわけではない。
あるいは、官民が協調しながら共同規制の枠組みを形成することも重視されるようになっている。2026年5月、国防省はAI企業8社と機密AIネットワーク協定を締結し、各社のAIを合法的に軍事利用するための枠組みを構築しようとした(ただしアンソロピック社は除外)。コンセンサス型のこのアプローチはバイデン政権のそれに近づくもののようにも見えるが、急迫した安全保上の要請と民間の価値観が鋭く対立した際には十分に機能しないかもしれない。
こうしてみると、市場は技術的自律や経済的利益へのインセンティブを持ちやすい一方、そこで自国の安全保障への貢献が自然に意識されるとは限らない。政府が国益の観点から国内に所在する技術を活用するには、いかなるかたちでそれを管理するのかを考えなければならない。もっとも、米国では民間セクター側にもパランティア社のように国益との関連性を重視する立場もあれば、各社内、あるいは市場においてアンソロピック社の主張を支持する反応も見られた。企業や研究機関が自社技術と国益との関係を議論する機会を積み重ねてきたことは、デュアルユース技術の活用を検討する政治土壌としては健全であるともいえる。
技術主権は誰のためのものか
政府は民間セクターの活動を「促進」し「制限」する枠組みを作ることはできても、望まない技術提供を「強制」することには限界がある。民間セクターの活動の自由を尊重する自由民主主義では、この管理能力の不完全性は構造的な課題として残り続ける。中国の権威主義的なイノベーションエコシステムが脅威に見えるのは、政府が民間セクターを強力に集約し、効率的に技術動員や規制をかけうるとみなされるからである。
日本でも技術の対外的自律性を高めるべく、デュアルユース技術を活用するための制度が急速に形成されている。政府は技術的自律と安全保障の問題に関する戦略をかたちづくり、その実現のために企業や研究機関のインセンティブ構造の再設計や役割の再定義、ときには国内アクターの多様な利害を吸収するだけの技術供給能力の「厚み」を確保する仕組みを作ることが必要になる。しかしそれを強権的に進めるハードルは高く、国内の技術基盤を十分に築くことができなければ対外依存を通じて安全を確保するという選択肢も残される。
民間セクター側から見れば、自社技術の市場価値だけでなく、国益との関連性について規範的な賛否や政府事業の収益性を含めて論じることも、技術の対内的管理に対する自らの立ち位置を定めるのに必要な作業である。政府主導の技術活用が進むからこそ、こうした議論の土壌を作ることが民主的かつ持続的な技術主権の確立に欠かせない要素となるのである。
(出典:TR RUMON / Shutterstock)

地経学ブリーフィング
国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを精査することを目指し、地経学研究所の研究員を中心とする執筆陣が、週次で発信するブリーフィング・ノートです(編集長:鈴木一人 地経学研究所長、東京大学公共政策大学院教授)。
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主任客員研究員
上智大学総合グローバル学部教授。専門は国際政治学、安全保障論。筑波大学大学院人文社会科学研究科国際政治経済学専攻修了、博士(国際政治経済学)。横浜国立大学研究推進機構特任准教授等を経て、現職。 [兼職] 上智大学総合グローバル学部教授
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