デュアルユース技術の「実装」問題―DIUの苦悩と日本への教訓

デュアルユース技術をめぐる議論においては、いかに優れた技術を発掘し、防衛用途に転用できるかに注目が集まりがちとなっている。しかし、本来の課題は、それらの技術の発掘や転用そのものではなく、それを用いていかに国家の防衛力を向上させることができるかである。その観点では、防衛上の要求を起点として、技術実証、調達、配備、運用といったサイクルを通じて、特定の技術を単なる装備化にとどまらず、作戦上意味のある規模と速度で戦力化していく「実装」のプロセスが重要となる。
この「実装」の難しさを考えるうえで、米国の経験が参考となる。米国では、革新的な防衛技術の研究開発を担うDARPA(国防高等研究計画局)とは別に、一定程度成熟した民生技術を迅速に防衛用途として活用するための組織として、2015年に国防総省傘下に「国防イノベーション実験ユニット」(DIUx)が設立された(2018年に「DIU」へ改称)。ここでは、DIUx/DIUの活動を手がかりに、デュアルユース技術の実装において何が課題となるのか、また日本はそこからどのような教訓を得るべきかを考えたい。
DIUxの設立にあたっての問題意識
2010年代以降、中国およびロシアの軍事力増強に対する危機感を背景に、米民主党のオバマ政権は2014年に「第3次オフセット戦略」を打ち出した。これは米軍の技術的優位の再確立によって中露の軍事力を相殺しようとするもので、その中核には国防におけるイノベーションが据えられた。もっとも、米国のイノベーションの源泉が民生部門へ大きく移行するなか、国防総省がシリコンバレーのスタートアップに代表される先端技術をいかに取り込むかが重要な課題となった。
そこで2015年に就任したアシュトン・カーター国防長官は、国防総省と民生技術エコシステムをつなぐ組織としてDIUxを創設した。DIUxは、スタートアップ企業や投資家などとのネットワークを構築し、有望な民生技術の発掘を進めた。その際、国防総省の長期かつ複雑な調達プロセスを回避するため、柔軟な調達手法であるOTA(Other Transaction Authority)を活用し、スタートアップ企業とのプロトタイプ開発契約を迅速に進めていった。
プロトタイプから戦力化への壁
しかし、設立初期のDIUxは、国防総省内での根強い抵抗や議会による予算削減なども相まって、組織の存立そのものが危ぶまれる状況に晒されていた。例えば2017年に地球観測衛星企業カペラスペース(Capella Space)社と契約した際には、情報コミュニティからの反発もあり、DIUxへの資金が一時停止する事態すら生じたと元幹部らは回顧している。
このような環境の下で、DIUxは自らの組織の必要性を証明するためにも、短期的に見えやすい成果であるプロトタイプ開発の実績を多く積み重ねることに注力した。さらにDIUxはボストン、オースティンなどにも拠点を広げ、全米の企業、研究機関、投資家から技術を探索する体制へ拡大した。
その結果、第1次トランプ政権期の2018年8月には、名称からexperimental(実験)を意味する「x」が外され、DIUxはDIUへ改称された。これは国防総省が民生技術の活用を一過性の実験ではなく恒久的な機能として位置づけ始めたことを示している。
ただし、この時点でDIUが証明したのは、民生技術を迅速に調達する手法を確立したことと、それを通じてプロトタイプを開発するところまでであった。しかし、プロトタイプの開発は、それが戦力として活用されることを必ずしも意味しない。メリッサ・フラッグ元国防次官補代理は、DIUが陸海空などの各軍種の調達組織との結びつきが弱く、実際の調達にほとんど結びついていないと批判した。後にDIUを率いるダグラス・ベック元長官も、自身の就任以前はDIUのプロトタイプが主要な作戦計画や抑止力に影響を与える形で活用された例はほとんどないと認めている。このように、DIUが開発したプロトタイプを作戦上意味のある規模で実装するという課題は、その後も残された。
戦略的効果への転換:DIU 3.0
2023年4月、バイデン政権下でロイド・オースティン国防長官は、上で述べたようにベック氏を新たなDIU長官に任命して国防長官直属とするとともに、DIUを民生技術の迅速な装備化に向けた国防総省内の結節点として位置づけた。さらに、同年8月、DIUは「DIU 3.0」と呼ばれる新たな方針への移行を開始した。すなわち、中国及びロシアの軍事的脅威に対応するため、DIUの取り組みを「戦略的効果」につなげること、それを生み出すために必要な焦点(focus)、規模(scale)、速度(speed)に注力する方針が打ち出された。その実行のため、DIUは調達を司る各軍種や運用を担う統合軍との連携を強め、プロトタイプを実際の装備化および量産に移行し、部隊運用を通じて作戦効果を生むことを重視するようになった。議会も2024年度国防授権法でDIUを法制化し、その位置づけを追認した。
キャスリーン・ヒックス国防副長官主導で進められた「レプリケーター構想」は、ウクライナ戦争で有効性が示された低コストの自律型システムを大量に導入することで、中国に対して物量とコスト面でも対抗しようとする試みである。DIUは同構想に実施主体として深く関与しており、これがDIU 3.0の効果を発揮できるかを問う試金石の一つとなっている。
その後、第2次トランプ政権の2026年1月には、国防総省のイノベーション体制が再編され、DIUは「商業製品イノベーション」の中核と位置づけられる一方、部隊に能力を届ける「最後の一マイル」は各軍種が責任を負うことが明示された。すなわち、国防イノベーションの実装にあたっては、DIUだけではなく、調達や運用を担う既存組織の役割も改めて明確化されたと言える。
日本への教訓
このように米国では、DIUは存続の危機や実装の壁に直面しながらも、政権交代を越えてその位置づけを高めてきた。こうした経験から、日本が得るべき教訓は多い。もちろん、日米では調達制度や防衛産業の市場規模、スタートアップのエコシステム、防衛事業に関与するレピュテーションリスクの捉え方等に構造的な差異があるが、それを踏まえた上でも、デュアルユース技術の実装に向けて、以下の教訓を指摘することができる。
第一の教訓は、デュアルユース技術の発掘や活用自体を目的化してはならず、あくまで防衛力の向上という目的に資する手段として位置づける必要があるという点である。初期のDIUxは、組織の存続を図るため、契約やプロトタイプ開発の件数という見えやすい成果に傾斜した。そうした事態を避けるためにも、例えば、プロトタイプ開発から部隊配備までの期間、調達数量、実運用で生じた効果など、「実装」の進展を測る指標を設定するべきである。
第二に、防衛イノベーションを担う組織と、防衛力の整備や運用を担う各組織の連携強化である。DIUが各軍種の調達組織との断絶を批判され、2026年の再編で「最後の一マイル」の責任が各軍種に明示されたように、実装の担い手を早期に特定することが要となる。例えば、防衛省版SBIRやスタートアップ技術提案評価方式で採択した案件について、初期段階から防衛装備庁、各幕僚監部や各自衛隊の調達・運用部門が実効的に関与し、誰がその次の段階の予算確保や量産化を引き受けるかを明確にすべきである。
第三に、スタートアップのデュアルユース技術を防衛分野で活用するのであれば、政府は企業側の事業継続性に配慮する必要がある。契約の遅延、資金提供の不安定性、長期の審査、過剰なセキュリティ要求は、スタートアップの参入障壁となるだけでなく、参入後も企業の存続を左右する要因になりかねない。防衛省のニーズを示すだけでなく、企業が防衛市場に継続的に関与できる環境を整えることが重要である。
最後に、このようなデュアルユース技術の実装プロセスにおいては、組織面も含めて様々な試行錯誤が必要となる。個別案件におけるスピードは重要であるが、一方で短期的な成果を過度に求めるのではなく、失敗から学習しつつ、全体としては中長期的な視点での投資と取り組みを推進できる制度設計が必要となる。
デュアルユース技術の活用を巡っては、日本でも政策的な期待が高まり、民生技術の発掘やスタートアップとの接点を拡大するための制度整備が進みつつある。しかし、これらを「入口」の仕組みにとどめることなく、作戦上意味のある規模と速度で戦力化するための「実装」のプロセス全体を設計することが、今まさに求められている。
(出典:Devon Bistarkey, Defense Innovation Unit, U.S.)
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主任研究員
2010年に防衛省に入省。主に海外の軍事動向に関する調査に従事するとともに、軍備管理・軍縮に関わる政策の省内調整も担当等も経験。 2015年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入構。海外の宇宙政策動向の調査をはじめ、それを踏まえた戦略立案、海外宇宙機関との調整、機構内におけるサイバーセキュリティ規程の策定などを担当。2019年から2022年にかけては、JAXAワシントンDC事務所に駐在員として勤務し、NASAをはじめとする米国の政府機関や民間企業との関係構築を担当した経験もあり。 2025年4月より現職。関西学院大学総合政策学部卒業、京都大学大学院法学研究科修了。
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