日米欧3極を結びつける「蜘蛛の糸」 ―進化版FOIPで期待される日米・日欧連携―

日米欧3極を結びつける「蜘蛛の糸」 ―進化版FOIPで期待される日米・日欧連携―
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トランプ2.0が所与にした敵対的な米欧関係

『Defending Taiwan(台湾防衛)』の著者アイク・フレイマン(フーバー研究所・IOG)は新著の紹介動画の中で、中国が経済威圧の新しいツールの実験台に日本を使っていると指摘する。そして日本がこれに屈していないことが、地域の安定と強靭化に極めて重要と強調する。中国は石油やレアアース(希土類)以外にも砂糖や綿花などを広く備蓄し、台海有事に既に備えていると言い、ホルムズ海峡の通過艦船を守るには米海軍の空母3隻でも足りず、この比ではない貨物が日夜往来する台海海峡は米国単独では対応できないとする。これまで以上に、同盟国間の連携が必要だ。

だがトランプ政権2期目以降、敵対的な米欧関係が所与となりはじめている。筆者が5月にイタリア・フィレンツェのEUI(欧州大学院)で参加したワークショップでは、日米欧韓の専門家が経済安全保障を含む安全保障の多元化と強靭化を議論したが、敵対的な米欧関係は所与とされ、欧州側は一致していた。奇しくもEUIは5月に50周年を迎えたEU(欧州連合)加盟国・共同所有の大学であり、人事など意思決定やワークショップでの議論はEUの意思決定同様、加盟国間の対立や食い違いが日常茶飯事だが、珍しく参加者のコンセンサスが成立していた。そして米国からは、11月の中間選挙に向け、民主党が数10議席差から5~10議席の優位まで共和党に追い上げられていると報告された一方、米欧関係の修復については何も提起されなかった。

サプライチェーンの中国依存や台湾有事想定という「奈落」から日米欧3極が足並みを揃えて抜けようとする中、その大前提である米欧関係が揺らいでいる。

小康状態を保つ日米同盟と「進化版FOIP」

翻って、日本の同盟国・同志国との関係はどうか。トランプ大統領は5月15日、中国から米国への帰路の大統領専用機から高市総理と約15分間の日米首脳電話会談を行った。訪中についての説明に次ぎ、日米首脳会談(3月)での一致点の内、イラン情勢の鎮静化の必要と揺るぎない日米同盟を改めて確認し、G7サミット(主要国首脳会議、6月14日―16日)も含め緊密に連携していくとした。

このような電話会談は事前に申し合わせるのが通例であり、米中首脳会談に先立って日本の立場を事前に米国側に繰り返し伝えていたことが重要だ。他方で、懸念も残る。米国による台湾への武器売却の一時停止は、訪中前に刺激しないためともされるが、中国側は高市総理による台湾「存立危機事態」発言(2025年11月)を異例のトーンで非難したとされる。これに対し、トランプ大統領がホルムズ海峡に軍艦を派遣しようとしない欧州のNATO(北大西洋条約機構)諸国を非難するような形で日本に言及しなかったのは、一つの成果だった。

3月の日米首脳会談での一致点には、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)下の日米協力があり、日米韓、日米フィリピン、日米豪印など同志国ネットワークを強化するとしていた。高市総理は米中首脳会議の2週間前、くぎを刺すようなタイミングで2026年5月2日、「進化版FOIP」を公表した。

10周年を迎えたFOIPは2016年8月、安倍総理がTICAD VI(第6回アフリカ開発会議、ケニア)において提唱したものだ。以降、近隣の同志国やグローバルサウス諸国を引き付ける外交理念として歴代総理が言及してきた。アジアとアフリカの連結性を向上し、①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着、②経済的繁栄の追求(連結性の向上等)、③平和と安定の確保という三本柱で地域全体の安定と繁栄を目指す。

地経学的脅威にフォーカスした進化版FOIP

5月に高市総理が発表した「進化したFOIP 共に、強く豊かに」は、2023年3月に当時の岸田総理が提唱した「FOIPのための新たなプラン」と何が違うのか。

共通するのは、FOIPの中核的な理念を自由、開放性、多様性、包摂性、法の支配の尊重としている点だが、国際環境についての認識の記述に変化が見られる。2023年版は、国際社会を様々な課題が絡み合う複合的な危機(グローバル課題、科学技術の発展に伴う課題)にあるとしたが、2026年版は、AIなど加速度的な技術革新、グローバルサウスの台頭・経済成長、地政学的な競争の激化等を念頭に、ビジョンを進化させる必要を訴える。「地政学的競争」という言葉は2023年版にも登場するが、取組項目の一つに埋没していた。これが冒頭に出されて全体の基軸となり、名指しこそ避けつつ中国による脅威に対応する必要が強調され、2023年では「強靱性・持続可能性」とされていた言葉が、「自律性と強靭性の獲得」に置き換えられた。

こうした力点の変化は、取組内容にも反映される。2023年は「新たな取組の柱」が4つ示されたが、2026年版では「重点分野」が3点に絞られ、①「AI・データ時代の経済基盤の構築」の下、エネルギーや重要物資のサプライチェーン強靱化が列挙される。

重点分野②「官民一体での経済成長機会の共創とルールの共有」では、3点、課題解決を通じたビジネス・マーケットの創出、連結性の強化及びルール整備、そして自由貿易の推進・投資促進が列挙される。特に三つ目、「自由貿易の推進・投資促進」として、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)へのフィリピン、インドネシア等の加入交渉など戦略的拡大、電子商取引やサプライチェーン強靱化等の規律強化、市場歪曲的慣行や経済的威圧への対応協力など、EUやASEAN(東南アジア諸国連合)との対話をうたう。「市場歪曲的慣行」は中国のEV(電動車)などの過剰生産能力問題、「経済的威圧」は中国によるレアアースの事実上の禁輸を指していると見られる。「2025年度ジェトロ海外ビジネス調査」においても、米中リスクの分散先としてEUが浮上しており、日本企業と政府の目線は一致している。

最後に重点分野③「地域の平和と安定のための安全保障分野での連携拡充」の下、ASEAN諸国の海洋安全保障能力、海運インフラ、サイバーインシデント対応などへの支援がうたわれる。

FOIPの「進化」は、2022年5月に経済安全保障推進法が成立して間もない時期に比べ、その後の推進法による取組を主軸に据えた点にある。中国がもたらす地経学的脅威への対処が明確にされ、同時に、米国こそが地経学リスクとの認識も静かに織り込まれたといえよう。

日米欧3極 最弱だった日欧が接着剤に

日米欧3極のうち、日EUは自由貿易の促進において足並みを揃える。EUは2026年1月、MERCOSUR(南米南部共同市場)とパートナーシップ協定(EMPA)および暫定貿易協定(iTA)に署名した。呼応するように日本も、G7エヴィアンサミットでMERCOSURとの交渉入りの発表を目指す。またインドの最大の貿易相手であるEUは同じ1月、20年近く難航した末にFTA(自由貿易協定)交渉が妥結したと発表した。日インド包括的経済連携協定はすでに2011年8月に発効しており、5月26日にはQUAD(日米豪印)外相会合において、インド太平洋エネルギー安全保障に関する日米豪印声明と、日米豪印重要鉱物イニシアティブ枠組みが発表されたばかりだ。2日後の28日、高市総理は米国の同盟国であり、日・フィリピン国交正常化70周年を記念して国賓として訪日したマルコス大統領と首脳会談を行い、重要鉱物などサプライチェーン強靱化、AI能力向上、FOIPデジタル回廊構想など協力の強化を発表した。FOIP進化版の発表が号砲となり、中国包囲網と明言せず、これに近い戦略的自律を求める連携が同志国間で進む。

これに対する中国による対日報復的な措置は、報道によればレアアースの輸出規制にとどまる。だが関係者によれば、日系エアラインは中国国内の空港発着枠を具体的理由の明示がないまま更新されなくなっているという。中国はこうした報復的な対日措置の横展開をはじめている可能性があり、監視・議論する必要がある。同時に、米中間で貿易委員会と投資委員会の発足が合意されたことを受け、日本が米中の狭間で孤立しないよう、日中ではどのような枠組みがこれに対応するのかも点検が必要だ。

日欧に懸念はある。EUは3月に産業加速化法(IAA)案を発表し、域内企業がレアアースなどを3社以上から調達することを義務付け、中国などへの単一依存の低減を目指す。こうした保護主義的な規制強化は、EUのCPTPPへの接近、これを梃子に自由貿易、ルール・ベースの国際秩序の堅持を目指す日本の方針に反している可能性が高い。脱中国のサプライチェーン再編が保護主義と同義ではないと、日本は明確に示すべきだ。EU市場の大きさがもたらす不可欠性を中国に対するレバレッジにし、過剰生産能力など構造問題を質し、EUが一つにまとまるよう促すべきだ。

細谷とクンドナニは編著『Transformation of the Liberal International Order』(2023年)の中で、米欧主導のLIO(リベラルな国際秩序)の「押し付け」は限界を迎えており、「米欧ではない」LIOに転換する必要を訴えた。FOIPはインド太平洋諸国に押し付けず、乗りやすくフレキシブルな同志国連携をうたい、これを体現しはじめている。

日本が保護主義に傾く米欧を引き留めつつ、成長と両立する経済安全保障、有事に対し強靭な安全保障で結束できるか、FOIPは一つの接着剤となろう。アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)に参加した小泉防衛大臣は、FOIPの安全保障面を実践する役割を果たした。日本は米国とは決別せず、実務的な協力に徹しつつ、最弱とされてきた日欧を積極強化し、最弱に転じつつある米欧を補い、サプライチェーン強靭化に必要な時間をかせぐべきだ。

(出典: AFP/アフロ)

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鈴木 均 主任研究員
慶應義塾大学大学院法学研究科修士、European University Institute歴史文明学博士。新潟県立大学国際地域学部および大学院国際地域学研究科准教授、モナシュ大学訪問研究員、LSE訪問研究員、外務省経済局経済連携課、日本経済団体連合会21世紀政策研究所欧州研究会研究委員を経て、2021年に合同会社未来モビリT研究を設立。現在、東京大学先端科学技術研究センター牧原研究室客員上級研究員、フェリス女学院大学非常勤講師。2021年12月にAPI客員研究員兼CPTPPプロジェクト・スタッフディレクター就任。 【兼職】 合同会社未来モビリT研究 代表
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鈴木 均

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慶應義塾大学大学院法学研究科修士、European University Institute歴史文明学博士。新潟県立大学国際地域学部および大学院国際地域学研究科准教授、モナシュ大学訪問研究員、LSE訪問研究員、外務省経済局経済連携課、日本経済団体連合会21世紀政策研究所欧州研究会研究委員を経て、2021年に合同会社未来モビリT研究を設立。現在、東京大学先端科学技術研究センター牧原研究室客員上級研究員、フェリス女学院大学非常勤講師。2021年12月にAPI客員研究員兼CPTPPプロジェクト・スタッフディレクター就任。 【兼職】 合同会社未来モビリT研究 代表

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