フランス大統領選の驚くべきシナリオ「左翼メランション政権誕生」の無視できない可能性

フランス大統領選の驚くべきシナリオ「左翼メランション政権誕生」の無視できない可能性
半年後に迫ったフランス大統領選は、少なくとも世論調査を見る限り、右翼「国民連合」候補マリーヌ・ルペン(58)が独走態勢に入っている。2027年4月18日に予定されている第1回投票でトップに立つのは確実な情勢であり、5月2日の決選投票情勢でも他の候補を圧倒する。彼女が大統領になれば、極端な反移民対策やロシア寄りの外交方針、ばらまき型大衆迎合の経済政策を展開し、フランスは大きな混乱に巻き込まれるだろう。フランスが主導的役割を務めてきた欧州連合(EU)の衰退、さらには北大西洋条約機構(NATO)の機能不全にも結びつきかねない。フランスの有権者の関心は、ルペンの動向と今後に集中している。

ところが、9月に訪問した現地で、驚くべき情報を耳にした。右翼ではなく、左翼「不屈のフランス」の候補ジャン=リュック・メランション(75)当選の可能性が真剣に議論され、フランスの各メディアが準備を始めている、というのである。メランションはこれまで、決選への進出自体が難しく、仮に進出してもルペンには到底かなわないと見られていた。

フランスでは折しも10月、高校生のデモをきっかけに大規模な騒乱が全土に広がり、その背後にいる存在として「不屈」やメランションに注目が集まっている。フランス社会にいったいどんな変動が起きているのか、彼が当選する場合のシナリオとはどのようなものかを探った。
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タブーだった想定

国民連合は、長年にわたって党を率いてきたルペンと、その庇護を受ける若き党首ジョルダン・バルデラ(31)の高い大衆人気に支えられ、大統領選に向けた前哨戦でも主役の座を占めてきた。欧州議会議員時代に公設秘書の給与を党幹部の報酬に流用したとして公金濫用罪に問われたルペンは、2025年3月にパリ軽罪裁判所から有罪判決と被選挙権停止5年間の即時適用を言い渡されて大統領選への道が危ぶまれたが、2026年7月7日にパリ控訴院が被選挙権停止の執行を事実上猶予とする判断を示し、晴れて立候補を表明した。それに対するご祝儀の意味もあってだろう。人気は以後さらに高まった。

それ以前の世論調査だと、ルペンは大統領選第1回投票を勝ち抜くものの、決選では対立候補に敗れるとの見方が一般的だった。しかし、7月の立候補表明直後の世論調査では、対立候補が誰になろうとルペンが決選を制する、との結果が出た。ルペンは、決選の相手が中道の元首相エドゥアール・フィリップ(55)の場合に54%を、元首相ガブリエル・アタル(37)の場合に55%を、メランションの場合に70%を、いずれも得票すると予想された。このままだとルペン圧勝である[1]。

9月の調査でも、ルペンはフィリップに対して57%、メランションに対して69%と、優位を維持したままである[2]。

これを見ると、メランションはルペンに到底かなわない。中道のフィリップの方がまだ善戦しそうである。しかし、フランス有力メディアの政治記者はこう語った。

「タブーすぎて口にするのもはばかられてきたのですが、大統領選でのメランションの勝利が、ありうる可能性として語られ始めています。メディアはすでに、その場合を想定して準備を始めています」

「左翼は危険」のイメージ浸透

これはなかなかの衝撃である。メランションと「不屈のフランス」は最近、過激化の様相を強め、「右翼より危険な政治勢力」とみなされて支持も伸び悩んでいると考えられていたからである。

「不屈」が最近、いくつかの面で政党としての基盤を固めてきたのは確かである。一例は、2026年3月に投開票された統一地方選の結果に表れた。これまで地方自治体にほとんど足場を持たなかった同党は、この選挙でパリ郊外のいくつかの都市を制し、市長を出した。これらの街はイスラム教徒の移民やその子孫が多数を占め、「不屈」が掲げる貧困層への支援やパレスチナ支持との親和性が高い。特に、パリ郊外最大の街サンドニの市政を制したのは、同党最大の成果と受け止められた。サンドニの市長に選出されたマリ系移民2世のバリー・バガヨコ(53)は、就任早々に社会党系前市長寄りの市職員や自治体警察と軋轢を起こしたり、右翼メディアと対立したりと派手に立ち回り、「左翼の新たなスター」として注目を集めた。

一方で、この地方選は「不屈」の過激さも人々に印象づけた。「不屈」系の市長が誕生した自治体では、バガヨコの場合以外にも、敗れた現職が罵倒されたり脅しを受けたりといったトラブルが相次ぎ、司法当局に報告されただけで120件に達したからである。1世紀あまり続いた社会党市政を担う現職に「不屈」系候補が挑んだパリ北方クレイユでは、第1回投票の直前に現職の暗殺をほのめかす動画がフェイスブックに流れた。決選では「不屈」系が逆転勝利を収めたが、その支持者らが敗者の現職市長やスタッフらをその夜市役所で取り囲んで罵声を浴びせかけ、警察が介入して市長がようやく脱出する騒ぎとなった。

統一地方選に先立つ2月には、極左と極右の集団がリヨンの街頭で衝突し、極左側が極右の青年を袋だたきにして死なせる事件が起きた。この暴行にかかわったり支持したりしたとして、「不屈」の国民議会(下院)議員ラファエル・アルノー(31)の秘書や元秘書が尋問を受け、「不屈」と暴力的な極左との関係が注目を集めることにもなった。本来なら謝罪や弁明をすべき局面だが、メランションや「不屈」の幹部らは開き直ってアルノーや極左の立場を擁護し、暴力容認と批判された。

2026年10月、高校生の待遇改善運動を発端として街頭運動がフランス全土に広がり、17日に組織された大規模デモでは、その周辺で破壊や略奪が相次いだ。中部の都市リモージュの市役所やリヨンの観光案内所が焼き討ちに遭う被害も出た。メランションらはここでも、抗議拡大を呼びかけるとともに、騒乱についてはその責任を警察の対応に帰し、自陣営に自重を働きかけようとはしない。

大手調査機関Ipsosが2024年8月に公表した世論調査によると、「不屈」について72%が「暴力を煽っている」、69%が「民主主義にとって危険」と答え、いずれも前回調査比12ポイント増となった。一方、国民連合についてはそれぞれ54%、53%で、「不屈」を下回った[3]。すなわち、「不屈」にはこのころから危険なイメージがつきまとっていたのだが、一連の騒動はその印象をさらに強めることになった。

にもかかわらず、なぜメランションが支持を集めるのか。

乱立する候補

暴力のイメージが支持者の離反につながらなかったのは、その一因だといえる。「不屈」の危険なイメージに都市インテリらは眉をひそめるが、彼らは元々「不屈」に投票する気などない。「不屈」への支持が根強いのは移民街の住民や若者たち、イスラム教徒等であり、力の行使を「抑圧された人々の権利」として容認する傾向が一部にあると考えられる。

ただ、それだけだとこれまでの支持を維持するにとどまる。当選への可能性を生み出すからくりが、他にあるに違いない。

まず、4月の第1回投票を考えてみたい。支持率30%超を誇るルペンの1位通過で、ジャーナリストや選挙関係者の見立てはほぼ一致する。問題は、決選で彼女と対峙する2位の候補が誰になるか。

世論調査で最も多くの支持を集めるのはフィリップである。2017年からのマクロン政権1期目で首相を務め、高い大衆人気を誇った。彼に続くのは、マクロン政権2期目の首相アタルであり、この2人は穏健な中道右派の立場が共通する。

ただ、フィリップは支持が今ひとつ伸び悩んでいる。本業はルアーブル市長で、内政や地方問題に詳しいものの、外交手腕は未知数である。穏当な性格を反映してか、打ち出す政策には大胆さが欠け、インパクトに乏しい。早く立ち上がりすぎて失速するのを警戒しているのかもしれないが、リスクを担う覚悟に欠けるとも受け取れ、有権者へのアピールは限られている。

マクロン政権への不満が強い社会党などの左派諸政党は、政権と路線が重なるフィリップやアタルに満足せず、独自の統一候補擁立を模索した。左派にトラウマとなっているのは、2002年大統領選での「ルペン・ショック」である。大統領に最も近いと思われた社会党出身の首相リオネル・ジョスパン(1937-2026)が、現候補ルペンの父ジャン=マリー・ルペン(1928-2025)に敗れ、現職ジャック・シラク(1932-2019)との決選に進めなかった。左派は以後、「大統領になれなくてもせめて2位には」とメンツを賭けた闘いを毎度の大統領選で繰り広げている。中道ながら右派寄りのフィリップやアタルに乗れないのも、左派のアイデンティティーにこだわるからだと思われる。

その結果、社会党や左派諸政党による予備選が10月に実施され、小政党「公共広場」を主宰するラファエル・グリュックスマン(47)が第1回投票で66.17%を得票し、統一候補の座を手にした。ただ、グリュックスマンは中道寄りのため、左翼寄りの左派は反発しており、メランション支持に流れる可能性がある。

社会党などの左派と左翼「不屈」との間に位置する共産党や環境政党も、独自の候補を立てている。

一方、右派の旧ドゴール派「レピュブリカン」(共和主義者)は、前内相のブルノ・ルタイヨ(65)が立候補する見通しである。移民対応や治安維持で厳格な立場を取る党内強硬派で、右翼支持層の切り崩しが一時は期待されたものの、2025年10月に閣内人事への不満から内相を辞任して政局の混乱を招き、評判を落とした。

右派と右翼との間に位置する政治家からも大統領選への動きが相次ぎ、立候補を表明したり準備したりする人は全体で30人を超えると見られている。

メランション当選へのシナリオ

これだけ候補が乱立すると、強固な支持基盤を持つ勢力が有利になる。それが国民連合であり、「不屈のフランス」である。「不屈」は10%前後の固定支持層を持つと見込まれており、これに左派の一部が加わって20%近くまで積み上げられると、メランションの決選進出が現実味を帯びる。

前述の政治記者はこう分析する。
「ルペンとメランション以外の有力候補が中道や左派の2人にとどまれば、そのうちの1人がたぶん決選に進むでしょう。しかし、3人になると票が分散し、メランションが決選に出かねない」

もっとも、10月12日に公表された世論調査は、ルペンとともに大統領選の決選に進むのをメランション、と明確に予想した[4]。中道右派左派から誰が立候補しようとも、メランションが上回って2位になる見通しだという。ルペン対メランションの決選は、もはや仮定の域を超え、最もあり得るシナリオとなってきた。

仮にメランション対ルペンの決選となった場合、メランション側の勝算はどこにあるか。先述の通り世論調査結果はルペンの圧倒的優位を示しているのだが。

「確かに、支持率だけを見ればルペンの勝ちで、そうなる確率も高い。ただ、ルペンよりもメランションの方が大統領に相対的にふさわしい、との世論が広がる可能性も十分あります」

政治記者はその理由を以下のように説明する。

ルペンの最大の弱点は、閣僚や与党議員、大都市の市長として実際に統治の責任を負った経験がないことである。国民連合の幹部のほとんども同様で、経験に基づかない思いつきの言説を身内や支持層向けにばらまいてきたに過ぎない。国家にかかわる包括的で一貫性のある政策を提示するにとどまらず、主要国のリーダーとして欧州や国際社会への展望も示すよう求められるフランス大統領が、実際に務まるのか。決選となれば、その点を突かれるだろう。

一方、メランションはミッテラン政権与党社会党の地方議員や元老院(上院)議員を長く務め、2000年から2年あまりはジョスパン内閣の職業教育副大臣を務めた。内閣の末端とはいえ、その間に官僚と協力し、政策を打ち出し、野党や世論の批判に耐えた経験を持つ。

「彼は現在、過激なスタンスを取っていますが、それは岩盤支持層に向けたポーズに過ぎません。必要となれば妥協し、穏健勢力と協力し、現実的な政権を運営できる。少なくともそうアピールするでしょう」

社会党など左派も、現在のところは「不屈」の暴力性を嫌って中道寄りのグリュックスマンらに支持が流れているが、ルペンとの間で選択を迫られると、メランションを許容する可能性があるという。実際、2022年大統領選では社会党候補のパリ市長アンヌ・イダルゴ(67)に失望した左派支持層が大挙してメランション支持に回り、第1回投票で彼は21.95%を得て3位につけた(イダルゴは1.75%)。2024年総選挙では、反マクロンを旗印に「不屈」から社会党に至る左派左翼連合「新人民戦線」が結成され、事実上の「不屈」主導で国民議会(下院)の最大勢力となった。この枠組みはその後崩壊したものの、いざとなれば左派は左翼を支持しうる。

つまり、メランション大統領誕生の鍵を握るのは、メランション自身や「不屈」ではない。中道左派右派の穏健派が第1回投票で候補者を一本化できるかどうか、決選でメランション支持に流れるかどうか次第なのである。

「ポルポトと同じ」

実際にメランションが大統領になると、フランスはどうなるのか。

「割と普通にやっていく可能性はあります」と政治記者は言う。メランション自身がそれなりに現実的な人物だと期待できるし、左派も入って連立政権になれば制御も利くという。EUの制約があるので、フランスだけ好き勝手に振る舞おうとしても限界がある。

「不屈」は極端なパレスチナ支持で知られるが、「だからと言って、フランス単独で何ができるわけでもない。むしろ問題なのはウクライナ支援でしょう」と政治記者は考える。これはルペンも同様だが、メランションはロシアを支持しプーチンを礼賛していると受け取れる発言をしばしばしており、当選するとウクライナ支援を止めようとする可能性が捨てきれない。

また、企業の反発も必至で、フランスを脱出する動きが生まれるかもしれない。市場の信頼も得られそうになく、混乱を覚悟した方がいいだろう。

パリの週刊誌元編集長は真顔でこう懸念した。
「それ以前に、メランション対ルペンの決選となる時点でフランス国内は麻痺し、事実上の内戦状態に陥るかもしれません。メランションのメンタリティーはカンボジアのポルポトと同じですから」

もっとも、メランションが思ったほど健闘しないシナリオも想定し得る。不祥事やスキャンダルによって、メランションの勢いが後退する可能性も、ないわけではない。右翼や左翼など極端な立場を取る政党は通常、攻めるのが得意だが、守るのは苦手だからである。『ルモンド』紙論説委員フランソワーズ・フレソズは「責任を問われた途端、過激な勢力は脆弱になる」と指摘する[5]。

実際、10月17日の騒乱後に政府や中道などはメランションへの批判を強めており、支持率に影響する可能性がある。

フランス大統領選では、しばしば終盤で逆転が起きてきた。1995年のエドゥアール・バラデュール(1929-2026)、2002年のジョスパン、2017年のフランソワ・フィヨン(72)ら、権力をほぼ掌中に収めたと思われた候補が突然失速した例も多い。その意味では、現在の右翼と左翼の勢いも、このまま維持されるかは怪しい。まだまだ波乱はあるだろう。

(Photo Credit: Shutterstock)

 

脚注

おことわり:IOGコメンタリーに記された内容や意見は、著者の個人的見解であり、公益財団法人国際文化会館及び地経学研究所(IOG)等、著者の所属する組織の公式見解を必ずしも示すものではないことをご留意ください。

国末 憲人 主任客員研究員
東京大学先端科学技術研究センター特任教授。1963年岡山県生まれ。大阪大学卒業、パリ第2大学新聞研究所中退。朝日新聞でパリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、ヨーロッパ総局長、ヨーロッパ駐在編集委員を務め、2024年から現職。 【兼職】 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 ウクライナ国立工科大学客員教授
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国末 憲人

主任客員研究員

東京大学先端科学技術研究センター特任教授。1963年岡山県生まれ。大阪大学卒業、パリ第2大学新聞研究所中退。朝日新聞でパリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、ヨーロッパ総局長、ヨーロッパ駐在編集委員を務め、2024年から現職。 【兼職】 東京大学先端科学技術研究センター特任教授 ウクライナ国立工科大学客員教授

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