トランプ政権トラッカー:大統領令の概要と解説(2025年1月20日)
・アメリカの偉大さを称える名称を復活させる大統領令
・大統領の「政府効率化省」の設立と実施を指示する大統領令
・OECDの国際課税ルールに関する覚書
・「アメリカ第一」貿易政策の推進
- 大統領令の一覧と概要
- 布告・覚書・公式発表の一覧と概要
- トランプ大統領の演説および優先政策
- エキスパートの視点
大統領令一覧
■解説付き■ アメリカの偉大さを称える名称を復活させる大統領令(1月20日)
この大統領令では、アラスカ州に位置し北米大陸最高峰の山であるデナリの名称を旧称のマッキンリーに戻すこと、また、メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称することとしており、内務長官に対し30日以内に対応することを求めている。(詳細はこちら)
解説
メキシコ湾を「アメリカ湾」とするのは、フロリダ政権と呼ばれるトランプ政権の真骨頂だろう。また、トランプ政権に近いイロン・マスクも現在テキサス州に拠点を置き、「アメリカ湾」に面した場所にStarshipの射場であるボカチカを持っている。「アメリカ湾」に面している州はいずれも共和党支持の「赤い州」であり、実質的な変化はないけれどもアメリカ人のプライドをくすぐる選択として、こうした害の少ない提案をしているものと思える。アラスカの北米大陸最高峰の「デナリ山」と旧称の「マッキンリー山」に戻すのは、トランプ自身がマッキンリーの時代(帝国主義的な拡大と高関税による保護主義)を模範にしているということもあるが、同時にアラスカの原住民であるエスキモーの文化を尊重するという「DEI(Diversity, Equity and Inclusion)」という多様性を重視するリベラルな価値に対する反発の結果と言えるだろう。(鈴木一人)
カルテルやその他の組織を外国のテロ組織および特別指定グローバルテロリストとして指定する大統領令(1月20日)
この大統領令では、国際的なカルテルがアメリカの国家安全保障、外交政策、経済に対して脅威をもたらしているとして、トレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)やラ・マラ・サルバトルチャ(MS-13)といった組織を「外国テロ組織」および「特別指定グローバルテロリスト」に指定することを命じている。(詳細はこちら)
連邦政府の採用プロセスを改革し、実力主義を回復する大統領令(1月20日)
この大統領令は、連邦政府の採用プロセスを改革し、政府サービスを改善させることを目的としている。本大統領令発効から120日以内に、行政管理予算局や政府効率化省(DOGE)などと協議のうえ、大統領補佐官が採用計画を策定するよう求めている。(詳細はこちら)
過激で無駄の多い政府のDEI(多様性、公平性、包摂性)プログラムと優遇措置を終了させる大統領令(1月20日)
この大統領令では、バイデン前政権によって推進されたDEI(多様性・公平性・包摂性)に関連するあらゆるプログラムを各行政機関において廃止することを命じている。(詳細はこちら)
性別イデオロギーの過激主義から女性を守り、連邦政府に生物学的事実を復活させる大統領令(1月20日)
この大統領令は、男性と女性という生物学的な性別は不変であるとして、トランスジェンダーの権利の保護や多様性の推進を目指したバイデン前政権による大統領令を撤回し、生物学的性別に基づく政策を実施することを命じている。(詳細はこちら)
■解説付き■ 大統領の「政府効率化省」の設立と実施を指示する大統領令(1月20日)
この大統領令は、既存の組織を改編し政府効率化省(DOGE)を設置することを命じるもの。2026年7月4日までの約18か月間、臨時組織を構築し、政府の効率化に向けた取り組みを推進することとされている。(詳細はこちら)
解説
元々トランプはリバタリアンの「小さな政府」とは立場を異にし、リバタリアンの集会ではブーイングを受けるということもあったが、選挙期間中にイロン・マスクと急速に接近し、彼のトランプとの関係がマスクの事業に有利になるという見立てから、他のテック企業もこぞってトランプ支持を表明することとなった。そのテック企業のコンセンサスとして、バイデン政権の間は規制が厳しく、大企業に不利益な政策が展開されたとして、それを繰り返さないための連邦政府の権限縮小という方向性が打ち出された。元は政府の外に作られる「政府効率化省」であったが、オバマ政権で作られたデジタルサービス局を改変する形で「政府効率化省」を作ることとなった。この「省」を率いるのはマスクとラマスワミ(共和党大統領予備選にも出馬していた)の予定だったが、ラマスワミの評判が悪く、トランプ大統領は彼にイリノイ州の知事選に出ることを進めて、この「省」から外した。(鈴木一人)
国務長官に「アメリカ第一」政策を指示する大統領令(1月20日)
この大統領令は、米国の外交政策が「アメリカ・ファースト」の原則に沿うよう、国務長官に見直しを指示するもの。なお、トランプ大統領の就任直後、国務長官に指名されていたマルコ・ルビオ氏はトランプ第二次政権の閣僚人事として初めての上院による承認を受けた。(詳細はこちら)
外国のテロリストおよびその他の国家安全保障・公共の安全に対する脅威からアメリカを守る大統領令(1月20日)
この大統領令は、外国人テロリストや国家安全保障上の脅威への対処を目的として、安全保障上のリスクが指摘される地域を中心にビザ申請について厳格に審査することを求めるもの。(詳細はこちら)
アラスカの並外れた資源ポテンシャルを解放する大統領令(1月20日)
この大統領令は、経済的及び国家安全保障上の利益を促進することを目的として、バイデン前政権による環境保全政策を廃し、アラスカ州の豊富な天然資源を活用するための具体的な施策を命じている。(詳細はこちら)
国民を侵略から守る大統領令(1月20日)
この大統領令は、アメリカの移民法を完全かつ効率的に執行し、国民の安全と国家安全保障を守ることを目的としている。特に、不適格者や国外退去対象者、また国民の安全や治安を脅かす外国人に対して移民法を厳格に適用する方針を示している。(詳細はこちら)
対外援助の見直しに関する大統領令(1月20日)
この大統領令では、米国の対外開発援助の取り組みが米国の利益と一致していないとして、90日間の対外開発援助停止とともに、その間に各プログラムの見直しを行うことを命じている。(詳細はこちら)
国家エネルギー緊急事態宣言に関する大統領令(1月20日)
米国のエネルギー供給が国家安全保障と経済の必要性を満たすには不十分であり、エネルギー価格の高騰が国民生活に深刻な影響を与えているといった背景から、この大統領令では、国家エネルギー緊急事態を宣言し、国内のエネルギー資源の開発とインフラの強化を促進することを命じている。(詳細はこちら)
死刑制度の復活に関する大統領令(1月20日)
この大統領令は、バイデン前大統領が2024年12月23日に37名の死刑囚の刑を終身刑へ減刑したことを受け、連邦政府の死刑執行を再開し、死刑制度の適切な運用を確保するための対応を司法長官へ指示するもの。(詳細はこちら)
国境を守るための大統領令(1月20日)
本大統領令では、南部国境における物理的な障壁の設置や不法移民の防止、対処等に関する措置を命じている。(詳細はこちら)
市民権の意義と価値を守る大統領令(1月20日)
アメリカにおいては、アメリカ国内で生まれた子どもについて自動的にアメリカ国籍を与える出生地主義がとられているが、本大統領令では、アメリカ国籍の付与は全ての人に対し自動的に付与されるものではないとして、自動付与の対象となるべきでない子どもの要件を規定している。(詳細はこちら)
難民受け入れプログラムの再調整に関する大統領令(1月20日)
この大統領令では、米国が大量の難民を適切に受け入れる能力を欠き、安全保障や資源、難民の同化に悪影響を及ぼしているとして、米国難民受け入れプログラム(USRAP)の一時停止を命じている。(詳細はこちら)
アメリカのエネルギーを解放する大統領令(1月20日)
この大統領令は、エネルギー政策における規制の見直しと消費者の選択の自由を重視した方針を示している。具体的には、EVの普及を義務化する州の排出ガス免除措置を廃止し、不公平な補助金制度を見直すことで、ガソリン車を含む多様な選択肢を確保することを目的とする。(詳細はこちら)
アメリカの領土保全を守るための軍の役割を明確化する大統領令(1月20日)
本大統領令では、アメリカ北方軍に対して不法移民への対処に関する指示をいくつか行っている。(詳細はこちら)
元政府高官の選挙干渉及び機密情報の不適切な開示に対する責任を追及する大統領令(1月20日)
この大統領令では、元国家安全保障担当大統領補佐官でありトランプ大統領への批判を展開していたジョン・ボルトン氏や、バイデン前大統領の息子ハンター氏の疑惑はロシアによる偽情報工作だったとする書簡に署名した元情報機関職員49人のセキュリティクリアランスの取り消しを命じている。(詳細はこちら)
連邦政府の役職者における説明責任を回復する大統領令(1月20日)
この大統領令は、トランプ第一次政権において発効された連邦政府職員の解雇を容易にする大統領令を再び有効にするもの。なお、再導入に際し追加された事項の一つとして、現職の大統領や政策を支持する必要はないが、憲法の宣誓に基づき政権の政策を誠実に実行する必要があり、違反すれば解雇対象となるとしている。(詳細はこちら)
WHO脱退:アメリカ合衆国を世界保健機関から脱退させる大統領令(1月20日)
トランプ第一次政権では、2020年に世界保健機関(WHO)からの脱退を決定したものの、その後、バイデン政権によって撤回されていた。今回の大統領令では、改めてWHO脱退を決定するとともに、国内で独自に枠組みを構築し、公衆衛生の強化と生物安全保障の確立に努めるとしている。(詳細はこちら)
TikTok新法の延期:外国敵対勢力が管理するアプリから米国人を保護する法」の適用に関する大統領令(1月20日)
本大統領令では、トランプ大統領就任前日に禁止措置が発効したいわゆるTikTok新法について、数千万人のアメリカ国民が利用する通信プラットフォームの突然の停止を避けつつ、国家安全保障を守るための適切な対応策を講じる必要があるとして、司法長官に対して75日間の法律執行停止と関連事業者への通知発行を命じるもの。(詳細はこちら)
パリ協定脱退:国際環境協定において「アメリカ第一」を優先する大統領令(1月20日)
この大統領令は、国連気候変動枠組条約に関連する協定がアメリカに対し不当な負担を強いているなどとして、パリ協定をはじめとする関連協定からの即時脱退を始めとする方針転換を命じている。(詳細はこちら)
連邦政府の悪用を終結させる大統領令(1月20日)
この大統領令では、バイデン前政権が連邦政府の法執行機関や情報機関を利用して政治的反対者を標的にした捜査や訴追を行い、憲法や法律に反する行為を含む権力の乱用があったとして、これらの権力乱用を是正するための具体的な手続きを定める。司法長官及び関連機関の長は、過去4年間にわたる活動を調査し、命令の趣旨に反する行為があれば特定し、大統領に是正措置の勧告を提出することを義務付けられている。(詳細はこちら)
言論の自由の回復と連邦政府による検閲を終結させる大統領令(1月20日)
この大統領令では、バイデン前政権がオンラインプラットフォームにおける発信への検閲や制限を行い、言論の自由を侵害していたとして、言論の自由の回復を目的とした措置を講じるとする。(詳細はこちら)
バイデン政権の大統領令撤回:有害な大統領令及び措置への初動としての撤回に関する大統領令(1月20日)
この大統領令は、バイデン前政権において発出された78の大統領令を廃止するもの。廃止された大統領令の多くは多くはDEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みや気候変動対策に関するものであり、AIの安全な開発と利用に関する大統領令も含まれる。(詳細はこちら)
布告・覚書・公式発表一覧
州に対する侵略からの保護を保証する布告(1月20日)
この布告において、トランプ大統領は、南部国境の現状が米国憲法第4条第4節における「侵略」に該当するとして、これに該当する外国人や情報提供が不十分な外国人等の入国停止、滞在継続の権利制限といった措置を講じるよう求めている。(詳細はこちら)
■解説付き■ OECDの国際課税ルールに関する覚書(1月20日)
この覚書は、OECDの国際課税ルールが米国の主権と経済的競争力を損なうとして、米国内へは適用されないと宣言している。また、米国企業に対する不利な税制の導入やその可能性のある外国に対して取るべき保護措置の検討を命じている。(詳細はこちら)
解説
バイデン政権の下で、タックスヘイブンの問題などについて、国際的な課税ルールを設定することで、合法的だが倫理的には問題とされる税の「底辺への競争(Race to the Bottom)」を回避し、各国が適切に課税できるようにすることが目指された。その結果、OECD各国の法人税は最低でも15%とするというルールになったのだが、トランプはそうした状態から米国への投資を誘致するため、この最低限の課税水準よりも低くすることを目指している。これは言い換えればアメリカが率先して「底辺への競争」を再開することを意味する。(鈴木一人)
国家安全保障会議及びその下部委員会の確立(1月20日)
国家安全保障会議(NSC)及びその下部委員会の構成を明確化する覚書。(詳細はこちら)
外洋大陸棚における洋上風力リースの撤回及び風力プロジェクトに関する連邦政府のリースと許可手続きの見直し(1月20日)
外洋大陸棚における洋上風力発電リースを一時的に停止し、環境への影響や国家安全保障への影響などの観点から見直しを求める覚書。(詳細はこちら)
省庁のおける管理職の説明責任強化に関する覚書(1月20日)
大統領の指揮の下、最適な政策を実施するよう適切な人員配置を求める覚書。(詳細はこちら)
公共建築物の美化推進に関する覚書(1月20日)
公的空間の美化とアメリカの制度の威厳を反映する建築物の促進を目的とした覚書。(詳細はこちら)
人々を軽視する過激な環境主義の阻止及び南カリフォルニアへの水の供給(1月20日)
2025年1月上旬にロサンゼルス近郊で発生し、長期間にわたって被害をもたらしている山火事について、トランプ大統領は環境保全活動が消火用の水の提供を妨げていると批判していた。この覚書では、北カリフォルニアの河川などの水資源を南カリフォルニアに供給すべき旨を指示している。(詳細はこちら)
■解説付き■「アメリカ第一」貿易政策の推進(1月20日)
財務長官、国防長官、商務長官、国土安全保障長官、行政予算管理局局長、通商代表などに対して、不公正で不均衡な貿易への対処を指示する覚書。(詳細はこちら)
解説
トランプ政権の基本的な考え方は、貿易赤字が一般市民の貧困につながっているというもので、関税をかけることで他国からの輸入を減らすことで貿易赤字を減らすことがアメリカの富を増やす方法である、という信念に基づいている。また、関税はアメリカの税収を増やすものであるという認識もあり、ゆえにこの覚書では「対外歳入庁(External Revenue Service)」を創設することも謳われている。しかし、トランプ政権の看板政策ではあるが、関税の執行に関しては、4月1日に提出されるレポートを踏まえて行うということで、即時実行ではなく、関税の効果を検討したうえで判断するものと思われる。なお、メキシコ、カナダに対する25%の関税、並びに中国に対する10%の追加関税はフェンタニルという薬物や不法移民の問題に対する行動を求める、交渉の取引材料としての関税であるため、こちらは2月1日に執行する可能性があるとトランプ大統領は記者の質問に対して答えている。(鈴木一人)
大統領府職員に係るセキュリティクリアランスの滞りの解消(1月20日)
この大統領令では、バイデン前政権によって大統領府職員へのセキュリティクリアランスが滞る事態に陥っているとして、暫定的なセキュリティクリアランスの付与に関する規定を命じている。(詳細はこちら)
アメリカ南部国境における国家緊急事態宣言(1月20日)
トランプ大統領は、不法移民対策を目的として、メキシコと接する南部の国境における国家緊急事態を宣言し、軍隊の派遣や物理的障壁の増設などを指示した。(詳細はこちら)
2021年1月6日にアメリカ合衆国議会周辺で起きた事件に関連する特定の犯罪に対する恩赦及び減刑(1月20日)
2021年1月16日に米国連邦議会に乱入した事件で訴追された支持者らを恩赦又は減刑するもの。(詳細はこちら)
緊急の物価救済及び生活費危機の打破(1月20日)
この覚書は、各行政機関に対し、労働者の生活向上を図るため、住宅コストの削減と供給の拡大、医療費高騰の要因となる無駄な経費や利権構造の排除、家電製品のコスト削減、雇用機会の創出、さらに食品や燃料のコスト増をもたらした有害な気候政策の撤廃に取り組むよう命じている。また、これらの進捗状況について、大統領補佐官に対して30日以内に初回報告を行い、その後は30日ごとに定期的な報告を行うよう求めている。(詳細はこちら)
政府職員の新規採用凍結(1月20日)
本覚書は、連邦政府の行政機関における新規職員の採用を凍結するよう命じている。ただし、軍や安全保障などに関わる役職は例外とされるほか、政府効率化省(DOGE)などとの協議に基づき行政予算管理局が作成する人員削減計画が発効した時点で、(内国歳入庁を除き)覚書の効力は失われるとする。(詳細はこちら)
規制の審査凍結(1月20日)
この覚書は、トランプ大統領によって指名された省庁および機関の長が確認を行うまで、新たな規制の提案や発行、連邦官報への送付を含む全ての規制に関する行為を停止することを命じる。(詳細はこちら)
連邦職員の対面勤務への復帰(1月20日)
この覚書は、政府職員のリモートワークを速やかに終了し、原則としてフルタイムでの対面勤務を行うよう命じる。(詳細はこちら)
演説・優先政策
就任演説(1月20日)
2025年1月20日、トランプ大統領にとって2度目となる就任演説は、寒波の影響により、1985年のレーガン大統領以来となる連邦議事堂内で実施された。(詳細はこちら、演説動画はこちら)
トランプ大統領による「アメリカ・ファースト」に向けた優先政策(1月20日)
トランプ大統領の就任後、ホワイトハウスはホームページを一新し、最初の公表情報の一つとしてトランプ大統領による「アメリカ・ファースト」の優先政策を発表した。この発表では、国境の安全強化、エネルギー政策の見直し、連邦政府機構の改革、そして伝統的価値観の復興を掲げている。(詳細はこちら)