デリスキングと関与の間で:韓国の対中関係の「戦略的管理」

【執筆者: Jiseon Shin(申智善)  Research Fellow at the Sungkyun Institute of China Studies (SICS), Sungkyunkwan University】
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戦略転換ではなく「戦略的管理」

2025年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)慶州首脳会議を契機とし、2026年1月の李在明大統領による中国訪問によって頂点に達した韓中間の外交的モメンタムは、前政権である尹錫悦政権下で著しく悪化していた両国関係における、明確な転換点を示すものであった。李在明大統領の外交アジェンダの中心にあったのは、同氏が「水平的かつ互恵的な経済協力」の新モデルと呼ぶ関係構築である。もっとも、韓国の対中政策の再調整は、中国への戦略的傾斜ないし地政学的転向として理解されるべきではない。むしろそれは、第二次トランプ政権下における政策変動性の高まりと、複合化する構造的脆弱性に直面する中核的なミドルパワー国としての韓国が採用した、慎重に調整された地経学的リスクヘッジ戦略として捉えるべきである。より正確に言えば、この再調整は、セクターごとに差異化された戦略として理解される必要がある。すなわち、韓国は、先端技術およびサプライチェーン関連のセンシティブ分野において対中依存を縮小する一方で、消費・文化・サービス産業における市場志向型協力については維持し、選択的に拡大しようとしているのである。本稿は、韓国の対中政策再調整が、急進的な陣営再編でも単なる政策継続でもなく、厳格に境界づけられた「戦略的管理」の一形態であると論じる。この戦略的管理は、アジアにおける最も重要な二国間関係の一つである韓中関係のあり方を、産業・分野ごとに再構築しつつある。

複合危機:取引主義化する米国と連鎖的経済ショック

韓国による対中関与の再調整は、真空状態の中で生じたものではない。それは、多方面において悪化する対外環境への直接的な対応である。第二次トランプ政権は、大規模な関税措置と同盟管理における取引主義的アプローチを再導入し、韓国に対する圧力を強めている。約2万8500人の在韓米軍に対する駐留経費負担の増額要求[1]に加え、半導体・自動車・電池産業を対象とした関税圧力は、韓国が長年にわたり主要な安全保障上の保証として依拠してきた戦後同盟体制に対する構造的挑戦を意味している。

同時に、2026年初頭に発生したイラン紛争は、韓国の慢性的なエネルギー脆弱性を露呈させた。韓国は原油輸入の70%以上を中東に依存しており、そのうち日量160万〜210万バレルがホルムズ海峡経由で輸入されている。ペルシャ湾情勢の不安定化は、韓国産業に対する直接的なエネルギー価格上昇と、中国経済を通じて波及する間接的な需要収縮という二重の衝撃を引き起こした。OECD(経済協力開発機構)が2026年3月に韓国の成長率見通しを2.1%から1.7%へ下方修正した際にも、中東情勢の不安定化が主要因として明示的に挙げられた。これは、米国の政策選択と中東紛争に起因するショックが同時並行的に韓国の財政余地を圧迫しつつ、最大の輸出市場を毀損するという意味で、「連鎖的危機(cascade crisis)」と位置付け得る状況を反映している。

米国への強い安全保障依存と、中国との深い経済的相互依存が併存するというこの構造的ジレンマ自体は、新しいものではない。しかし、新たに出現したのは、両軸におけるストレス要因が同時かつ深刻な形で顕在化している点である。したがって、韓国の対応は、一方の関係を放棄することではなく、双方がもたらすリスクを積極的に管理する方向へと調整されている。

中国との水平的協力の論理

1992年以来、中国は韓国の経済成長における重要なパートナーとして機能してきた。しかし、緊密な経済統合は次第に戦略的脆弱性を生み出している。韓国企業が中国国内での事業現地化を進めるにつれ、知的財産権をめぐる懸念も拡大した。その象徴的事例として、2023年に発生したサムスン半導体関連データの流出疑惑が挙げられる。さらに、THAAD(高高度迎撃ミサイルシステム)危機は、相互補完的な経済関係が政治的対立によって容易に攪乱され得ることを明確に示した。加えて、中国がEV(電気自動車)および電池産業において急速な産業高度化を進めた結果、韓国の技術的優位性は相対的に低下し、両国関係は補完性から競争性へと性格を変化させつつある。

現在、韓国企業は中国を単なる生産拠点というよりも、重要な消費市場として認識する傾向を強めている。しかしその一方で、サムスン電子やSKハイニックスを含む一部企業は、中国国内の既存の半導体工場への投資拡大を継続しており、「デリスキング(脱リスク)」と「深い経済関与」が同時並行的に追求されていることを示している。さらに、中国は、世界的バリューチェーンのほぼ全体を国内市場の内部で吸収・完結し得る唯一の経済圏である。このため、中国との完全なデカップリング(切り離し)は、構造的に不可能であるのみならず、戦略的にも望ましくない選択肢とみなされている。

このような文脈の中でこそ、李政権の掲げる「戦略的管理(strategic management)」の枠組みを理解する必要がある。その目的は全面的デカップリングではなく、相互依存関係の現実的な再調整にある。具体的には、消費市場、グリーン技術、文化産業などにおける協力を深化させる一方で、レアアースや半導体といった戦略的重要分野におけるサプライチェーン上のチョークポイント(急所)に対するレジリエンス(強靭性)を強化するという選択的関与を意味する。すなわち、戦略技術分野ではデリスキングを優先しつつ、消費市場分野では需要側の機会を活用するという政策は、単純な対中再接近ではなく、より粒度の細かい「戦略的管理」の実践として位置付けられる。

外交面では、米国からの地経学的圧力に直面する中国側も、前述のTHAAD危機時のような政治的条件を前面に出さずに韓国との関係改善を模索する姿勢を示している。しかし、この再調整の限界は、安全保障上の要請によって規定されている。韓国は依然として米国による拡大抑止への依存を維持する必要があり、同時に中国の対北朝鮮影響力も管理しなければならない。李政権が南北関係改善を追求する中で、中国の協力は朝鮮半島安全保障において歴史的に不可欠な要素であった。しかし、この計算は、北朝鮮とロシアの軍事協力深化によって複雑化している。近年の露朝接近は、中国の平壌に対する影響力を徐々に低下させており、韓国の外交戦略に新たな不確実性を加えている。

したがって、韓国による中国との「水平的協力」は、米韓同盟の代替ではない。それはむしろ、自国が依拠する安全保障アーキテクチャを損なうことなく、対中経済依存に伴うリスクを管理するための、慎重に限定されたヘッジ戦略として理解されるべきである。

責任あるミドルパワー外交としての貿易多角化:グローバル・サウスの次元

韓国による対中関係の再調整は、孤立した現象ではない。それは、二国間依存の集中リスクを低減することを目的とした、より広範な多角化戦略の一構成要素である。この論理は、李大統領によるインド(2026年4月19日〜21日)およびベトナム(2026年4月21日〜24日)への国賓訪問において具体的に表れている。

インドにおいて、両国政府は停滞していた包括的経済連携協定(CEPA)交渉の再開に合意するとともに、貿易・投資に加え、重要鉱物、原子力、クリーンエネルギーなどの戦略分野を対象とする閣僚級産業協力委員会を設置した。共同声明においてこれらの分野が優先的に位置付けられたことは、地政学的混乱に対して脆弱な分野において、サプライチェーンの冗長性を構築しようとする明確な意図を反映している。また、ベトナムとの共同声明では、2030年までに貿易額1,500億ドルを目指す目標が掲げられ、エネルギー、インフラ、安全保障協力を含む12件のMOU(覚書)が締結された。約1万社の韓国企業にとってベトナムは重要な生産拠点となっており、韓国のサプライチェーン・アーキテクチャにおける中核的ノード(結節点)を構成している。この関係深化は、単なる経済協力拡大ではなく、単一国への過度な集中が受容困難なリスクとなりつつある国際環境において、韓国製造業の運用上のレジリエンスを確保する試みとして理解されるべきである。

これら一連の外交的取り組みは、「責任あるミドルパワー型多角化(responsible middle-power diversification)」として位置付けることができる。すなわち、グローバル・サウス諸国との関係を体系的に構築することで、特定の大国との関係への依存を低減しつつ、新興国にとって建設的なパートナーとしての韓国の地位を確立しようとする戦略である。そして、この動きは韓国固有のものではない。日本もまた、構造的に類似した多角化戦略を推進しており、インド太平洋地域におけるミドルパワー間の協調的ステイトクラフト(国策)という新たな論理を補強している。

レバレッジの限界を超えて

韓国は現在、対中関係のみならず、グローバル・アクターとしての自己認識においても重要な転換点に立っている。高度先進経済として地域的影響力を拡大させつつある韓国は、単に大国間競争に受動的に対応する存在ではなく、その競争条件そのものを積極的に形成する「責任あるミドルパワー」としての役割を志向するようになっている。現在の韓国外交を特徴づけているのは、まさにこの積極性にある。すなわち、韓国は対中関与を米国に対する交渉上のとして活用し、駐留経費負担、関税、技術アクセスをめぐる交渉力の強化を図っている。しかし、このレバレッジには本質的な限界が存在する。半導体分野における脆弱性、米韓同盟の中核的重要性、さらには未解決の北朝鮮核問題は、いかなる外交的操作(diplomatic maneuvering) によっても完全には解消し得ない構造的制約である。

より根源的な問いは、韓国が「正しい均衡」を見出したか否かではなく、大国間競争が加速する環境下において、「均衡」それ自体が安定的な均衡状態たり得るのかという点にある。しかし同時に、慎重ながらも一定の楽観を抱く余地は存在する。韓国は歴史的に、構造的制約を戦略的学習へと転化してきた顕著な能力を有しており、現在の「管理された曖昧性(managed ambiguity)」の時期もまた、より強靭な外交能力が鍛え上げられる試練の場となる可能性がある。

さらに、韓国はこの道を単独で進む必要もない。構造的に類似したジレンマに直面する日本は、韓国にとって最も自然な協力相手である。共通する地政学的苦境を抱える隣接経済体として、韓国と日本は、他のいかなるミドルパワーの組み合わせ以上に、共同で前進の道筋を見出し得る立場にある。そして、もし両国がそれを実現できるならば、それは今後10年間のインド太平洋地域において、最も重要なパートナーシップの一つとなる可能性を秘めている。

(出典: AP/アフロ)

 

脚注

 

Jiseon Shin(申智善)

Jiseon Shin is a Research Fellow at the Sungkyun Institute of China Studies (SICS), Sungkyunkwan University. She earned her Ph.D. in International Political Economy (IPE) from the School of International Studies at Peking University, where her research focused on industrial policy, comparative political economy, and China’s economic development.
Her academic work explores China’s industrial transformation, the developmental state, and the political economy of strategic industries, with a particular focus on comparative cases within East Asia. Beyond her research, she is actively involved in teaching and academic inquiry regarding emerging markets, global business, and IPE. Her recent scholarship examines the restructuring of industrial policy amid U.S.–China strategic competition, global supply chain reconfiguration, and the continued evolution of the Chinese development model. She is fluent in Korean, Chinese, and English.

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